テレビ東京・BSジャパン本社移転計画

音空間事業本部  葛西 信輔 佐藤 慎也 野澤 由香 渡會 健 田山 哲 崎山 安洋

SoundGraphy
フラッグシップとなる第1スタジオ。天井までの高さは15mにおよぶ。歌番組等の大型生放送や収録番組用に運用されている。10mを超えるホリゾント壁用のLED照明は国内初。

制作現場の原点

新本社スタジオ棟にはフラッグシップとなる面積約200坪の第1スタジオと、約100坪の第2スタジオがある。RC躯体を挟んで隣接する両スタジオ間の遮音、地下鉄南北線からの振動伝搬防止については、初期設計段階から日建設計様と共に慎重に計画し、着工前に事前測定を、RC躯体完成後で内装工事着手前に中間測定等を行い、段階を踏まえて確認しながら進めた。

第1スタジオにはローホリピットと高さ10mの三面ホリゾント壁、第2スタジオには高さ5.4mの三面ホリゾント壁を配し、音響的なフラッタリング対策として3度の上向き傾斜をつけ、天井面で吸音する仕上げとした。床についてはローホリピット構築のために、RC躯体から再度嵩上げコンクリートにて二次躯体を立ち上げ、その上に防振浮床を施工した。

防振浮床については防振性能だけでなく、クレーンカメラ撮影の際の揺れに配慮した仕様を検討した。躯体の剛性を高め、浮床の共振周波数より低い数Hzにおける躯体の揺れを抑えるため、二次躯体を含めた実物大モックアップを現場内に製作し、振動測定とカメラテストで揺れ具合を入念に確認した。最後に緻密なカメラワークの為の高精度な床セルフレベリングを打設した。スタジオの本質的性能に関わるホリゾント壁、床仕上げの最終検査には、制作技術部の皆様に何度も足を運んで頂き、実際の機材を使って、繰り返し確認を行った。

スタジオ撮影用照明設備は、全てのスタジオでオールLED化とし、大幅な省電力化を図り、空調負荷の大幅減少、省エネルギー、省スペース化を実現、高いパフォーマンス性を有した新スタジオが誕生した。

1.計画概要

2016年11月、株式会社テレビ東京・BSジャパン様(以下、TX様)は1985年より30年間放送拠点としていた港区虎ノ門から、港区六本木へ本社及び放送拠点を移転した。移転工事は旧IBM本社、旧六本木プリンスホテル跡地に計画された「六本木三丁目東地区第一種市街地再開発事業」内の入居工事として、開局から50周年にあたる2014年より着手し、約2年の工期を経て、これまで虎ノ門地区に点在していたオフィスと放送設備を地下鉄六本木一丁目駅へ直結するアクセスの良い場所へ集約し、業務効率の良い新本社となった。 設計は株式会社日建設計様、施工は大成建設株式会社様と弊社とで行い、弊社はスタジオ・サブ、MA、マスター、回線室、試写室等の放送・制作に関わる諸室の音響内装工事、空調設備工事(コストオン工事)、放送回線用ケーブルのルートづくり等の計画及び施工を担当した。

2016年6月、延べ2年間にわたる建築工事をすべて完了し、無事に各放送設備メーカー様へバトンを渡すことができた。制作現場を熟知するTX技術スタッフの皆様が、我々と真摯に向き合って頂けたことは大きな支えであり、我々自身も大きく成長することができた。また株式会社日建設計様、大成建設株式会社様の皆様の多大なご協力があったからこそ、この大きな責務を果たすことができた。2016年11月7日の新本社からの放送開始に向かって、一丸となって工事を進めることができたことを嬉しく思うとともに、この場を借りて深く御礼を申し上げる。

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①ホリゾントの塗装は施工段階から20台ものパーライトを使用して実際に壁面を照らし、各工程において都度確認をしながら、下地処理、仕上げ塗装を行った。

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②天王洲スタジオでの事前測定から仕様を検討し、浮床モックアップ試験では、二人歩行試験で設定性能以下であること、またクレーンカメラの揺れが許容範囲内であることを確認した。

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③床セルフレベリング打設後、ペデスタルを実際に転がし、床の平滑性のチェックを繰り返し行いながら修正を加え、精度を最大限まで高めた。

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④スタジオとサブをつなぐ重要な端子盤郡と配線ルートは、制作技術の皆様及び施工チーム全員が知恵を絞り実現した。

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⑤高い剛性をもつグリッド鉄骨上には、巻上機、滑車等が整然と並び、数多くの吊物用ワイヤーが通っている。

2.報道の最前線

オフィス棟高層階には、報道専用の第3スタジオと、情報番組やスポーツニュース番組を運用する第4スタジオ、隣接する各サブと関連するオフィスが一体となるようレイアウトされている。臨時ニュースなど目まぐるしく状況が変化する報道オフィスから、制作現場であるスタジオとサブへ直接行き来することが可能となっている。これら全てのスタジオ・サブ群はビル外部のガラスカーテンウォールに面しており、都心の外来電波対策として、床・壁・天井へ電磁シールド層を施工した上で、防振構造を構築しなければならない点は、地下の第1、2スタジオ、サブとは異なる。遮音・シールド区画に加えて防火区画ライン、さらに放送用ケーブルの貫通口、建具に窓を設けるなどの様々なアイディアを実現させる為、運用・性能・法規的な諸条件をクリアにするディテールを検討する過程では、幾度も壁にぶつかった。鉄骨造であるオフィスビル内でのスタジオ構築は、運用も含めて様々な制約があり、一つ一つ協議を積み重ねて進める必要があった。

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1サブ:フルデジタルの音声卓を設置

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第4スタジオ:撮影用照明調整中

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第4スタジオ:シールド層完成時

3.サブの照明へのこだわり

各スタジオ・サブと送出専用Aサブの計画においては、室内照明計画が特に重要であった。ディスプレイの映像に集中するためには余計な光が視界に入ってきては邪魔である半面、卓で様々な操作を行うためには手元が明るくなくてはならないからだ。

テレビ東京の天王洲スタジオと神谷町のスタジオを視察した際、ディスプレイに光がかからない、視界に光が入らないように照明器具には様々な手作りの細工が施されていることを目の当たりにした。我々は近年のLEDの進化とともに次々と良い照明器具が登場していることに目を向け、様々なタイプの器具や色温度・照度の異なる灯体をサブへ実際に持ち込み、制作技術部の皆様と試行錯誤を繰り返した。その結果、一般オフィス天井のようなシンプルな仕上りでありながら、長時間に渡るサブのオペレーションでストレスを感じない照明環境を作ることができた。

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神谷町サブ:シールド層完成時ダウンライト照明モックアップの様子

4.プレゼンテーションルーム

制作作品の発表を主目的とし、制作発表以外にも記者会見場や会議室等の多目的な利用が可能なプレゼンテーションルームがある。シネマスピーカーはJBL製でフロントに3-Wayスピーカー×3台、サブウーファー×2台、サラウンドスピーカーは壁面に合計10台設置した。今回は画質最優先で、音響透過スクリーンを採用しなかった為、高域補完用としてスクリーン上下にホーンスピーカーを2台設置した。室後壁には4K対応プロジェクターを設置、天井高さの限界まで雛壇の客席をつくった。天井には演出用照明を取り付け、これらの機器は室内や映写室から様々なシーンに合わせて室内照明と一緒にコントロールできるようになっている。さらにスクリーン面のスライディングウォールを閉じると、記者会見等の背景として使用できるようになっている。

隣室はコンビニと食堂、上下階はオフィスである為、相互に影響を及ぼすことの無い高い遮音性能を確保する必要があった。壁・天井仕上げの吸音層内部において、吸音と拡散のバランスを整え、スクリーン面は吸音性のソフトバッフルではありながら、ウーファー周囲については低域のパワー感が得られるように重量のある材料を使用するなど、音響的な工夫を凝らした作りとなっている。

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プレゼンテーションルーム:客席最上段から見たスクリーン面

5.統合マスター室

マスター室は放送設備移転に伴い、地上波のマスター設備とBS波のマスター設備が統合され、ガラスパーテションを挟んで各々のオペレーションスペースをシンメトリーに配置、宇宙ステーションの様な流線形レイアウトの統合マスター室が完成した。放送の心臓部であるマスター設備の移転はその他の設備の移転よりも大幅に時間がかかる為、先行する必要があり、本体工事の慌ただしさの中で、様々な業者間で緻密な計画を立て、工程を死守しなければならない緊張感が続いた。内装工事終了後も検証やテスト運用を繰り返し、あらゆる不測の事態を想定して準備を行っていた。

こうして迎えた2016年11月7日早朝、この新本社統合マスターから生放送が始まるとともに、TX様の本社移転計画は完了、新たな歴史がスタートした。

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マスター室:流線形レイアウトの家具と正面にモニタウォール

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MA2アナブース:撮影が可能な広いアナブース

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第4スタジオ:壁面に並ぶケーブルドラムや操作盤

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第1スタジオ

6.お客様の声

放送局の局舎は、特殊な仕様で騒音対策、防振、シールドなどで非常に高いスペックが求められます。

日本音響エンジニアリング様とは2012年4月から検討を進めて来ました。今回はテナントビルへの入居、首都高速の真横という悪条件での設計だったため、「本当にここにテレビ局を作れるのか?」と不安になることが何度もありましたが、事前の潜在電界測定や暗振動測定などをもとにした目標値の設定、各種シミュレーションを用いた形状の決定、その後詳細打合せでは我々では気づかないところまでの目配り、有意義な提案、的確なコストコントロール等で、「これはうまくいくな!」という確信に変わりました。

実際の施工では、事前のモックアップによるスタジオ床面の防振性能の検証を行ったり、十分といえない工期の中、ビル本体側工事との調整を行いながらの施工と、ご苦労は大変なものだったと想像します

結果的には、納期に遅れることもなく、すべてに渡り非常に満足のいく環境を構築して頂き、心から感謝しております。