最近の試聴室について

技術部 崎山 安洋

1. はじめに(動向)

最近、当社で試聴室新設の機会が多くありましたので、最近の試聴室の動向および試聴室の音響調整について述べます。
試聴室は、発注者別に、メーカーの試聴室、大学など研究機関の試聴室、個人ユーザーの試聴室(ホームシアター)に大別できます。 さらに、メーカーの場合、業種により、オーディオメーカー、カーメーカー、パーツ・ディバイスメーカーなどに大別できます。 発注者・業種によって、試聴室計画における要望事項が少しずつ異なります。

最近、オーディオメーカーさんから依頼される試聴室が多くありました。オーディオメーカーさんの試聴室にも、 時代時代の市場動向が反映されています。家庭用オーディオ機器の場合、大型システムは影を薄め、 システムの小型化とマルチチャンネル化が進んでいます。

また、DVDを始めとして映像を伴った5.1chサラウンドの再生が主流となり、 試聴室内にプロジェクター・スクリーンやプラズマディスプレイが常設されることも多くなっています。一方、 カーオーディオシステムの開発を主とした試聴室も多く見られます。近年は、AVアンプ、デコーダーなどにDSPを搭載し、 ディジタル信号処理による音質調整機能、音場創造機能が多用されているところから、 音創りの評価やディバイスそのものの評価の場として試聴室が使われています。

2. 試聴室計画への要望事項

メーカーさんの試聴室の場合、開発設計部門において、新規開発品の設計段階での評価に使われることがほとんどですが、 来訪される方に完成品をデモンストレーションする事を主用途とした試聴室もあります。
要望事項としては、室内の静けさ(室内暗騒音と空調騒音)、 室内音場、照明・コンセント・コネクターボックス、クリーン電源等に関する事となります。

  1. 室内の静けさと遮音に関しては、スピーカから出てくるピアニシモの細かい音の識別や微小ノイズの識別のためにNC-15~20のスペックを要望される事が多くなっています。

  2. 室内音場については、製品の種類と音場設計の目的から違いがあり、

    a.家庭用オーディオ機器の開発を目的として、一般家庭のリビングルームを模擬した室。
    b.細かい評価のためにリビングルームを模擬した室にカーテンを引いて響きを抑えられるようにした室。
    c.純粋に音質評価を主目的とした室。
    d.映像を伴なった室。
    e.残響時間を可変出来る室。
    f.大勢の人にデモをする室。

など、室形状・使われ方も様々です。
近年は、何らかの標準をもとめ、IEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議) の基準に準拠した試聴室とする要望も多くなっています。

3. IECの基準について

IEC基準の試聴室関連ではIEC60268-13 SOUND SYSTEM EQUIPMENT -Part13:Listening tests on loudspeakersがあります。 この中にリスニングルームとリファレンスルームについての記述があります。最近、メーカーさんの試聴室ではデフォルトスタンダードではありませんが、 何らかの試聴室の共通点を求めて、リファレンスルームの基準を適用していることが多くなりました。
室内音響に関わる項目は、

  1. 室の大きさ
    室容積:100m3、室寸法:長さ7.3m、幅:5.3m、高さ:2.7m

  2. 室内暗騒音
    再生機器と空調運転時で、NR15以下。

  3. 残響時間
    200~4000Hzでの平均残響時間は、0.3~0.6secの範囲。

となっています。

※ 上記の仕様を十分満足しても造り方によって音の聞こえ方は試聴室によって千差万別ですが!!

4. 試聴室の計画

試聴室の計画にあたり、検討すべき項目について述べます。

  1. 試聴室周辺の音・振動環境

    試聴室計画場所が決まった段階で最初に検討する項目です。建築面で室の大きさと高さが十分確保できるか、 また建屋の許容積載荷重が十分であるかの検討と同時に、周辺の音・振動の大きな発生源がないか調べます。 音・振動の発生源がある場合、事前の測定が必要です。逆にまた、試聴室の再生音が周辺の室に及ぼす影響の考慮が必要です。

  2. 試聴室の遮音構造

    遮音については、外部からの音・振動を入れたくない、あるいは試聴室内再生音を外部に漏らしたくないの双方があります。 また、室内の暗騒音をどの程度までに抑えたいかにより遮音構造が決まります。かつては、固定遮音構造のみの遮音構造が多く見られましたが、 近年暗騒音を低くする要望が多い事、アクティブサブウーハーをはじめとしてスピーカの低域再生能力(周波数や出力共)が高い事から、 隣室への音漏れを少なくするために遮音量が高く取れる浮遮音構造の試聴室が多くなりました。また、 建物の構造がかつては低層RC造(鉄筋コンクリート)の剛構造から、高層SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート)の柔構造が多くなり、 超低域の揺れなど暗振動が増している事も上げられます。
    遮音層の構造、材質、形状は遮音量はもちろんの事、室内音場にも深く関わりますので、 音場面からの検討も必用です。

  3. 試聴室の音場(吸音層構造)

    試聴室の音場は、吸音面、反射面の大きさ、形状、配置、材質が複合的に絡み合った結果として生み出されます。 吸音反射の配置パターンをみると、2チャンネルが主流であった頃は、正面壁が吸音面、後面が拡散面のデッドエンド・ライブエンド、 あるいは逆パターンのライブエンド・デッドエンドの試聴室が多く造られました。正面が吸音のデッドエンド・ライブエンドは、 スピーカの直接音(ダイレクトサウンド)をなるべく色付けせず、時間的に直接音の後からくる初期反射音を増強し、 パワー感や音場感を助長するものです。ライブエンド・デッドエンドは、スピーカの背面に拡散面があるために、 直接音に時間的に近い初期反射音が増強されます。これにより、多少色付けがでますが、直接音そのものを豊かに聞かせる音場です。
    最近は、DVDを初めとしたマルチチャンネルに適した再生音場の要求が高く、特定の面を反射面や吸音面とするのでなく、 全体的に反射面と吸音面を分散配置した均一な拡散音場とすることが多くなっています。

  4. 試聴室の電気設備

    電気設備には、コンセント・照明計画があります。また、供給される電源の質として、クリーンな電源を要望されることもあります。 キュービクルから太めの専用ケーブルを引くことでクリーンでレギュレーションの良い安定した電源の供給が可能となります。 また、コンセントについても、医療用などのコンタクトの良いコンセントを指定されることもあります。照明は、 ノイズの点から蛍光灯を避け、白熱灯とすることがほとんどです。仮に蛍光灯を使う場合は、安定器から発生するノイズを避けるために、 安定器を試聴室外に別置きします。白熱灯で調光を行う場合はノイズのないスライダックで調光とします。 半導体調光はノイズを発生するので、調光ノイズを低減するには電源ラインにノイズフィルター等を入れて対処します。

  5. 試聴室の空調計画

    空調システムは、かつては水冷式の空調機が使われましたが、近年はヒートポンプ式が主流です。 室内の静けさを確保する目的で、室内機からサイレンサー・エルボ等の消音器を介してダクト方式で空調することが多くなりました。 フレッシュエアー(外気)の給気・排気に関しては、エネルギー効率からロスナイ等の熱交換型の給排気システムを使用し、 さらに給気を室内機に接続し、排気をリターンチャンバーに接続します。これにより、空調効率が上がるのと同時に、 遮音層貫通部分を少なくすることが可能となり、貫通部面積が少しでも減り、遮音上も有利になります。

  6. 音響測定・調整

    音響測定・調整は、工事着工前の事前測定、工事段階の中間調整、工事完成後の検収測定・音響調整と段階を追って行います。
    事前測定は、試聴室計画場所の周囲に影響を及ぼすと考えられる騒音・振動源がある場合、 遮音仕様を決めるための基礎データ収集として行います。測定項目は、暗騒音と振動です。
    中間調整は、最終仕上げ直前の吸音層が出来上がった段階で行います。

5. アルパイン殿の施工例

福島県いわき市にある「アルパイン株式会社」殿の試聴室をご紹介します。
2003年春に完成した試聴室です。主にカーオーディオの研究・開発からデモンストレーションまでに使われる試聴室です。

内観パース
内観パース
側面写真
側面写真
平面図・断面図
平面図・断面図

後方写真
後方写真
後面写真
後面写真
正面写真
正面写真
天井写真
天井写真

1. 音場計画

2chステレオを主体にマルチチャンネルまでの再生環境とするために、均一な音場を目指しました。
各部位は、

【床】
コンクリート浮床にフローリングの反射面。

【前壁】
表面材はクロス(イス貼地)、内部に拡散板とサウンドトラップを組合せて配置。コーナー部分は、低域用吸音機構。

【側壁および後壁】
反射面と吸音面を組合せた拡散壁。

【天井】
曲面拡散板とクロスパネルの吸音面(天井裏に吸音用サウンドトラップ)との組合せ。

断面パース
断面パース

全体的には、特定の面を反射面や吸音面としないで、吸音面と反射面を組合せ均一な音場を想定しています。

IEC基準に準拠するために、残響時間も0.3~0.4sec/500Hzを目標として設計しました。 以前よく見られる試聴室は、これよりも残響の短い試聴室が多かったように見受けられます。これに比べると我々にとっては、 IEC基準はかなり残響時間が長いように感じます。残響時間が長いほうが、気持ちよく音楽を楽しむことはできますが、反面、 音の聞き分けがし難い部分もでてきます。

レコーディングスタジオの調整室の場合は、平均吸音率0.25~0.35くらいとして、 残響時間0.2~0.3secくらいが多いようです。今回の試聴室の音響設計にあたっては、「音の識別がしやすい」ようにとの観点で音場計画をしています。 残響時間も、IECの推奨値の中では、残響時間の短い方のカーブに近いところです。また、細かい音響調整は、 建築完成後の作業となります。
そこで、音響調整が可能なように、壁・天井のクロスパネルは取外し可能な造りとしています。

2. 事前測定

外部の騒音振動源として、試聴室のコンクリート壁面に直接繋がる鉄骨階段を歩行した場合の振動伝播の影響が懸念されました。 具体的には、実際に鉄骨階段を歩行して振動測定を行い、その結果から最終遮音仕様を決めました。
基本構造は、完全浮遮音構造とし、浮床は防振ゴムに鉄骨根太組・デッキプレートのコンクリート床としています。

3. 中間調整

中間調整は、遮音層工事が終了し、天井の拡散面と吸音面がほぼ仕上がり、壁の拡散仕上げ面下地ができ、 吸音層に取掛かかる段階で行いました。床はコンクリート浮床の状態です。工事段階なので、再生機器はまだ置かれていないので、 壁を叩いたり、低い声や高い声を出しながら室内を廻ります。完成時の音を予測しながら音を聞きます。粗調整の段階です。 この段階では、壁拡散面の補強を行いました。壁の拡散面を叩いた時にちょっと軽い音がするかなと感じました。 そこで低域の再現性を良くするために、剛性と質量を上げることとします。剛性を上げる目的で拡散壁の下地軸組みに遮音層からの連結を増やしました。 質量を上げるために拡散壁の合板・センチュリーボードの裏にレンガを接着貼りして重量の増加を図りました。

4. 音響調整

基本的な検収測定(暗騒音、遮音測定)とは別に、音響調整に取り掛かる前に残響時間の測定を行いました。
この段階では、建築的にほぼ完成した状態(壁のクロスパネルは仮止め)です。測定結果は、 IEC基準に入っていることを確認できました。いきなり試聴に進めそうです。

  • 側壁内部写真
  • 側壁腰内部写真
  • 側壁内部写真
  • 側壁腰内部写真
残響時間測定結果
残響時間測定結果

試聴用のスピーカ、アンプ、CDプレーヤ等を準備して頂き、いよいよ試聴の段階です。 試聴用再生機器の設置にあたっては、室芯を墨出し、スピーカ位置とリスニングポイントを仮決めし、CD音源として、 色々な曲の試聴を行います。見た目やリスニングポイントの椅子配置も含めて、 ヒアリングをしながら基本スピーカ位置を徐々に絞って決めていきます。スピーカ(2ch)とリスニングポジションは基本的には正三角形配置とします。 スピーカの開き角度によっても再生音は変わりますから、開き角度も、左右スピーカの角度を常に計測して揃えながら、 試聴を繰り返します。その結果で標準セッティングの基本位置が決まりました。

標準セッティングの基本位置が決まったところで、いよいよ室内音場の調整に進みます。 調整プロセスを振返ると、今回の音響調整の中でキーワードは、

a. 「音が前に出る。」
b. 「低域のパワー感。」
c. 「つつまれ感。」(フワフワ感と表現)
d. 「音の定位と音像。」

といった言葉でした。

【調整箇所と調整内容】

音響調整は、前面(スピーカ背面)のクロスパネル内部に仕込まれた拡散板、吸音機構等の量、配置、 向きを変えて行います。具体的には、正面壁内部の吸音材と拡散用コンクリートパネルの量、配置、向きを変える事で行いました。 残響時間調整等は物理量を変えるのが目的で、データに現れるので話が早いのですが、音響調整は必ずしも測定データーに現れるような物理量を変えるのが目的ではなく、 主観評価を基にして、聴感上の聞こえ方(音のニュアンス)を調整するのが目的ですので言葉で説明するのは容易ではありません。 逆に言えば、聞こえ方の違いを説明でき、測定結果に現れるパラメータが無いか、測定結果と聴感上の違いをまだまだ関連つけられていないのが現状です。 (現状では、まだまだ永遠の課題かもしれません。)

【正面壁内部初期状態】

正面壁内部の音響調整の初期状態は、左右のコーナー部分を低域吸音スペースとして使っています。その間は、 拡散面と吸音面を交互に配置してあります。拡散面としては斜め上向きの拡散板が3列4段、その間に、 吸音面として平行トラップを2列配置してあります。

【音響調整プロセス】

「音が前に出る」+「低域のパワー感」を出すためには、質量がある材料で初期反射音を増すことが必要となります。 ここでは、コンクリート板(600×450×60)を用意しました。前面壁内部の下部に配置します。

1. 最初グラスウール(GW)が入っていた部分にGWの替わりにコンクリート板6枚を斜め外向きに配置します。
「フワフワ感は消えた」が、「音が前に出ない」。

2. 音を前に出す事をねらい、正面方向への反射音を増やす目的でコンクリート板を横一列に並べ替えます。
「音がべちゃべちゃしている」。正面向き反射のため、直接の反射が多すぎました。

3. コンクリート板をもう一度斜め外向きとし、拡散反射とします。また、表面に少々GWを貼り、 反射面を分断することで擬似拡散状態とします。
「両サイドの音が抜けている感じ」。もう少し、反射音が返っても良さそうです。

4. コンクリート板をコーナー部分にさらに6枚増やし、増やした板は正面向きに並べる。
「音がつぶれている」。板の枚数が増えたので、側方からの反射音を調整します。

5. すべて斜め外向きとし、すべてにGWを少々貼る。
「音像が上に」。これは、バランスとして斜め上方拡散板の反射の方が目立ってきたようです。

6. コーナー部分の外から2枚目のみ内側に向ける。
「音像が上に」。しかし、全体の音像バランスはいい方向に向かっています。 側壁からの高域反射音が気になるので、高域の拡散を狙います。

7. 一番前の壁反射面にスリットを5本追加。
「音像の水平の並びがまとまってきた」。

8. 前壁内部、斜め上向き拡散板にGWを少々。
「音像が上がり気味」「フワフワ感はなくなり過ぎ」。

9. 後壁内部のクロスパネル裏の板を減らす。
「音像も下がり」「フワフワ感も適度」。

10. コーナー部分低域吸音部の上下をGWでふさぐ。

以上のプロセスで音響調整を終了しました。

正面腰壁内部写真
正面腰壁内部写真

  • 正面腰壁内部写真
  • 前方写真
  • 正面腰壁内部写真
  • 前方写真
  • 上方写真
  • 後方写真
  • 上方写真
  • 後方写真

7. おわりに

IEC基準に合わせることと、音場の調整とは必ずしも同一方向に向かうとは言切れませんが、だんだんと音が定まってきて、 解像度があがってくるにしたがい、「CDにこんな音までが記録されていたんだ」と感激するものです。
音響調整手法はいつもいつも同じではなく、最初にヒアリングした結果をふまえてどこをどのように調整するかを検討して、 材料と手法を選択しています。

アルパイン株式会社のご担当の大脇様には、お忙しい中、音響調整にお立会い願いありがとうございました。