音空間事業本部  根木 健太

銘楽堂 MEIGAKUDO

1. 概 要

富士北麓に最高級ピアノを有するピアノサロンが誕生した。「銘楽堂」と名付けられた本サロンの外観は和風の建築でありながら、内観は明治初期から大正期にかけて建てられた西洋館の装い。この独特の雰囲気の中に据えられた世界的名器ベヒシュタインの響きを最大限発揮するために、特注製作のAcoustic Grove System (AGS) が導入された。
ピアノサロンとしての機能に特化した2階建ての木造建築の室内には、ステージの目の前に稼働椅子による客席が25席用意され、演奏者と観客、そしてピアノから奏でられる響きが一体となる贅沢なつくりとなっている。ピアノはC.BECHSTEIN B212 が2 台。1 台は黒艶出、もう1 台にはヴァヴォナ・パール艶出という銘楽堂のための特注品が、サロンの顔として訪れる方々を迎えている。
銘楽堂は、ベヒシュタインのピアノの響きを最大限に活かすことが命題とされていた。そのため、専属ピアニストでもある芸術監督は、計画段階から音響をどのようにまとめれば良いのか、悩まれていたようだ。そんな時にベヒシュタイン・ジャパン様の紹介でAGS を知り、実際にベヒシュタインのサロンで置型のANKH を設置した状態・無くした状態で弾き比べた結果、AGS を全面的に採用しながら銘楽堂の音響を調整することを決意された。

2台のC.BECHSTEIN B212
2台のC.BECHSTEIN B212
外 観
外 観

正面のステージは組子や見切りを組み合わせたAGSで埋め尽くされ、客席背面にある富士山を眼前に望む窓と窓の間にも4 台、そして建物を支える大きな丸柱を取り囲むように、3 台のドーナッツ型の特注AGS が設置された。銘楽堂の内観イメージにAGS が深く関わるため、全てのAGS はデザイナーと意見を交わしながらデザインされ、「音響を整えるための装置」という意識がなされないほど空間に溶け込んでいる。
楽器本来の音を引き出すAGS が活用されたことで、どの席においてもベヒシュタインの生の音、そして鍵盤を弾いた後にサロン全体を満たしてスッと綺麗に消えていく空間の響きが、細部まで感じられる、他にはない唯一のサロンとなった。
教育や芸術事業の普及活動にも取り組むこの銘楽堂より、豊かな芸術が創造されることを、切に願っている。

AGS に組子を合わせたデザイン
AGS に組子を合わせたデザイン

2. お客様の声

銘楽堂のサロン内は二階建ての吹き抜けとなっていますが、一階客席には天井がかかる場所もあり、さらに3 本の柱が立っています。吹き抜けとなっていることで音響は浴室内のような残響が生まれ、一階客席後方の天井の低い場所は音響が悪くなり、柱付近の客席への音の反射はきつくなるということを設計段階から懸念していました。そして空間も決して広くないので、ベヒシュタインのコンサートグランドサイズのピアノの響きがどのようにサロンに響き渡るのか、想像するだけで半ば絶望していました。
しかしその悲惨な状況を見事に打破してくれたのが、AGSとの出会いでした。奇跡の救いだったとしか言いようがありません。AGS を設置していただいたことで、実際のサロンの大きさより広い空間で聴いているかのような音響となり、雑味のない良質の残響と、どの場所で聴いてもムラのない心地よい音響は、この複雑なサロン内部の形からは全く想像もできない素晴らしいものとなりました。取り付けたAGS の他に可動式のANKHを設置することでさらに音の輪郭がクリアになり、抜け感のある低音と、きらめく高音のバランスも見事にとれるようになりました。そして特筆すべきは、お客様が満席になっても吸音されたという印象が無いほど、人のいない状態でリハーサルした時とのギャップが全くないということです。
最高の音響環境を銘楽堂に与えてくれた日本音響エンジニアリング様に心よりお礼申し上げます。

銘楽堂 MEIGAKUDO

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