名古屋市工業研究所 16 本のマイクロホンを用いた
垂直入射音響透過損失計測システム

ソリューション事業部  関藤 大樹  勝原 聡寛

1. はじめに

弊社技術ニュース55 号(前号)(*1)では、16 本のマイクロホンを用いた新型の垂直入射音響透過損失計測システムをご紹介いたしましたが、この度本システムを名古屋市工業研究所様に初納入いたしましたので、早速本号にてご紹介いたします。

2. 大きな管径で高周波まで測定できることのメリット

本システムで採用された新手法(16 本のマイクロホンを使用)による測定は、従来法(4 本のマイクロホンを使用)と比べ測定上限周波数が大幅に拡張されたことが特長の1 つですが、その結果、これまで測定が困難であったウレタン等の高弾性多孔質材や非通気のゴムシートのような材料についても" 質量則" 領域の透過損失を評価できるようになりました。
例えば、図1 はゴムシート(3mm 厚)の垂直入射音響透過損失をサンプルサイズ別に測定した結果です。従来法で測定された直径15mmおよび40mmサイズの結果(緑線および青線)をみると無限平板の理論値(黒線)と大きく乖離していることが分かりますが、新手法で測定された直径100mm サイズの結果(赤線)は、主要な周波数帯域においてほぼ理論値に沿っていることが分かります。
このように、新手法を採用した本システムは、単に測定上限周波数が大幅に拡張されただけではなく、これまで音響管を用いた測定に" 不向き" とされていた材料にも適用できる可能性が広がったため、より幅広い分野・業界の方々にご活用頂けるのではないかと考えております。

図1 垂直入射音響透過損失測定結果( ゴムシート3mm厚)

図1 垂直入射音響透過損失測定結果( ゴムシート3mm厚)

3. 導入までの経緯

名古屋市工業研究所(以下、「名古屋市工研」)様は、平成24 年度から弊社製の垂直入射吸音率計測システム(従来法)をご利用して頂いておりますが、それから10 年を迎えようとする頃に吸音・遮音性能測定設備の導入のお話を頂きました。
公設試験研究機関である名古屋市工研様には、地場を中心に様々な企業様から様々な技術相談、依頼測定、委託研究などのお問合せがあり、第三者測定機関でもある弊社と同様、従来法では測定が困難であった非通気材料などの測定相談もあったことから、当時リリース間近であった本システムを新規設備の一部として導入して頂けることになりました。
なお、本システムを納入させて頂くにあたり、名古屋市工研様の要求仕様にあうように、音響管(図2・3)の樹脂部品の一部(サンプルホルダおよび緩支持ホルダ)を標準のアクリル製から金属製にカスタマイズいたしました。このように、お客様のご要望に応じてカスタマイズできるのも、弊社および弊社製品の強みと考えております。

図2 新型音響管(垂直入射吸音率測定時、標準品)

図2 新型音響管(垂直入射吸音率測定時、標準品)
(従来法(2 マイク法)および新手法(8 マイク法)に対応)

 図3新型音響管(垂直入射音響透過損失測定時、標準品)
(従来法(4 マイク法)および新手法(16 マイク法)に対応)

図3新型音響管(垂直入射音響透過損失測定時、標準品)
(従来法(4 マイク法)および新手法(16 マイク法)に対応)

4. 実験室法との併用

今回、名古屋市工研様は本システムと併せて小型残響室・無響室を用いた吸音率・音響透過損失計測システム"AbLoss"(弊社製)も導入頂きました。前述の音響管を用いた測定方法は、材料に対する音波の入射方向は垂直方向に限定されますが、小サイズのサンプルで測定できるため例えば大きなサイズでサンプルを用意できない開発中の素材や試作品などの評価などに向いています。一方、実験室(残響室)を用いた測定方法は、音響管に比べ大きなサイズのサンプルが必要ですが、実環境に近い入射条件(材料表面に対して様々な方向から音波が入射)での吸音・遮音性能を測定できるため、例えば自動車に搭載される内装材の性能確認や製品最終評価などに利用されます。従って、音響管法および実験室法の両測定を実施できる環境が整った名古屋市工研様においては、お客様の様々な業務フェーズ(開発から製品評価まで)に応じた測定方法を提案・実施することができるようになり、今まで以上に地場の多くの企業様のご期待・ご要望にお応え頂けるのではないかと思っております。

 図4 導入された小型残響室・無響室

図4 導入された小型残響室・無響室

5. 終わりに

今後、名古屋市工研様を通じて、本システムがより多くの方々に認知・活用され、あらゆる分野の音響材料開発の一助となることを願っております。また、更なる機能向上・改善を図るため、引き続き研究・製品開発を進めてまいります。もし本システムにご興味を頂きましたら、お気軽に弊社までお問合頂ければ幸いです。

参考文献
1) 日本音響エンジニアリング技術ニュース55 号 「16 マイクロホンを用いた垂直入射透過損失計測システム」

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