都市部における航空機騒音調査 ─ 羽田新ルート計画案に向けた事前準備の例 ─

DL事業部 水野 貴宏 小橋 修

1.はじめに

2020 年東京オリンピックに向けて計画されている首都圏空港の機能強化を目的とした羽田新ルート案について、テレビや新聞などで話題にあがることが多くなってきました。新ルートを飛行する航空機を音源とした騒音の発生が予想される地域の自治体様からのご相談も日ごとに増してきています。特に飛行が開始される前にどのような準備をしておくべきかといったご相談が多いのですが、首都圏内といえども場所により状況が多種多様であるため、画一的な測定をお勧めするのではなく、状況に合わせた最適な提案をさせていただき、これを採用していただいております。今回は飛行開始前に実施しておくべき事前準備といえる、これらの提案のうち一部をご紹介します。

2.シミュレーションで騒音影響を把握

飛行開始前にどのような準備をするか検討するために最も重要なことは、航空機が計画されている飛行経路を飛行した場合にどの程度の騒音影響を受けるかを予め把握することです。騒音影響を把握できて初めて、調査対象とするべき地域の範囲や必要となる対策の程度を計ることができます。逆に想定される騒音影響を把握しないまま闇雲に対策検討を始めてしまい、結果として的外れ、あるいは過少・過剰な対策となってしまうという事例が残念ながらしばしば見受けられます。このような課題の解決方法として、騒音予測の技術を用いた騒音コンター図の作成をご提案しています。騒音コンター図を用いれば、飛行開始後の騒音影響のシミュレーション結果を地図上で把握することができます。


図1 騒音コンター図の例

図1に示す騒音コンター図は、B777-300が羽田空港C滑走路に向かって着陸した場合の最大騒音レベルのコンター図です。この図を作成すると、どの範囲にどの程度の騒音影響が及ぶか事前に把握することができます。この図は騒音影響範囲を表した結果例ですが、これと併せて「○○ビルの5階の騒音レベル」など、具体的な位置・高さでの騒音レベル予測結果が得られます。たとえば図1の場合、東京タワーの位置・大展望台(地上150m)と同じ高さの地点の騒音レベル予測結果は54.0dBでした(地上0mでは53.7dB)。このように地点毎の影響が予測できれば、実際に航空機騒音測定をどの施設で行えばよいのか検討がしやすくなります。

3.実測によって騒音状況を把握

新ルートによる飛行が開始された場合、付近の住民からはどれぐらい騒音が増えたのかといった問い合わせが来ることは必至でしょう。この問い合わせに対して回答するには、事前調査を実施し、予め比較対象となる飛行開始前の騒音状況を把握しておかねばなりません。このために行う調査の内容は、その地域において現状で航空機騒音が発生しているかどうかによって2種類に大別されます。

3-1.現状では航空機騒音が発生していない場合

この場合、総合騒音の測定を行います。総合騒音はある場所・時刻における総合的な騒音、つまりはある場所で発生するすべての騒音です。現状の総合騒音を測定しておき、飛行開始後に同じ場所、同じ条件で測定した総合騒音結果と比較すれば、その増分が航空機騒音の影響となります。測定結果の評価は時間帯別の「等価騒音レベルLAeq」や「時間率騒音レベルLAN,T」、「総合騒音Lden」(航空機騒音の評価において特有の時間帯補正を適用したLAeq)、総合騒音に対して航空機騒音が占めるエネルギーの割合(寄与率)など、複数の指標を使用して多面的に行います。


図2 総合騒音による比較の例

3-2.現状で航空機騒音が発生している場合

既に上空を航空機が飛行している場合、先の総合騒音を用いた前後比較に加えて、現状の航空機騒音の影響をしっかりと把握し、飛行開始前後で比較する必要があります。現在の都内における羽田空港離陸機の騒音レベルは一部の地域を除いて50dB?60dB程度と、暗騒音レベルから大きく卓越しないことがほとんどです。これは離陸後、海上で旋回しながら上昇し、6,000feetを超える飛行高度を確保してから陸域に進入しているためです。「航空機騒音に係る環境基準について」(環境省告示)に則ると、騒音評価対象とする航空機騒音は暗騒音から10dB以上卓越したものに限られます。このルールに則ると、現状都内のように暗騒音レベルが比較的大きな地域の上空を飛行している航空機はこの条件を満たさず、影響を評価することが難しいのが実状です。一方、住民からすると、聴感上認識できてさえいれば「航空機騒音」です。騒音の大きさは関係ありません。住民は「飛行開始前から航空機騒音は聞こえている」と認識しているにも関わらず、10dB以上卓越していない騒音を測定対象外としたために「飛行開始前に航空機騒音はなかった」という結論を導いてしまった場合、住民の感覚と測定結果に乖離が生じて、説明への誤解や信ぴょう性への疑問を持たれてしまう懸念があります。これまで関西国際空港や中部国際空港のような比較的航空機の騒音レベルが小さい海上空港周辺における調査では、この点に十分注意を払い、測定を行ってきました。この経験に基づき、都市部では、測定対象を暗騒音から10dB以上の卓越に限らない測定をご提案しています。

暗騒音から4dB卓越していれば、住民には航空機騒音の発生が特定できる程度で聞こえていると考えられることから、暗騒音から10dB以上卓越した騒音に限らず、暗騒音から4dB以上卓越した騒音を測定対象として測定を行います。この測定により、住民からより信頼される測定結果を得る事ができます。


図3 都市部での騒音発生状況の例

更に、暗騒音からの卓越が4dBに満たない航空機を含めた、その地域を通過する航空機を網羅するため、調査地点上空を飛行した航空機を全てカウントします。騒音が卓越しない航空機を捉えるため、騒音の発生回数から機数を数えるのではなく、航空機騒音自動測定器により対地距離測定電波という航空機が発する指向性の強い電波を捉え、測定地点を通過した機数をカウントしています。この測定により、騒音が発生したか否かによらず、航空機の通過機数を把握することができ、より住民感覚に近い測定結果を得る事ができると考えています。


図4 電波による飛行機数把握の例

この方法以外にも、羽田空港の場合は国土交通省の「羽田空港飛行コースホームページ」で航空機の飛行位置が公開されていますので、この情報を利用して通過機数をカウントすることも考えられますが、このページでは飛行高度が離陸機:10,000feet、着陸機:6,000feetを超えている航空機の位置情報は公開されませんので、全ての通過機を網羅するのは難しいのが現状です。他にもFlightRadar24等、比較的容易に飛行位置を把握できるシステムがありますが、こちらもシステムの性質上、全ての航空機が表示されるわけではないことに注意が必要です。これらの状況から、対象地域を通過する全ての航空機を確実に把握したい場合、電波による方法が現状では唯一の手段であると考えています。

4.最後に...

私どもはこれまで東京都、23区、千葉県浦安市、市川市、千葉市、神奈川県川崎市などの羽田空港周辺自治体が実施してきた航空機騒音調査に多数携わっているだけでなく、羽田空港を対象とした航空機騒音常時監視システムでシェアNo.1を誇っています。豊富な経験から得られた様々な知見を持っておりますので、今後皆様が実施される対策の一助になることができればうれしい限りです。