音空間事業本部 出口 公彦

多くの放送局ではデジタル化に向けてシステムの更新・改修が行われています。これに伴って、 老朽化したシステムの更新と同時に、移転計画が実施されることもあります。
ここでは、最近、首都圏で行われた、インターFM、文化放送、bayfmの3件の移転工事についてご紹介いたします。

1. はじめに

1996年4月に芝浦のジャパンタイムスビルに外国語FM放送局として開局したインターFMが、 本社機能の神谷町への移転に伴い、スタジオも新設しました。

開局時より、日本の従来の形態にとらわれないスタジオとして、ワンマンDJスタイルで運用をしていた同局でありますが、 今回の移転では、さらに大胆にその発想を転換して、都心のオフィス街の大通りに面したビルの1階という立地条件から、街の中に溶け込んだ、 NEWスタジオとして2007年4月、放送を開始しました。

2. スタジオの構成と特徴

スタジオは、前述の通り、ガラス張りのビルの1階という場所にあり、見えるスタジオとして「徹底的にガラス張りにしてほしい」 「曲面のガラスを使いたい」 というご要望があり、又、将来は、{コーヒーを飲みながら、生放送を聞けるRADIO STATION} として、 「CAFE」の併設を計画しオープンスペースを用意しています。
この結果、従来の放送局のイメージをまったく感じさせない放送局となっています。

今回は、スタジオ2室とマシンルーム兼SUB、編集室と編集コーナーで構成され、マスター機能は、 芝浦に残し、専用線でスタジオと結ばれています。
やはり斬新なアイデアが盛り込まれた生放送スタジオが最小限に納められたマシンルーム兼SUBを挟んで両サイドに配置されており、 オープンスペース(将来のCAFE)側は、ほとんどが、曲面ガラスとなっています。

開局以来のワンマンDJスタイルを踏襲した、小スペースの「第1スタジオ」は、道路側に配置されており、 街を行き交う人々や、信号待ちの車からもスタジオでの放送の様子が良く見える様に配置されています。
特注のDJデスクもガラスを使用して作製されており、こだわったデザインとなっています。

反対側の奥に「第2スタジオ」があり、マシンルームに設置された調整卓でコントロールを行い、 2マンでの放送を行っています。
このスタジオは、スタジオ内でのライブ演奏を意識した大きさになっていて、小編成のバンド等、生ライブの放送や収録が行える広さを確保しています。
この為、普段は、4人用のアナウンステーブルが設置されていますが、簡単に壁の中に収納できる様に、 折りたたみ式となっています。

こちらのスタジオも第1スタジオよりも更に大きな曲面ガラスで見通し良く開放されていて、 ライブの様子も十分に見て楽しむ事がでるスタジオになっています。
(もちろん、オープンスペース側でのライブ演奏についても考慮されています。)

写真1 ワンマンDJ用第1スタジオ
写真1 ワンマンDJ用第1スタジオ

写真2 折りたたみ式アナウンステーブル
写真2 折りたたみ式アナウンステーブル

3. 建築音響計画

新スタジオは、ビルの1階で、地下鉄日比谷線が前面道路下を走っている事から、通常では聞こえない地下鉄の音も、 放送用スタジオとしての静けさの中では、わずかながら、認識できる「雑音」となります。

計画の段階で地下鉄走行時の振動測定を実施して、音響仕様の検討を行い、旧スタジオでは採用されていなかった、 完全浮遮音構造を採用しています。

スタジオは、限りなくガラス張りにという御要望であり、更に曲面ガラスの採用となると、 室内に音の集点ができる事になります。室内音響を改善する為に、2重ガラス窓のスタジオ内部側のガラスは、多面体とし、 また上方に勾配を設けて天井で吸音をする様に計画しました。圧倒的なガラスと言う反射面に支配されているスタジオではありますが、 開放感を損なわない様、可能な範囲での音響的な処理の効果が充分に発揮されています。

電源としては、ビル側電源に絶縁トランスを経由して、音響用電源と一般用電源を区分し、音響用電源には、 小型のUPS(ラックマウントタイプ)で、停電対策をしたコンパクトな計画としています。

4. 見せるスタジオ

旧スタジオは、オフィスビルの7Fにという閉鎖された空間に設置されていました。しかし今回の新スタジオは、 都心の大通りに面したグランドレベルのスタジオになります。

「当然{見せるスタジオ}でなければ意味がない。」
この強いコンセプトから移転計画がスタートしています。
{見えるスタジオ}ではなく、{見せるスタジオ}です。

ラジオという音声で情報を伝える媒体ではありますが、インターFMでは、ビジュアルを最重視して、 今までにないラジオステーションを目指しています。

それらのアイデアを集約して誕生したこの新しいスタジオは、「インターFMの放送は、 ここから発信しています。」と十分にその存在感を主張しています。

スタジオ内の壁には、大型の液晶画面が設置されていて、CGにより変化する絵画や、時には、 PVの映像等を映し出して目も楽しませてくれています。
また、ステーションロゴやイメージを柱型いっぱいにデザインして表示し、 見せるラジオステーションの存在を地域の人々にアピールしています。

図1
図1

5. 最後に

計画開始から約2ヶ月、工事着工から1ヶ月間の猛スピードで行われた今回のスタジオ新設計画は、 その短い時間の中に濃密に集約されたノウハウとインターFM技術陣の苦労の賜物であると思います。

斬新なアイデアとコンセプトで計画されて誕生し、神谷町と言うオフィス街に、突然現れた見せるラジオステーション INTER FMの「NEW STUDIO」。

最後にこの計画に参加した各チームの技術力とたゆまぬ努力、協力、そして汗と知恵に感謝いたします。

写真3 第2スタジオの大型曲面ガラス
写真3 第2スタジオの大型曲面ガラス