調査から対策までの一貫サービスのご紹介

コンサルティング事業部 青木 雅彦、平川 哲久

本業務は騒音源の対策を検討されている企業様向けのサービスです。
個人で騒音にお困りの方、騒音の相談を受けている管理会社の方向けには対応しておりませんが、こちらが参考になれば幸いです。

1. はじめに

工場の騒音対策では、調査から対策立案、施工まで相当な時間とコストがかかります。その手順としては、まず騒音の現況を測定で把握します。次にシミュレーション検討により、確実でコスト効果に優れた対策方法を立案します。その上で、必要とされる音響性能に見合うなるべく安価な騒音対策工事をご提案させていただきます。また、対策工事まで私たちが実施させていただく場合は、工事完了時の検収測定まで、責任を持って一貫したスピーディなサービスをご提供させていただいており、お客様にご好評頂いています。今回はその事例を2つご紹介させていただきます。

2. 事例1: 大規模工場における低周波の騒音対策

2.1 Noise Visionを使った現況の把握

その工場は敷地の一部が民家と接しており、これまでも騒音を改善するための対策工事が実施されてきましたが、さらなる対策をお考えでした。ご担当の方が別の工場の方から、私たちの音源探査調査の事例をお聞きになり、当社に騒音対策のご相談を頂いたのが始まりでした。早速現場を下見させていただいた結果、工場から隣接する民家までに複数の騒音伝搬経路が考えられました。

図1 想定された複数の騒音伝搬経路(断面図)
図1 想定された複数の騒音伝搬経路(断面図)

民家に隣接する工場の通路と倉庫には、騒音源はありません。図1の断面で左方向にある設備機器群が騒音源です。また、倉庫と通路の間には壁のない部分があり、騒音の伝搬経路になっていました。民家の2階には寝室があり、その室内での騒音を低減することが求められていました。騒音対策では、影響の大きい騒音源、騒音伝搬経路から対策しないと効果が得られません。そのため、どの騒音伝搬経路の影響が大きいのかを確かめる必要がありましたが、騒音計を用いて行う一般の調査では様々な経路を経てその場所に到来した騒音の合成値こそ把握できるものの、騒音対策のための現状調査において最も重要な騒音源の寄与度を把握できません。こうした場合、私たちは自社開発の音源探査システムNoise Vision(ノイズビジョン)による測定を実施しています。

写真1 Noise Visionの設置例 写真1 Noise Visionのと球形のセンサー
写真1 Noise Visionの設置例(左)と球形のセンサー(右)

Noise Visionは当社で開発した、騒音観測地点に様々な方向、経路で到来する騒音源を探査して可視化する測定システムです。球体表面に実装された31個のマイクロホンと12個のカメラにより騒音源の方向を分析し、寄与の度合いをカラーマップとして写真に重ねて表示することができます。

図2 Noise Visionの測定状況例 図2 Noise Visionの測定結果例
図2 Noise Visionの測定状況例(左)と測定結果例(右)

図2は工場での音源探査の実例です。右図では左の赤い方向からの騒音の影響が大きいこと、それに次いで中央~右方向からの騒音が大きいことを示しています。Noise Visionを用いた調査では、音源を分離して寄与を評価できるため、騒音対策に有用なデータを得ることができます。

図3の例では、民家に対して最も近い騒音源はAですが、仮にAが停止できてもBとCの影響がそのまま残ると、BとCからの騒音レベルの合成値は59dBとなり、元の騒音レベルから1dBしか下がりません。この場合、騒音源Cとその伝搬経路をまず対策しなければなりません。Noise Visionは、音源を停止させずにこれらの各音源の寄与を算出することができるため、対策すべき騒音源や伝搬経路の優先付けができるのです。

図3 騒音状況の例
図3 騒音状況の例

2.2 シミュレーションを利用した対策の立案

音源探査結果等から総合的に判断した結果、優先すべき対策箇所を図4に示す2箇所に絞りました。その上で、どの周波数の音をどの程度対策するか、検討を行いました。

図4 優先すべき騒音対策箇所
図4 優先すべき騒音対策箇所

図5 民家室内での低周波音圧レベル測定結果
図5 民家室内での低周波音圧レベル測定結果

対策前に騒音を下げたい民家の室内での測定はできませんでしたが、代わりにその隣の民家の室内で騒音測定を行いました。その測定結果と、民家の方へのヒアリング結果から、私たちは80Hz付近の低周波音を優先して対策すべきだと判断しました。図5は測定結果の一部ですが、低周波音の判断基準の一つとして、環境省による「低周波音問題対応の手引書(平成16年6月)」にある" 低周波音による心身に係る苦情に関する参照値" を参考にしました。

工場の方々との打ち合わせを重ね、1回目の対策工事で80Hzの音を3.5dB下げることを目標としました。対策案は、当社が開発したシミュレーションソフトウェアであるジオノイズで何度も検討を重ねました。予測モデルと、騒音の伝搬状況のシミュレーション例を図6、図7に示します。

図6 シミュレーションのモデル図
図6 シミュレーションのモデル図

図6において、赤い点は音源の設定位置を示します。現地での測定結果を基に、工場の屋根や外壁からの透過音として、一定の面積から放射する騒音を設定しました。

図7 騒音伝搬状況のシミュレーション検討例(断面コンター)
図7 騒音伝搬状況のシミュレーション検討例(断面コンター)

2.3 対策工事の実施

1回目の対策工事案として、表1の仕様を工場側にご提案させていただき、実際に当社で施工させていただきました。

表1 実施した騒音対策
対策案の仕様(通路部分)
遮音壁 既存の外壁内側に下記の遮音壁を追加
・石膏ボード15mm×3枚
・内部にグラスウール32kg/m3,50mm
・既存外壁との間隔(空気層)200mm以上
遮音天井 既存の屋根内側に下記の遮音天井を追加
・石膏ボード15mm×2枚
・内部にグラスウール32kg/m3,50mm
・既存天井との間隔(空気層)200mm以上

対策前のシミュレーション検討では、対策効果を80Hzで3.5dBと予測していました。工事完了時の検収測定結果では、実際に4.4dBの対策効果を確認することができました。

3. 事例2: 金属スクラップ回収処理工場の騒音改善

事例1は大規模な工場の事例でしたが、次にご紹介するのは比較的小さな工場の騒音対策の事例です。

一般に中小工場の建屋は、鉄骨構造に屋根・壁は軽量な板材で構成されています。また、換気等のために窓、扉を開放して操業していることも多く、粉塵、臭気、騒音等が屋外へ漏れる原因ともなっています。操業開始当時は問題とならなくても、周辺に住宅が増えるに従って苦情が発生しやすくなります。しかし現実的には、建屋構造、コストなどの諸条件で十分な対策が困難な場合も多く、騒音対策も様々な制約のもとで安価で確実な提案が求められます。ここで紹介するのは、そんな金属スクラップ回収処理工場での騒音対策の事例です。

3.1 工場の現状

金属スクラップ回収処理工場には、ダンプ車等で建設現場、設備機器、自動車などの廃棄物が次々と運ばれてきます。その時の廃棄物の落下音、金属、非金属に分別される時の衝撃音、クレーンの稼動音等が不規則かつ頻繁に発生します。建屋は、大型ダンプの入出庫、粉塵の換気のために大きな開口部が設けられており、屋根はスチール折板、壁は大部分が波型スレート板、一部採光用半透明プラスチック板です。騒音が問題となっているのは隣接する戸建住宅、マンションで、波型スレート板の壁と事務所建屋で工場と遮られていますが、壁には大きな隙間もある状況でした。(写真2~ 3、図8参照)

写真2 工場内の状況
写真2 工場内の状況

写真3 対策前の壁面A 写真3 工場開口部A
写真3 対策前の壁面A(左)と工場開口部A(右)

3.2 現状の騒音調査

騒音の発生が不規則かつ変動が大きい騒音であることから、工場内1箇所、戸建住宅およびマンションとの敷地境界付近2箇所で5分間の騒音レベルの連続測定を行い、時間率騒音レベル90%レンジ上端値(L5)により評価しました(図9)。さらに、騒音対策検討のために、実騒音と試験音(バンドノイズ)により、開口部、対象壁面近傍の騒音伝搬量、壁面の遮音性能を確認しました。その結果、騒音レベルは、工場内では概ね80~95dB(A)に対して、測定点P1では68~75dB(A)、測定点P2では75~85dB(A)でした(表3)。壁面A(P2辺り)の遮音性能(図10)は10dB程度で、隙間および開口部の影響であることが把握できました。

図8 工場周辺配置図および測定位置
図8 工場周辺配置図および測定位置

写真4 測定点の概況(測定点P1 壁面A)
写真4 測定点の概況(測定点P1 壁面A)

図9 工場騒音代表値の周波数特性(L5) / 図10 壁面の遮音性能
図9 工場騒音代表値の周波数特性(L5) / 図10 壁面の遮音性能

3.3 対策の検討と実施

この地域の騒音レベルの規制値が60dB(A)のため、現状より15~20dB以上の騒音レベル改善を目標としました。騒音の周波数特性は図9に示すように平坦か、時には高音域が大きい特性だったので、中高音域を対策することで解決できると判断し、下記2案について対策効果をジオノイズを使ったシミュレーションで検討しました。通常は予測が難しい様々な遮音性能の壁面や開口部がある複雑な工場建屋でも、敷地境界における騒音レベルを騒音伝搬経路ごとに予測し、カラーで可視化して表示できるため、最終的な決断を下される工場のご担当者が事前に対策工事の効果を正しくご理解頂ける、分かり易い資料をご提供できます。

  • 対策仕様1
    壁面Aの隙間塞ぎおよび遮音性能の高い材料の採用(図11、ALC100t)
  • 対策仕様2
    仕様1に加えて開口部Aからの騒音遮蔽のための防音壁の設置を検討

対策仕様1、2の効果のシミュレーション結果を表2に示します。工場内の騒音を平均的に87dB(A)とすると、対策1を行うと測定点P1では71dB(A)、測定点P2では56dB(A)と予測されました。P1では開口部Aからの影響により壁面Aの遮音補強の効果が少ないと予測できました。一方対策2で、図11に示す防音壁を設置すると、P2で51dB(A)と予測されましたが操業に支障が出る懸念があり、仕様2の位置に防音壁を設置するのは困難と判断されました。そこで建築設計者と協議の上、操業上問題が少なく、構造的にも実現可能な代替案として、開口部Aの一部をALCで塞ぐ(写真5)ことでできる限り遮蔽し、伝搬する騒音を低減させるよう対策することにしました。

図11 対策仕様1、2のシミュレーションモデル図
図11 対策仕様1、2のシミュレーションモデル図

表2 騒音伝搬計算結果

対策前 対策1 対策2
工場内P0 87 - -
測定点P1 73 71 56
測定点P2 77 52 51
dB(A)

写真5 対策工事後の工場 写真5 対策工事後の工場
写真5 対策工事後の工場
(左: 壁面A内側のALC、右: 開口部A・壁面A外側のALC)

3.4 対策効果の検証

対策工事後の騒音測定結果を表3および騒音レベルの時間変化について、測定点P2の対策前後を比較して図12に示します。P2では対策後の騒音レベルは65dB(A)で時間的にほとんど変動がありませんでした。これは隣接する道路の自動車騒音の影響が大きかったためで、聴感上でもほとんど作業音は聞こえなかったことから、実際には工場騒音の寄与は少なくとも65dB(A)以下に低減できていたと思われます。また、P1でも開口部の一部を遮蔽した効果が見られ、対策後の騒音レベルは60~65dB(A)と対策前に比べて10dB(A)程度の効果を得ることができました。

表3 対策前後の騒音レベル(L5) 結果
騒音レベル 暗騒音レベル
工場内P0 対策前 80~95 59
対策後 80~90 59
測定点P1 対策前 68~75 57
対策後 60~65 55
測定点P2 対策前 75~85 63
対策後 65以下 65
dB(A)

図12 対策前後の騒音レベル時間変動比較(L5)
図12 対策前後の騒音レベル時間変動比較(L5)

今回、操業上および建屋構造上の制約がある中で、建築設計者と協議しながら、できる限りの対策を実施したことにより、隣接する住宅からは静かになったとの報告が工場にあったとのことでした。

4. おわりに

本稿ではタイプの異なる工場騒音対策の事例を2つご紹介させていただきました。これからもさらに音源探査とシミュレーションの技術を高め、騒音問題でお困りのお客様に、リーズナブルなコストで効果の高い騒音対策をご提案させていただきます。もちろん対策案の検討から施工までを責任を持って一貫してやらせていただくこともできますし、施工を工場の事情をよくご理解頂いている建設会社様とタイアップさせていただくことも可能です。ぜひお問い合わせ頂ければ幸いです。

本業務は騒音源の対策を検討されている企業様向けのサービスです。
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