ソリューション事業部 小池 宏寿
Solution Div. Hirohisa Koike
概要 -- Overview
新しく建物を建設し周辺環境に変化をもたらすことが、意図せず地域住民との間で係争問題にまで発展してしまっている例も少なくありません。新しく建設された建物からの騒音は、「騒がしい」という感覚だけでなく、場合によっては心身への影響を引き起こしたりすることもあり得るため、対処すべき重要な問題です。日本音響エンジニアリングは、建築計画におけるシミュレーションを用いた音響支援業務を行っており、騒音問題を事前に防ぐためのコンサルティングや騒音規制法を順守するための建築仕様の提案を行っています。本稿では過去の業務内容をご紹介するとともに、今後依頼される方々へ業務に必要な情報、業務手順、サンプル事例による検討内容について説明します。
The construction of new buildings and the associated impacts on the surrounding environment can often unintentionally lead to disputes with local residents. Noise from newly constructed buildings is an important issue that needs to be addressed as it can cause not only a disturbance but also adverse physical and mental effects in some cases. We at Nihon Onkyo Engineering provide consulting services to prevent noise problems in advance and propose building specifications to comply with noise regulations. In this article, we will introduce our previous projects, and explain the information required, the work procedure, and a case study for potential clients.
1. 過去の業務内容 --Details of Previous Projects
過去3年間でシミュレーションを用いた業務は約60 件、その内訳を図1に示します。大きく分けて4つに分類してあり、「1. 事業場・工場」、「3. ごみ焼却場・水処理場」、「4. その他」は完成後の建築物から発生する騒音を対象とした検討、「2. 建築工事・土木工事」は工事途中の騒音を対象とした検討を行っています。
1.1. 事業場・工場 -- Workplace and Factories
業務の42%、半分近くが事業場・工場の新規建築計画での騒音検討になります。事業場・工場といっても、建築資材の基本であるコンクリートを製造する工場から、ネット社会に必要不可欠なデータセンターなど、その対象建物は多岐にわたっています。これらは騒音規制法による法的基準を満たすため、建築図や設備プロット図から、シミュレーションの構造モデルや音源モデルを作成し、必要な外壁の遮音構造などについて検討を行っています。
1.2. 建築工事・土木工事 --Building Construction and Civil Engineering Works
建築工事・土木工事の騒音検討は、ここ数年で大きく伸びてきており、全体の25%です。これらは敷地境界での騒音規制法の基準を目指すだけでなく、近隣住居への影響を考慮して、対策検討を行っています。具体的な検討としては、外部に建てる仮囲いの範囲や使用する重機のタイプの選定になります。
1.3. ごみ焼却場・水処理場 --Waste Incineration Plants and Water Treatment Plants
ごみ焼却場・水処理場( 環境インフラ) については、全体の19%になります。これらは入札時の初期対応から実施設計の詳細検討まで幅広く対応しています。なお環境インフラ系の設備で、いつも問題となっているのが、周波数を含めた騒音データが一部揃わない事です。事業場・工場の主な設備である空調設備機器は、メーカが測定した周波数を含む騒音データがあります。また建築現場で使われる重機などは、周波数データを含むパワーレベルなどのデータが国交省で開示されています。しかしながら環境インフラ系のプラント設備は、施設全体が一つの設備となっており、実験室にいれて個別に計測できないため、個々の騒音データが得られないのです。環境インフラ系の設備では、検討するための情報が一部不足していますが、過去の事例や経験をふまえ、またいくつかの想定をしながら外部へ伝搬する騒音の検討を行っています。
1.4. その他 -- Other Projects
子供専用の運動場、競技施設、屋外で行われるフェス会場など、大きな音が発生する様々な建築計画でご依頼いただいています。
2. 業務に必要な情報と手順 -- Information Required and Work Procedure
シミュレーションを用いた業務手順を図2に示します。
2.1. 情報(Ⅰ) -- Required Information
シミュレーション検討に必要な情報は、以下の通りです。
- 平面図、断面図、配置図 - Floor plan, cross-sectional drawing, layout drawing
- 設備図面 - Facilities drawing
- 土地の高低差 - Site elevation
- 騒音データ - Noise data
- 環境騒音 - Environmental noise
なおE. の環境騒音は、建物建設前の環境騒音です。この環境騒音に建物から発生すると予測される騒音値を合成し、それを騒音規制法の規制基準と比較して検討しています。
2.2. 業務手順(Ⅱ~Ⅳ) --Work Procedure
必要な情報を基にシミュレーションで検討(Ⅱ)し、結果が騒音目標値に達していれば、報告(Ⅳ)となります。しかしながらここで騒音目標値に達していない場合では、どこの建築仕様を変える必要があるか提示し、協議の上で仕様変更を行った後に再検討(Ⅲ)して、報告(Ⅳ)します。
3. サンプル事例 --Case Study
敷地境界そばに防音壁を建設することで、敷地境界から離れた住宅エリアの騒音を低減したいという想定をしています。そこでシミュレーションを使い防音壁の高さについて検討しました。シミュレーションの構造物(工場、住宅エリア)と音源位置(●:音源)を図3に示します。
図4に示した白色の点線部分の範囲で水平方向に高さ1.5mの位置で計算した騒音レベルの大小を表す計算結果を図5に示します。
また図4に示した黄色の一点破線の部分で断面方向で計算した騒音レベルの大小を表す結果を図6に示します。なお図の見方は赤色が騒音レベルが大きく、青色が騒音レベルが小さい事を示しています。
図5をみると防音壁無(左図)と防音壁の高さ3m(中図)を比較すると、敷地境界から離れた住宅エリア(黒点線部)ではほとんど効果がないことが分かります。図6の断面方向の計算結果をみると、防音壁があっても、工場の建設場所が高いために上から音が回り込んで防音壁の有無が影響していない事が分かります。防音壁の高さを徐々に上げて検討した結果、ある程度効果を期待するためには、高さ9m程度(図5の右図)の壁が必要である事が分かりました。高さ9mでは3階建ての建築物に相当する高さで、構造としてはしっかりとした基礎が必要になり、かかるコストと時間は大きくなると予想されます。
今回の事例では音源側が周囲の土地よりも高いため、防音壁の設置条件が難しい事が理解できます。なお実際に本件のような要望があれば、検討する以前に防音壁による対策ではなく、音源側の壁構造を初期段階で検討することをお勧めしています。
シミュレーションを用いることで、敷地の高低差などの3 次元的な要素も考慮して検討することができ、また水平方向や断面方向の複数の計算結果を利用した可視化の結果など、一般の方々に分かりやすい説明ができます。
(地面より1.5m)
Plan view of simulation results (1.5m from the ground)
-- Section view of simulation results