ソリューション事業部  関藤 大樹  山田 大智   音空間事業本部  津金 孝光

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1.はじめに

AbLossは、主に自動車における防音材(吸音材・遮音材)の開発で必要となる、小サイズのサンプルを用いて残響室法吸音率・音響透過損失を測定するシステムです。材料の吸遮音性能を高精度かつ再現性よく測定するためには、使用する実験室(残響室や無響室)の音響性能と測定システムが一体となって機能する必要があります。しかし、通常音響実験室と測定システムはそれぞれ別メーカが施工・納入することが一般的です。一方、私達は音響実験室と測定システムを一体と考え、測定データについて性能保証できる実験室と測定システムを総合的に研究・開発してまいりました。そして遂にその成果が実り、この高い精度と再現性を有する"実験室一体型測定システムAbLoss"を世に送り出すことができました。現在、国内外を問合わず、数多くのユーザー様にご導入・ご活用いただいております。

2.公設試験研究機関に初導入のAbLoss

昨年末、静岡市にある静岡県工業技術研究所(本所)にこのAbLossを納入させていただきました。通常、公設試験研究機関には日本工業規格(JIS規格)に準拠した実験室や測定システムが導入されます。しかし、建材を測定対象として規格化されたJIS規格では、測定には大きな面積(10㎡程度)の材料が必要であるため、建材以外の材料メーカにとって、開発段階でそのような材料を用意することは非常に困難です。静岡県工業技術研究所では、利用企業の多くが自動車内装材に関係するメーカであることから、JIS規格完全準拠に捉われず、小サイズのサンプルでも高精度に吸遮音性能を測定できるシステムをご検討されていました。そして、今回初めてAbLossを導入された公設試験研究機関になりました。このことは、これから自動車業界に新規参入を試みようとする企業にも自社製品の性能評価の門戸を広げることになります。

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3.お客様の声

当所には、平成4~6年度に導入した小型残響室と無響室がありました。今回、この旧設備の更新を行いました。

振り返ると、平成13年頃から、自動車関連企業から寄せられる多孔質吸音材料に関する技術相談が増加すると共に、残響室法吸音率と音響透過損失の試験も増加しました。利用企業が増加した理由は、自動車業界において、吸音材料を重視した自動車開発が推進されたことの影響と考えています。試験依頼される材料は、繊維材料・発泡材料や様々な積層材料でした。近年では、残響室法吸音率の測定依頼の方が音響透過損失よりも多くなっています。企業の要望に応えるために多孔質吸音材料の非音響パラメータと音響モデルに関する研究も実施したため、多くの技術相談をいただきました。

企業に利用していただいた旧設備でしたが、実験室と測定システムの双方に、幾つかの課題を抱えながらの運用でした。旧設備の課題に気付いたきっかけは、企業との共同研究や依頼試験における測定でした。近年、企業の試験結果に関する要望が変わってきたことを考慮して、旧設備の課題を解決できる新設備を導入しました。そこで、企業の皆様に安心して利用していただける実験室と測定システムになりました。

設備を更新するにあたって、旧設備同様、当所の利用企業が望んでいる小面積の材料の測定を実現するために、実験室の容積は規格外としましたが、測定方法については、高い再現性が得られるISO規格としました。

材料の音響性能の測定について、音の周波数範囲がとても広いため、測定したい周波数範囲の一部の音のデータが取れない場合もあります。例えば、音響インピーダンス管を使った垂直入射吸音率の測定において、試験する材料の素材で選択すべき管内径サイズがあり、それによって測定可能周波数範囲が制限される場合があると考えます。その様な場合、残響室を活用して周波数特性を見ることがあります。

残響室のサイズも測定周波数と関連があります。音の可聴帯域は、周波数20Hz~20kHzで10オクターブの広範囲です。例えば、100Hzの音の波長は約3.4mで、20kHzでは約1.7cmです。この様なとても長い波長から短い波長までを計測制御して残響室法吸音率と音響透過損失の測定をする場合、実験室と測定材料が大型化するため、測定対象・結果として何を重要視するかを検討することが導入後の設備の有効利用にとって大切だと考えます。

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