富士ソフト秋葉原ビル IT企業ならではのスタジオの構想と計画 -AKIBAから世界へ-

音空間事業本部 崎山 安洋、堀井 理恵

1. はじめに

『AKIBAから世界へ』をキーワードに、2007年2月5日、秋葉原駅前に31階建ての『富士ソフト秋葉原ビル』が誕生しました。
そのコンセプトは、ずばり「New answer is here. ITを変える、ITソリューションベンダー」。世界に向けて、 新しい話題や技術の「IT発信基地」の出現です。

平成12年の東京都策定による「東京構想2000」を受け、平成13年、東京都都市計画局より、 「秋葉原地区まちづくりガイドライン」が発表されました。AKIBAを活性化しITの街にしようという計画です。公募があり、 秋葉原駅東側ゾーンの土地を富士ソフトで落札されたという経緯があります。

同ビル10階のスタジオエリア、2階のシアターを弊社で設計・施工を担当させて頂きました。 IT企業ならではの構想がふんだんに盛込まれた、その名も『富士ソフトアキバ映像スタジオ』・『富士ソフトアキバシアター』をご紹介いたします。

外観写真
外観写真

建築概要
名称:富士ソフト秋葉原ビル
敷地面積:4,992m2
建築面積:3,060m2
延床面積:58,638m2
構造:鉄骨造・鉄骨鉄筋コンクリート造
規模:地下2階 地上31階 塔屋2階
設計・監理:大林組・久米設計共同企業体
各階概要:1階~7階(パブリックフロア)に、テナント、アキバシアター、アキバホール、
レセプションホール、セミナールーム、TV会議室など。
8階~31階にオフィスフロア、社員食堂、スタジオ(撮影・編集・録音)など。

2. 10階『アキバ映像スタジオ』

10階フロアは、『アキバ映像スタジオ』の専用フロアです。何といっても、映像撮影から映像編集、 さらに音声収録・編集、オーサリング/エンコード、配信までの作業を、映像はハイビジョン、音声は5.1chサラウンドで、 一貫して行えるのが、最大の魅力であり、特徴です。世界的な営業展開を見据えたIT企業ならではのスタジオ構想が、凝縮されています。

また、他のフロアと高品質の映像・音声回線でリンクされており、5F大ホールでのイベントの模様をリアルタイムで館内に配信ができます。 さらにこれを、テレビ局に送ると、このスタジオから生番組を放送することもできるのです。

館内の主な接続先は、1階ロビー、2階シアター、5階大ホール、レセプションホール、6階会議室、 7階、20階、31階・・となっています。

10F全体配置図
10F全体配置図

このスタジオフロアは、上図に示すように編集室エリア(イエロー)、撮影スタジオエリア(グリーン)、 音響スタジオエリア(ピンク)と、機能別に3つのエリアで構成されています。敷地の西側をJRの電車が走っているため、 平面配置は音響スタジオエリアを電車騒音を避けて線路と反対側に、編集室エリアを線路側に、2層吹抜けの撮影スタジオを真ん中に配置しております。

音響スタジオエリアには、MAスタジオが2室、付属してレコーディングスタジオとアナウンスブース、 オーサリング・エンコード・エミュレーションルーム、音声諸室用のマシンルームがあります。

配置については、アクセスを含めた使いやすさ、遮音、ワイヤリングを考慮しながら、検討を重ねました。 マシンルームをエリア中央に配置し、2つのMAをその両側に、オーサリングルームをマシンルームの直前としております。 静けさが一番要求されるレコーディングスタジオとブースは、外部の影響を受けにくい位置に配置しております。 なお、MA1と機械室がどうしても隣接してしまうため、その界壁は2重構造の遮音壁としています。

スタジオ用の空調機本体は上階の空調機械室に設けてあります。給排気は、廊下の天井スラブを貫通して、ダクトで接続されています。 これにより、10階フロアにスタジオ機能を集約することと、空調ノイズ低減とに役立っております。

各エリアごとに、以下に紹介させていただきます。

2-1 撮影スタジオエリア

主な用途としては、CGを組み込んだ映像製作のための素材撮り、また様々な番組の撮影・収録をすることを目的とした多機能バーチャルスタジオです。 TVショッピング、料理番組などのため、給排水設備も整えられております。大掛かりなセットを組まなくても、CGの背景画像と人物の画像を合成するクロマキー処理により映像を編集できるよう、 グリーンバックのカーテンホリを設置しています。建築的には、撮影用照明などの設備が天井から吊り下げられるため、高さ方向を確保する目的で2層吹き抜けの構造となっています。

お客様に工夫した点を伺ったところ、スペースの有効活用を図ることと、合理的かつ効率的な作業環境を構築することに主眼をおいたとのことです。 副調整室の壁掛け映像モニターは液晶で画面分割として、画質が重要なマスターモニターはブラウン管タイプとなっています。 また、外部に貸し出すことも考慮されており、BS/CS局をターゲットとして、ハイビジョン対応の最新の映像設備が整えられています。

写真1 撮影スタジオ全体(副調室側を望む)
写真1 撮影スタジオ全体(副調室側を望む)

写真2 撮影スタジオ グリーンバックのカーテンホリゾント
写真2 撮影スタジオ グリーンバックのカーテンホリゾント

写真3 副調整室
写真3 副調整室

2-2 編集室エリア

このエリアでは弊社は遮音工事を担当させていただきました。弱電設備と共に内装仕上げは「IMAGICAデジックス様」が担当されました。 各室とも、HD対応の"画像合成"と"ノンリニア編集"の設備が整えられており、それぞれ機材に特徴を持たせた室となっています。 6室それぞれが異なる内装仕上げとなっており、編集室6は、特にクライアントエリアを広くとり、ゆったりとしたスペースとなっています。 現在は主に、映画配給会社さんなどのTVスポット・DVDサンプル映像・ニューリリースされるタイトル・店頭用のプロモーションの編集などが行われるとのことですが、 同フロアのMA・撮影スタジオとの連携により、今後は様々な業界で活用されていくことが予想され、さらに発展していくことになるでしょう。

写真4 編集室2 複雑な合成に適したノンリニア編集室
写真4 編集室2 複雑な合成に適したノンリニア編集室

写真5 編集室6 HD対応のノンリニア編集室
写真5 編集室6 HD対応のノンリニア編集室

2-3 音響スタジオエリア

このエリアには、MAルーム1・レコーディングスタジオ・MAルーム2・アナウンスブース・DVD/SE/エンコードルーム・マシンルームがあります。

2つのMAルームでは、コンソールにDigidesign社のICON D-Controlが採用され、5.1chサラウンド対応となっています。 フロントスピーカは台置き、サラウンドスピーカは天井バトン吊りとして、スピーカの位置・向きを自由に選択できるよう考慮されています。 2chメインスピーカはMUSIK 901K、サラウンドスピーカはGENELEC8240A+7271Aで構成されています。ナレーション録りを始め、 洋画の吹き替え・アニメのアフレコ・音楽のトラックダウン・効果音の収録などなど、使われ方は様々です。

写真6 MAルーム1
写真6 MAルーム1

写真7 レコーディングスタジオ
写真7 レコーディングスタジオ

写真8 MAルーム2
写真8 MAルーム2

写真9 アナウンス・ブース
写真9 アナウンス・ブース

内装のイメージは、まずお客様から明るいイメージにしたいとキーワードをいただき、 スピーカ・コンソールなどの音響機器の仕上げとの統一感を考え、CGパースと共に天井・壁・床の仕上げをご提案させていただきました。 サラウンドスピーカのシャンパンゴールド色との調和、クロスの色が下から上へ淡くなっていく壁、 天井を明るい色にして圧迫感を感じさせないようにすることなどが、仕上げのポイントとなっています。 お客様と何度か打合せをして、長時間の作業でも落ち着く、クリエイティブなエンジニアさんの作業に邪魔にならないような仕上げの色を選択していきました。 結果、2つあるMAの色の違いを楽しみ、MAルーム1はブルー系のクールな印象にまとめ、MAルーム2は、落ち着きのある暖色系のレンガ色をバッフル面に採用するなど、 それぞれ特徴のある室に仕上がりました。

MAでは、映像に合わせて音の編集をおこなうため、大きなディスプレイは不可欠な設備ですが、 音響面からするとこの大きな反射面は音響障害となり、クリアな音場として空間を仕上げるには厄介ものとなります。 音響測定だけでなくスピーカから出る音を実際に聴きながら、高域を吸い過ぎず低域を吸収しやすい素材と硬く重い素材で、 音像の定位とバランスを調整する作業により、さらにクリアな音場になっていきました。また、スピーカ台下部は、 室のコーナーに位置し、低域のたまりやすい部位です。

また、調整を行えるように、バッフル壁クロスパネルは、台の上下とも取り外せるしかけとなっています。

写真10 DVD/SE/エンコードルーム
写真10 DVD/SE/エンコードルーム

モニターがずらーっと並べられているこの室(写真10)は、主に、DVDのオーサリング、エンコードをする室であり、 配線の利便性をはかるため、床はフリーアクセスフロアとしています。 またエミュレーションルームとしても使われるため、 吸音性の音場としています。

3. 2階『アキバシアター』

『アキバシアター』は2階にあり、THXの認証を受けた81席の試写室です。

室内有効寸法は、室幅が約8.2m、前後が約11.7m、天井高が約6.4mで、2フロア吹き抜けだけに、 天井がかなり高く、ゆったりとした空間で、高品質の映像と音声が楽しめます。

写真11 シアター(前方スクリーンを望む)
写真11 シアター(前方スクリーンを望む)

機材関連は、解像度が2KのDLPプロジェクター(CHRISTIE社のCP2000S)、320インチの大型サウンドスクリーン(Stewart社のマイクロパフォーマ)、 JBLの3wayシアタースピーカ、81席ある椅子はシアターで定評のある仏QUINETTE社製と、2Kデジタルシネマ対応の本格設備が導入されています。

このような設備が整っていますので、映画配給会社のマスコミ向け新作発表試写会、企業プロモーションや、 様々なイベントに活用することが可能です。また、他のフロアとデジタル回線でネットワークが組まれていますので、 5Fの多目的多機能ホールとで、同じプログラムを同時上映することも可能ですし、将来それ以外の色々な使われ方も出てくることでしょう。

この室は、計画段階では「ビジュアルセミナー室」という名称で、 概略の平面プラン(試写室/映写室のアウトライン/遮音層位置)と断面プラン(段床の浮き床形状/客席位置)までが決まっておりました。 定例打合せが始まり、その中でシアターとしての姿が次第に浮き彫りになっていきました。

先ずはシアター設備(特にスピーカ)、空調・電気設備の配置を含めたプランニングから始まり、 その際のご要望事項としては、

  1. サラウンドスピーカ設置は壁にビルトインとする。
  2. THX認証のシアターとする。

大きくは、この2点です。
これ以降、本格的な実施設計(建築・音響)が始まりました。各部の構成は、

  1. サラウンドスピーカをビルトインするために、凹凸のある壁とし、凸壁内部にスピーカ設置スペースを確保します。 傾斜した柱状の壁が天井に向かって伸びていく形状とし、スピーカ上部は低域用の吸音スペースとしてあります。
  2. 柱状壁間の凹となるストライプ状の垂直壁は、表面仕上げはクロスですが、その内部はプラスターボードの反射面です。
  3. スクリーン近くの左右側壁は、表面仕上げは同じクロスですが、内部はグラスウールの吸音部分とプラスターボードの反射部分とで構成されています。
  4. 天井では、昇降式の照明器具が付いている部分が、三折れの拡散仕様、その間の溝型天井を吸音面とし、空調のガラリが付いています。
  5. 床は、カーペットで吸音面です。
  6. フロントスクリーン裏は、THX仕様ですので、バッフルボードとなっています。構造は、プラスターボードの積層とし表面は吸音してあります。 スピーカが載るプラットフォームは、H鋼で軸組して、コンクリート打込みの強固なものです。

写真12 シアター(後方映写窓を望む)
写真12 シアター(後方映写窓を望む)

映写を主眼として、壁・天井のクロスはブルーグレーとブラックの2色とし、天井拡散面の塗装色もブラックとしています。 サラウンドスピーカ前面のクロスは、最初スピーカネットによく使われるジャージクロスを想定しておりましたが、 壁仕上げとして採用したクロスとジャージクロスの音響透過を比較した結果、同じような特性でしたので、 サラウンドスピーカ前面のクロスも一般壁と同じものとし、素材を統一いたしました。

THXの認証にあたっては、室内音響面では、空調と機器稼動時の暗騒音をNC-25以下とし、 室容積に応じた残響時間の基準範囲(上限カーブと下限カーブ)内に納めるなどがあります。フロントスピーカ、 サブウーハー、サラウンドスピーカの配置については、こちら側である程度の設定をし、 THX社のSteven Martz氏とe-mailで図面やコメントのやりとりを行った後に、the Design Packageという形で最終のスピーカ配置、 スピーカ設置図、システム系統と接続図、残響時間範囲などが送られてきます。それにしたがって施工し、その後、 認証のための測定・調整が行われ、最終認証となります。

日本におけるTHX認証試写室としては、初の専用の試写室(Screening Room)として認証を取得しました。 純粋な試写室としては、日本国内で唯一、世界でも数少ない試写室です。

図1 平面図
図1 平面図

図2 断面図
図2 断面図

写真13 映写室内のDLPプロジェクターとAMPラック
写真13 映写室内のDLPプロジェクターとAMPラック

4. 経営理念を表すアート作品

1階アトリウムのモザイク壁画は、圧巻です。他にも富士ソフト様の経営理念の一つ『たかきひのき』「楽しく、 簡単、きれい、品質、納期、機密保持」を表現したモニュメントが堂々と南側エントランスにそびえたっています。

写真14 空中ブリッジを駆けぬけるとアキバシアター!
写真14 空中ブリッジを駆けぬけるとアキバシアター!

5. おわりに 経済特区 ・・・AKIBA

最近の「AKIBA」はすごい。。。

明治時代に祭った秋葉(あきば)神社に由来する名で、もとは「あきばはら」というらしいですが、 つい最近までは"電気街"と"オタクさん"の街としてにぎわっていた土地が、近年の再開発に伴い、 IT関連産業の世界的拠点として生まれ変わったという感じでしょうか。

今、世界的にも注目されている秋葉原に竣工した同ビルは、今後も秋葉原のシンボルとして、 また最先端のIT企業として世界に発信・発展していくことでしょう。

また、『アキバシアター』、『アキバホール』の天井には、ダイマジック製のサラウンド集音マイクが設置されています。 テナントとして入居されているダイマジック殿との共同研究で新たな音場技術がここから生まれることを期待いたします。

最後に、富士ソフト株式会社 映像事業部の石田事業部長殿、黒瀬課長殿には、お忙しいスケジュールのなかで、 時間をさいてお打合せいただき、まことにありがとうございました。このような新しい視点にたったスタジオプロジェクトに関わることができましたことは、 我々にとっても勉強になり、感謝しております。ビル建設は大林組・西松建設共同企業体殿で担当されましたが、 田村所長にはスタジオ計画をご理解頂き、工事推進に向けたご助言をいただきました。その他、設計・工事に携わった各方面の関係各社の方々にも、 大変お世話になりました。この場を借りて、お礼申し上げます。