騒音対策事業部  青木 雅彦

1. はじめに

敷地境界の騒音は規制基準以下でも、近隣から騒音が気になるとご指摘をいただくことがあり、その場合は特定の音色の騒音が聞こえて問題となっていることがあります。今回はそのような騒音の対策事例をご紹介させていただきます。

2. 騒音調査の実施

ある施設が竣工後に近隣の方から騒音が気になるとのご指摘がありました。民家に近い敷地境界付近の駐車場で騒音を測定したところ夜10 時から朝6 時までの騒音は概ね45dB 以下で、規制値50dB を下回っていました。(図1)

図1 騒音レベル変動の測定結果
図1 騒音レベル変動の測定結果

ただし敷地境界付近の周波数特性を1/3 オクターブバンドで分析したところ、160Hz に騒音のピークがありました。(図2 の赤いライン)また、聴感上でも特定の音色の騒音が聞こえていました。そこで詳細なFFT 解析による周波数分析を行ったところ、図3 に示す174Hz の騒音が卓越していることがわかりました。

図2 騒音の周波数分析結果(1/3オクターブバンド)
図2 騒音の周波数分析結果(1/3オクターブバンド)
図3 騒音の周波数分析結果(FFT 解析)
図3 騒音の周波数分析結果(FFT 解析)

過去の弊社の事例から、特定の周波数の騒音ピークが苦情原因となっていたことが多かったため、この160Hz(174Hz)が騒音問題の原因である可能性が高いと判断し、騒音源を探しました。しかし多くの設備機器が設置されている屋上や、機械室の騒音が伝搬しているドライエリア等を測定しましたが、同じ周波数のピークを持つ騒音源は確認できませんでした。(図2)

3. 振動調査の実施

特定の周波数の騒音にピークがある場合、回転系の設備が原因となっているケースが多いため、改めて振動測定を実施し、同じ周波数の振動が卓越している設備を探しました。騒音測定は空間で行うため、多数の騒音源があるとそれぞれの発生音が重なり、特定の周波数のピークが分かりにくいことがあります。しかし振動測定ではセンサーを直接機器本体やダクトにマグネット等で設置できるため、個別の設備の卓越周波数を確認しやすい場合があります。振動測定の結果、当初想定していなかった建物上層階にある機械室の排気ファンから174Hzの振動と騒音が発生していることがわかりました。この排気ファンを停止したところ、敷地境界の騒音のピークが消えたため、この排気ファンから発生した騒音がダクト、ガラリを経由して屋外に放射し、敷地境界まで伝搬していることがわかりました。

4. 対策の目標値

排気ファンの騒音がガラリから屋外に放射されていたため、排気ファンとガラリ間のダクトにサイレンサを設置する対策を検討しました。敷地境界の騒音は規制基準以下であったため、対策目標値の設定にあたっては、160Hz(174Hz)の騒音低減を検討しましたが、一般にサイレンサの減音量は1/1 オクターブバンドで設計します。そこで125Hz の騒音を15dB低減できるサイレンサを検討しました。125Hz で減音量を設定すれば、160Hz(174Hz)では同等以上の減音量が期待できます。またこの目標値については、過去の対策事例等を参考に、この程度ピークの騒音を低減できれば、その周波数の騒音は目立たなくなり、騒音問題は解決すると判断しました。ただしこの目標性能を実現するためには、ダクト経路等から1 台のサイレンサではなく、2 台のサイレンサを組み合わせる対策を検討しました。サイレンサの設置計画を図4 に示します。

図4 サイレンサの計画図(2 台の組み合わせで計画)
図4 サイレンサの計画図(2 台の組み合わせで計画)

5. 対策工事と効果の確認

図5 2台のサイレンサの施工
図5 2台のサイレンサの施工

2 台のサイレンサ施工後に効果を確認する測定を実施した結果、図6 に示すとおり、排気ファン稼働時と停止時の160Hz(1/3 オクターブバンド)の測定値は同等となり、聴感上でも特定の音色の騒音は聞こえなくなりました。またFFT 解析でも、対策後は174Hz の周波数のピークが消えており、対策効果を確認することができました。(図7)

図6 対策前後の敷地境界付近の騒音比較(1/3 オクターブバンド)
図6 対策前後の敷地境界付近の騒音比較(1/3 オクターブバンド)
図7 対策後の敷地境界付近の騒音分析結果(FFT 解析)
図7 対策後の敷地境界付近の騒音分析結果(FFT 解析)

6. おわりに

後日関係者の方より、近隣の方も気になっていた音が消えたと喜んでいただいているとのご連絡をいただきました。測定値では対策効果を確認していましたが、ご連絡をいただいて改めて安心しました。
今回の騒音対策にあたっては、調査・設計・製作・施工で多くの方にご協力をいただきました。ここで改めて関係者の皆様に心より感謝申し上げます。

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