コンサルティング事業部 小池 宏寿
1. 測定を行った背景と概要
実際の医療現場で働く、大阪府立母子保健総合医療センターの春名先生、山中先生より、病室を療養空間および医師、看護士の作業空間と考えた場合、音環境に関する配慮がほとんどなされていないことを教えていただき、「今後の病室での音環境のあり方について問題提起を行い、改善していくための糸口を作っていきたい」との両先生の強い熱意から音響測定を実施する運びとなりました。
今回は、病室の中で、特に騒音の状況が悪い小児集中治療室(PICU)について、現況の騒音測定を行った結果と、病室内で騒音の寄与が大きい音源について特定するために音源探査を行った結果について紹介します。また、今後の検討課題のひとつとして、建築的な配慮(対策)がなされた場合にどの程度騒音が軽減されるか、シミュレーションにて試算を行っていますので、その結果についてもご紹介します。
2. 測定
2-1. 騒音測定
測定には、弊社が開発した騒音データ収録装置'DL-100'を用いました(写真1)。騒音収録用のマイクロホンをPICU内のほぼ中央の天井下約30cmの位置に設置し、室内騒音の24時間の連続変化を記録しました。なお収録は周波数重み特性A,時間重み特性FASTで行いました。
中央環境審議会答申の屋内指針では、一般地域における騒音レベルは、昼間(会話影響)は45dB(A)以下、夜間(睡眠影響)は35dB(A)以下とされていますが、測定当日の結果(図1)をみると、いずれも測定した値はすべての時間で超過していることが分かります。
写真1 病室内で連続測定を行った機材(上:マイクロホン、下:DL-100)
図1 PICUの室内騒音の時間変動測定結果(24時間連続測定)
2-2. 音源探査測定
PICU内での音源探査は、弊社が開発した全方位音源探査システム'ノイズビジョン'を用いて行いました。その結果を図2~4に示します。室内の騒音に対する寄与が最も大きい音源は、各種医療機器の警報音などの突発的な間欠音を除くと、天井に設けられた空調吹出口から放射される設備騒音でした。尚、警報音などの間欠的な騒音は、実際の音源よりも高い位置、もしくは受音点(測定位置)から音源を直接見通せない状況であれば、天井面で反射して伝搬していることが、測定結果から分かりました。
図2 空調吹出口からの騒音
図3 警報音の騒音
図4 警報音の騒音(天井反射)
3. 騒音を低減させるための試算
PICU室内の騒音を大きくしている各種医療機器の警報音・作動音、そして空調騒音などを一律に低減することができれば、室内の騒音状況を改善することができます。しかしながら、医療機器の警報音などは、急を知らせるために作られているため、うるさいからといって音を小さくすることはできません。そこで今回は、室内をうるさくしている要因のひとつである室の響きを抑えることで、騒音を低減できないかどうか試算を行いました。音源探査の結果から対策部位を天井面とし、音源は、警報音などの間欠音を除いた空調騒音を対象としました。
計算には弊社が開発した騒音予測シミュレーションソフト'ジオノイズ'を用いました。まず、天井にある吹出口の位置に音源を設置し、PICUの現状での室内騒音のモデル化を行い(図5)、実測値とシミュレーション値の比較を行いました。(表1)。これをみると、それらのレベル差は±1dB(A)の範囲内であることが分かります。
図5 シミュレーションのモデル図
R1 | 実測地 | 54.6dB(A) |
SIM地 | 55.3dB(A) | |
R2 | 実測地 | 57.3dB(A) |
SIM地 | 56.3dB(A) |
次にベッドの枕元付近を受音点とし、現状(天井:反射仕上げ)と天井を吸音仕上げ(500Hzの吸音率0.8以上)とした場合でシミュレーションした結果を表2に示します。
この場合、天井を吸音仕様とすることで、約2.7dB(A)程度、騒音が軽減できると予想されます。
枕元平均(5ヶ所) | 天井反射(既存) | 天井吸音 |
52.7dB(A) | 50.0dB(A) |
4. おわりに
生死に関わる特殊な環境であるPICUにおいて、室内騒音の測定を行い、その状況の一部を把握することができました。今後はさらに検討に必要なデータの収集を行うとともに、病室固有の機材の対策方法の検討、騒音の建築的改善方法の検討など、総合的に取り組む必要があると思われます。
謝辞
今回の測定に際し、測定場所及び測定の機会を提供していただいた大阪府立母子保健総合医療センター 春名純一先生の御配慮に、記して感謝いたします。