航空機騒音自動監視システムにおける地上騒音に対する取り組み

DL事業部 花田 健吾

1. はじめに

これまで「航空機騒音に係る環境基準」に定められた評価指標であるWECPNLにより航空機騒音曝露量を評価してきましたが、平成25年度より航空機騒音評価指標が改訂され、WECPNLによる評価からエネルギーベースのLdenによる評価に移行されます。評価指標の改訂に伴って、官公庁様においては地域類型の指定見直しや航空機騒音集計システムの更新等が活発に行われており、弊社では実測調査に基づいたLden予測(面的評価)やLden集計に対応したシステム構築・更新等の業務を多数受注してきました。

今回は平成23年度に国土交通省航空局(以下、航空局)様より受注・納品させていただいた航空機騒音自動監視システム(以下、ANOMS)の更新についてご紹介させていただきます。

航空局様は国が管理する12の特定民間空港(平成24年度より伊丹空港はANOMSから分離)を離着陸する航空機が発する騒音を常時監視し、一部の空港に設置された弊社製の離着陸監視装置や運航実績と、航空機騒音との照合を精度良く行い、一元的にこれらのデータ管理を行ってきました。ANOMSは福岡空港事務所に設置させていただいていますが、各空港事務所の担当者様が遠隔地より編集作業や帳票作成ができるようになっています。

今回のANOMS更新によって、これまで評価対象としていなかった、航空機が空港場内で発するエンジン試運転やタクシーイング、APU等の騒音(地上騒音)を適切に評価するため、福岡空港を対象として地上騒音自動検出機能を付加しました。

2. 地上騒音の評価方法(準定常騒音)

地上騒音の種類としては大きく2つあり、他の騒音源と明確に切り分けが可能で単発的に発生する騒音(単発騒音)と、長時間にわたって継続し、定常的であるがかなりのレベル変動を伴う騒音(準定常騒音)に分かれます。ANOMSにおいては、地上騒音として最も観測される準定常騒音に着目して機能構築を行いました。

図1に準定常騒音の観測例を示します。準定常騒音として観測された地上騒音を評価するに当たって、暗騒音+10dBを超える区間を積分した騒音暴露レベル(LAE)を用います(灰色の区間)。

図1 準定常騒音の観測例
図1 準定常騒音の観測例

3. 地上騒音自動検出機能の概要

地上騒音を検出するに当たっては幾つかのプロセスを踏みます。図2に地上騒音自動検出機能のシステムフローを示します。地上騒音を検出するためには、まず空港場内の地上騒音発生源を特定しなければなりません。その後、特定された地上騒音発生源情報を元に、空港場外の監視地点において観測された地上騒音を検出します。どちらのプロセスにおいても、図1に示されるような準定常騒音が観測される事が次のプロセスに進むための条件の1つとなります。詳細については次項以降で示します。

図2 地上騒音自動検出システムフロー
図2 地上騒音自動検出システムフロー

福岡空港における地上騒音発生源監視局及び地上騒音監視地点の配置図を図3に示します。図に赤丸で示された地上騒音発生源監視局は常時監視の固定測定点になりますが、青丸で示された地上騒音監視地点は本機能構築のために緩衝緑地帯に設置された短期測定点となります。

34LOC局は空港北側の滑走路端に近い位置に設置されていますので、滑走路進入前のタクシーイング音が主な地上騒音源となります。一方電源局舎局は目の前を通過するタクシーイング音や、駐機場でのエンジン試運転音、APU、ホバリング音等、多彩な地上騒音源が観測されます。

図3 地上騒音発生源監視局・地上騒音監視地点配置図
図3 地上騒音発生源監視局・地上騒音監視地点配置図
*背景地図データは国土地理院の電子国土Webシステムより抜粋
*赤丸が地上騒音発生源監視局、青丸が地上騒音監視地点

4. 地上騒音発生源の特定~音源探査識別技術~

地上騒音発生源を特定するために、図3の空港場内2箇所 に設置された地上騒音発生源監視局のデータを用います。

写真1、写真2に設置状況を示します。

写真1 34LOC局設置状況
写真1 34LOC局設置状況

写真2 電源局舎局設置状況
写真2 電源局舎局設置状況

中央に配置された大きな球体状の黒いセンサーが音源探査識別装置マイクロホン(以下、SBM)になりますが、本センサーにより全方位の音源を分離し、それぞれの音源到来方向、音源強度を特定する事が可能となります。なお、SBM以外にも、白い行灯型及び無指向性の電波受信アンテナ及び騒音計マイクロホンを備えています。

図4に全方位音源探査識別結果例を示します。左図が音源分布、右上図が方位角分布、右中央図が仰角分布、右下図が音源強度分布を示しています。黒い×点に着目するとセンサーの左下方向からの音源が到来しており、最も寄与度が高く、水平方向に移動している様子がわかります。まさにタクシーイングによる地上騒音が観測された例です。

図4 全方位音源探査識別結果例
図4 全方位音源探査識別結果例
* ○印が上半球方向からの音源、×印が下半球方向からの音源となる

全方位音源探査技術により、音源毎の仰角及び方位角がわかりますので、図5のように地上騒音源別に仰角・方位角範囲を設定します。なお、仰角は-90°~+90°、方位角は-180°~+180°の範囲内で設定します。例えば電源局舎局の場合、東側は通行量の多い道路に面しており、その方向から来た音源は自動車騒音等の除外音となりますので、方位角方向のパラメータ範囲に入らないようにします。また、上方向から来た音源も地上騒音ではありませんので、仰角パラメータの範囲から除外します。

準定常騒音が観測された区間で、予め設定した仰角・方位角の範囲内から音源が到来していれば、その音源を地上騒音発生源として特定します。

図5 地上騒音発生源の特定~仰角・方位角パラメータの設定~
図5 地上騒音発生源の特定~仰角・方位角パラメータの設定~
* 右図の背景地図データは国土地理院の電子国土Webシステムより抜粋

5. 地上騒音発生源の特定~対地距離測定電波~

もう一つ別の手法として、航空機が発する電波情報の一種である対地距離測定電波を用いる事によって、地上騒音発生区間の特定を行います。

本電波は、航空機が飛行中に自らの対地高度の確認や衝突防止等の目的で対象物との距離を計るために用いるものですが、空港場内でも同電波を発しているため、航空機が滑走路から駐機場へのタクシーイング中、あるいはその逆のアプローチで地上騒音発生源監視局付近を通過すると、騒音レベルの上昇と共に対地距離測定電波の電界強度も上昇しますので、この相関性を利用して発生源を特定します。

図6 騒音レベルと対地距離測定電波の相関関係
図6 騒音レベルと対地距離測定電波の相関関係

6. 地上騒音の検出

音源探査識別技術、あるいは対地距離測定電波により空港場内の地上騒音発生源を特定した後、図7に示すように地上騒音発生区間に拡張時間を持たせた時間範囲において、空港場外の地上騒音監視地点で準定常騒音が観測されていれば、その区間を地上騒音として検出します。ただし、地上騒音監視地点において、空港場内の発生場所を考慮し、照合対象とするか否かを判断します。図7の灰色で塗り潰された区間が地上騒音として検出された準定常騒音になります。離陸騒音を含む空港場内で発生した様々な航空機騒音が、空港場外において単発騒音やかぶり音として観測されています。

図7 地上騒音の検出
図7 地上騒音の検出
* 上図が地上騒音監視地点の騒音波形、下図が地上騒音発生源監視局の騒音波形となる

7. 地上騒音の検出結果

図3に示された空港場内の地上騒音発生源監視局付近に測定員が張り付き、自分の目と耳で地上騒音発生区間の特定・記録を行うと共に、ANOMSが算出した地上騒音発生源特定結果と比較しました。写真3に有人調査状況、また有人と自動の比較結果を表1に示します。なお、ビデオカメラを設置して空港場内の映像記録も行いました。

測定員の耳では観測できても実際は騒音レベルが暗騒音+10dBを超えていない地上騒音や、暗騒音+10dBを超えている区間の継続時間が30秒以下の地上騒音を除き、9割程度の精度で地上騒音発生源を自動で特定できていることが確認されました。

写真3 地上騒音発生源監視有人調査状況
写真3 地上騒音発生源監視有人調査状況

表1 地上騒音発生源特定結果
有人検出数自動検出数精度
272 243 89.3%

図3に示された空港場外の地上騒音監視地点設置状況を写真4、写真5に示します。写真の緩衝緑地帯において騒音計マイクロホン及び電波受信アンテナ等を設置し、騒音レベル及び実音データを記録しました。また、ANOMSにより検出された地上騒音と、地上騒音監視地点の騒音波形及び実音聴取により判定された地上騒音との比較結果を表2に示します。

空港北進入灯では地上騒音が全く観測されませんでしたが、電源局舎裏では100%の精度で地上騒音を検出する事ができました。

写真4 空港北進入灯騒音測定装置設置状況
写真4 空港北進入灯騒音測定装置設置状況

写真5 電源局舎裏騒音測定装置設置状況
写真5 電源局舎裏騒音測定装置設置状況

表2 地上騒音検出結果
測定地点精度
空港北進入灯 *1
電源局舎裏 100.0%

*1 空港北進入灯では地上騒音が観測されなかった

8. おわりに

今回は準定常騒音に着目して地上騒音を検出しましたが、空港場内で発生した地上騒音が場外の騒音監視地点で必ずしも観測されるとは限りませんので、地上騒音の検出には十分な検討が必要です。また、「航空機騒音測定・評価マニュアル(環境省 平成21年7月)」では、準定常騒音を検出する際、直前1時間の時間率騒音レベルであるL90もしくはL95を暗騒音として用いると記述されていますが、地上騒音は長時間に渡って観測される場合もありますのでマニュアル記載の方法では暗騒音を適切に評価できない可能性もあります。その他飛行騒音と地上騒音が重畳する場合のLAEの算出方法や、単発騒音も含めた地上騒音の自動検出方法等様々な課題に直面しています。これらの問題と向き合いながら航空機の騒音曝露状況を適切に評価できるよう、日々調査や研究を重ね皆様のニーズに沿ったより良いシステムを提案していきたいと考えています。

2月から3月にかけた残冬の寒さと地上騒音のうるささが身に染みる中、有人調査の野帳と映像を見比べて精度良く地上騒音を検出できるよう、システム調整を行うのは大変な作業でしたが、非常に意義深いシステムを納品させていただいたと自負しています。福岡は著者の出身地であり、地元の風土、豚骨ラーメン、もつ鍋が疲れた体を癒してくれました。

最後に、ANOMS更新に伴った基礎調査等に多大なご協力をいただくと共に、本記事への掲載をご快諾いただいた航空局様に深く感謝申し上げます。

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