音空間事業本部  河野 恵 崎山 安洋 佐古 正人 出口 公彦 福村 薫美

ケネディハウス銀座

1. プロジェクト概要

本プロジェクトは老舗のライブハウスであるケネディハウス銀座のリニューアルプロジェクトである。ケネディハウスは、ザ・ワイルドワンズの加瀬邦彦氏が1983年に創業し、銀座では1985年から営業している。専属バンドのスーパーワンダーランドが1960~1980年代のロック、ポップス、グループサウンズを中心に生演奏を行い、ゲスト公演ではザ・ワイルドワンズや加山雄三など誰もが知るスターが定期ライブを行うことでも有名である。また、専属シェフによりワンランク上の食事が供され、上質な音楽と食事が両方堪能できるライブ・ミュージックレストランでもある。開店から約40年近く経ち、新しい音楽や生活様式など時代の変化を取り入れる形でリニューアルプロジェクトがスタートした。

2. コンセプト

テーマは音楽も食事も美味しく、『音』にこだわり尽くした最高のライブハウスへ進化させることである。音楽の創り方や音楽再生の仕方、さらには音楽の聴き方・楽しみ方など、時代とともに変化してきた。また、コロナ禍により生ライブ・配信ライブなどライブ形式にも新たな選択肢が増えることとなった。このように新しい生活スタイルへの順応も必要になってきた時期、新しい時代の幕開けを最先端の技術により体現できるライブハウス空間づくりを目指し計画を行った。また長年にわたり愛されてきた古き良き時代の想い出を活かしつつ、新しい景色も一緒に感じるようなライブハウスリノベーションの在り方を提起するプロジェクトとなった。

3. 建築音響 × ライブハウス

ライブハウスというと、音楽を聴くのだから、当然「音」にはこだわっているというイメージを持たれるかもしれない。世の中にあるライブハウスの多くは、商業的につくられたものが多く、「音」にこだわったライブハウスが少ないというのが実情である。生演奏であってもいわゆるPAとよばれる音響設備により音をより大きく拡声し音楽を楽しむ空間となってはいるが、「音」の聴こえ方・質についての議論はなされぬまま、建築計画が進んでいくことが多い。もちろん電気的な音調整は可能ではあるが、その中で室内音響に起因する影響を考慮した調整をすることは電気音響調整だけでは非常に難しい。私たちは建築音響のプロフェッショナル集団であり、音楽制作や放送番組制作などの業務用スタジオの空間づくりでは高い評価をいただいている。今までの経験を生かし、様々なアプローチで「建築音響の技」を随所に盛込んだ計画となっている。
また、ライブハウスの計画で大切なこととしては、演奏者目線での音とお客様目線での音の両面から考えることである。演奏者だけ考慮した音空間では、座席により音ムラが発生し、フロアにいるお客様皆が同じような音を聴く環境になりづらい問題が挙げられる。お客様だけ考慮した音空間では、演奏者が演奏しづらい環境だと、パフォーマンスが下がり結果としていい音楽に聴こえづらいという問題が発生してしまう。この両方の問題を解決するには建築音響からの総合的なアプローチが必要となる。
そして今回は、老舗ライブハウスのリノベーションということで、既存建築の形状に合わせた建築音響手法の提案や、新・旧融合した空間デザインに溶け込む音響調整家具―Meleon(メレオン)―の導入など新しいアプローチを試みている。

4. リニューアルポイント

音響面のリニューアルポイントとしては、ステージ上は演奏がしやすく演奏者相互の音も聞きやすく、低域がこもらず中高域の抜けの良い音場を目標とした。ステージで演奏された音とPAスピーカで拡声された音は、客席フロアに十分に押出し、客席では明瞭度の良い生々しい演奏音が楽しめる空間を室内音響設計ポイントとした。

リニューアル前

断面検討スケッチ

デザインスケッチ

4-1. フロアレイアウト

以前のレイアウトは、バーカウンターと客席との間にPAエリアが配置されていた。今回のリニューアルでお客様動線とスタッフ動線をしっかりと分け、客席へのスムーズなアプローチが行えるフロア計画とした。このことにより空間がシームレスに広がるとともに音の広がりも生まれ、店舗入口まで、質の高い音楽が聴ける音環境に生まれ変わった。

リニューアル後01

リニューアル後02

4-2. ステージ

ステージ上では特に低域の音圧レベルの高いドラム・エレクトリックベースが並び、低域が充満する。これを効率よく客先に押し出すために左右側壁は客先側に平面的に広がった形状とし、背面壁は上向き傾斜を付けた壁とした。仕上げに凹凸のあるレンガタイルを貼り壁の重量を増すことで芯の有る低域とし、凹凸仕上げにより中高域を拡散反射とすることで、ヴォーカル・ギター・キーボードなどの中高域も明瞭度良くスッキリと伸びる音場とした。上向き傾斜とした背面壁と側壁とを含めた3面の壁間で音が廻らない形状とし、背面壁と左右側壁とのコーナー部にスリット状の開口を開け、低域の一部を左右の控室へ逃がしステージ内(特にコーナー部分)で低域の音圧レベルが上がり過ぎないようにしている。
また、白色レンガタイルは、ステージ両側の袖壁まで延ばすことで左右方向のステージ空間が視覚的によりワイドに見え、照明演出にも効果的である。延長したステージ床は、モルタル打ちで剛性も高く、その上に置かれたサブウーファーもレスポンスの良い低域再生に貢献している。
ステージ直上の天井面は、空調エアコン、演出用照明の数がおびただしく、天井コンクリートが大きく露出している部分のみを部分的に吸音している。隣接する客席前方の天井も基本的に同様の仕様である。
ステージの音場としては、吸音処理は最小限とし壁を平面的にも断面的にも傾斜をつけ、表面仕上げ材は凹凸タイルとしたことで、中高域の拡散効果が得られ低域は溜まり過ぎず、演奏し易く、生々しい演奏を客先にストレートに届けることができたのではないだろうか。

4-3. 客席天井

客席天井は、中央部は極力高さを上げ、左右端の天井は、空調ダクト・各種ケーブル通線を天井内に納める下がり天井としてある。これまで、中央部は円筒を半分に割った形状で高さが低いボールト天井となっていた。内向きの曲面は音響的には焦点を持ち、音の明瞭度が下がる形状となっていた。今回、傾斜天井とし、ステージの演奏音・PAスピーカからの拡声音が、客席メインフロアは勿論、遠方のカウンター席にも十分届くように天井の傾斜角度を検討した。傾斜することで、フローリング床の反射面と天井反射面とが平行面とならないことで多重反射も避けられ、明瞭度も向上する。
天井高さを上げたことで室内の空気量も増え反射音の進行方向も適正化された結果、エントランスから入り直ぐのカウンター席(ステージからは遠い席)でも改修前に比べ、十分音が届くようになった。また、天井仕上げは、塗装部分(反射面)と吸音仕上げ面とを組合せ、特定の周波数だけが目立たず自然な周波数バランスとなり、会話もし易い音場となっている。客席の天井高さを上げ、演出用照明設置高さも上がり、ステージを臨む画角が左右方向上下方向ともに広がり、リニューアル前よりも、より広く感じられる空間となった。

ケネディハウス銀座

4-4. 客席壁

客席左右側壁は、コンクリート柱が室内側に突出ており、リニューアル前は柱の前を沿うように曲面のソファで覆われていた。今回、そのソファも撤去し後方からのお客様もしっかりとステージが見えるように改修を行った。
客先左右側壁は音響的には平らな壁が平行に向き合う形となり、フラッタリングなどの音響障害の発生が懸念される部位であったので、弊社開発の音響調整家具(AAS)のメレオンを配置することで、インテリアと音響処理の両面に寄与している。メレオンは、吸音機構と拡散機構を組合せたもので、過度に吸音し過ぎず、中高域の拡散反射で高域も伸びたナチュラルな音場造りの役割を果たしている。
側壁前のソファ席は、フロア高さより一段上げることで、演奏ステージも見やすくなっている。天井の音響処理と相まって、客先で聴く演奏は、ライブならではの迫力のある生々しい音が、音楽バランス良く聴ける空間になったのではないだろうか。新設された空調・換気設備により場内の空気が以前より澄んでおり、演奏音までも澄んで聴こえ、音もステージに留まることなく前に出て、音も抜け良く聴こえると感じる。今後、PAスピーカなどの更新も計画されており、これから一層、音楽の感動がより高まるのではないだろうか。

4-5. クリーンな空気

アフターコロナ時代の新しいライブハウスの考え方として、メインフロア内の客席ハイチェアー裏にクリーンルームなどで採用されている高性能フィルター(HEPAフィルター)を採用した大型空気循環清浄設備をメレオンの機構とドッキングした形で敷設している。これにより、室内の空気は15分で1回循環し清浄、加えて、空間除菌として次亜塩素酸空間除菌装置を店舗入り口からフロアにかけて設置している。

4-6. デザイン

既存床の雰囲気を活かすことと、壁や天井を明るくシンプルにすることでヴィンテージだけどモダンで、すっきりとした気持ちの良い空間を演出した。
またステージの白は、ケネディハウス銀座の歴史の中で、特に大事にしたいイメージとお伺いし、ライブハウス全体の基調色として展開し、それでいて、どこか懐かしい、奥ゆかしい雰囲気を演出するため、メレオンの意匠性をアクセントとしてケネディハウス銀座専用にアレンジした。
さらにもう一つの特徴として、メレオンの可変性を活かし、季節によって空間の雰囲気を変えられるようなメレオンフィラーのカラーコーディネートを行っている。春・夏・秋・冬と変わる景色と変わらない最高の音楽を全身で体感できるような、全く新しい空間づくりに挑戦している。

5. 終わりに

今回のプロジェクトでは、電気音響はヒビノプロオーディオセールスDiv、舞台照明ではヒビノライティングそして建築音響は日本音響エンジニアリングというヒビノグループの総力を結集した、フラッグシップのライブハウスが誕生した。ケネディハウス銀座の皆様およびステージに立たれるアーティストの皆様にも多大なるご協力をいただいた。この場を借りて、関係皆様に御礼申し上げる。

6. 店舗情報

ケネディハウス銀座
www.kennedyhouse-ginza.com
〒104-0061 東京都中央区銀座7-2番先コリドー通りB1F
お電話でのご予約・お問い合わせ 03-3572-8391

7. お客様インタビュー【スーパーワンダーランド】

ケネディハウス銀座

【岡部ともみさん(Vocal)】
とにかく明るくなったのと、天井が高くなったので広さ感がでて気持ちが良いです。音に包まれている感じがすごくして、大きな音を出してもうるさくなく、気持ちの良い空間になりました。

【千葉生也さん(Bass・Vocal)】
せーので合わせたときに、以前は音がくしゃっとなっていたのが、今はまとまっていて、しかも一つ一つがクリアになりしっかりと聴こえるようになりました。音像がすごくはっきりしているので、自分だけでなく他のプレーヤーの音の意思が見えるようになり、曲のイメージにあわせて自分も入っていけるようになった。以前は返しの音も聴こえないからヴォリュームを上げていたが、かえってワーッとなって聴こえなくなっていたのが、今は小さい音でもモニターできるようになったのでこれはすごいことだと思いました。

【千葉浩さん(Guitar・Vocal)】
音がリッチになりました。広がり、中低音が豊かになりました。反響音の感じがしっかりコントロールされています。

【ETSUKOさん(Keyboard)】
ステージ上で録音しているけど、これがこの場所で録った音なの~っていうくらい音のバランスが良い。音がすっきりしていて、自分の音が埋もれないので、ものすごく演奏しやすいです。

【今村仁さん(店長・Drums)】
38年続いているお店で、リニューアルをして壊れていく様子が悲しくて辛かったですが、新しくなっていく様子をみてワクワクしたし嬉しくなりました。でもいざ新しくなったものをみてほんとに素晴らしいと思いました。改修前は跳ね返りの音がすごく気になっていたのですがその時に感じていた音の反射の違和感がなくなりました。音がすっきりして、ドラムの生音がすごくきれいで、シンバルの繊細な高い音とかもシャーンといって綺麗に届くようになりました。低音の溜まる感じと廻る感じがなくなったのが素晴らしいです。音が本当にクリアに聴こえてきて、演奏しやすいです。ドラムをたたくときに、少し音をならすだけでふわっと響いてくれるので、前ほど力をいれて叩かなくなりました。軽く叩くだけで、良く響いて聴こえてくるのを実感しています。こんなにいいお店にしていだだいて感謝しています。ワイルドワンズのメンバーや加山雄三さんも改装してよかったねとおっしゃっていました。ありがとうございました。

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