DL事業部 菅谷 茂樹

1.はじめに

私の所属している部門は「DL事業部」といいます。

「"DL"って何の略称ですか?」

という質問は、初めてお会いする方々だけでなく、長くお付き合いさせていただいているお客様からも良く訊ねられる質問の一つです。「DL」とは、「Data Logger(データ・ロガー)」の略称で、「何らかの計測器をコンピュータ等と接続し、その計測器の数値をデータとして取り込み記録する装置」を意味します。


図1 Data Loggerの例

私たちDL事業部は、この「Data Logger」を独自開発し、様々な計測器のデータを「活用できる形」に加工・提供することを得意としております。その中でも主な製品として航空機騒音測定装置を取り扱っており、企画・営業・設計・製造・販売・保守と守備範囲も広く、多くのお客様に私どもの製品・サービスをご利用いただいております。

その一方で、航空機騒音以外のことは無関係とも思われがちです。それもごもっともで、私たちDL事業部のお客様の実に9割以上が「自治体様・官公庁様」で、また、その中の9割以上が「航空機騒音測定システム」をご利用いただいております。さらに私たち自身、自社開発した航空機騒音測定システムを活用して、航空機騒音の調査業務も行っているため、もはや航空機騒音の専門業者と思われるのも無理のない話ではあります。では、先ほどの航空機騒音以外の残り1割未満はどういった用途のシステムかというと、「離着陸滑走路判定装置」「道路交通騒音振動測定」をご利用いただいております。「離着陸滑走路判定装置」は、空港の滑走路端に設置され、航空機が離着陸した時間を記録するシステムで、航空機騒音測定システムの一部として機能するものです。これらの割合について以下にグラフを示します。


図2 DL事業部の顧客割合(イメージ)


図3 システム利用用途の割合(イメージ)

こう書くと、「DL事業部は航空機騒音と道路交通騒音だけじゃないの?」とも思われてしまいますが、もう一つ、私どものお客様の1割未満の部分にスポットを当ててみたいと思います。

この1割未満の中には、「航空機接近検知システム」「騒音モニタリングシステム」などがあります。システムの名前だけ聞くとよくわからないと思いますが、「航空機騒音」以外の用途にもDL事業部の技術をご利用いただいております。前述の「離着陸滑走路判定装置」と「航空機接近検知システム」は航空機騒音測定システムで使用されている「電波で航空機の接近を検知する識別装置」を応用したシステムです。「騒音モニタリングシステム」と聞くと、前述の話の内容からすると、航空機騒音や道路交通騒音と被っているのでは?それ以外に何の用途があるのか?と思われるかもしれません。前置きが大変長くなりましたが、今回はこの「騒音モニタリングシステム」にスポットを当て、ご紹介させていただきます。

2.騒音モニタリングシステムとは?

この騒音モニタリングシステムの測定対象となる騒音とは、工場など大型施設の敷地内から発生する音全般(主に工場設備、空調室外機などの設備稼働音)となります。騒音モニタリングシステムは、これらの音を敷地境界近辺で常時監視し、何らかの異常音が発生した場合、施設管理者に通報して、周辺住民からの騒音苦情に対して素早い対応の支援を目的とするものです。


図4 騒音モニタリングシステムとは?

こういった騒音モニタリングシステムでは、「騒音発生時刻が特定できるか」「音源の種類が何であったか特定できるか」という点が重要なのはもちろんですが、「いかに周辺住民からの苦情を受けてから、騒音源の特定までの時間を短縮できるか」にかかっているといっても過言ではありません。私たちがご提案する、「騒音モニタリングシステム」はまさにその時間短縮に大きく貢献できるものであります。

3.騒音源と苦情

住宅地での騒音問題といえば、深夜のカラオケやマンション上下階の話を想像しますが、近年の騒音苦情はもう少し事情が異なってきているようです。

①施設周辺における住民からの騒音苦情
近年、用途地域における準工業地域にて工場跡地を住宅分譲するケースが多く、昔からそこに在る工場と、跡地にできた新しい住宅とが隣接するケースも増えてきました。しかしながら、住宅地の割合が増えたとしても、依然、用途地域は準工業地域に指定されたままであるため、工場は変わらず営業を続けることになります。この設備稼働音が原因で、周辺住民からの苦情が増加しているとの話をよく耳にします。さらに工場だけでなく、住宅地にある小規模店舗でも深夜時間帯に商品搬入が行われ、トラックのエンジン音や台車の衝突音が散発的に発生することから、これら騒音に対する苦情も増加しています。特に深夜早朝に発生する騒音は、睡眠妨害に結びつくことから、事業者は周辺住宅への騒音影響の対策や苦情対応に苦慮しているとのことでした。

②苦情対応をどうするか?
「苦情対応」とひとことで言っても、その騒音の発生源や規模により対応方法は異なりますが、周辺住民からの苦情が寄せられた場合、「苦情が寄せられた地域は施設のどのあたりに近い場所か?」「何時ごろに発生した音か?」「どのような音だったか?」など、最低限これらを苦情主から聴取し、その上で施設内部から発せられた音であったかどうかを確認する必要があります。確認するためには、苦情の原因になったと思われる施設の担当者を訪ね、その時間帯に苦情の大元(騒音源)となる事象があったかを取材します。しかし、継続的に発生していた音であれば、比較的特定はしやすいのですが、単発的に発生した音の場合は特定が難しく、そう簡単には音源の特定をすることができないのが実態のようです。またこういった音の場合、その音の発生自体が再現しないケースもあり、苦情は受けたものの、音源の特定に至らず、結局、施設内からの音かどうかもわからないままとなることもあるようです。

4.騒音モニタリングシステムで何がわかるか?

騒音モニタリングシステムは、敷地境界付近に設置する複数の「騒音モニタリング装置」と、その装置から送られてくる騒音レベル値を受信・表示するための、「監視中央局」から構成されています。システム全体の構成図を以下に示します。


図5 騒音モニタリングシステムの構成

敷地境界周辺で何らかの騒音・異音が発生したときに、データ閲覧及び録音データを聴取することで、どのような音が発生していたかを把握し、原因の特定を手助けいたします。では、このシステムで具体的にどのようなことができるのかを以下にご紹介いたします。

①正確な騒音レベルがわかります。
市販の騒音計を使用しています。取得できるデータは「騒音レベル(A特性音圧レベル)」や「等価騒音レベル(LAeq)」、「時間率騒音レベル(Lx)」でこれらをコンピュータで演算・記録します。騒音計は、計量法に基づき計量検定を取得した騒音計を使用することができますので、取引・証明に使用できる厳密な数値として値を記録できます。

②騒音発生時刻が特定できます。
前述の騒音レベル値と合わせて時刻を同時に記録しています。騒音が最も大きくなった時の時刻や、継続的に音が発生していた時刻の範囲も把握することができます。

③発生した騒音の前後の状況が判ります。
騒音計から出力された騒音レベル値・等価騒音レベル・時間率騒音レベルは、1秒毎の連続データとしてコンピュータで記録されます。これら値の推移から、発生した騒音の前後の状況も把握できるため、現場の状況を推測しやすくなります。

④発生した騒音は録音・再生ができます。
騒音レベル値と併せて音声データ(実音データ)を記録しています。騒音レベル値が予め設定された閾値を超過した場合は、「異常値」と判定し、その時間帯の実音データを自動で監視中央局へ回収します。回収されたデータは、監視中央局のソフトウェアにて閲覧・再生し、聴取により音源が何かを判断することができます。

⑤監視中央局にて複数地点の騒音モニタリング装置の騒音レベルを同時に表示することができます。
敷地内に点在する騒音モニタリング装置で取得された騒音レベルや音の聴取は、1台の監視中央局で集中管理することができます。そのため、何らかの騒音苦情が入った場合に、即座に音声聴取で確認ができるだけでなく、他点での同時刻における騒音レベルとの比較を行い、全体の騒音発生状況を把握することができます。

⑥LAN接続の通信インフラが使えます。
監視中央局と個々の騒音モニタリング装置間は、LAN接続ができます。有線接続はもちろんのこと、市販の無線通信装置を使用することで、広大な敷地内であっても、有線通信の工事を行うことなく、VPN網によるセキュリティレベルの高い通信環境にて騒音の監視を行うことができます。

5.騒音モニタリングシステムの機器構成

騒音モニタリング装置は、「マイクロホンスタンド」と装置本体を収容した「屋外収容箱」で構成されています。マイクロホンスタンドは、全天候防風スクリーンを備え、雨風からマイクロホンを保護し、常時監視測定を可能にします。屋外収容箱は、内部に騒音計本体とコンピュータ及び通信機器を収容し、雨風から装置を保護します。

マイクロホンスタンドと屋外収容箱の例として、外観およびブロック図を以下に示します。


図6 騒音モニタリング装置

騒音計から出力される騒音レベルをCPUで演算・集計し、10分毎に等価騒音レベル(LAeq)を算出します。さらに同時に音声データを記録します。算出された等価騒音レベルは、通信機器を介し、監視中央局に送信・集約され、一覧表示されます。

6.監視中央局について

監視中央局は、Windowsパソコン上で監視用ソフトウェアを動作させ、通信機器を介してデータの受信を行います。画面には、敷地の地図上に測定地点と、10分間毎のLAeq値が表示されます。地点毎に環境基準値に合わせた「閾値」が設定されており、LAeq値が閾値を超えた場合は、異常値とみなし、画面上で赤く表示し、異常を喚起します。騒音モニタリング装置を設置した敷地境界近傍地域の各々で、用途地域が異なる場合、環境基準値もまた異なる場合があるため、閾値は、その地域及び時間帯に合わせて設定することができます。異常値とみなされた場合は、画面左下のイベント一覧表示にて何時ごろにその騒音が発生したかを表示します。


図7 監視中央局画面

回収された全地点の騒音レベル値データは、すべてテキストデータとして記録されますので、様々なソフトウェアでデータを加工することが容易にできます。


図8 異常音発生時の例

7.おわりに

騒音の監視が必要となる場面とは、近隣からの騒音苦情対応に他なりません。騒音苦情は、感情を伴うことが多いため、対応如何で複雑な問題に発展することがリスクとして挙げられます。そういった観点でも、騒音を常時監視するための装置、すなわち騒音モニタリングシステムは、環境保全だけでなく、近隣住民との共存という意味でも必須であると言っても過言ではありません。

冒頭でお話ししたとおり、「DL=Data Logger」は、計測器の数値をコンピュータで取り込み、記録する装置ですが、その計測器が「騒音計」「温度計」「風向風速計」など、いかなるものでも、何らかの方法でコンピュータと接続しデータを取り込むことができれば、私たちは「DL」として構築することができますし、また、それを得意としております。

航空機騒音は、私たちが最も得意としている分野ではありますが、その技術を応用し、他の分野の様々なデータを活用できる形にするお手伝いができればと考えておりますので、お悩みの方はぜひご相談ください。

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