音響材料について(その2)

技術部 中川 博

1. はじめに

弊社技術ニュース19号において、材料の音響特性について概念から弊社の取組みまでをざっとご説明させていただきました。 今回は、吸遮音材料の音響特性予測に必要な材料パラメータの測定方法を中心にご紹介させていただきます。

2. 材料パラメータ

多孔質弾性材料の音響特性(吸遮音性能)を把握するための主な評価量として、一般的には、 音響インピーダンス管で簡単に計測できる垂直入射吸音率や、複素的な表現としてノーマル音響インピーダンスが用いられています。 これらは材料の設置状態(厚さや背後空気層など)によって変ります。そのため、材料の素材そのものの音響特性として、 特性インピーダンス、伝播定数が評価量として用いられます。しかしながら、特性インピーダンス、 伝播定数も材料の素材そのものの物性値としては二次的な量であり、しかもウレタンフォームのように骨格構造が適度な弾性をもつ材料に関しては、 従来の音響インピーダンス管による上記パラメータの計測が困難な場合もあり、音響材料の効率的な設計開発にはそのままでは適用できないことがございます。

これに代わる有効な音響特性の予測手法として、Biotの理論をベースとしたJohnson-Champoux-Allardモデルというものがあります(参考文献4)。 これは、多孔質弾性材料内を空気伝搬音と固体伝搬音がそれぞれ伝搬するという仮定のもとで材料中の音の振る舞いを扱うモデルです(図1)。 この手法は海外特にこの理論の研究が進んでいるヨーロッパではかなり普及しつつありますが、日本国内ではまだあまり一般的ではなく、 ここ1~2年でようやく導入されつつあるという状況です。

モデル概念図
図-1 モデル概念図

上記モデルを用いるには、次のような材料物性値が必要となります。 密度、厚さを除くI~Vについて、概要および計測方法を後述いたします。

      Density(密度)

    Thickness(厚さ)
  1. Flow resistivity (流れ抵抗)
  2. Porosity (ポロシティ:多孔度)
  3. Tortuosity (迷路度)
  4. Viscous/Thermal characteristic length(粘性特性長/熱的特性長)
  5. Elastic Moduli(弾性率)

I. Flow resistivity (流れ抵抗)

音は空気の振動が伝達することで伝わります。つまり空気が通りにくいところでは、音は伝わりにくくなります。 Flow resistivity (流れ抵抗)は、材料中の空気の流れにくさを表します。Delany & Bazley は流れ抵抗のみから材料の特性インピーダンス、 伝播定数などを導出しており、グラスウールなどの繊維系の材料においては、比較的良い一致が得られています。

流れ抵抗は次の式で表されます。厚さd(m)の材料に微風速v(m/s)の空気を流し、 材料前後の圧力差p(N/m2)が得られた場合の単位厚さ流れ抵抗Rf(N・s/m4)は(1)式で表されます。

--- (1)

流れ抵抗の測定方法には、ISO9053により2種類規定されています。1つはDC法と呼ばれるもので、 材料を取付けた管にコンプレッサなどから直流の空気を送り、材料前後の微少な差圧を計測する方法です。 測定ブロック図を図2に示します。もう1つはAC法と呼ばれるもので、材料を取付けた管の片側でピストンを駆動して交流の空気を発生させ、 その空間の内部と外部の圧力差を計測するものです。測定ブロック図を図3に示します。

測定する際に注意を要するのは、微風速(0.05cm/s)を供給することと、微風速を供給した材料前後の微差圧を計測することです。

弊社が計測システムを構築した際に得られたDC法とAC法の違いは次の表になります。

表-1 流れ抵抗DC法とAC法の違い
項目DC法AC法
測定原理 一方向に空気を流したときの試科前後における空気の流れにくさを表す 空気の流れが音のように(音の周波数に比べれば非常に遅いが)振動している場合の試科前後の空気の流れにくさを表す
測定精度優劣なし
(測定する試科によってはDC法とAC法の測定結果に若干の違いがあることがあるが、この原因については研究中。 各測定の測定制度は測定機器の精度に依存。弊社が採用している測定機器は、実用上問題無い精度を有している)
測定設備 やや広い設置面積必要(コンプレッサ、流量調整器、長い試科取付け管、微差圧計、コンピュータ) DC法ほど広い面積必要無し(短い試科取り付け管、モータコントローラ、コンピュータ)
操作性 校正において、流量計、微差圧計のゼロ調整を手動で行う必要があり、AC法より若干面倒。 校正がほぼ自動的にできる分だけDC法より易しい。

流れ抵抗測定システム(DC法)
図-2 流れ抵抗測定システム(DC法)

流れ抵抗測定システム(AC法)
図-3 流れ抵抗測定システム(AC法)

II. Porosity (ポロシティ:多孔度)

ポロシティ(多孔度)は、材料の見かけ上の容積に占める空気の容積の割合を表します。 ポロシティΩは、(2)式で表わされます。

--- (2)

ここで、Vtは材料の見かけの容積(m3)、Vaは材料中の空気の容積(m3)です。 Vtはあらかじめ容積がわかっているものとしますので、測定によりVaを求めます。

測定原理は次のとおりです(参考文献1)。容積V(m3)の容器の中に容積Vt(m3)の材料を設置します。 容器内における材料以外の残りの空間を占める空気の容積をVo(m3)とすると、容器内部について(3)式の関係になります。

--- (3)

材料内部は、骨格部分とそれ以外の部分を空気が占めています。骨格部分の容積をVf、 材料内の空気の容積をVa(m3)とすると、材料内部について(4)式の関係になります。

--- (4)

(3)、(4)式より、容器内に材料を設置したときの容器内を占める空気の容積V'(m3)は、(5)式の関係になります。

--- (5)

容器内に材料を設置して密閉したときの圧力が大気圧Po(N/m2)だとします。このとき、密閉したまま容器の容積をわずかに変化させたとき、 容器内の気体の圧力が変化します。このとき容器内の気体の容積変化量をΔV(m3)、圧力変化量をΔP(N/m2)として、 容器内の気体の温度が変化しないとすると、(6)次の式が成り立ちます。(ボイル・シャルルの法則)

--- (6)

(6)式より容器内の気体の容積V'がわかれば、材料中の気体の容積Va(m3)が(4)式から得られますので、 (2)式によりポロシティが求められます。

図4に測定ブロック図を示します。測定は次のように行います。計測用サンプル容器に材料を設置し、 容器に取り付けられたピストンで容器内の容積を変化させ、その時の圧力変化を微差圧計で読み取り、 (3)~(6)式を用いてポロシティを計算します。

ポロシティ測定システム
図-4 ポロシティ測定システム

III. Tortuosity (迷路度)

吸音材料内部は、骨格(フレーム)の間に空隙が連続しており、そこを音が伝播するときに骨格と空気の間の摩擦によって音エネルギーが熱エネルギーに変換されることによって吸音されます。 したがって、材料中の音の経路が長いほど音の減衰効果は大きくなります。Zwikker & Kostenは、吸音材料内部の空隙を毛細管でモデル化して吸音のメカニズムをあらわしています。 しかしながら実際の吸音材料の内部の空隙は、決してまっすぐではなく曲がりくねっているので、毛細管モデルとの差を補正する値として定義されているものが、 従来Structure factor(構造係数)と呼ばれていたTortuosity (迷路度)です。

Tortuosityの測定方法には、大きく2つの方法があります。1つは、材料を電解液につけて材料の前後の電気抵抗から求める方法であり、 もう1つは、超音波パルスを用いて、材料内部を伝播するパルスを計測し、材料がある場合とない場合のパルスの伝播性状から求める方法です。 前者には、多孔質材内部まで電解液が浸透しない、電解液につけることによる材料の変質という問題があり、弊社では、 後者の超音波を用いる方法を採用しています(参考文献2,3)。

Tortuosityは(7)式で表わされます。

--- (7)
α∞:Tortuosity、Co:空気中の音速(m/s)、C:材料中の見かけの音速(m/s)、
φ:loss angle of complex wave number

測定する周波数範囲では、φは1より十分小さいので無視することができます。したがって、 CoおよびCを測定することによりTortuosityを得ることができます。

図5にブロック図を示します。測定は次のように行います。まず、計測用架台に取り付けられた送受信の超音波センサーの間にサンプルがない状態で、 超音波パルスの伝搬時間より空気中の音速を測定します。続いて、送受信センサーの間にサンプルをセットし、 そのときの超音波パルスの伝搬時間とサンプルが無いときの伝搬時間、および空気中の音速から、サンプル中の音速を計算します。 その結果得られた材料がある時とない時の音速から、(7)式を用いてTortuosityを計算します。

Tortuosity測定システム
図-5 Tortuosity測定システム

IV. Viscous characteric length/Termal characteristic length (粘性特性長(VCL)/熱的特性長(TCL))

吸音とは材料中での音のエネルギーの損失です。そのメカニズムとして代表的なものは多孔質材料内部での骨格(フレーム) の間の空隙を音が伝搬するときの媒質(空気)の粘性摩擦による熱エネルギーへの変換と、骨格と空気の間の熱エネルギーの交換です。 これらの値は、材料中の容積と内部の表面積の比に関連するとされています(参考文献4)。

図6に測定ブロック図を示します。この測定は、Torutuosityと同じく超音波を用いて行います。ただし、 Tortuosityと異なり、媒質を空気のみではなく別のものに置き換えて測定する必要があります(参考文献5)。ここでは、 過去の研究成果の実績に倣ってヘリウムガスを用いております。

VCL/TCL測定システム
図-6 VCL/TCL測定システム

V. Elastic Moduli (弾性率)

多孔質弾性体内部に入射した波は、吸音材料骨格(フレーム)と骨格の間の空隙をそれぞれ波として伝播すると考えられています。 骨格を伝播する波は、材料の固さ(弾性率)によって変化します。弾性率の高い(固い)材料は、骨格をほとんど波が伝播しないのに対し、 非常に柔らかい材料は、骨格を伝わります。そのため、多孔質弾性体の特性を把握する為には、材料の弾性率を把握する必要があります。

弾性率の測定方法には、幾つかありますが、本システムでは、細長いロッド状のサンプルの片端を加振したときの両端の振動加速度の伝達関数から算出します(参考文献6,7)。 加振の方向および加速度センサーの取付け方向を変更することにより、ヤング率およびせん断弾性率を一つのサンプルで測定することができます。 図7に、縦加振によるヤング率測定のブロック図を示します。

弾性率測定システム
図-7 弾性率測定システム

3. おわりに

今回は、多孔質弾性材料の音響特性を予測するのに必要な材料パラメータの測定方法をご紹介いたしました。 次回はこれらのパラメータを用いた予測の例についてご紹介させていただきたいと思います。

弊社では、これらの測定システムおよび予測ソフトウェアのご提供および材料パラメータの委託測定業務を承っております。

なお弊社では本年度、「材料の音響特性」をテーマとしたセミナーの開催を予定しております。 できるだけ皆様のご希望に添えるものにしたいと思いますので、お客様方からのご要望などのご連絡をお待ちしております。

4. 参考文献

Porosity

1) "Air based system for the measurement of porosity." Yvan Champoux, etc. JASA 89 (2) 1991, pp910-pp916

Tortuosity

2) "Evaluation of tortuosity in acoustic porous materials saturated by air." J.F.Allard, etc. American Institute of Physics, Rev. Sci. Instrum. 65(3), (March 1994) pp754-755

3) "Ultrasonic Measurement of Tortuosity on Acousitc Porous Material", M.Henry, etc. Inter-Noise 94 (1994), pp1935-1938

Viscous/Thermal Characteristic Length

4) J.F.Allard, "PROPAGATION OF SOUND IN POROUS MEDIA-Modeling Sound Absorbing Materials-", Elsevier Applied Science (1993)

5) Determination of the viscous and thermal characteristic length of plastic foams by ultrasonic measurement in helium and air." Ph. Leclaire, L. Kelders, and W. Lauriks, J. Appl. Phys. 80(4). 15 August 1996, pp2009-2012

Elastic Moduli

6) Experimental Study of the Dynamic Elastic Moduli of Porous Materials, L.Kelders, W.Lauriks, etc. 11th International FASE Symposium, pp15-17

7) Transfer Function Method for Investigating the Complex Mudulous of Acoustic Materials:Rod-Like Specimen, T.Pritz, etc. Journal of Sound and Vibration (1982) 81 (3) ,pp359-376

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