大阪営業所 藤原昂 岩渕淳
音空間事業本部 崎山安洋 石垣充 上原薫 出口公彦
ソリューション事業部 早川篤

第一試写室[Back]

1.京都撮影所新ポスプロセンターがオープン

2018年7月、京都撮影所内に新ポスプロセンターがオープンした。京都撮影所の起源は占く、1926年(大正15年)太秦に初めてできた撮影所から80年以上の歴史を有している。今回、試写室、MA、Foley、サウンド編集室(3室)、オフライン編集室(4室)、マシンルームなどを、既存建物をリニューアルし、3階のワンフロアに集約することで、ポスプロ業務の再生が行われた。また、東京撮影所(大泉)のデジタルセンターと"HARBOR"回線でネットワーク接続され、4K最影映像など大容量データ転送が可能となり、ファイルベースワークフローの構築により、クオリティの高いポスプロ業務が可能となっている。弊社は、フロア全休の基本設計(電気設備、空調設備を含む)から、音響内装工事及び家具工事までを担当させていただいた。

2.コンセプト

目指したのは、"歴史ある京都撮影所ならではのスタジオ"。3階フロア内の各スタジオのレイアウト計画から始まった。3階フロアは、エリアで天井高さが変わるため、先ず、天井高さが取りやすい位置に試写室を配置し、動線と室間の遮音を検討しながら、その他の室の配懺計画を行った。意匠面では、年月を重ねるほど味が出るような京都ならではの素材・形状・色彩をデザインに活かし、"京都撮影所に来た!"と感じられるような空間を目指してお客様と共にデザインを行った。基本のモチーフは、京都の和風建築に見られる"木格子"。室内の色彩は、"士壁"などを連想させるベージュ系、ブラウン系を基調とした。照明計画も、電球色を多用し、かつ照度をひかえることで、フロア全体に、"落ち着いた柔らかな雰囲気"を醸し出している。


Booth


MA[Back]


MA[Front]


MA[Front]

3.スタジオ概要

3-1.第一試写室

座席数42席、タイミングテーブル4席の試写室。後方に映写室を配置し、DLPシネマプロジェクター(NEC1200)が設置されている。チェアは、試写室でも多く採用されているフランスのQuinette(キネット社)。特筆すべきは、シネマスピーカーは、アメリカのMeyer Sound(メイヤーサウンド社)。台詞を含め解像度に定評のあるパワードスピーカーで、日本初のMeyer Sound認定の音響設備となっている。スクリーンは、Eastoneの8K対応サウンドスクリーン。スクリーン生地が従来の塩化ビニールと異なり、極細糸で織り上げた生地で、音響透過性に優れている。再生されたサウンドは、パワフルで台詞の明瞭度に優れたものだった。シアターチェアは一部着脱可能で、床面に用意されたコネクター盤に、MA室からコンソールを持込むとダビングテージとして対応可能である。新ポスプロ完成後、さっそく劇場版時代劇作品のミックス作業に、試写室がダビングステージとして使われている。(L/C/Rch : Acheron Studio、SRch: X-400C、LFEch: X-800C X 3)。

3-2.MA

MAルームは、2ch(ステレオ)から5.1chまで対応する調整室と、ゆったりと座れる大きさのアナウンスブースで構成されている。ブースは隣接するFoley調整室からでも収録できる回線が付設されている。Mixing Consoleは、YAMAHA NUAGEで、メンテナンスの良さなど含めて採用され、試写室でも使えるようなシステム設計がされている。

"最も多い時は15人収容"と伺い、コンパクトな空間で、どうMA室の機能と居住性を実現するかが課題であった。クライアント席を1段上げることで、クライアント席が2列になった場合でも、ディスプレイの視認性を確保した。また、音響的カバーエリアもできるだけ広くするために、側壁と後壁に音響拡散体を効果的に配置した。そして、大人数でも圧迫感を感じないよう、天井形状を正面壁ほど高く上げ、視線を遠くへ抜けさせることで、空間を広く感じられるように配慮している。

3-3.Foley

時代劇作品の効果音収録も多いことから、床には石畳、玉砂利、固士、岩、珪砂など特徴的な材料を用意し、4つの枡には、鉄の蓋から材質の違う板材を用意した。蓋を入れ替え、多彩な歩行音の収録を可能にしている。

"より長い距離の歩行音を収録したい"との要望があり、試写室とMA室間の廊下で収録ができるよう工夫している。床仕上げを大理石と無垢フローリング貼り、廊下天井は吸音処理し、壁片面は吸音カーテンを設置し響きの調整ができ、多彩な生音収録に対応した。

3-4.サウンド編集室

サウンド編集室は3室で構成されている。1室は5.1chサラウンド編集、2室は2chステレオ編集に対応している。編集初期段階で作業するサウンド編集室は、MAやFoleyとの親和性のある室内音場を目指した。施工中、測定結果とヒアリング結果を確かめながらプロジェクトを進めた。スタジオモニタースピーカーは、全てADAM Audioに刷新統一されている。

フロアの様子

フロアの様子

3-5.サイン

各部屋には、京都撮影所美術部の方によるオリジナルデザインの室名サインが設置された。柔らかな書体のオリジナル文字をガラスにサンドブラスト加工で直接刻印し、背景には楽器などでも良く使われる表情豊かなブビンガを配置した。LED照明の光り方、文字の色や大きさなど細かいディテールまでお客様とサンプルで何度もシミュレーションを行い、出来上がった。

そしてサウンド編集室には、「響」「奏」「弦」という"音"を連想させるサブネームが付けられ、京都撮影所ならではの"音"と"美"に対するこだわりが感じられる作品となった。

フロアの様子

4.お客様の声

日本音響エンジニアリング様とは以前、弊社映画館のサラウンドスピーカー改修の時に大変ご尽力を頂いた事もあり、今回の全面的な内装改修工事も迷わず御社にお願いしました。内装工事の内容ですが元々は俳優養成所の教室、道場だったところに試写室、MA室、フォーリー、アナブース、オフライン編集室4部屋、サウンド編集室3部屋、マシンルームとポスプロエリアに改装依頼しました。

特に試写室、MA室、サウンド編集室の遮音のクオリティーは厳しいお願いをしましたが、建物も昭和30年代と古く、天井も低く、下の階も会議室と非常に条件の悪い中、京都風の素睛らしい仕上がりになりました。今回工期は短く工期中にも様々な変更がある中、柔軟な対応をして頂きありがとうございました。