遮音だけではない、忘れがちで実は重要な部屋の響きの問題

音空間事業本部 佐古 正人

楽器練習室に求められる条件とは

楽器を練習する部屋に求められる条件は、周囲に気兼ねなく、存分に演奏でき、音楽を楽しめる空間であることだと思います。その為には、周囲に迷惑をかけない遮音(防音)性能や、外部の騒音が入ってこない静けさが必要です。また、演奏していて居心地がよく、音楽を楽しめるよい響きであることも重要になります。私たちは40年間、プロユースのレコーディングスタジオから、個人のお客様のピアノ室まで様々な種類の音の用途の部屋を設計施工してきました。そんな中、楽器練習室に必要な要素とは何か、楽器演奏が楽しめる空間はどのような部屋か、ということを日々考えておりました。今回はお客様の立場にたって、楽器練習室はどのようにして造れば良いか、そして楽器練習室に求められる条件とは何かについて説明していきたいと思います。

ピアノ等楽器練習にも対応しているミニホール
ピアノ等楽器練習にも対応しているミニホール

計画開始のタイミングは

楽器練習室を造るきっかけは、自宅の新築や新しいマンションに引っ越すときなどではないでしょうか。またその際にはどこに依頼すればよいか、ということにも悩まれると思います。新築の場合は、住宅メーカー様や設計士様に相談するかもしれませんし、楽器を購入している楽器店に相談する方もおられるかもしれません。また、お友達などの口コミで、相談先を見つける方もおられるでしょう。その様な中で、最も適切で、結果として費用的にも的確な提案、アドバイスが出来るのは、私たちのような建築音響専門会社です。

また、私たちが計画に参加するタイミングですが、出来るだけ早い方が良く、特に新築の場合など、建物本体工事を担う住宅メーカー様や設計士様と、早い段階で引き合わせていただくことも重要になります。全体の部屋の配置や、近隣との関係、外装材の選定などにおいて、私たちから建物本体の設計に対して音響的な観点からアドバイスが出来るので、結果的に総額の工事費が安く出来るケースもあるからです。そのため、ラフプランの段階から参加させていただくことが理想的と考えております。

生活に溶けこんだ楽器練習室
生活に溶けこんだ楽器練習室

ご要望確認、周辺の環境は

最初に私たちがお客様に取材することは、演奏する楽器、演奏する可能性がある楽器、使用時間帯、使用頻度などです。次に、周辺の環境の把握も行います。静かなのか、交通騒音などはあるのか、近隣とは隣接しているのか、離れているのか、用途地域は何か、などになります。また、現在楽器練習室をお持ちの場合には、その環境での問題点や不満なところ、逆に満足しているところなども確認させていただきます。

アンサンブルも可能な広さの楽器練習室
アンサンブルも可能な広さの楽器練習室

まずは遮音、またそのポイントとは

その様な諸条件を考慮して、私たちは最初に部屋の用途に合った遮音性能(防音性能)を検討することからはじめます。初めに、要望確認よりお聞きした楽器の種類などから、音源の条件を考えます。ドラムやエレキベースのような重低音が出る楽器もあれば、弦楽器など様々な種類の楽器がある中、それぞれの音量や周波数帯(音の高さ)と周辺の音(騒音)環境も考慮し、遮音目標を設定して、目標の遮音量(防音性能)を確保できる仕様を提案していきます。

マンションなどの集合住宅にも楽器練習室は設置できます
マンションなどの集合住宅にも楽器練習室は設置できます

この仕様提案において、ある一定以上の遮音量の確保が必要となり,それを実現するためには、周囲の建築物から、床、壁、天井とも縁を切った、浮遮音構造が必要となってきます。さらに、この浮遮音構造の考え方にも数多くの種類があり、それらをどのように組み合わせ、採用していくかは、豊富な経験や、実績に基いて検討していかなければなりません。よく雑誌などで、浮遮音構造のことを、ルーム・イン・ルームとよんでいる記事がございます。私たちがその内容を読み、よく感じることは、このような仕様で本当に大丈夫だろうか、ということです。私たちの経験や実績から考えた場合、あまりにも適切ではない仕様が良く見受けられるからです。過剰な提案は当然必要ないのですが、私たちが考える場合、音源の情報から、どのような仕様が良いか(床はコンクリートか、板材なのか、壁はブロックなのか、石膏ボードなのかなどです。)、使用する防振ゴムの種類、配置などを入念に計算して、最も適した浮遮音構造を提案しております。この浮遮音構造を採用すると、2重で床、壁、天井を造るのみならず、実際に" 浮構造" を実現するためには熟練職人による入念な施工が重要となります。また、その分部屋の有効スペースも小さくなりますし費用もかかります。しかし、周囲に気兼ねなく演奏できる、お客様の本当の安心と信頼を得られる部屋を提供している、と常に自信をもって提案しております。

計算によりピッチ、種類を考えて適切に配置される防振ゴム
計算によりピッチ、種類を考えて適切に配置される防振ゴム

遮音だけではない、忘れがちで実は重要な部屋の響きの問題

遮音(防音)が満足できても、部屋の響きのクオリティが部屋の良し悪しを決定する、といっても過言ではないと私たちは考えています。練習も含め楽器演奏では自身の発している音を聞いて演奏しています。自身の音を聞くことは、演奏が上手くなるかどうかにもかかわる、大きな要因でもあると考えるからです。なにより、演奏していて音楽を楽しめ、気持ちよく弾けるかどうかは、心理的にも、絶対的な上達要因ではないでしょうか。そのような心地よい、質の高い響きこそ、楽器練習室に必要であると考えています。普通は空間が大きくなればなるほど、響きは長くなります。また、防音性能が高い小さな密封空間では音が飽和して、響きが長く歪んで聴こえてしまいます。響きが長すぎると明瞭性もなくなります。そのため従来は、厚手のカーテンを設置したり、吸音材を壁や天井に貼り付けたり、カーペットを置くなどして、音(響き)を吸うという考え方(吸音)が主流でした。しかし、こうした吸音は高い音にしか果しかありません。そのため吸音したのに相対的に低い音が長く聴こえ、いっそう響きのバランスの悪い環境になってしまいます。さらに、まだ、何か音が残っているので、吸音材を増やしてしまうと、ますます状況は悪化してしまいます。

小さい部屋でもAGSで響きの改善が可能
小さい部屋でもAGSで響きの改善が可能

このような部屋の響きの問題に対して、従来は吸音と反射の配分で響きの制御を試みてきましたが、これでは響きの量の調整のみしか出来ず、質の高い響きをもたらすことは困難でした。そこで、私たちは響きの質を調整する手段として、新しいルームチューニング機構Acoustic Grove System - AGSを開発しました。響きを歪ませる壁がなく理想的な音響空間と言われている森の音場に着想を得て開発したもので、小さな空間でも抜けが良く、響きが美しく心地よい音場を再現します。お客様から下記のような評価をいただいております。

いろいろなピアノを指弾し、音を聞き分ける空間に採用されたAGS
いろいろなピアノを指弾し、音を聞き分ける空間に採用されたAGS

  • 響きがあるのに音がはっきり分かる
  • 連続した音がだんごにならず、一つ一つ明瞭である
  • 音の伸びが心地よく、演奏が上手くなったと感じる
  • 逆に、ありのままの音なので、ミスもはっきり分かる
  • 今まで聞こえていなかった音が聞こえる
  • 楽器の値段がワンランク上がったような効果がある
  • 狭い部屋なのに閉塞感を感じない
  • いつもはコンサートホールの響きを想像しながら練習していたが、自宅でもホールと同じタッチで練習出来る
  • 長く弾いていて疲れない逆にいくらでも演奏できそうだ

など、多くのお言葉をいただいております。

終わりに

私たちはこれまでに様々な音の部屋の設計施工に携わらせていただきながら、数多くのプロの楽器演奏者の方から部屋の響きについて大変重要なお話を伺ってきました。特に印象に残っているのが「演奏は自分の音がただ鳴っているな、ではなく、音を聞くことが重要である。」、「音を聞けないと、絶対に上達は無い。」というお言葉でした。

楽器を演奏するのは、アマチュアの方から、プロの方まで様々なレベルの方がおられるかと思いますし、演奏に対する情熱や、音楽に対する思いも人それぞれ異なるとは思います。私たちは、気兼ねなく演奏できる遮音の確保も当然のことながら、質の高い響きの部屋を提供することにより、楽器練習室で演奏・練習されるお客様に喜んでいただき、少しでも技量向上のお役に立てるお部屋をご提供していけるようにこれからも努力を続けていきたいと考えております。

当社の実験室サウンド・ラボラトリーにピアノを入れての響きの評価実験風景
当社の実験室サウンド・ラボラトリーにピアノを入れての響きの評価実験風景

本稿でご紹介しましたAcoustic Grove System(AGS)の効果をご自宅で体感できる製品、SYLVAN及びANKHは、ご用命があれば、無料でご自宅でのデモが行えます。

お問い合わせは下記にお願いいたします。

【お問合せ】

TEL : 03-3634-7567 FAX : 03-3634-5735
e-mail : ags@noe.co.jp
担当 : 音空間事業本部 山下・佐古