音空間事業本部 騒音対策グループ 青木雅彦

本業務は騒音源の対策を検討されている企業様向けのサービスです。
個人で騒音にお困りの方、騒音の相談を受けている管理会社の方向けには対応しておりませんが、こちらが参考になれば幸いです。

1. 近隣からの苦情に対する設備機器の固体音対策例

住宅に近接して公共の設備建物ができてから、複数の近隣民家で騒音苦情が発生していた。施設側は騒音測定を行い、室内に吸音材を設置するなど対策を実施したが効果がなく、苦情が継続していて当社にご相談があった。現地を確認したところ、敷地境界の騒音は規制値以下であったが、静かな地域であったため、設備建物から発生している騒音が目立っていた。それまでの測定データを見せていただいたが、調査はあくまで騒音状況の実態調査であり、対策のための調査ではなかった。
そこで改めて当社で対策を検討するための調査を実施した結果、問題は設備建物内の騒音が扉や壁を透過して外部に漏れる騒音ではなく、設備機器の配管類の振動が設備建物外壁に伝わり騒音として放射している固体伝搬音だとわかった。この結果より、対策は遮音・吸音対策ではなく振動対策を実施した。具体的には配管類の振動が設備建物に伝わり難くするよう、振動絶縁のための緩衝材を使用した施工方法に変更し、防振材も併用した。
その結果、設備建物から放射していた騒音は改善し、民家室内の騒音も設備停止時と同程度まで下がった。なお、100Hzより低い周波数の騒音を低周波音と呼ぶが、一般的な50㎜程度の厚さの吸音材は低周波音にはほとんど効果がない。そのため問題となっている騒音の周波数に応じた対策が必要である。

図1 対策前後の民家室内の騒音レベル例
図1 対策前後の民家室内の騒音レベル例
図2 設備建物と民家の位置関係
図2 設備建物と民家の位置関係

2. 近隣からの苦情に対する設備機器の防音壁対策例

ある施設の屋外に設置された空調用室外機の騒音が隣接する民家内に伝わり苦情が発生し、当社に対策の相談があった。そこで対策のための調査を実施した。具体的には民家内で室外機停止時と稼働時の騒音状況を周波数毎に分析した。その結果、設備稼働時に63Hz~125Hzの低音域の騒音・低周波音が停止時と比べて15dB 程度上昇し、聴感上でもはっきりと影響を確認することができた。
この測定結果から、苦情がなくなるためには室外機稼働時でも室内で停止時と同等まで下げる対策が必要だと判断し、当社の騒音予測ソフトウェアを使ったシミュレーションで対策案を検討した。
最初は設備を移設することを考えたが、シミュレーションの結果、それだけでは対策効果が十分ではないことが予想された。そのため室外機を移設し、さらに防音壁を施工する案をシミュレーションで検討したところ、低音域で15dB 前後の対策効果を実現できることがわかり対策案が決定した。
対策工事後の民家内の測定によると、63Hz~125Hzの騒音・低周波音は15dB程度低減し、室外機稼働時と停止時のレベルもほぼ同等となった。騒音対策の検討時には、問題となっている状況から騒音を下げるだけでなく、その効果が問題を解決するために十分かどうかについても検討が必要となる。

図3 対策前後の民家室内の騒音レベル例
図3 対策前後の民家室内の騒音レベル例
図4 設備と民家の位置関係
図4 設備と民家の位置関係

3. 近隣からの苦情に対する防音壁とサイレンサ対策例

ある施設を新築後、設備騒音等が原因で近隣の複数の民家から苦情が発生した。施設側では一部対策を実施したが十分な効果が得られず、当社に対策の相談があった。それ以前に他社が調査を行っていたが、対策のための調査ではなく実態調査であったため、改めて当社で対策検討のための調査を実施した。具体的には各音源近傍、敷地境界、民家室内で測定を行い、敷地境界の規制値を満たすとともに、民家室内に影響していた低音域の騒音を低減するための対策案をシミュレーションで検討した。その結果、主な対策は設備機器周辺の防音壁設置とダクトに対するサイレンサの設置とした。
対策工事の結果、事前のシミュレーション検討のとおり、近隣民家に伝搬する騒音レベルは平均で6dB程度低減した。また問題となっていた63Hz~125Hzの低音域の騒音・低周波音は13dB~15dB低減した。
なお、当初施設側では防音壁として遮音効果を謳ったある目隠しフェンスを設置していたが、十分な効果が得られていなかった。軽量のパネルは比較的安く工事も容易だが、必要な効果が得られていない施工例を時々見かける。防音壁としては性能が劣る製品もあるため、対策に見合った防音パネルの選択が必要である。

図5 対策前後の民家ベランダの騒音レベル例
図5 対策前後の民家ベランダの騒音レベル例
図6 施設と民家の位置関係
図6 施設と民家の位置関係

4. サイレンサによる作業環境騒音の改善例

ここ最近、工場内の作業環境騒音の改善についてご相談をいただくことが増えている。しかし屋内の騒音対策は防音効果よりも作業効率や視認性が優先されること、また何か一つの騒音発生源を対策しても、その他の騒音源が多数あるため、全体としては効果が得られ難いこと、さらに建物天井や壁からの反射音の影響により、屋外と比べて設備を囲った場合の効果が小さいことなど課題が多い。そのためやってみなければ効果がわからない対策となりかねないが、当社では屋内の作業環境騒音対策も屋外と同様、シミュレーションで対策効果を検討している。
ある工場から段階的に工場内の騒音を低減させたいとのご相談をいただき、工場内の送風機の騒音対策を検討した。具体的には吸排気口にスプリッター型サイレンサを設置する対策を実施した。その結果、事前の予想どおり送風機から少し離れた評価点では中音域で8dB程度の効果が得られた。なお工場内には多くの騒音源があるため、上記の効果は送風機のみを稼働させた場合であり、その他の騒音源の影響を含めると対策効果は数dB以内であったが、これも当初から予測していたとおりであった。シミュレーション検討では、対策を数年に分けて実施した場合の効果も各年度で予測できるため、計画的な騒音対策にも有用な方法だと思われる。

図7 対策前後の評価点の騒音レベル(送風機のみ)
図7 対策前後の評価点の騒音レベル(送風機のみ)
図8 スプリッター型サイレンサの原理(株式会社スペースウエアー提供)
図8 スプリッター型サイレンサの原理
(株式会社スペースウエアー提供)

本業務は騒音源の対策を検討されている企業様向けのサービスです。
個人で騒音にお困りの方、騒音の相談を受けている管理会社の方向けには対応しておりませんが、こちらが参考になれば幸いです。

おすすめの記事