工場・事業場の騒音シミュレーション

ソリューション事業部 青木 雅彦

1. はじめに

工場・事業場等の騒音対策をシミュレーションで検討させていただくケースが増えています。私たちは自社で開発した騒音予測ソフトウェアGeoNoiseでさまざまな騒音状況をモデル化して検討してきました。今回はお客様からよくいただくご質問にお答えしながら、シミュレーション業務の事例をご紹介させていただきます。

  • 図1[騒音伝搬予測例・平面]
  • 図1[騒音伝搬予測例・断面]
  • [騒音伝搬予測例・平面]
  • [騒音伝搬予測例・断面]

図1 GeoNoiseを使った騒音伝搬シミュレーション例

2. シミュレーションでどこまで検討できる?

さまざまな騒音対策の効果がシミュレーションで事前に予測可能です。防音壁、外壁や屋根の防音性能を上げた場合の効果、給排気口に消音器を設置したり、配管やダクトをラギング(防音材で被覆)した場合の効果を推定することができます。室内の壁や天井に吸音材を施工した場合の効果も事前に予測することができます。

3. シミュレーションで検討できないこと

屋外に騒音が伝わる場合、距離が遠くなると風向・風速、地上と上空の温度差の影響が大きくなりますが、これらの気象条件の影響を考慮した予測は、現時点ではまだ実用的ではありません。これは地上から上空までの詳細な風向・風速・温度の分布データが入手できないことが主な原因です。

また、敷地境界近傍に植栽、植樹帯を設置した場合の効果の予測もまだ実用的ではありません。これは植栽についての実用的な減衰データがないためです。

4. シミュレーションの予測値を保証できる?

シミュレーションで対策案を検討しながら、お客様とお打合せを重ねることで最終案を詰めていきます。対策案の仕様が決まると、お客様からシミュレーションでの予測値を保証できるかとご質問をいただく場合があります。通常、私たちは保証はできないことをお伝えします。これはシミュレーションの誤差を考慮した検討が難しいためです。例えばすべての騒音源から同時に騒音が発生している現場の調査結果を基に、個々の騒音源をモデル化することによる誤差があります。さらに、騒音伝搬経路上での透過・反射・回折状況をモデル化する上での誤差もあります。もちろん一定の安全値を見込んだ上で予測値を保証する方法もありますが、その場合は対策案の仕様が過剰になる可能性があります。

5. シミュレーションは信頼できる?

シミュレーション結果の信頼の程度は騒音状況によって変わります。騒音源の数が少なければ、予測の精度は高くなります。実際の工場等では数多くの騒音源があり、また各騒音源の発生音のレベルは必ずしも一定ではありません。そのような複雑な状況をシミュレーションで完全にモデル化することは不可能です。ただし、今までに数多くの騒音状況をシミュレーションで検討してきましたが、予測値と測定値のレベル差は概ね数dB程度以内でした。また、大変有難いことに多くのお客様からリピートのオーダーをいただいています。これらのことから判断して、シミュレーションは十分実用的なレベルであると考えています。

図2 シミュレーション値と測定値の比較例
図2 シミュレーション値と測定値の比較例

6. 事例のご紹介

ではGeoNoiseを使ったシミュレーションの事例をご紹介させていただきます。なお、お客様との守秘義務があるため、実際の業務で検討したモデルを修正してご紹介させていただきますのでご了承ください。

(1) 某工場の騒音シミュレーション例

図3の左側の図の赤い点が音源の位置を表示しています。屋根などの面から騒音が放射される場合は、一定の大きさに屋根面を分割し、各面の中央からその面積分の騒音が放射するように設定します。また、緑色等の線は音源から予測点までの騒音の伝搬経路を示しています。色により直接音、反射音、回折音を区別することが可能です。この経路図により、音の伝搬経路を確認しながら、対策箇所を検討することが可能です。騒音の伝搬状況のシミュレーション結果はさまざまな角度から表示することが可能です。

  • 図3[騒音伝搬予測例・経路]
  • 図3[騒音伝搬予測例・鳥瞰]
  • [騒音伝搬予測例・経路]
  • [騒音伝搬予測例・鳥瞰]

図3 GeoNoiseを使った騒音伝搬シミュレーション例

(2) 防音壁の効果のシミュレーション例

図4の左側の図は防音壁を施工する前の現況の騒音伝搬状況を断面で予測した例です。現場で測定できる地点の数には限りがありますが、シミュレーションでは騒音の伝搬状況を面的に推定することが可能です。右図は防音壁を施工した後の予測結果です。工場・事業場の近隣に高層の建物がある場合、上階までの影響と対策効果を予測することが可能です。

  • 図4[防音壁なし]
  • 図4[防音壁あり]
  • [防音壁なし]
  • [防音壁あり]

図4 防音壁の効果のシミュレーション例

(3) 作業環境騒音の対策効果のシミュレーション例

騒音の問題は屋外ばかりではありません。多くの騒音源があり、反射の影響もある屋内の対策は簡単ではありません。シミュレーションでは天井、壁等の反射の影響を考慮することができるため、吸音材を施工した場合の効果も予測できます。下記の左図はあるラインから発生する騒音の分布をモデル化しています。右図はその一部を衝立で囲った場合の効果を予測した例です。

  • 図5[対策なし]
  • 図5[対策あり]
  • [対策なし]
  • [対策あり]

図5 屋内の作業環境騒音の対策シミュレーション例

(4) その他の屋外の騒音伝搬のシミュレーション例

図6の左図は道路交通騒音シミュレーションでの騒音の伝搬経路例です。道路交通騒音の予測は道路位置に線状に音源を並べることでモデル化することができます。この検討により、道路に面した建物だけでなく、背後地の騒音状況も予測することが可能です。

下記の右図は屋外のある騒音源から発生した音が周辺地域にどのように伝搬するかを予測した例です。最初に述べたとおり、風などの気象の影響は考慮できないため、あくまで無風状態での予測例ですが、地形の高低差は計算で考慮することが可能です。

  • 図6[市街地の道路騒音]
  • 図6[地形を考慮した予測]
  • [市街地の道路騒音]
  • [地形を考慮した予測]

図6 屋外の騒音伝搬シミュレーション例

7. 今後のシミュレーションの課題

シミュレーションの精度を急に高めることは難しいのですが、検討のスピードはまだ改善できると考えています。現在は工場等での現場調査の後、3週間後には対策案のシミュレーション結果をまとめて工場等で報告会を開催させていただいています。今後はシミュレーションのモデル化の手法等を改良することで検討の時間を短縮し、近い将来には現場で調査をさせていただいた翌日には、検討結果の第一報をご報告できるようにしたいと考えています。

GeoNoise(ジオノイズ)の主な仕様
特徴 地形、建物による反射・回折の影響を考慮
吸音率の影響の考慮可能
独自の高速計算アルゴリズム
データ入力 国土地理院の地形データ等で入力
構造物はブロックを組合わせて入力
音源データ 最大1000個の点音源が入力可能
線音源、面音源は自動的に点音源集合で計算
計算手法 1次回折音は楔の厳密解、または漸近解計算
反射音は10次まで考慮可能
反射音の回折まで考慮可能
出力結果 音圧レベル分布のコンター表示
鳥瞰表示可能
伝搬経路表示可能