企画室 根木 健太


大ホールオーケストラピット内におけるANKHのデモンストレーション
佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2017「フィガロの結婚」

1.概要

兵庫県立芸術文化センターは、阪神・淡路大震災から10年、震災からの心の復興、文化復興のシンボルとして建てられ、コンサートを中心にオペラやバレエの上演が可能な大ホールだけでなく、演劇を中心とした中ホール、小編成の演目に適した小ホールも備えた文化施設です。この素晴らしいホールに我々のルームチューニング・アイテムのANKHが導入されました。もともとは、プロ用途のスタジオや放送局から始まり、次第に個人のオーディオルームに広がっていきましたが、最近は演奏空間でも使用されています。特に今回は音楽専用ホール内への導入ですが、ホール内のどの空間への設置が目的とされたかというと、オペラやバレエの演目で登場するオーケストラピットの内部です。

導入される前年の2017年に公演された佐渡裕芸術監督プロデュース「フィガロの結婚」にて、オーケストラピット内でのAGSの効果を検証するデモンストレーションが行われました。オーケストラピット内にANKH-Ⅰ(フラットタイプ)を6台、ANKH-Ⅱ(コーナータイプ)を2台設置した状態で演奏していただき、ピット内部と客席のそれぞれにおいて今までのAGSが無かった時の印象と比較し違いがあるかどうかを聴きながら確認してきましたが、結果としてピット内部・客席ともに効果が認められました。納品にあたり、舞台上でも使用することを想定して、本ホールの象徴ともいえるマホガニーの壁色に合わせた製品を特注で製作しました。


壁面の色に合わせた特注色仕様のANKH

2.お客様の声

兵庫県立芸術文化センターでは毎年、芸術監督プロデュースオペラを上演しています。ご存知のようにオペラ上演の場合、オーケストラはオーケストラピットと言う舞台前の2mほど掘り下げた狭い溝のような場所で演奏されます。前後左右を壁に包まれ、天井が開いた細長い小部屋のような環境で発せられる楽器の音は、何度も壁の反射を繰り返すことになります。壁間の距離と楽器音の発する音の波長の違いによって、ある音は倍増され、ある音はキャンセリングされてしまい、本来の演奏とは違った音になってしまっているようです。過去には吸音材を使用したり、反射面積を変えてみたり、ピットの深さを変えてみたりと工夫していたのですが、決定打はありませんでした。

そんなある時、『柱状拡散体 Acoustic Grove System』の存在を知ったのです。もともとオーディオルームや音楽練習室のような部屋の音場補正用として開発されたもので、作用としては定在波の緩和、フラッターの回避、一次二次反射音等の強い反射を起こさせない、しかも吸音はしないので、音質や豊かさに悪影響を与えないという代物。ひょっとしたらオーケストラピットでも活用できるのではないかと思い、早々デモさせていただくようにお願いしました。リハーサルが始まり客席で聞いていたところ、例年より小編成のヴァイオリン群が今まで以上にのびのびとしっかり響いて来るではありませんか。苦労していた打楽器エリアのブーミー感も全く無く、むしろすっきりとした楽器本来の音がそこに存在していました。はたしてマエストロの印象は?・・・満面の笑みでGood!サインを出してくれました。オーケストラのメンバーも「お互いの音がクリアに良く聞こえるので演奏がとてもし易い。」と仰ってくださり、我々以上にピット内の奏者の方が顕著に感じるのだと感心しました。

また、小ホールでも実験を試みました。小さなアリーナ型の天井が高い響きの豊かなホールで、生演奏の音楽には適しているのですが、語り声にとってはその響きが邪魔をしてずいぶん聞き取りにくくなってしまいます。仕込みの時など作業の会話も聞き返すくらいなのですが、AGSを置いてみたところ「今日、会話しやすいですね。いつもだと聞き取りにくいのに今日は普通にしゃべれますよ。」と舞台スタッフが言ったくらい、言葉の輪郭がはっきりしていました。響きが減ってしまったとか吸音されたとかと言うことではなく、音同士が邪魔をし合うことが無くなった分、素直に聞こえて来るのでしょう。おかげさまで小ホールの演目幅が増えました。

他にも、コンクリート打ち放し壁とガラス張りに挟まれたフラッターと残響だらけのロビーでのコンサートや、大編成で音が飽和状態となってしまう音響反射板内でも本領を発揮してくれるのではないかと期待して導入に至りました。

コーナータイプ(ANKH-Ⅱ)4本と平面タイプ(ANKH-Ⅰ)6本を活用させていただいております。


小ホール舞台上でのANKHデモンストレーション