─ 再構築された航空機騒音測定・評価システム ─

データサイエンス事業部 加藤幸大 藤田鋭志

1. システムは評価・分析を行うために

私たちはこれまで多くのお客様に航空機騒音の測定・評価システムを納めてきました。お客様の中には、「なぜ航空機騒音の測定・評価するのにシステムが必要なの?」と疑問に思われる方もいらっしゃいます。これは環境騒音測定の中でも航空機騒音のように対象騒音のみを識別し、評価する測定は、技術的難易度が高いという課題があるためです。航空機騒音を適切に評価するには確認・スクリーニング作業が必須となっています。
しかし、測定者が求めているのは評価・分析結果のみです。確認・スクリーニング作業をしたいわけではありません。上記課題に対するアプローチの一つとして、弊社では測定・評価システムのクラウドサービス化の準備を進めていました。クラウド型システムであれば、より高精度な識別機能が追加された場合にいち早く利用いただくことが可能になるとともに、スクリーニング作業の外部委託を実現しやすくなると考えているためです。※外部委託をご検討の際にはぜひ弊社を御指名ください。
このような準備を進める中、受託させていただいた案件が、本開発要件に適合したため、この新システムを投入することになりました。本稿では、この航空機騒音測定・評価システムをご紹介します。

2. 開発要件

今回受託させていただいた案件は、既存システムの老朽化に伴う更新です。既存システムでは、航空機騒音の影響を受ける地域に対する環境対策として以下のような運用を行ってきました。

  • 航空機騒音の常時監視による評価
  • 騒音値の情報公開
  • 環境構築を行ったパソコンによるシステム運用
  • 専用パソコンを用いたメールによるお問合せ窓口

従来のシステムは専用パソコンや専用の環境構築を必要としてきました。しかし、専用パソコンを準備するには、専用のスペースを必要とし、また、共有のパソコンとなるためセキュリティの確保も曖昧(同部署の職員全員がパスワードを知っている)となるものでした。そこで、当システムの開発には以下のような要件が掲げられていました。

一般向け公開サイト

  • インターネット経由の騒音値の情報公開
  • 航空機騒音にかかわるお問合せ窓口の創設

職員向け会員制サイト

  • 職員の事務用パソコンからのアクセス
  • 環境依存度の低いWebアプリ
  • 業務の外部委託を想定したアクセス権管理

図1 開発要件
図1 開発要件

3. アクセス制御

当システムの利用者には、担当職員、担当外職員(同部署の上長、同僚等)のほか、外部委託先としてデータ編集業者及び保守業者が想定されていました。各利用者は利用可能な業務機能が異なり、アクセス可能な情報の範囲を限定することでセキュリティを確保することが求められていました。当システムでは、ユーザ毎に利用者の区分(ロール)を設定し、アクセス可能なデータの機密性を確保させました。

表1 利用者と主な業務
表1 利用者と主な業務

4. 基本機能

当システムの各業務機能について、対応する機能を以下の通り再定義しました。

操作(モニタリング/確認・編集)
お問合せの際に、現在、及び直近の問題が発生した時間帯の騒音状況を確認するためのモニタリング機能。翌日以降に、様々な角度から騒音状況を確認し、航空機騒音の自動判定に誤りがあった場合に判定を編集する機能です。

帳票(各種帳票/騒音検索)
航空機騒音を分析するための基礎データや、航空機騒音測定・評価マニュアルに基づく航空機騒音測定結果を出力する各種帳票。各種帳票では分析しきれない任意の集計を行うための騒音検索機能です。

管理(メンテナンス/進捗状況/お問合せ対応)
前述の機能を動作させるための各種パラメータメンテナンス。航空機騒音測定器が正常に動作していることを確認するための進捗状況確認機能。航空機騒音等に関するお問合せに対応するための機能です。
以降、上記の各機能について掘り下げて紹介させていただきます。

図2 メインメニュー
図2 メインメニュー

5. お問合せ対応機能

当システムは、航空機騒音にかかわるご意見を一般市民から幅広く意見を集める目的で、Web からの申立を行えるようにしました。Web サイトに入力された申立は、その内容ごとに担当職員に通知されます。職員は申立内容について調査し、必要に応じて資料を添付し、メールにて返信することができます。この返信には専用のURL が発行され、申立者は再度の問合せが可能となっています。

図3 お問合せ対応業務の運用フロー
図3 お問合せ対応業務の運用フロー

6. 騒音の高度分析

本稿の導入にて、「環境騒音測定の中でも対象騒音のみを識別し、評価する測定は、技術的難易度が高い」と紹介させていただきました。この技術課題に対して、弊社もただ手をこまねいているわけではありません。当システムでは、従来のシステムと異なり、「AIによる航空機騒音判定」を導入しています。
従来のシステムでは、トランスポンダ応答信号の電波を利用した識別装置、対地高度計の電波を利用した識別装置、音源探査技術を用いた識別装置等を駆使し、ロジカルな判定を行ってきました。
今回、騒音レベルの経時変化、各種識別装置の詳細取得データ、音声録音データなど様々な情報から総合的に判断する、新開発の航空機騒音判定モデルを導入し、AIによる航空機騒音自動判定を実現しました。この判定モデルには、弊社スタッフが長年培ってきた航空機騒音判定のノウハウが盛り込まれており、これまでの統計解析モデルから大きく精度向上を果たしています。
新技術のみならず、従来のシステムに導入されていた技術も導入されています。一例として、弊社の離着陸滑走路判定装置を用いて、航空機の滑走路運用方向を自動判定しています。離着陸滑走路判定装置そのものは従来からの弊社特許技術ですが、装置の判定結果の採用ロジックを改善することにより、自動判定の精度を向上させることができました。

図4 AIによる航空機騒音判定概念図
図4 AIによる航空機騒音判定概念図

7. GUIの再検討と再構築

従来、当社の測定・評価システムはデスクトップアプリケーション(パソコンにインストールして動作させるアプリケーション)にて提供してきました。これを、職員の事務用パソコンからアクセス可能とするため、環境依存の低いWebアプリケーション(インターネットブラウザ上にて動作するアプリケーション)とする必要がありました。
Webアプリケーションは、デスクトップアプリケーションに比べ、表現の制約、技術的な制約があります。そのため今回、お客様に求められている機能は何なのか、より操作しやすいデザインとは何なのか、について再検討と再構築を実施しました。

モニタリング機能
騒音データについて、リアルタイム及び過去24時間にさかのぼって閲覧することができます。地図上に騒音レベルを逐次表示するタブと、全測定局の騒音レベル変動をグラフ表示させるタブがあります。地図は一般的な地図サイトのように、ドラッグ&ドロップによる移動、拡大・縮小ができるようにしました。グラフは全局分の騒音レベルを折れ線表示し、マウスカーソルを合わせることで1測定局のグラフのみ太線強調されるようにしました。

図5 モニタリング機能
図5 モニタリング機能

確認・編集機能
毎日の自動処理が完了した騒音データに対して、騒音判定や発着情報との照合結果を確認・編集することができます。本機能は、従来のシステムでは機能ごとに別々のツールで実現していた、騒音レベルや各種識別装置の表示機能をまるごと一つの機能として利用できるようにしたものです。これにより、1つの騒音データを様々な視点から確認・分析できるようになりました。

  • 1. 単一測定局にて様々なソーティング・フィルタリング
  • 2. 複数の測定局間の関連性比較
  • 3. 騒音レベルの経時変化
  • 4. 音声データの再生
  • 5. 航空機位置座標との関係性
  • 6. 音源探査装置の判定結果詳細

弊社システムのユーザ様には慣れ親しんでいただいている従来の確認ツールから、技術ニュース第49号(2020 年1 月発行)「航空機位置連動表示システム「BindDraw」のご紹介」にて紹介させていただいた最新の確認ツールまで、幅広く盛り込んでいます。

図6 確認・編集機能
図6 確認・編集機能

騒音検索機能
簡易帳票作成機能です。定型の帳票からさらに拡張して分析したいとき、出力用雛形を設定することでデータベース上の値を表示・出力することができます。システム製造時に十分検討を重ねた定型の帳票も、数年後に物足りなくなってきたことはないでしょうか?そのようなご要望にシステム改修を行うことなく、柔軟に対応できる機能として実装されました。出力結果をExcel ライクなフィルター機能で絞り込んで分析することも可能です。

図7 騒音検索機能
図7 騒音検索機能

進捗状況確認機能
毎日の自動処理が正常に完了していることを確認する機能です。従来のシステムからデザインを刷新しています。本画面を表示するだけで、自動処理が正常に完了していることや、完了していなかった場合、障害が発生している測定局・障害レベルを確認することができます。

図8 進捗状況確認機能
図8 進捗状況確認機能

機種定義編集機能
従来から、航空機騒音の影響を分析する際には、航空機の型式(機種)毎の分析が行われています。この分析を行うには、基礎データとして機種の定義が必要となります。本システムでは、従来のシステムから、Web アプリケーションならではのデザインに刷新し、直観的な操作性を実現しました。

以上、システムの一部を紹介させていただきました。紹介させていただいた機能以外にも測定局情報編集機能など様々な機能が実装されています。

図9 機種定義編集機能
図9 機種定義編集機能

8. 今後の展望

弊社は近日中にクラウドサービスを開始する予定です。本サービスを採用いただくことにより、より高精度な識別機能をより早く利用可能となり、スクリーニング作業を弊社に委託いただくことで、お客様の業務は、航空機騒音の評価・分析に注力することができます。このサービスが環境対策の推進に寄与させていただければ幸甚です。

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