撮影スタジオ
写真:八島崇

1993 年に日本で初めてインターネット接続サービスの提供を開始したことでも知られる通信大手インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)が、2022 年10 月に配信スタジオ「IIJ StudioTOKYO」をオープンしました。東京・飯田橋の本社内に造られた同スタジオでは、IIJ のオンラインイベントを配信するほか、2023 年度からは法人顧客のイベントやセミナーなどを収録・配信するサービスも提供されます。

プロのネットワーク環境を有する配信スタジオ

「コロナ禍以降、記者会見や発表会などがオンラインへシフトするにつれ、社内でのスタジオの需要が高まりました。当初は会議室に仮設のスタジオを作って対応していたのですが、近隣の電車や道路からの騒音という課題を抱えており、これを解決したいと考えていました。同時に、今後はお客さまのコンテンツを制作・配信する事業の展開も考えていたため、しっかりとした常設のスタジオを造ろうということになったのです」
スタジオが開設されたいきさつについてこう語るのは、IIJ ネットワーク本部 xSPシステムサービス部 副部長の岡淳一氏。「前からスタジオ施工会社として知っていて、スタジオを作るならここだ」と、2021 年9月に弊社WEB サイトからinfo 宛に一通のメールを送られたところからスタジオ計画がスタートしました。
設計を担当した河野恵は「事前に現地で騒音調査を行った上で、隣室間の遮音、上下フロアへの影響、お客さまからの要件に照らし合わせてプランを練りました。また、ビルの空調システムにうまく併存できるスタジオ空調を計画しました」と振り返ります。「スタジオ施設には専用空調システムを構築することが多いのですが、本計画ではビル空調システムの利点もうまく活かしながら、その中でバランスを取り、ダクトの消音、遮音設計をうまく盛り込むことが大きな課題でした。遮音に関わる複合的な要件が出てきた時に、いかに解決するかが当社の使命です」大型商業ビルの空調システムはシステム天井の裏で空気の流れを確保している場合が多く、遮音壁を建てて細かく間仕切ることと相反します。これまでのスタジオ空調工事のノウハウ、現場での細かい工夫調整の組み合わせによって実現しました。白ホリゾント壁に、クロマキー用グリーンと黒幕カーテンを備え た撮影スタジオは、大型の放送局スタジオと同じ手法で、精度の高いホリゾント塗装や床の仕上げを行いました。4Kにも対応するライブ配信をはじめ、カメラのトラッキング情報を使ったVR 合成、映像作品の収録などに活用されます。
「グリッドパイプと専用配線設備のおかげで照明がきちんと作り込めるようになったのも大きなポイントです」(岡氏)

スタジオサブ
試写室

スタジオサブにはさまざまなアイデアと工夫が

「スタジオサブはこの撮影スタジオだけでなく、リモート配信にも対応させています」と語るのはIIJ ネットワーク本部 xSPシステムサービス部 リードエンジニアの高田壮吉氏。そこには、IIJ が協賛し、配信をサポートしている『東京・春・音楽祭』が念頭にあります。「例年" 春祭" 用に、会議室に仮設でサブを作り、複数の公演会場とインターネット回線でつないでサブからリモートで配信していました。その機能を持たせています」
スタジオ内の映像、音声の伝送にIP 伝送を活用したシステム設計をしているため、従来の放送系スタジオ設備と比較して、配線ケーブルの量が驚くほど少なくシンプルな点がこのスタジオサブの特徴です。さらにスタジオサブの家具は、配線のやり直しなどが必要になった時に扱いやすい工夫がなされています。システム機器、弱電工事を手掛けたアソシアルの井上憲一氏はこう話します。
「最初の配線工事は私たちが行いますが、完成後はお客さま自身が行います。それを考えて、これまでいろいろな放送局の配線で経験した"ここがこうなっていたらありがたい"という要望を、佐藤さんと話し合ってサブデスク家具にアイデアを落とし込みました。おかげさまで最初の工事もすごくやりやすかったです」
その他、音声収録用に2 人が入れるアナウンスブースも完備されています。
「勉強会や新製品発表会で使う資料用に音だけを事前収録したいことが結構あるのです。今までは会議室で収録していて外音に悩まされていましたが、これからはこのブースが活用できますね」(高田氏)

控室
廃材を利用したマテリアルの壁面と蛇行する天井の照明が印象的なエントランス

ウッディな内装で居心地の良い空間に

試写室こそ「IIJ Studio TOKYO」の大きな特徴です。ウッディな内装でリビングルームのような居心地の良さを感じます。Dolby Atmos 再生にも対応させるために、拡散アイテムAGSと吸音フィラーをシェルフに収めた音響インテリア「Meleon」を壁全面に配置して、河野恵が発案当初から思い描いていた居住性のよさと音の良さの両立、意匠と性能のバランスが象徴的な試写室が完成しました。
「Dolby Atmos 対応だからといってかっちりし過ぎた部屋にはしたくなかったので、こういうインテリアを入れていただき、スピーカーも目立たない感じになりました。控室としても十分使えるおしゃれな雰囲気ですが、Meleon を動かしながら気軽に音場を変えてリスニングを楽しむこともできます」(岡氏)
控室は別にもうひと部屋あり、そちらもウッディな内装が特徴の居心地の良い空間になっています。2023 年度からは社内だけでなく外部顧客の利用も想定されている「IIJ Studio TOKYO」。最新設備を備えた機能性と居心地の良さを兼ね備えたこの空間から、新たなコンテンツが多数生み出されることでしょう。

アナウンスブース
303 MA
左からアソシアルの井上憲一氏、IIJ の岡淳一氏、日本音響エンジニアリングの河野恵と佐藤慎也、IIJ の高田壮吉氏

おすすめの記事