戸田建設(株) 技術研究所新音響実験棟

音空間事業本部 矢野 辰巳 ソリューション事業部 松尾 浩義

1. はじめに

戸田建設創業130年記念事業の一環として、新音響実験棟は計画されました。既設環境棟に隣接することで、新旧実験室間の施設としての結合を考慮しました。

写真 新音響実験棟外観
写真 新音響実験棟外観

このプロジェクトに計画段階から参画させていただき、2012年6月に竣工しました。

2. 施設概要

音響実験棟は大型無響室、残響室、箱型実験室、測定準備室、ストックヤードなどで構成されています。1)

表 施設概要
無響室 内寸 10m×10m×8mH 吸音楔800L
残響室 内寸 6m×7.5m×4.5mH 拡散板調整
箱型実験室 A室、B室、C室の3室 吸音体調整

音響実験棟を計画するに当って、新しい試みを盛り込みました。それは以下のような目玉です。

  1. 無響室の試料開口付近に新しい試みを
  2. 試料交換を電車で行うという新しい試みを
  3. 無響室内の測定に大きなトラバースを

これらの試みを満たすべく、まず音響実験棟の顔である無響室と残響室の基本レイアウトが検討されました。他の実験室、移動装置などが加えられ、敷地内に収められました。

しかし、移動装置の稼動方法が変更になり、この移動装置を固定するエアシールの反力受けのため、無響室の構造も数案検討されました。断面計画、隣接研究所との遮音計画など、いくつもの要因を相互に検討するという気の遠くなるような作業を積み重ねて、やっとレイアウトが決定されました。生みの苦しみという経験をしましたが、このレイアウトを決めるまでが計画の醍醐味です。

また、周囲を建物に囲まれた敷地という条件で、仮設計画や工程を検討し、困難を極めた施工に英知が絞られました。弊社は基礎段階から先行工事に携わり、その一部始終に触れることができました。

図 音響実験棟レイアウト
図 音響実験棟レイアウト

写真 無響室
写真 無響室

1/3オクターブバンドノイズにおける逆二乗則特性は、規定以下の50,63Hzといった低域の周波数もJIS Z 87322)による許容偏差内に収まっています。やはり大きいことは良いことです。

また、省エネといった観点から照明器具にLEDが採用されています。従来LED照明は指向性が強く、この無響室の天井高さが約8mもあることから、照度不足とまぶしさが心配されましたが、充分に明るく見上げてもまぶしくない空間が得られています。交換は次の世代になることでしょう。

写真 残響室(拡散板調整)
写真 残響室(拡散板調整)

本残響室は矩形であり、拡散板を用いた調整を行っています。測定用開口など拡散板を吊れない箇所がありましたが、充分な拡散音場に近い空間が得られていることが確認されました。

また、拡散板を吊った状態でも、JIS A 14093)の規定残響時間を上回っています。

3. 新たな試み─無響室─

試料開口部に積み重ねた吸音楔は、遮音実験を行うときは取り除くことが出来ます。さらに、斜め入射音実験が出来るように、試料開口部だけでなくその周辺の吸音楔も取り外し可能なようにしました。吸音楔を取外した状態でも、グラスウール32k100tが残るようになっています。

吸音楔をかなり広い範囲で取り外し可能にした例はありませんので、取り外し方法を検討する必要がありました。考慮した条件は以下のようなものでした。

  • 可能な限り吸音楔の大きさは標準型にすること
  • 取り外し・再取り付けが比較的簡単なこと

以前、吸音楔にスピーカを埋め込むのに、ロープ式取り外し機構を使ったことがありましたが、広範囲に使うには現実的でありません。また、ビスと引っ掛け金具を利用したこともありましたが、取付に少し苦労しました。このような経験をふまえて、シンプル機構として吸音楔にフックを取付て、レールに引っ掛けるようにしました。

写真 試料開口部が閉じた状態
写真 試料開口部が閉じた状態

写真 試料開口部が開いた状態
写真 試料開口部が開いた状態

4. 新たな試み─移動装置─

ストックヤードに戸田電鉄が開通しました。

通常、残響室-無響室間の測定試料はその都度施工して、測定するということを繰り返します。施工期間がかかり効率的ではありません。そこで、測定試料をあらかじめ複数体施工しておき、この試料を残響室-無響室間に移動できれば楽になります。

最初は、簡単な移動式クレーンで測定試料を持ち運ぶことを計画しましたが、諸般の事情により、シンプルで確実な移動方法を検討することになりました。

毎週のように音響実験棟のレイアウトが変更になったのは、この移動装置との取り合いが主な原因です。関係者の皆様には多大なるご苦労をおかけしたことを、ここにお詫びいたします。

このような移動装置を施工したことは以前にありましたが、稼動方法などに新たな試みが必要となりました。シンプルな機構にするために、動力電源のみで稼動し、ワンボタンで容易に設定位置まで移動できるように検討を重ねました。基本的に移動装置は、試料開口を持つカセット車とそれを動かす移動台車およびカセット置場で構成しました。一番苦労したのは、残響室-無響室間へ移動する時の移動台車と躯体とのクリアランスが僅か20mmという条件でした。また、移動台車に載せるカセット車が端部に載るために、偏芯荷重による影響を検討しなくてはなりませんでした。

写真 カセット車と移動台車
写真 カセット車と移動台車

写真にように、カセット車の内1台はRC200を打設してあり、残響室-無響室間の仕切り壁として簡単に移動して使うことができます。また、このRCカセット車には600角の小試料開口が設けられており、通常は蓋で閉じています。

移動方法概要は以下の通りです。

  1. カセット置場で測定試料を施工します。
  2. このカセット車を移動台車へ移動させます。
  3. 移動台車で残響室-無響室間設定位置まで移動します。
  4. カセット車を、残響室-無響室間のプラットホームまで移動させます。
  5. エアシールにより固定します。

これで、音響透過損失などの測定準備が整います。

カセット車も移動台車もかなりの大型重量物なので、種々の安全機構が必要となります。詳細は割愛しますが、稼動方法との関係で、現場においてシーケンスプログラムを修正しながら検討しました。

このように、測定試料を電車で簡単に運ぶことが出来るようになりますので、まるで音響実験棟に電車が走っているような感覚です。

写真 移動台車
写真 移動台車

表 移動装置諸元表

項 目仕 様
カセット車有効開口寸法 3600W×3000H
カセット車積載許容荷重 6500kg
移動台車積載カセット車台数 1台
移動台車積載許容荷重 14000kg
カセット置場カセット車積載台数 3台

5. 新たな試み─大型トラバース─

残響室-無響室間のTL測定に代表される壁面の測定点だけでなく、無響室内で縦横無尽の位置決めを行うマイクロホントラバースには、多段式伸縮ポールを上下軸に採用した天井吊型を当初より想定していました。10mクラスのサイズも過去に製作事例がありましたので、全体構成を直交座標型とした案で進めることに大方固まりました。但し今回は室内有効高さが7.5m確保されていることと、拡散性能計測に代表される様なインパルス応答測定のための音源位置と受音点と同時位置決めを考慮することが必要です。結果的に弊社としまして初のダブル伸縮軸(音源用、受音用)を搭載した直交軸制御の大型トラバースを完成させることが出来ました。これにより、試料を載せたターンテーブルとの組み合わせであらゆる方向の反射応答を測定することが可能で、他にも様々な計測に対応できます。実は今回の無響室の逆二乗則測定時に受音点の位置決めにも利用してみました。狙いどおりに稜線方向の測定等も短時間に終えることが出来ました。結果も、有効上端近くに設置されたレールの影響を受けることなく良い特性が確保されています。

モータの軸数は8軸(9モーター)となり、制御はLANを経由したPC上より操作して行います。伸縮軸のケーブル巻取り部分も制御線と、計測用信号線を分けたダブルの復滑車を今回初めて採用しています。

表 トラバース諸元表
項 目仕 様
型式 天井吊直交8軸型
軸構成 マイクロホン5軸(左右、上下、前後、水平角、仰角)に、
スピーカ3軸(左右、上下、仰角)を連結
可動範囲 左右8m×上下3m×前後8m×水平角270°×仰角180°(マイクロホン軸)
左右8m×上下3m×仰角180°(スピーカ軸)
写真 トラバース
写真 トラバース

6. おわりに

音響実験棟の計画をお手伝いさせていただいたことは何度かありましたが、プロジェクトメンバーの熱意を改めて感じることが出来ました。毎週レイアウトが変更になり、その都度不可能を可能にするような、まるでプロジェクトXの中にいるような「ワクワク感」を何度も経験しました。新しい物をみんなで作り出すんだという熱い思いを共有させていただきました。ここに関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。

お客様の声

すばらしい実験施設を造っていただき、日本音響エンジニアリング関係者各位に深く感謝する次第です。大無響室の建設は当社の長年の願望でした。密に打合せをさせていただいた結果、殆ど手戻りなく工事を進めることができ、各種音響性能も所期の目標以上と十分満足いく結果となりました。日本音響エンジニアリングさんの豊富な経験、蓄積された確かな技術の賜物だと思います。よい施設を造るんだという皆さんの熱意を受け、竣工間際になって皆さんとお別れすることに一抹の寂しさも感じるほどでした。後はこの実験施設を活かすべく頑張っていかなくてはなりません。本当にどうもありがとうございました。

参考文献

  1. 土屋裕造、松岡明彦、山内崇、小林正明、“戸田建設新音響実験施設の音響特性”、日本音響学会2012年秋季研究発表会講演論文集
  2. JIS Z 8732:2000、音響-音圧法による騒音源の音響パワーレベルの測定方法 ─無響室及び半無響室における精密測定方法
  3. JIS A 1409:1998、残響室法吸音率の測定方法