T邸オーディオルーム AGS導入

概要

TBSグループ12社の合併により2021年4月に誕生したTBSアクト。テレビ放送を中心に映像制作に関連する、技術、美術、CGなどあらゆる業務を担う日本最大級の総合プロダクションです。2025年2月、同社はDolby Atmos Homeに対応したMAスタジオを2部屋、新たに運用開始しました。

時代のニーズに対応した仕様

同社の持つ3つのポスプロ拠点の内、赤坂パークビルですでに稼働していた3つのMAスタジオに続き「MA-4」「MA-5」と名付けられた新MAスタジオ。
以前は編集室が3部屋あった場所に改築する形で作られました。その経緯を、TBSアクト ポスプロ本部 MA部 部長の小田嶋洋氏はこう語ります。
「3つの拠点の内1つが建物の老朽化もあり閉鎖されることになったため、代わりとなるスタジオを新しく作ることになったのです。日本音響エンジニアリングとは長いお付き合いで、現有のMAスタジオもいくつか手掛けていただいていますので今回もお願いする事にしました。近年、地上波やBSなどの放送に加え、Amazon Prime VideoやNetflixといったプラットフォームでの配信も増えてきています。こうした配信プラットフォームでは、通常のステレオに加え、イマーシブオーディオへの対応を求められるケースがあり、われわれもそれが作品の付加価値を高めるものであると認識していますので、Dolby Atmos Homeに対応したスタジオにしようと考えたのです」

MA-5
MA-4よりも小ぶりな作りのMA-5、小規模なMA作業や、サラウンドの事前作業を想定したつくりになっている。
MA-4のブース
MA-4のブース。コントロールルームとはカメラを通じてコミュニケーションをとります。

建築音響の重要性

音響的には、Dolby Atmos Homeに対応させるということもあり「定位が分かりやすいこと」が重視されました。音響調整の進め方について日本音響エンジニアリングの宮崎雄一はこう話します。
「われわれは、電気的な調整を行う前に可能な限りアコースティックな部分で調整します。こちらはセリフを扱う作業が多いとのことで、まずはセンター、フロントチャンネルの音作りについて共通認識ができるまで時間をかけ、部屋の形状に合わせ、スピーカー設置方法から始まり、吸音や反射の調整を行いました」
音響調整について、同じく日本音響エンジニアリングの崎山安洋が続けます。
「アコースティックの調整には時間がかかりますが、しっかり行うと音の細かい部分までが見えてきます。そうすると現場で収録された音がより自然に聴こえるので、ミキサーの方はそれをオンエアで伝えるためにどういう音作りをすれば良いのかが判断しやすくなる。それが作品の出来にかかわってくると思います」
この点について前出の真嶋氏も同意します。
「音響調整に立ち会わせていただいたのですが、建築的な調整により、だんだん音が良くなっていく、ディテールが出てくるのがはっきりと分かりました。調整前と調整後とで音が全然変わったので、その過程を見られたのは貴重な体験でした」

使い勝手を向上させるための工夫

Dolby Atmos Homeへ対応しながら居住性を確保する工夫もされています。日本音響エンジニアリングの重冨千佳子に聞きました。
「サラウンドのスピーカー配置で必ずと言っていいほど突き当たる問題ですが、後方のドアや、クライアントの方が座る場所の近くにリアスピーカーが来てしまうため、リアスピーカーは可動式にしてあります。スピーカー配置が変わる5.1chと7.1.4chとでそれぞれ適切な位置の床にボルトで固定できるようになっており、2ch作業の場合は壁の凹みに収納できるようにしています」
また、家具にも工夫が凝らされています。
前出の真嶋氏によると「コンソールのデスクをフラットにした」とのこと。
「コンソールはAvid S6を導入しました。弊社ではすでにS6を6式使っていて使用頻度が高いのですが、傾斜がついていると作業しづらいという意見があり、傾斜をデスクの中に埋め込む形でフラットにしていただきました。また、スピーカーの見通しを良くするため、ディスプレイを下げた位置に設置できるようデスクに段差を付けていただいています」
家具の設計を担当した重冨も「エンジニアの皆さんの使い勝手を細かく教えていただき、私も新たな発見がありました」と明かしてくれました。
今回のスタジオ作りをプロジェクトマネージャーという形で見てこられたTBSアクト ポスプロ部 メディアコネクト部の山下諒氏は「期待通りの出来」と語ります。
「私もかつてはミキサーとして働いていて、旧社時代から日本音響エンジニアリングとは何度もご一緒していますが、今回もいつも通りの素晴らしい仕上がりで、大変満足しています」新しいMAスタジオから生み出されるTBSのドラマやバラエティの音が楽しみです。

リアスピーカー
可動式のリアスピーカー。左から、不使用時(壁に収納)、5.1chの位置(120°)、7.1.4chの位置(145°)
デスク
コンソールの傾斜を埋め込み、フラットに使えるデスク。ディスプレイを低い位置に設置できるよう段差も付けられています
インタビューに答えてくださった皆さん
インタビューに答えてくださった皆さん。後列左から、日本音響エンジニアリングの中西祐太、宮崎雄一、崎山安洋、重冨千佳子。前列左から、TBSアクトの小田嶋洋氏、真嶋祐司氏、山下諒氏

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