吸音・遮音材料評価に対する当社の取組み(その1)

ソリューション事業部 中川博

1. はじめに

CASE革命といわれる自動車業界における大変革の中、車を取り巻く環境においてこれまで以上に音に対する要求が高まっております。これまでは、単に「静かに」するという観点だけでしたが、これからは自動車が居住空間としての役割を担うことになるかもしれず、単に「静かに」というだけでなく「快適に」過ごせる空間としての音環境が求められるようになりつつあります。当社では、このような状況下にある自動車業界をはじめとしたさまざまな業界のお客様に対し、静粛性を高める、あるいは快適な音環境を実現するために必要となる吸音材料・遮音材料(これらをまとめて「音響材料」と表現しております)の各種性能評価に関連する試験サービスおよび試験設備の開発・販売を提供しております。
これまでも、本技術ニュース(参考資料1)において、吸音・遮音に関する技術的な話題や関連する製品・サービスなどを紹介させて頂いてきました。今回は音響材料性能評価関連で現在取り扱っている製品・サービスの紹介だけでなく、当該関連事業に対する当社の特徴やポリシー、取り組んできた歴史なども踏まえて、当社の存在意義、お客様への提供価値などを改めてご理解いただければと思います。本稿は(その1)ということで、当社における音響材料事業に対する取り組みの特徴と、当社で受託する様々な試験業務について多少コメントを交えてご紹介いたします。

2. 当社の特徴

2-1. 多孔質材料の音響特性評価に関する技術

吸音・遮音の評価に関する製品・サービスを提供する会社はいくつかありますが、当社の最も大きな特徴は、多孔質材料の音響特性評価(主に「Biotモデル」(参考資料2)と呼ばれる多孔質材料の音響特性を表すモデル)に関する技術です。詳細は改めて(その2)でご紹介いたしますが、20 年にわたる地道な努力と国内外の多孔質材料評価に関する研究者の方々との交流による賜物です。現在のように吸音・遮音という技術が脚光を浴びていない時代から、皆様からのご指導や共同研究などによりコツコツと積み上げてきた技術が近年の特に自動車業界における静粛化・快適化のニーズの中でようやく花開いたといっても過言ではありません。決して一朝一夕に技術が構築されたわけではございません。

2-2. 試験業務の受託と試験設備の開発・販売を並行して実施

当社では、サービスとしての受託試験業務と、試験設備(計測システム)の開発・販売を並行して行っております。「並行して」と書きましたが、実際は社内の研究開発などで計測が必要となったために開発した試験設備を使って計測していたものを、お客様からのニーズに合わせて試験サービスとして提供させていただくようになり、ある程度使い勝手が整った時点で販売させて頂くようになったものや、逆に計測システムとして既に販売していた製品を用いて受託試験サービスを始めたものものございます。いずれもお客様のニーズに応じて事業の幅が拡がったものです。
このように、自社で開発した計測システムを用いて試験業務を行い、同じものをお客様に製品化して販売していることは次のようなメリットがあります。

A)自社開発した設備を使って日々試験を行うので、もし使い勝手に難があった場合などは、すぐに自分たちで改善することができ、より質の高い受託試験につながります。また、お客様が計測システムとして導入する際には、製品としてより付加価値の高いシステムをご提供できます。

B)計測システムを開発する際、対象となる試験業務の中身(求められる音響性能や計測上の注意)を十分理解して取り組むことができます。

これらのことが、受託試験業務および計測システム開発業務の双方に良い影響をもたらしています。

2-3. 第三者機関であること

当社は、自動車業界をはじめとした各種産業界に対して、第三者機関として中立的な立場で試験業務を実施いたします。自動車業界では、部品メーカ(サプライヤ)が自社の製品をOEM(自動車完成車メーカ)に提供する際に、各々が自社の試験設備を使った計測データを提供することがありますが、設備の違いにより、各社サプライヤの計測データの一律比較が難しいことがあります。そのような場合、各社サプライヤのサンプルを一括してお預かりし、同一条件で比較試験をするなどのご対応が可能です。

2-4. セミナー、技術ニュースなどによる情報発信およびお客様との情報共有

当社では、2004年から15年以上にわたり音響材料の性能評価に関連する情報提供の場として自社主催の音響材料セミナーを実施しております。第1回のセミナーでは、某自動車会社のお客様とのご縁で、吸音材のモデル化に関する世界的な研究者であるベルギーLeuven大のProf. Lauriks先生をお呼びすることができ、当時日本ではまだ馴染みの薄かったBiotモデルと呼ばれる多孔質材料の音響モデルの理論的な説明を非常に分かり易く解説して頂きました。今年度は、コロナ禍により対面でのセミナーが実施困難となったため、ニューノーマルの時代に即したウェビナーで情報発信しております。ウェビナーですと対面で得られるような親密なコミュニケーションが難しい反面、物理的な距離の問題が殆どなくなるため、これまで出張申請や業務の日程調整などで参加が難しかったお客様にもご参加頂けるようになったのではと感じております。

2-5. 30年以上にわたる音響材料への取組み

当社は、事業の母体がレコーディングスタジオなどの音響内装工事ということもあり、50年前の創業当時から吸音・遮音というものとは深く付き合ってきました。創業者の「いい音」へのこだわりは非常に強かったのですが(参考資料3)、現在と比べて、吸音・遮音に関する情報が圧倒的に少なかった創業当時、当然ながら当社にも吸音・遮音についての知見が不十分だったため、ことあるたびに吸音・遮音に関する研究の権威であった小林理学研究所所長~千葉工大名誉教授の子安先生(故人)をはじめ、各分野の諸先生方の教えを乞いに伺っていたようです。子安先生は、当社の技術顧問に就いていただいた時期もございました(参考資料4)。そうするうちに、少しずつ自前の音響技術を高めていくことができました。
そのような中で、30年ほど前から吸音・遮音に関する当社の技術をこれまで以上に高めるきっかけとなるいくつかの出来事、出会いがありました。これらに関しては、本編(その1)の続編(その2)でご紹介できればと思います。

3. 当社で受託している音響材料性能評価試験

2-2 でご紹介しました通り、自社で開発した計測システムを用いての音響材料の各種性能評価業務として下記の試験サービスを提供しております。(参考資料5 において以前ご紹介済みなので重複している部分もございますがご了承頂けると幸いです。)なお、試験を受託する際、当社では次のようなポリシーで取り組んでいます。

A)試験時の立会い
試験を受託する際、状況によりやむを得ずお断りせざるを得ない場合を除き、試験の立ち合いを受け入れております。これは、当社がどのように試験を行っているかをお客様に現場で知って頂くためです。特に開発中のサンプルの性能試験をご依頼いただく場合、実際にその場で現物と試験データを見ながら議論することで、お客様の今後の開発に生かせると考えております。ただ、実際の試験は試験体の設置時間などを含めると待ち時間が長くなるため、多くの場合では試験時に立ち会うのではなく、設備見学を兼ねて試験後に試験結果の報告およびディスカッションをさせて頂いております。

B)結果に対しての丁寧な説明
当社では、長年の受託業務で得られた試験結果に関する知見をお客様とできるだけ共有できるようにしたいと考えております。(2-3 で紹介したセミナーもその一環です)そのため、試験結果について、なぜそのような結果になっているのか、そのメカニズムや理論的な背景のご説明や、さらに性能を上げるためにどのようなところに着目すればよいかなどのご提案をさせて頂く場合もございます。(ご提案内容により、有償でのコンサルティングとなる場合もございます。

3-1. 音響管を用いた吸音率・透過損失試験

音響管を用いた垂直入射吸音率および垂直入射透過損失を測定いたします。最近は、フェルトやウレタンフォームといった典型的な多孔質材料だけでなく、粉体のような形のない素材や音響メタマテリアルといった構造体のようなサンプルの試験を頂くケースも増えてきました。

  • 測定項目 : 垂直入射吸音率、比音響インピーダンス(比)、特性インピーダンス/伝搬定数、実効密度/体積弾性率、垂直入射透過損失、伝達マトリクス、など
  • 対応規格 : -吸音率 : ISO 10534-2、JIS A 1405-2、ASTM E 1050
    -透過損失 : ASTM E2611
  • 測定方法 : 伝達関数法(2マイクロホン法)および8マイクロホン法(新規測定方法、特許申請済み)
  • 音響管 : 内径15mm、40mm、100mmの3種類
  • 測定周波数範囲 : 音響管の内径毎に上限周波数が規定されます。
    -内径15mm : 500~11,000 Hz
    -内径40mm : 200~4,800 Hz
    -内径100mm : 100~1,800 Hz

上記各種音響管を取り揃えており、これらを組み合わせて100 ~ 11,000 Hz の周波数範囲での測定が可能です。ご希望の周波数範囲に応じて適宜対応させて頂きます。
なお、音響管に関しては、測定方法のところでも記載の通り、

新たに開発した新型音響管(参考文献6)を用いての試験も承っております。新型音響管では、同じサンプルサイズで従来規格より2~3 倍の高周波までの測定が可能となりますので、従来の音響管での測定結果に疑問を持たれている場合は是非お問合せ頂けると幸いです。

3-2. 残響室での吸音率試験

残響室を用いた残響室法吸音率を測定いたします。当社の特徴は、小型残響室を用いて規格よりも小さい寸法(1m角)での試験を実施する点です。これは、自動車業界で一般的に用いられる試験サンプルで吸音試験ができるようにと、当時OEM のお客様からのご要望を反映して実践しているものです。なお、建築サイズでの試験も受託可能な残響室もご用意しております。

  • 測定項目 : 残響室法吸音率
  • 対応規格 : ISO354、JIS A1409(ただし、当社の試験は小寸法サンプルの試験を特徴としているので、室寸法および試料寸法は必ずしも規格に準拠していません)
  • 室形状および室容積 : 9㎥(不整形 7 面体)、140㎥(直方体)の2種類の残響室
  • 残響時間測定方法 : ノイズ断続法およびインパルス応答法
  • 測定周波数範囲 : 400 〜 5,000Hz( 室容積 9㎥)、160〜 5,000Hz( 室容積 140㎥)

3-3. 残響室-無響室での透過損失試験

音響インテンシティを用いた残響室-無響室での音響透過損失を測定いたします。こちらも、3-2 の残響室法吸音率と同じく、自動車業界で一般的に用いられるサンプルサイズ(1m 角ないしはそれ以下)に対応しております。最近は、化学メーカによる新素材の開発や、音響メタマテリアルなどの全く新しい構造体などの評価依頼があり、これらは量産ではなくラボレベルでの試作となるため、30cm 角以下のような小さなサイズのサンプルしか作成できない場合があります。その場合、サンプルが小さくなることによる諸問題(開口枠サイズの問題およびサンプルの固有振動の影響など)がありますので、その点をお客様にご了解頂いた上で実施可否を判断いたします。

  • 測定項目 : 音響インテンシティを用いた音響透過損失
  • 対応規格 : ISO15186-1、JIS A1441-1 (3-2 同様、当社の試験は小寸法サンプルの試験を特徴としているので、室寸法および試料寸法は必ずしも規格に準拠していません)
  • 室形状および室容積 : 9㎥( 不整形 7 面体)、140㎥(直方体)の2種類の残響室
  • 測定周波数範囲 : 400〜5,000Hz(室容積9㎥)、160〜5,000Hz(室容積140㎥)

3-4. 流れ抵抗試験

多孔質材料の空気流れ抵抗(空気の流れにくさ)を測定いたします。多孔質材料の音響特性を表すのに最も重要なパラメータの1 つです。JISでは現在規格化されていませんが、ISOでは規格化されています(下記対応規格参照)。不織布やフィルタなどの通気の度合いを示す「通気度」(参考資料7)というものがあり、両者は通気量と差圧の比という点では次元が同じですが、試験時の通気量が大きく異なるため、測定結果が一致しない可能性があります。

  • 測定項目:(単位厚さ)流れ抵抗
  • 対応規格 : ISO 9053-1
  • 試料寸法 : 直径40mm、ただし非常に薄いサンプルの場合は少し大きめに切り出したサンプルを挟み込んで測定。厚さは0〜最大50mm まで。

3-5. 迷路度試験

多孔質材料の迷路度(多孔質材料の微細構造の中を音波がどの程度迂回するか)を測定いたします。

  • 測定項目 : 迷路度
  • 測定方法 : 超音波を用いた材料中の音速の計測による算出(参考資料8)
  • 試料寸法 : 直径40mm程度。厚さは0 〜 最大50mm。ただし超音波(100k〜1MHz)がサンプルを透過することが条件。

3-6. 粘性特性長試験

粘性特性長(多孔質材料を音波が伝搬するときの粘性による損失に関連する長さの指標、具体的には多孔質材料中の空隙の狭さ)を計測いたします。次の3-7 で紹介する熱的特性長とセットで計測いたします。

  • 測定項目 : 粘性特性長
  • 測定方法 : 超音波を用いたQδ法(参考資料9)
  • 試料寸法 : 直径40mm 程度。厚さは0〜最大50mm。ただし超音波(100k〜1MHz)がサンプルを透過することが条件。

3-7. 熱的特性長試験

熱的特性長(音波が断熱変化における熱エネルギーの移動に伴う損失に関連する長さの指標、具体的には単位体積当たりの表面積の大きさ)を計測いたします。3-6 の粘性特性長とセットで計測いたします。

  • 測定項目 : 迷路度、粘性特性長、熱的特性長
  • 測定方法 : 超音波を用いたQδ法(参考文献9)
  • 試料寸法 : 直径40mm程度。厚さは0〜最大50mm。ただし超音波(100k~1MHz)がサンプルを透過することが条件。

3-8. 弾性率試験

サンプル(多孔質材料もしくは柔軟材料)の弾性率を測定いたします。(剛性が高い素材については測定できない場合がございますのでご注意ください)

  • 測定項目 : ヤング率、せん断弾性率、損失係数
  • 測定手法 : 2 種類の算出方法による測定

i) 質点-バネによる一自由度振動系と仮定して得られた振動 伝達関数の共振周波数からの算出

ii) 分布定数系と仮定して得られたインピーダンスからの算出

  • 試料寸法 : 直径20〜40mmもしくは100mm角程度。厚さは0〜最大50mm。

3-9. 損失係数試験

3-8の弾性率とは異なり、ガラスや金属、制振鋼板と呼ばれるような素材の損失係数を測定いたします。

  • 測定項目 : 損失係数、ヤング率(単層材の場合)
  • 測定手法 : 短冊サンプルを用いた中央加振法
  • 対応規格 : JIS K 7391、JIS G 0602

なお測定項目3-4〜3-8は、多孔質材料の音響特性を予測するための材料パラメータとして、3-1の垂直入射吸音率と併せて一括して測定を承っております。

4. おわりに

本稿では、当社の音響材料評価関連事業への取り組みの特徴と本事業の柱の1つである受託試験業務の内容をご紹介いたしました。(その2)では、現在までどのように本事業に取り組んできたかという歴史(経緯)を中心にこれまで開発した技術(中には失敗作もありました)をご紹介できればと考えております。
冒頭でもご紹介した通り、当社は他社にない特徴として多孔質材料の音響特性評価技術の構築に力を注いで参りました。技術構築に取り組み始めた当時は知識も経験もなく、日々新しいことへのチャレンジでした。また当時取り組み始めた(多孔質材料の音響特性を表す)「Biotモデル」というものが、現在のように自動車業界などにおける音振動解析手法でここまで重要なものになるとは夢にも思っていませんでした。そのような中で事業を続けてこられたのは、研究者・専門家の皆様のご協力はもちろんですが、この技術がお客様に対してより良いサービスを提供できるものになるはずという信念があったからです。

参考資料

1)https://www.noe.co.jp/technology/19/19meca3.html,
https://www.noe.co.jp/technology/21/21meca2.html,
https://www.noe.co.jp/technology/22/22meca1.html,
https://www.noe.co.jp/technology/31/31news3.html,
など

2)J. F. Allard, "Propagation of Sound in Porous Media:Modeling Sound Absorbing Materials", (Elsevier, 1993)

3)https://www.noe.co.jp/technology/01/01issuance.html

4)https://www.noe.co.jp/technology/01/01drm1.html

5)https://www.noe.co.jp/technology/34/34news4.html

6)https://www.noe.co.jp/technology/50/50news3.html

7)JIS L1096 織物及び編物の生地試験方法 ; 付属書O 繊維製品--生地の通気性の測定

8)M. Henry, et., al., "ULUTRASONIC MEASUREMENT OF TORTUOSITY ON ACOUSTIC POROUS MATERIAL",Inter Noise 94 (1994), pp 1835 - 1838

9)Ph. Leclaire, et., al., "Determination of the viscous and thermal characteristic lengths of plastic foam by ultrasonic measurement in helium and air", J. Appl.Phys. Lett vol. 80 No. 4, 1996, pp 2009 - 2012

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