実験室シリーズNo.3 音響透過損失の試験について 試験方法と計測技術

コンサルティング事業部 柳瀬 厚志

1. はじめに

技術ニュース26,27号でご報告しました実験室シリーズの第3弾として、残響室と無響室を組み合わせて行う『音響透過損失試験』について、弊社の実験施設を用いてご紹介します。

音響透過損失とは、材料あるいはそれらを組み合わせた複合体の遮音性能を表すもので、建築材料ではメーカーのカタログに掲載されている場合もあります。現在では、建築のみならず、自動車や家電などの工業製品の静粛化に遮音材料が広く用いられており、材料の評価・設計開発または性能把握のために音響透過損失の試験を行っています。

2. 測遮音性能と音響透過損失について

材料の遮音性能を表す値としては、実際の現場で測定した値〔音圧レベル差〕と実験室で測定した値〔音響透過損失〕の2つがあります。どちらも遮音性能を表すものですが、値の持つ意味が異なるため、両者の違いを十分に理解する必要があります。実際の建築現場や自動車などに実装した状態で測定した値は、測定を行った室環境に依存する結果であり、材料そのものの遮音性能を正確に測定した結果ではありません。その理由は、以下の条件などの影響が測定値に加味されるからです。

  • 室の拡散性・吸音力
  • 隙間漏れや廻り込み
  • 外部騒音

図1 現場における遮音性能の測定例(隣り合う室の界壁)
図1 現場における遮音性能の測定例(隣り合う室の界壁)

図1は、隣り合わせた室の界壁をモデルにしていますが、自動車のエンジン放射音を遮音するための内装材料の場合も同じことで、車室内の吸音力や隙間漏れ、ガラスやフロアからの廻り込みなどの影響を受けます。(図2)

図2 現場における遮音性能の測定例(自動車のエンジン放射音)
図2 現場における遮音性能の測定例(自動車のエンジン放射音)

このように、現場で得られた測定結果はその現場での固有データであって、他の材料との比較や設計データとして評価することが難しいため、材料の持つ固有の遮音性能を正しく評価するには、実験室で音響透過損失を測定することが必要になります。

3. 試験方法について

音響透過損失の試験方法としては、残響室と残響室を組み合わせた方法が昔からJISやISOの規格にあり、広く知られていますが、弊社では残響室と無響室を組み合わせた方法を採用しています。

残響室と無響室を組み合わせる場合は、音響インテンシティーを測定することで音響透過損失を測定します。

測定方法の概略図を図3に示します。まず残響室と無響室の間の開口に試料をセットします。

次に、残響室内のスピーカから音を発生させ、残響室内の平均音圧レベルを試料に入射する音源側のパワーとして計測します。受音側は、無響室内の試料近傍にセットしたインテンシティープローブを用いて分割した測定面を測定し、試料から透過するパワーを推定します。この入射パワーと透過パワー、そして試料の面積から音響透過損失を算出します。

図3 測定方法の概略図
図3 測定方法の概略図

音響透過損失と各測定値の関係は、次式のとおりです。

TL:音響透過損失[dB]
SPL0:残響室内の平均音圧レベル[dB]
PWLi:透過音のパワーレベル[dB]
S:試料面積[㎡]

残響室と無響室を組み合わせた測定方法のメリットとデメリットとしては以下が挙げられます。

    [メリット]
  • 試料面の弱点部位が特定できる
  • 側路伝搬の影響を受けにくい
    [デメリット]
  • 測定面を分割するため、若干時間がかかる
  • マイクの移動に手間がかかる

「試料面の弱点部位が特定できる」とは、測定面を分割しているため、例えば厚みが一様でないものや材質が部位で異なるもの、隙間があるものなどを測定した場合に、その箇所からの寄与をマップ上で観察することができるということです。また、「側路伝搬の影響を受けにくい」というのは、試料の近傍で測定を行うため、残響室と無響室の構造体から放射される音の影響を受けにくいということです。

デメリットとしては、受音側の無響室の測定に尽きます。測定面を分割しているため、マイクを移動する回数やその再現性に問題があります。このため、弊社ではマイクロホン移動装置で自動化を図り、測定時間の短縮と再現性の確保に役立てています。よって、この測定方法による実験設備を導入する場合は、実験室だけではなく、測定システムを含めたトータルな設備計画を検討して頂く必要があります。

尚、弊社の実験設備で試験を行う場合の測定条件は、以下のとおりです。図4に第2研究所の実験室平面図(小型残響室-無響室)を示します。

<大型残響室-無響室>(第1研究所,第2研究所)
測定周波数 200Hz~5000Hz
試料面積(最大サイズ) 2500mm×2100mm
<小型残響室-無響室>(第2研究所)
測定周波数 400Hz~5000Hz
試料面積(固定サイズ) 1000mm×1000mm
600mm×600mm

大型残響室では、主に防音扉や壁材などの建築向けの材料をメインに測定しています。一方、小型残響室は、自動車の内装材などを主に使用しています。小型残響室は、弊社が納入している実験室では特徴的なものです。つまり、測定に必要な試料の面積を小さくすることで、大きな試料を試作できないメーカー(サプライヤ)でも、弊社の小型残響室と無響室があれば、音響透過損失や残響室法吸音率といった材料試験を行うことが可能になっています。ちなみに、音響透過損失用の開口は最大で1m角,残響室法吸音率に必要な試料面積も1m角です。このサイズであれば、ひとつの試料で400Hz以上の周波数範囲で遮音と吸音の性能を測定することができます。(写真1,2)

図4 弊社の第2研究所の実験室
図4 弊社の第2研究所の実験室

写真1 残響室(左)と無響室(右)の開口部
写真1 残響室(左)と無響室(右)の開口部

写真2 残響室側の開口部(600mm×600mm)
写真2 残響室側の開口部(600mm×600mm)

4. 試験上の注意について

ここでは、実際に試験を行うにあたっての注意点を2つ、ご紹介します。

    <試験上の注意点>
  • ニッシェ効果
  • 側路伝搬と隙間漏れ

「ニッシェ」とは、JIS A 1416によると、開口に試料を設置した際に試料の両側にできるくぼみを指します。残響室と無響室の間に試料開口を設けるため、お互いの壁厚分だけ、開口は一種のトンネルのようになります。このトンネルの中に試料を取付けるため、試験室の壁面より試料はくぼんでしまいます。このニッシェの深さが変わることによって、同じ材料であっても試験結果が異なることが文献などで報告されています。

「側路伝搬と隙間漏れ」は、試料を開口に取付ける際、その付近からの固体伝搬音と隙間から漏れる音の影響が懸念されることです。試料を取付ける時の断面スケッチを図5に示します。実際に測定を行う時は、図のような側路伝搬と隙間からの漏れが発生していると予想されます。

図5 試料取付けの断面
図5 試料取付けの断面

実際に、鉄板0.8mmを測定した時に「側路伝搬と隙間漏れ」に対する処理をした場合としなかった場合の結果を示します。(図6)

処理を行わない場合は、1250Hz以上の透過損失が'処理あり'より小さいのが分かります。目視ではなかなか分からない僅かな隙間でも音は漏れてしまいます。現在、弊社では側路伝搬防止のために開口回りに吸音材を貼り、隙間には粘土を詰めて入念に塞いでいます。音響透過損失が大きい高性能な材料を測定するときには特に影響が大きくなるのでこれらの対策は重要です。

図6 「側路伝搬と隙間漏れ」の影響
図6 「側路伝搬と隙間漏れ」の影響

5. 試験結果の一例

最後に、実際に試験を行った結果をご紹介します。
試料を写真3に示します。鉄板をベースにして、3種類の異なる材料を積層した状態で測定しました。
結果は、以下の通りです。

写真3 試料(上:フェルト+フィルム)
<試料>
1.鉄板0.8mm
2.フェルト20mm
3.フィルム
4.ゴムシート1mm

<組み合わせ>
□鉄板+フェルト
□鉄板+フェルト
+フィルム
□鉄板+フェルト
+ゴムシート

写真3 試料(上:フェルト+フィルム,下:ゴムシート)

鉄板にフェルトを付加した状態では、鉄板からの放射音が吸音されて高域で音響透過損失が大きくなっています。フィルムを追加すると更に性能が上がりました。また、ゴムシートはフィルム以上の効果がある結果となりました。

このフィルムやゴムシートは、空気を通さない「非通気層」であり、音響透過損失の性能向上に大きく関わっていることがこの結果から分かります。(図7)

図7 異なる積層での測定結果
図7 異なる積層での測定結果

次に、この積層の順番を入れ替えて測定を行いました。(図8)

図8 積層の順番を入れ替えての測定結果
図8 積層の順番を入れ替えての測定結果
図8 積層の順番を入れ替えての測定結果

フィルムを先に積層した結果は、鉄板+フェルトと変わらない結果でした。重さが殆どないフィルムは鉄板と重なり合っても全く効果がないことが分かります。ゴムシートについては積層順を変更した場合、鉄板単体より性能が低い周波数帯域がありました。この影響を探るためにフェルトを外して測定しましたが、鉄板+ゴムシートの状態でも同じような周波数特性の結果となりました。この結果は鉄板とゴムシートとの接着条件にあると考え、接着・非接着で測定を追加しました。(図9)

図9 接着・非接着での測定結果
図9 接着・非接着での測定結果

接着した場合は鉄板にゴムシートの質量が加わって全体的に性能が向上しています。しかし、非接着では鉄板のみの場合より落ち込む帯域や逆に大きくなる帯域があります。この原因は鉄板とゴムシートの間にできる僅かな空気の層が影響していると考えられ、建築音響分野で知られている中空2重壁構造の遮音特性に近似しています。つまり、鉄板とゴムシートと間にできた空気層がバネとなって共振し、その周波数帯域で透過しやすくなる現象で、その周波数を低域共鳴周波数と呼んでいます。詳しい計算方法は割愛しますが、空気層を2.5~4mm程度として計算すると、低域共鳴周波数が630~800Hz付近になることが分かりました。

このように材料を積層させる場合、その順番や材質によって性能が変わるため、まずそれぞれ単体での性能や特性を十分に把握することが必要であると考えます。

6. おわりに

残響室と無響室を組み合わせた音響透過損失の試験についてご紹介させて頂きました。弊社では、より高い測定精度を確保するために実験室・計測システム・試験方法の検討を進めております。また、機会がありましたら報告させて頂きたいと思います。

参考文献

  • F.J.Fahy著 橘秀樹訳:サウンドインテンシティ理論と応用
  • JIS A 1416:2000
  • ISO 15186-1:2003

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