音空間事業本部 野澤 由香、崎山 安洋、広瀬 大輔、藤原 昂
はじめに
日本工学院専門学校の起源は古く、今から65年前の1947年、片柳鴻理事長によって設立された創美学園に始まる。
1976年7月に発足した専修学校制度に基づき、現在の日本工学院専門学校として開校。「最先端の学習環境提供と広く社会に貢献する豊かな人材育成」を教育理念に、幅広いスキルを得ることの出来る専門学校として、毎年数多くの卒業生を送出し続けている由緒ある教育機関です。
プロジェクト概要
この歴史ある学校で、最も古い校舎に設置されていた音楽スタジオ関連設備を、新たに増築された実習棟最上階に移設するのが、今回のプロジェクトです。これまで、旧スタジオ施設の新設から数度のリニューアルまで、弊社が担当させていただきました。今回のスタジオ新設も担当させて頂けたことは、大変意義があり、名誉なことでもあります。
新設スタジオフロアの平面形状が横に長いこともあり、動線の確保など、幾つかの制約もありましたが、大きくはスタジオ2室とコントロールルーム3室で構成されるスタジオフロアを完成することができました。スタジオAは、生き生きとした響きのある録音が可能な大きなライブフロア、および最新スペックでフル装備したコントロールルームを完備したスタジオです。スタジオB&CおよびコントロールルームB/Cは、MA作業やラジオ、アフレコなどに対応したスタジオです。あらゆるジャンルの録音作業に対応し、外部から来られるプロの講師の方々にも納得いただける、ハイスペックな施設として新設することが出来ました。
各スタジオは外部に面し、1室を除いて非常用進入口を兼ねた窓があります。遮音処理を施し、手入れの行き届いた校庭の四季折々の景観を望む事ができ、開放的なスタジオイメージで、リフレッシュにも最適です。
スタジオ全体の意匠デザイン・色彩計画などは、美術に造詣の深い片柳理事長と共に選定させて頂きました。イメージパースは理事長室で、仕上げサンプルは工事中の現場内で、幾度もご検討頂きました。その結果、イマジネーションの沸く、元気が出る、明るいスタジオに仕上がっています。
スタジオA
スラブ高の高い空間に配置した『スタジオA』は、メインフロアと3ブース(ピアノブース・ドラムブース・アンプブース)で構成されています。メインフロアは、ナチュラルなライブ感のある音場とし、バンド録音から小編成のストリングス録音まで対応できる空間になっています。トークバックスピーカーとしてGENELEC1037Bを設置し、以前は一般の大教室で行っていた多人数でのリスニング授業なども、このスタジオで行えるようになりました。建築完成後、メインフロア・ブース共に、各室の楽器に応じた最適な音場とするように細かいルームチューニングを行いました。
コントロールルームA
スタジオAに覗き窓越しに隣接する『コントロールA』。30人以上の大人数での実習に対応できる贅沢な空間に、細かい作業や音質面でのクォリティの高いアナログコンソールとしてSSL9056J5.1を設置。デジタルレコーディング作業には、業界主流のDAWシステム『ProTools』を設置。アナログコンソールの高音質とデジタルレコーダーの利便性、アナログ・デジタルの良さを両面から体験できる音楽録音の実習に対応しています。スピーカは2chステレオ用にGENELEC1034Bを、5.1chサラウンド用にGENELEC1032Aを5本と7071Aを1本配置しています。
後壁にはAGS(柱状拡散体)を配置することで、通常クライアントスペースとなる生徒着席スペースでも、ミキサー席と同等となるようにサービスエリアの広い音場になりました。
コントロールルームB
コントロールAとはラックルームを間に介して配置した『コントロールルームB』は、ProToolsを中心とした構成で、コンソールはD-Commandを設置。DAW・DTMを実践できる空間になっています。
メインスピーカはGENELEC1034B、建築的に設えたスピーカ台下部をラックスペースとして利用。コンピュータなど機材へのアクセスの利便性を追及しました。
コントロールルームC
MA作業・ラジオ番組制作・アフレコ実習など汎用性の高い『コントロールルームC』はコンソールにSSL9040J(40ch)、メインスピーカーにGENELEC1034を採用。スピーカは、オリジナルスピーカ台に設置。今後、時代や状況に応じフレキシブルに仕様変更できるコントロールルームになっています。
スタジオB&C
コントロールB、Cの間に配置され、両室からコントロールできる『スタジオB&C』は、ラジオブースやアフレコブースとしての使用、楽器演奏などさまざまなスタイルの利用が可能な空間となっています。
音響計画について
遮音計画については、今回のスタジオは、実習棟の最上階で中庭を臨む外壁に面しています。上階は屋上となるために、基本は下階の教室への遮音と外部との遮音、スタジオ間の遮音を重点的に検討しました。遮音構造は、コンクリート浮床の完全浮構造をとし、壁・天井は積載荷重も考慮し固定遮音層・浮遮音層とも乾式遮音構造としています。一番、大音量のモニター再生音となるコントロールルームAと隣接するコントロールルームBとはAスタ用のラックルームを介することで、高遮音性能(Dr-75)を確保しています。
音場計画については、計画段階で、ご担当の我妻先生に各室の使われ方、スタジオAの音場に関する要望事項を伺いました。スタジオAの音場については、リズム録りを主に、小編成ストリングス録りも可能な空間で、ある程度のライブ感があること。授業の際に、コントロールルーム以外にスタジオ側のメインフロアにいる生徒に対して、コントロールルームと同様な音を聞かせたいとのことでした。空室時の残響時間は0.4sec/500Hzとなり、目標とした音場とすることができたと思います。
グラフ : スタジオA残響時間
あとがき
映画や、最近では朝の連続テレビドラマの舞台にもなっている『蒲田』の町で、率先して変貌を重ねてゆく本校。弊社が最初に録音スタジオを施工してから今回の案件まで約30数年が経とうとしています。
前身の日本電子工学院時代には在校生や卒業生が東京オリンピックの実況中継NHK技術職員として、また現在の専門学校の形態になってからは、在校生がつくば万博へ研究成果として当時ただひとつのレーザーディスプレイシステムの出展など、その時代ごとに学生の活躍が取り沙汰される本校ですが、今回施工しました新しいスタジオ設備から、様々なスキルを得た若い人材が巣立ち、今後様々なジャンルで活躍してくださる事を楽しみにしております。
お客様の声
(使用されている生徒さんからのコメントです。)
- 綺麗だと思います!
明るい雰囲気で、明るい色を中心としたデザインの部屋なので長期間の作業にもあまり息苦しさを感じさせません。 - ブース内壁が木製で、ライトも間接照明に切り替えられるので、収録時の緊張が和らぎます。
- すごく綺麗なスタジオで、嫌な圧迫感がなくて使い易い。
- CR側は明るく、広く、綺麗でとても使いやすく、スタジオ側は個性的な響きがありアコースティックギターのレコーディングの時にアンビエンス用に立てたマイクの音を効果的に使うことができました。
- 広くて明るい感じでいいスタジオだと思います!
- 音が響くスタジオと響かないスタジオの両方があってうれしいです。特にスタジオAは音が響くので低音の迫力がすごい!また、窓があることで開放感があって気持ちよく作業が出来ています。