音空間事業本部 渡會健 出口公彦 崎山安洋
1. 概要
ヒビノグループはこれまで複数に分散していた事業部及びグループ会社を港区の日の出ベイサイドエリアに結集させ、新たな拠点として2020年9月に運用開始した。音響はもとより映像・照明・ネットワーク、そしてコンテンツを統合したグループの横断的な事業運営とそれによるシナジー効果を実現するべく、ヒビノ株式会社3事業部、グループ6社が集まるグループ最大の拠点となった。
今回当社は1階の視聴室、5階ヒビノスペーステック(株)(旧ヒビノアークス)スタジオエリア、9階(株)エレクトリリスニングルームの設計・施工を行った。
2. 1階視聴室
音響・照明・映像のシステムを常時展示するほか、セミナーや新商品発表会、スピーカー試聴会等様々なイベントに対応している。また、ネットワークを利用した双方向コミュニケーションやウェビナーの拠点としても活用される。
壁面には取り外し可能なAGS(柱状拡散体)を設置し、外した際には製品の展示にも利用できる工夫を施した。AGS上部は左官仕上の傾斜壁によって音を上部へ返すことでフラッタリングを抑える計画とした。
3. 5階ヒビノスペーステックスタジオエリア
公共空間における案内放送や業務用映像の制作、音響機器によるシステムの構築業務において半世紀以上の実績を誇るヒビノスペーステックのエリアでは、音声編集室(3部屋)、映像編集室、コントロールルーム、ナレーションブースで構成され、以前の音環境を踏襲したいとの要望に加え、より豊かな響きを表現すべくコントロールルーム、ナレーションブースにはAGSを採用し、バランスの良い吸音・拡散効果を図った。
4. 9階エレクトリリスニングルーム
オーディオ機器の輸入販売を手掛ける(株)エレクトリのリスニングルームは、製品チェックを主な役割としており、機器そのものの特性を表現・判断できる空間が求められた。そこで、共用部からの入口はサウンドロックとして前室を設け、さらに遮音性能を考慮して浮床浮遮音天井・壁による完全浮構造を採用した。また、壁画内の吸音材、天井面の反射板やAGSを効果的に配置し、以前の環境では叶わなかった高域から低域にかけての音の明瞭化を実現することができた。
5. お客様の声
設計の過程で、当方の煩雑(わがまま)な要望を的確にまとめていただき、理想としていたスタジオ仕様の視聴室に仕上がり大変満足しています。200㎡超の「視聴室」をはじめ、音声・映像コンテンツ制作の集音ブースおよび編集室(ヒビノスペーステック)からオーディオ評論家の方も訪れるリスニングルーム(エレクトリ)まで、コロナ渦の厳しい施工環境のなか、用途や容積に応じた音場づくりを妥協ない完成度で実現していただきました。建築音響と電気音響の融合の事例として、本誌をご覧のお客様にも足をお運びいただけるよう、積極的に活用していきたいと考えています。
(1階ヒビノ(株)セールスDiv.)
館内放送のコンテンツ制作が多く、複数の音響特性の違う天井スピーカーで試聴可能な設計とし、収録に立ち会って下さったクライアント様からも音場がイメージしやすいとお褒めの言葉を頂いています。各室は落ち着いた内装でナレーター様からもリラックスしてディレクターとコミュニケーションが図れると好評を頂き、制作効率もアップしていると感じています。限られたスペースの中、AGSを導人して頂き、高音質で機能的な収録環境を実現して頂きました。音環境をチューニングする余地を残した設計となっており、今後も我々の手で徐々にアップデートしていきたいと思います。
(5階スタジオエリアヒビノスペーステック(株))
まず特筆すべき点は、圧倒的な静けさにあります。試聴室に人ってドアを閉めた瞬間に感じる、オフィスフロアや会議室とは次元の違う隔絶された空間を感じ取れます。音楽再生を通じて音響機材のポテンシャルを推し量る用途にはうってつけの条件です。自然と集中力が高まり、感覚が研ぎ澄まされていきます。機材検聴室としての使用がメインになりますので再生音の明瞭度が上がる様、基本的には反射の少ないデッドな環境を優先条件とし、且つ録音されている響きも正確に再現したいと言う相反する様な要求にも非常に高いレベルで応えていただきました。機材の比較試聴では、ダイナミックレンジの広い音楽を用いることが多いですが、微小な音が埋れずに聴き取れ、複雑なパッセージもクリアーに表現され、大音量にも飽和せずに再生されます。また部屋のニュートラルでフラットな周波数特性の結果、各機材の再生音の差異が分かりやすく、正確な評価に繋がっています。
(9階リスニングルーム(株)エレクトリ)