音空間事業本部 佐藤 節雄、佐藤 慎也
1. 模型実験から
先代第四期の歌舞伎座は音が良いと評されていた。新しく生まれ変わる第五期歌舞伎座はそのプレッシャーを跳ね除け、歌舞伎座の音を継承しなければならない。新しい劇場の音響シミュレーションのための1/10模型作りの段階から、私たちは携わってきた。
2. 劇場の大きな課題
劇場は地上1階に作られるために、歌舞伎座のすぐ真下を走る地下鉄の振動騒音が劇場に入ってこないことが、防振遮音設計の上で大きな課題であった。
舞台は奈落の地下16mから地上20mまで繋がる巨大な防振遮音壁で囲われ、外界からの騒音を遮断している。そして観客席の床をはじめ、劇場に隣接する約5000㎡にも及ぶ様々なエリアの床が防振床になっている。また、通常の防振遮音工事では見られない歌舞伎座ならではの手法も取り入れられた。
舞台の心臓部、直径18m、高さ16m、総重量370tの日本一大きな回り盆装置を載せるために、その下の防振床は全面に防振材を敷き、通常の2倍以上のコンクリートを打設している。また舞台の桧造りの床の持つ歩行感や音の響きを損なわぬよう、コンクリートの防振床を作るのではなく、その土台となる鉄筋コンクリートの梁自体を防振し、木床の構造を極力崩さないようにしている。
3. 新しい歌舞伎座の音
柿葺落公演初日、勧進帳を見たとき、劇場の緊迫感と役者の演技に圧倒された。音はこの劇場の主役ではないが、観客が感動するためには、音は明瞭に聞こえなければならないのだ。私たちの仕事は歌舞伎座の表には一切出てこない。歌舞伎の舞台の感動を支える裏方に徹しきれたのだと感じた。