音空間事業本部  根木健太 牧野和裕
企画室 山下晃一 大山宏

1. 概要

2020年11月に"AcousticGroveSystem"AGSシリーズの新製品として、〜HybridANKH〜が発売された。HybridANKHにはフラットタイプとコーナータイプの2機がラインアップされている。従来のAGSシリーズは置き場所に合わせて様々なデザインを擁しているが、全製品共通して森の拡散効果に着目した柱状拡散機構で構成されている。そのためリスニングルームの音環境を向上し、ソースに含まれる微細な情報も失わずに再生できる点が認められ、今日まで多くの方々に導入していただいている。
しかし、今まではあえて響きの長さを変化させない設計としていたため、反射の影響をうけてワンワンとなっていたり、低域の処理が出来ていなく、定在波の影響が大きく出ているような部屋の場合、柱状拡散がもたらす改善効果が認められても、部屋の悪影響が処理しきれない場面もあった。個別には音響処理用の壁を施工したり、吸音パネルを取り付けるなどの対応が可能ではあったが、一台で完結できるような製品が従来から期待されていた。

そこで開発されたのが、〜HybridANKH〜である。従来の柱状拡散効果に加え、製品に吸音機能をもたせた「Hybrid(ハイブリッド)」構造となっている。
従来のANKH-Ⅰ・ANKH-Ⅱと同様の奥行き寸法の内部にファブリックで囲まれた吸音スペースが設けられている。外から確認できないが、吸音スペース内部には従来のANKH-Ⅰ・Ⅱと同様に径の太い円柱が配置されている。
他の吸音性の音響パネルにありがちな、高い周波数帯域の過度な吸音を押さえ、音楽の躍動感を損なわないように留意した。単独での使用はもちろん、従来のANKHと組み合わせて使用することで、より調整の幅を広げた、空間やシステムに合わせた音空間を創造することが可能である。

Hybrid ANKH-Ⅰ ST-Hy15(フラットタイプ)、Hybrid ANKH-Ⅱ CO-Hy15(コーナータイプ)
左:Hybrid ANKH-Ⅰ ST-Hy15(フラットタイプ)
右:Hybrid ANKH-Ⅱ CO-Hy15(コーナータイプ)
真ん中にHybridタイプ・両サイドに従来タイプが配置
真ん中にHybridタイプ・両サイドに従来タイプが配置

2. 設置事例

11月末に販売が開始されたHybridANKHには、正式販売以前に既に設置した事例がある。秋葉原に店舗を構えるダイナミックオーディオ5555の最上階フロアである7F試聴室。ここにHybridANKH-Ⅰの高さ1.2mの製品がリスニングポイント正面と右側の壁にずらりと計27台設置されている。さらには背面一面とリスニングポイント左側の一部には従来タイプであるANKH-Ⅰ・ST12も並んでいる。
以前は他社製の音響パネルを使用されていたが、製品の販売が終了していたことをきっかけに、他の調整方法を検討されていた。近年AGSを採用した新設のオーディオルームの実例が増えているが、オーディオルームを一から施工する際には、定在波の緩和や響きの長さを調整するために、AGSだけでなく、仕上げ壁や天井内部に様々な吸音・反射処理も同時に行うことで仕上げていく。本フロアでは専用設計により響きの長さもコントロールされた音響空間を感じられるように、Hybridタイプの製品が採用された。
国内・海外から選りすぐりのハイエンド機器が集る本フロアに来られる方々は、それぞれのスピーカやアンプの特徴から、ケーブルや接続方法の違いに至るまで細かく吟味される。HybridタイプのANKHを設置したことで、機材を評価したり選別するのに必要な、機器の特徴や細かい違いを表現できる空間となった。

ダイナミックオーディオ5555 7F
ダイナミックオーディオ5555 7F

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