大規模施設における建築音響会社の役割について ─ 熊本桜町再開発編 ─

音空間事業本部 佐古 正人

1.はじめに

複合的な大規模施設を建設するにあたり、使用目的などを考慮すると、実に多種多様な用途が存在します。
建築主のもとで設計者が建物の用途を踏まえ、入念な設計、計画を練り、その設計図書をもとに建設会社が工事を請負います。その設計用途を満たす性能や機能を持った建物にする為には、建設会社の号令のもと、各種の専門会社の力が集まらなければ、このような建物は出来上がりません。その専門会社の1 つとして、我々建築音響会社も存在します。我々建築音響会社は、長年培った建築音響の知識や経験をもとに、設計者の意図した建築音響の施設を、その設計用途に応じた性能、機能を満たし、かつ、末永く人々に使っていただけるような素晴らしい建物とする為、様々な業務を行っています。内容としては、施工図作成、専門的な工法や施工計画、適正な防振ゴム配置を行う為の防振計算、また我々が請負っている建築音響工事の施工管理や、各専門会社の工事進行時に音響性能を満たす為のアドバイス等です。
今回は2019 年9 月に竣工した大規模施設である、熊本桜町再開発の建設工事において、当社の取り組みを紹介します。

2.建物概要及び施工範囲

工事名称 :熊本都市計画桜町市街地再開発事業施設 建築物新築工事
住所 :熊本県熊本市中央区桜町3‐13,14
発注者 :熊本桜町再開発株式会社
設計者 :日建・大宏共同企業体
監理者 :日建・大宏共同企業体
施工者 :大成・吉永・岩永・三津野・新規建設共同企業体
工期 :2017 年1 月16 日〜2019 年9 月11 日
敷地面積 :30,267㎡
建築面積 :27,010㎡
延床面積 :162,440㎡
用途 :バスターミナル、商業(物販・飲食)、シネコン、
ホテル、バンケット、公益施設(熊本城ホール)
共同住宅、保育所、事務所、駐車場

当社は公益施設棟内の1F 展示ホール、2F シビックホール、3F 会議室、4F メインホールの防振支持による遮音層構築工事(通称:浮遮音層工事)を担当しました。

3. 音響施工管理について

建築音響工事において、遮音性能の欠損等問題が起こる原因は、建築どうしの各業種間取り合いや、建築と設備の工事取り合いなど、職種が代わる部分が殆どです。その為、各専門会社(建築、空調、電気、衛生等)の施工図を確認し、音響性能的に問題になりそうな部分の図面段階でのすり合わせを行うことと同時に、現場における確認が非常に大事な点となります。

1) 音響パトロール

本件のような大きな業種が同時に作業する、大規模施設では、現場において様々な問題点やイレギュラーが発生します。当現場では週1 回、建築JV の主催で音響パトロールを行い、隠れて見えなくなる部分を中心に現場を確認し、問題点の共有を行いました。さらに、設計者による確認が必要な問題点は、2 週間に1 度、音響設計者と設計音響パトロールを行い、現場での問題解決を進めました。結果、各社の担当者に対し更なる音響性能確保に向けた意識の向上もでき、現場管理をより円滑に進めることができました。

C1、C3、C2、C4スタジオ
写真1 建築JV音響パトロール"設備吊りボルトの接触確認"

C1、C3、C2、C4スタジオ
写真2 設計音響パトロール"メインホール浮床コンクリート打設直後の確認"

2)現場での確認ポイント

各社の施工計画書にあるチェックシートには、各社自身の工事の性能担保の内容は記載されていますが、他業種との取り合いなどは細かくは指定されていない部分もあります。その部分こそ現場での確認が必要となります。例えば下記のような箇所が確認ポイントとなります。

【浮床】
躯体床の突起物除去やジャンカの処理
コンクリート打設後の周囲のノロでの躯体接触
固定配管貫通部の浮床との接触
周囲立ち上り部分にナットやコンクリート片などの挟まり

【浮遮音壁、天井】
配管貫通部のシール処理
ダクト貫通部のRW 充填、鉛処理
躯体不要スリーブのモルタル充填
設備用吊りボルトの浮遮音層下地との接触
各社防振ハンガーの傾き
ボード貼り後のシール処理、特に防音建具廻り
設備他貫通ボルトのシール処理 等・・・

C1、C3、C2、C4スタジオ
写真3 天井下地設備ボルト貫通部の接触部にゴムを設置

4. おわりに

当社が音響工事として現場管理に携わった期間は約1 年でしたが、このお話を頂いてからの施工図他計画への参加期間は、3 年程の月日を要しました。
下記写真のようにホールは完成しましたが、当社が行った音響工事部分の殆どが内装仕上げの裏側の為、意匠としては見えません。しかしこの大規模施設の音響性能を満たす為には必要不可欠な役割を担わせていただいたと自負しております。
最後に、このような機会を下さいました、設計者である日建・大宏設計JV 様、元請け会社である大成JV 様の方々にこの場をお借りしてお礼を申し上げます。

5. 設計者の声

「事件は会議室で起きているんじゃない、現場で起きてるんだ」これは施工段階、特に防振遮音工事のような複雑かつ要求性能の高い工事では頭に響くことの多い台詞です。情けないことに施工手順へ配慮不足な設計図もありますし、完成度の高い図面でも大規模施設の現場では日々変わる状況に追従して対応が必要です。メインホールでは工程を考慮してパッチワークのように浮床浮壁を施工いただいたり、すり鉢状の壁の下地鉄骨の防振と浮床施工とを絶妙に解決していただいたり、非常に難易度の高い施工に感服しました。また、設備の貫通部遮音処理や2重扉間の前室仕上げの縁切などは図面通りに施工できない場合もあり、各工事会社さんを先導して施工チェック、是正、完了確認していただきました。これらは数例にすぎませんが、日本音響さんには、設計意図を十二分に考慮して現場対応いただき、大変感謝しております。

株式会社日建設計 青木亜美

C1、C3、C2、C4スタジオ
写真4 2F シビックホール(ステージより 移動観覧席を出した状態)

C1、C3、C2、C4スタジオ
写真5 4F メインホール(客席より 客席数約2300席)