DL事業部 水野 貴宏

1. はじめに

中部国際空港は2005年に開港した、伊勢湾上の海上空港です。名古屋市や、トヨタ自動車で知られる豊田市など大きな交通需要を持つ都市を圏内に抱え、また、利便性・経済性に優れ、「お客様第一」を旨とし、地域とともに発展する空港として多くの人々にとって馴染み深い存在となっています。

また、空港が周辺環境に及ぼす影響について可能な限り回避・低減を図るため、様々な環境保全対策を実施してきました。その取り組みの一環として、航空機騒音の常時監視及び定期監視調査を行い、周辺地域への騒音影響を調査するだけでなく、調査結果を広く公表することにより、周辺住民の方々の理解を求めてきました。

開港から7年が経過し、開港当初から使用している既存の航空機騒音常時監視システムの老朽化、及び平成25年4月から施行されます新環境基準への適応のため、システムの更新時期を迎えた折、弊社にお話を頂き、更新のお手伝いをさせていただきました。

2. システムの概要

既存システムから新システムへの更新においては航空機騒音常時監視測定局4局と中央処理システム、及び、セントレア旅客ターミナルビル内情報コーナーの情報公開用端末の機器更新、また、離着陸監視装置の新設を実施しました。

これまで中部国際空港では既存システムとして他社様製品を使用されていましたため、機器更新に際してお客様の使用感に大きな差異が出てしまわないよう、既存システムの機能、良かった点は可能な限り踏襲しながら、より容易に精度の高い判定を行うことができるよう、ご要望、ご意見を密にお伺いし、よりよいシステムを構築することを目指しました。

ここでは、今回導入させていただいたシステムの概要をご紹介させていただきます。

図1 新システムの概要
図1 新システムの概要

2-1. 航空機騒音常時監視測定局

今回、航空機騒音常時監視測定局(以下、測定局)に導入していただいた装置は弊社製航空機騒音自動測定器DL-100、航空機接近検知識別装置RD-90、航空機最接近検知識別装置RD-100、及び小型航空機音源探査識別装置SD-100です。これらの測定機器は弊社製品のうち、最新の組み合わせとなっており、測定に漏れが発生しないよう航空機騒音の可能性がある騒音を全て記録しながら、かつ、3種類の識別装置により、高精度で航空機騒音の自動識別を行うことを実現しています。

図2 航空機騒音常時監視測定局
図2 航空機騒音常時監視測定局

航空機騒音自動測定器DL-100は、省電力、省スペースを実現した、新環境基準対応の最新型の装置を導入しています。24時間365日の常時稼働性能や中央処理システムへのデータ送信機能を持ち、また、タッチディスプレイによる直感的な操作を可能としている装置となっています。

航空機接近検知識別装置RD-90及び航空機最接近検知識別装置RD-100は、航空機が発する電波を受信することにより航空機騒音を自動識別する装置です。

図3 航空機が発する2種類の電波
図3 航空機が発する2種類の電波

航空機は空港からの質問電波に応答する形で、トランスポンダ応答信号電波を発生させます。RD-90はこの応答電波を受信することで、その電界強度と騒音レベルの相関関係から航空機騒音を特定します。また、トランスポンダ応答信号電波には空港管制に必要な情報が含まれており、これを解析することで航空機の状態や機体固有番号等を得ることができます。

また、航空機が自機の現在の高度を確認するために真下方向に向けて発する対地距離測定電波を、鋭い指向性を持ったセンサーで受信する装置がRD-100です。この技術により、測定した電界強度の変化から航空機の最接近時刻を高精度で特定することが可能です。

図4 RD-90及びRD-100の原理
図4 RD-90及びRD-100の原理

中部国際空港のような海上空港では、着陸する直前及び離陸した直後の航空機は海上を飛行します。離陸直前及び離陸直後は飛行高度が低くなるため、内陸に位置する空港に比べ、発生する航空機騒音とその他(自動車騒音や生活騒音等)の騒音レベルの差が小さくなります。そのため航空機騒音の自動測定にとって課題となってきたのが、かぶり音の判別です。航空機通過時に発生した騒音を特定できても、同時にかぶり音が発生していたかどうかを自動で判別することができず、結果、あらかじめ実音を記録しておき、後で精査を行う等、人の耳に頼るしかありませんでした。小型航空機音源探査識別装置SD-100は、ある時刻に最大の強さを発していた音源とその到来方向を解析します。最大強度の音源が航空機騒音の到来方向と想定される方向にある場合に、航空機騒音として自動判別します。この技術により、航空機騒音発生時に地上からの自動車騒音等のかぶり音が発生していた場合、自動で集計対象から除外することが可能となっています。

また、図5のようにソフトウェアによって音源探査識別結果を可視化することにより、人の手でデータを精査する際にどちらの方向に音源があるか視覚的に判別することができ、容易に、精度の高いデータ編集を行うことが可能となりました。

図5 音源探査識別結果例 図5 音源探査識別結果例
図5 音源探査識別結果例

この例では左がセンサー南西方向から北東方向へ上空を通過した航空機、右がセンサー西側の地上を通過した自動車のデータです。円状のグラフ内部の青の点が上空から到来する音、赤の点がセンサー下方から到来する音を示しており、その下の棒グラフは音源の周波数分析結果、右側の3つのグラフは上から音源の仰角、方位角、音源強度の時間変化となっています。

2-2. 離着陸監視装置

離着陸監視装置DL-TLSは空港場内に設置した3つのセンサーで受信したトランスポンダ応答信号電波から、航空機の離着陸時刻を±2秒の精度で特定し、また、その際の離着陸の別、及び滑走路運用方向を分析し取得します。本来、航空機の離着陸時刻は、分解能1分単位の運航実績の情報によって得られるデータしかありません。DL-TLSを使用することによって、より精度の高い離着陸時刻を得ることが可能になり、中部国際空港を離着陸した航空機の騒音データの特定がより確実に、容易にできるようになりました。

また、このDL-TLSで取得した識別情報と測定局で取得した識別情報を照合することにより、中部国際空港の離着陸機を特定し、航空機騒音判定の精度を向上させます。

図6 離着陸時刻の自動判定原理
図6 離着陸時刻の自動判定原理

2-3. 中央処理システム

中央処理システムは、専用回線を用いて取得した測定局及び離着陸監視装置の測定データを分析し、また併せて、航空保安研究センター及び国土交通省航空局から取得した航空機の運航情報を用いて精査を行うことにより、高精度での航空機騒音の自動判定を実現しています。

航空機騒音の自動識別においては、前述の電波識別結果、音源探査識別結果に加え、統計解析手法を用いて騒音イベント毎に「航空機騒音である確率」を算出することで、人の手によって精査が必要となるデータを可能な限り減らし、作業の省力化を目指しています。

また、ひとつひとつのデータの精査を行う際に、最終的な評価量に与える寄与が大きなデータから順に確認できるようにすることで、人の手をかけて精査するデータをできるだけ少なくする機能を持たせています。

人の手、目、耳を使って精査が必要になるデータにおいては、精査を行うソフトェアのユーザインターフェースを工夫することにより、より容易に精度の高い精査を行うことが可能となっています。

精査に必要となるデータはシステムが自動で選択、表示します。表示されるデータは測定局及び離着陸監視装置のセンサーから得られたデータであり、ひとつとつの航空機騒音イベントに対して複数種類のセンサーから得られたデータを確認していただくことにより、多角的に、また直感的に精査を行うことができるよう工夫をしました。

ソフトウェアの操作方法に関しても、直感的でわかりやすく、また効率的にデータの編集が行うことができるようにユーザインターフェースを作成しました。また、ソフトウェアを操作する人の習熟度が上がるに従ってより迅速に、感覚的に操作が可能となるよう設計してあります。

実際に操作していただいたお客様からも「操作性が向上した」、「直感的に精査が行えるようになった」との評価を頂いております。

図7 ユーザインターフェース一例
図7 ユーザインターフェース一例

新システムでは、既存システムでも可能であった航空機の航跡情報の表示機能を、同様の操作感を持たせたまま、より柔軟にデータを抽出できるよう機能拡張した上で搭載しています。

機能拡張により任意の点の高度及び飛行位置や、同一便ごとの航跡の表示が可能となったことで、より詳細にデータ確認ができるようになったとの評価をいただいています。

図8 航跡情報表示機能
図8 航跡情報表示機能

3. 一般への情報公開

中部国際空港の新システムでは、航空機騒音常時監視測定局から送信されてくる測定データ及び航空保安研究センターから送信されてくる航空機の航跡情報をリアルタイムに処理し、その情報をまとめた上で、中部国際空港の公式ウェブページ"セントレアWEB" 内にてほぼリアルタイムに一般向けに公開しています。

このウェブページでは「現在の騒音レベル」として、直前10分間の騒音レベルの推移や航空機の飛行状況を動画及びグラフ形式にて表示しています。また同様に「過去の騒音レベル」として当日の30分前から10日前までの騒音レベルと航空機の位置を示した動画を30分単位で任意に表示させることが可能となっています。

図9 一般公開動画一例
図9 一般公開動画一例

図10 騒音レベル推移グラフ一例
図10 騒音レベル推移グラフ一例

これまでの同種システムには、羽田空港における飛行コース公開システム等が挙げられますが、同システムにおいては原則翌日の一般公開となっており、ほぼリアルタイムで公開するのは本システムが日本初となります。

今回、このような航空機飛行状況の一般公開を可能とした背景には、国の情報公開に向けた取り組みの一環として、航空保安研究センターが実施している航空交通情報サービスを活用していることが挙げられます。本システムでは、このサービスを利用し、中部国際空港を離着陸する航空機の飛行状況や空港気象データ等を取得しています。

保安上の観点から、航空機の位置情報を一般に公開することは許可されていませんでした。今回、航空交通情報サービスを利用して、公開が許可されているデータから一般公開情報を作成することにより、航空機の詳細な飛行状況をほぼリアルタイムに公開することが可能となりました。

また、同ウェブページ内では、各測定局で測定した航空機騒音の測定結果を日単位及び月単位でまとめた表を公開しています。この情報は航空機の自動判定結果を基に、人の手によって詳細まで検討が行われた集計結果となっており、空港周辺地域に対する航空機騒音の曝露状況を継続的に確認することができます。

これらの一般公開情報は中部国際空港内の旅客ターミナルビル1階にあるセントレア情報コーナーに設置した情報端末でも公開しており、セントレアを訪れた空港利用者が自由に閲覧できるようになっています。

図11 セントレア情報コーナー
図11 セントレア情報コーナー

4. おわりに

今回、航空機騒音監視システム全体のリプレイスという機会をいただき、お客様との活発な意見交換を基にした検討を重ねた結果、高評価を頂けるシステム構築が達成できたと自負しております。中部国際空港株式会社担当者の神田様には多大なご協力を頂きました。この場を借りてお礼申し上げます。

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