音空間事業本部 嵯峨 寛人

1. はじめに

1952年より55年間、日本の放送局をリードしてきた文化放送が、このたび四谷の旧社屋の老朽化に伴い、 浜松町に新社屋を建設し移転することとなりました。
伝統的な聖堂や修道院のような旧社屋は、元来カトリック教会の放送局であったことがうかがえる重厚な造りの建物であり、 その存在感は神々しささえ放っていました。

今回新築した「文化放送メディアプラス」と名づけられた新社屋は、近年多く見られる総ガラス張りの建物とは異なり、 外壁は厚いプレキャストコンクリートで覆われ、質実剛健、硬派なイメージでまとめられています。しかしよく見ると、アンテナ塔のトラス造形やスリット状に所々使用されるカーテンウォールなど、 要所にこだわりのデザインが採用されており、教会のステンドグラスを思わせるやわらかさが感じられます。

浜松町駅から徒歩0分というロケーションは申し分なく、生放送が可能なスタジオを含む、本社機能のすべてを移転するということで、 文化放送のスタッフの皆様の新しいスタートへの熱い思いが伝わってきます。

  • 写真1 四谷旧社屋
    写真1 四谷旧社屋
  • 写真2 浜松町新社屋
    写真2 浜松町新社屋

2. スタジオの構成と特徴

新社屋は、地下2階、地上13階建てで、主なスタジオ機能は9階、10階に集約されています。 9階には生放送用のスタジオが4対(スタジオと調整室)、録音用のスタジオが3対。10階にはデジタル放送用のスタジオが1対と、 放送局の心臓部でもある主調整室とマシーンルームがあります。

また、12階には2フロア吹抜けの大会議室「メディアプラスホール」があり、13階のスタジオ、副調整室と組み合わせて使用することにより、 公開録音や試写会等、ちょっとしたイベントにも対応ができるようになっています。そして1階にサテライトスタジオの「サテライトプラス」、 集客スペースとして設けられた広場は、ステージを組んでライブ等を行うことができます。浜松町駅の改札を出てすぐということもあって、 新名所として注目のスポットになっています。

  • 図1 9階平面図とシールドライン
    図1 9階平面図とシールドライン
  • 図2 1階平面図とシールドライン
    図2 1階平面図とシールドライン

図3 10階平面図とシールドライン
図3 10階平面図とシールドライン

図4 12,13階平面図とシールドライン
図4 12,13階平面図とシールドライン

3. 電磁シールド計画

さて、そのような「文化放送メディアプラス」のスタジオ関連諸室の内装工事を当社で施工させていただくにあたり、 一般的なスタジオ工事とは別に電磁シールド工事もあわせて施工させていただく機会を得ましたので、ここでは主に電磁シールドについて述べたいと思います。

まず、周囲を見渡せば東京タワー、すぐ隣にはJRの線路にゆりかもめ、首都高速環状線、第一京浜、さらには羽田空港があり、 それらの発する電波がマイクやケーブルなどに乗って、放送されてしまうおそれがありました。そこで、建物全体の設計、 施工管理を行ったエヌ・ティーティーファシリティーズ様および元請である大成建設様により事前にその場所での電界強度の測定が行われました。 その測定の結果、シールド性能として-30dBを取れば、放送に支障の無い電界強度を確保できることが確認され、シールド工事の性能保障値が決まりました。

また、シールドの施工範囲として、前ページの図のようにスタジオをエリアで囲うことにより外来電波を遮断する計画となりました。
さらに海側に開けている部分には、なるべく窓を大きく取り、景色を見たい、光を入れたいというご要望と、 スタジオの出入りが頻繁にあるため、扉の開閉は簡易にしたいという2点のご要望をいただいておりましたので、扉と窓のシールド処理が施工上の要となりました。

4. シールド処理

各部に用いた施工方法と材料は、以下の通りです。

1) 天井
床デッキプレートの敷込み後、配筋する直前にすべてのデッキプレート同士、梁との取合い部、 インサートを打ち込んだ部分等、すべての隙間を導通性のある糊がついている特殊なテープで塞ぎました。

2) 床
床スラブコンクリート打設後、厚さ0.3㎜の亜鉛メッキ鋼板を100mm以上の重ね代を取りジョイント部分を@200mm以内で鋲止めしました。 床スラブの不陸等により亜鉛メッキ鋼板のジョイント部にやむおえず隙間ができてしまう場合などには、天井の処理で使った特殊なテープでしっかり押さえました。

3) 壁
石膏ボードの片面にアルミ箔を貼ったシールドボードを使用し、 1層目と2層目でアルミ箔同士が向き合うように貼ることでシールドボードのジョイント部分の隙間を処理をしない工法を採用しました。 出入隅および床、天井の取合い部にはアルミシートやテープで確実に接続しシールド層が途切れないようにしました。

4) 扉
防音性能とシールド性能を兼ね備えた鋼製扉を取り付けました。生放送スタジオエリアには引き戸式の防音シールド扉、 その他のエリアには、前述の要望である、開け閉めが簡単にできる構造ということで、通常使う締まりハンドルタイプとせずに押し棒式の片開き、 もしくは両開きの防音シールド扉を取り付けました。当社では引き戸については防音シールドの実績があったのですが、 押し棒式の防音シールド扉は実績がほとんど無かったため、試行錯誤の連続でした。
というのも、今までの締まりハンドル式の防音シールド扉であれば、ハンドルを閉めることにより、 確実に遮音のためのゴムやシールドのためのガスケットに接続できたのですが、押し棒式では、締め付ける機構がドアチェックのみとなり、 なかなかうまくいきませんでした。
最終的には遮音性能、シールド性能とも設計の保障値を満足することができたのですが、 機能性を考慮した防音シールド扉としての改良点を考えさせられることとなりました。

5) 窓
窓のガラスは遮音性能を満たすため、2重ガラスの気密タイプにしたのはもちろんのこと、 さらにシールド性能を確保するためにシールドフィルムをガラス面に張付け、鋼製枠との取り合いにはシールドガスケットを使用することにより、 性能を確保しました。
シールドフィルムは傷つきやすいため、2重ガラスの内側に張り込み、引渡し後に傷がついて性能が劣化することを防ぎました。
また、大きなガラス面に対しては、突き付けでフィルムを貼った後にジョイント部に帯状のフィルムを重ね貼りすることにより、隙間なく貼り込みました。

図5 扉の断面図とシールドライン
図5 扉の断面図とシールドライン

図6 窓の断面図とシールドライン
図6 窓の断面図とシールドライン

5. 最後に

今回のプロジェクトに際し、シールド、建具、ボード、ガラスの職人さん達と我々で、取合い部を常にチェックしながら、 電波という「見えない」、「聞こえない」敵と戦ってきました。
紆余曲折はあったにせよ、最終的には遮音、シールド共要求性能を満足することができ、無事に工事を完了することができました。

「文化放送メディアプラス」新築工事に協力してくださった、すべてのスタッフの皆様に感謝するとともに、 この場を借りてお礼申し上げます。浜松町の新名所として、その名に恥じないスタジオができたと思っています。

写真3 スタジオ1
写真3 スタジオ1

写真4 副調整室3
写真4 副調整室3