進化する映画館の音響システム 23.1ch再生の映画館

ソリューション事業部 早川 篤、宮越 あゆみ

1. はじめに

2009年に国内の映画館で3D画像作品が公開された以降、3Dブームが到来しました。3Dテレビも発売され、ゲームも3D作品が登場しています。「映像の次は音?」という話題は数年前から耳にしていましたが、いよいよ2012年6月、東京都のシネマサンシャイン平和島に国内初23.1ch再生のImmSoundを導入した映画館が誕生しました。機器設置業者(株)ジーベックス様より、「部屋の影響が少なくなるように一工夫したい」「なんばパークスシネマに導入したシリンダー形状の吸音部材で何かできないか」とお声掛け頂き「23.1ch? それって何ですか?」と思いながら、一工夫させていただいた内容をご紹介します。

2. シネマの音場と着目点

ここでは23.1chの詳細について割愛しますが、スクリーン裏、天井、側壁、後壁に沢山のスピーカを振り分けて、より一層臨場感のある音響を再現しようというシステムです。今まで多くの映画館作りのお手伝いをさせていただいた中で述べ数十室のシアターで同じ試写フィルムを試聴する機会がありましたが、面白いことに部屋の寸法、客席数、仕上げ材、施工方法、映像音響機器種類、係わった技術者など全てが同じ条件であっても、実際に音を聴くと聴感上違って聴こえるという経験を幾度もしました。もちろん「聴こえが違う」ということで、「音の良し悪し」という比較ではありません。今回は新築工事ではなく部分的なリニューアル工事の為、残響時間や反射音のような空間全体の室内音響の特性ではなく音の一工夫としてサラウンドスピーカからの音の聴こえ方に着目し、作業を進めることにしました。

図1 シネマ側壁
図1 シネマ側壁

  • 図2 一般的なスピーカレイアウト
  • 図3 今回のスピーカレイアウト
  • 図2 一般的なスピーカレイアウト
  • 図3 今回のスピーカレイアウト

3. 試聴実験:音を聴こう

「音を聴いてみましょう」といっても既存の映画館を貸し切って実験することもできませんので、関係者の方々に弊社の試聴室にお集まりいただき、サラウンドスピーカ間の音響調整部材の有無によって聴感印象が変わるかどうか試聴実験を行いました。音源は動きのあるサンプル映像を採用しました。聴感印象として得られたキーワードには次のようなものがありました。

  • 音のつながり、広がり
  • スピード感
  • 音圧感
  • 包まれるような感じ

このような印象を再現するにはどうすれば良いのか? 実際の映画館ではどう聴こえるのか? サラウンドスピーカ間の音響調整部材を吸音タイプにするか拡散タイプにするか? など不確定要素は多々ありましたが、シネマの壁仕上げが吸音素材の化粧グラスウールボードであることや試聴実験の印象から、吸音材を用いて作成していた音響調整部材の表面に硬質部材をはめ込む事で反射タイプとし、サラウンドスピーカの寸法に合わせてシリンダー形状を加工修正しました。

  • 図4 側壁スピーカと音響調整部材
  • 図5 後壁スピーカと音響調整部材
  • 図4 側壁スピーカと音響調整部材
  • 図5 後壁スピーカと音響調整部材

図6 音響調整部材配置図 図6 音響調整部材配置図
図6 音響調整部材配置図

4. 音響実験:音を見よう

試聴実験の印象として、音響調整部材がある時はない時よりもより一層音に包まれた感じが強くなる事、また、スピーカ間の音のつながりが良くなる事などがあげられており、この感覚の違いを表現するために何種類かの実験を行いました。

4.1 実験(1) : ピンクノイズ発生時の音場の違い

音に包まれた感覚の違いを確認するために、音響調整部材のありなしで音場の違いを可視化しました。実験場所は試聴実験と同じ試聴室でスピーカを5ch分準備し、各スピーカから同じレベルでピンクノイズを発生させました。NoiseVisionを用いて音場を可視化した結果を図8に示します。音響調整部材ありの方がサラウンドスピーカ周辺の音源イメージに広がりが出ている事がわかります。このわずかな差が、音に包まれた感覚の差を表していると考えられます。

図7 測定配置図
図7 測定配置図

図8 NoiseVisionの分析結果(500Hz) 図8 NoiseVisionの分析結果(500Hz)
図8 NoiseVisionの分析結果(500Hz)

4.2 実験(2) : インパルス応答波形の違い

サラウンドスピーカ両サイドに音響調整部材ありなしの2条件でインパルス応答の測定を行い、反射音や減衰波形の違いを比較しました。音響調整部材ありの方が反射音の振幅が増加し、減衰波形の傾斜が滑らかな結果となりました。このわずかな差が聴感上の音の聴こえの違いとなって表れているのではないかと考えられます。

  • 図9 測定風景写真
  • 図9 測定風景写真

図9 測定風景写真

図10 インパルス応答波形
図10 インパルス応答波形

図11 500HzETP音圧レベル減衰波形
図11 500HzETP音圧レベル減衰波形

このように音響データのわずかな差が音の聴こえの違いに影響していると思いますが、定量的に表す事は難しく、今後の大きな課題と言えます。

5. おわりに

近年、ODS(Other Digital Stuff)、ライブビューイングと呼ばれる映画作品以外のコンテンツ(歌舞伎、オペラ、コンサートなど)を映画館で体感できる機会が増加傾向にあります。今回のような3D音響システムの普及によって、映画館は映画作品を観る空間という枠からもっと広い範囲での多目的空間として変わっていくのではないかと期待しています。課題は多々あるものの、今後もより良い3D音環境作りに向けて私たちも積極的に取り組んで行きたいと考えています。

最後に、国内初の3Dサウンドシアタープロジェクトに弊社にお声掛けいただきました(株)ジーベックス様、シネマサンシャイン佐々木興業(株)様には厚く御礼申し上げます。