近隣・生活騒音について

技術部 大野 隆三

1. はじめに

平成6年12月13日に環境庁が報告した「平成5年度の騒音・振動の状況調査報告」についての記事が新聞に記載されていました。
環境騒音は「一般地域」(幹線道路に面する地域以外)では環境基準を約70%の地域が満足しており、 また、近隣騒音でも苦情件数が前年度に比べ減少しているとのことです。 なお、近隣騒音で、苦情が多いのは「ペットの鳴き声」や「人の声」などが主なものと報告されており、 ここ10数年間、苦情の内容はあまり変わっていないようです。
近隣騒音(生活騒音と表現することもあります。)の特徴は、後で詳しく述べますが、概ね次のように要約することができます。

  • 生活の場の周辺に普遍化し、発生源は多種多様
  • 騒音の発生場所や時間帯が不特定
  • 一般の人が加害者にも被害者にもなりえる。

近隣騒音の特徴から、画一的な解決策は見あたらず、一人一人の自覚に頼らざるを得ないのが現状です。 ここでは、それら近隣騒音の概要とこれまで我々が色々な測定調査を通じて経験したことがらなどをご紹介したいと思います。

2. 近隣騒音

自然の脅威や敵から身を守ることが重要であった時代では、生活の知恵として、集団で生活することが一番大切でした。
はるか昔の時代から明治のころまで(いや、ついこの前までかもしれません。) 人々は互いの生活音(生きている事を確認できる)を聞きながら仲間意識・共同生活の大切さを維持していたと思います。
それが、街に家庭に「もの」が溢れ、個人やプライバシーが優先されるような独立・孤立化を望む世の中になるにつれ、 生きていることの証しとなっていた生活音が、いつの間にか苦情の対象になり生活・近隣騒音公害などの汚名で呼称されるような時代となったようです。
身の回りで音を発生するものは、あらゆるものが近隣騒音の対象となり得ますが、一般的な近隣騒音の分類として、 発生源別に、次の表1に示す4種類に大別されています。

音源の分類発生源騒音の特徴
住宅用機器 洗濯機、掃除機、エアコン室外機、換気扇等 機器の性能で騒音の大きさが左右される
住宅用設備 浴室や便所の給排水音、扉の開閉音等 設備・構造と使用方法で決まる
音響機器 テレビ、ピアノ、ステレオ、電子オルガン等 音量の調整が可能で利用者の配慮が可能
生活・行動 自動車のアイドリング音、人の声、ペットの鳴き声 生活行動の態様によとして音量が不特定なもの
表1 近隣騒音の分類

環境庁等が行ったアンケート調査結果によると、近隣騒音による迷惑を受けたと回答した人は60%を超えており、 回答者の住居形態別には、集合住宅(約80%)で多くなっています。
また、迷惑と感じている音の内容については、住居外で発生するものの割合が高い傾向にありますが、 いずれも、迷惑を受けるばかりでなく、気付かないで迷惑をかける側になるような音となっています。表2に代表的な内容を示します。

内容割合(複数回答)
自動車・バイクの空ぶかし音 75%
商業宣伝のスピーカ音 40%
ペットの鳴き声 37%
隣人の話声等 19%
テレビ・ステレオの音 13%
扉の開閉音 11%
室内、階段の足音 10%
表2 迷惑を受けた近隣騒音の種類

加害者・被害者

随分前に話題になった事ですが、「コオロギの鳴き声は、西洋人は右脳に入り、日本人は左脳に入る」という説があります。(角田説)
これは、音の知覚を「右脳」で聴くか「左脳」で判断するか、脳の働きの違いによって、音楽が騒音に変わる状況を説明するもので、 「言語系」を左脳で「音楽系」を右脳で区別してとらえる西洋人と異なり、日本人は「言語系」も「音楽系」も左脳で判断するため、 「論理系・言語系」を司る「左脳」に音楽が入り込むとのことです。
このことが原因で、新たな音の問題を生む傾向があるというわけです。楽しいはずの音楽が思考を妨げる騒音になります。
ピアノ音殺人・カラオケ殺傷事件など、「音に絡む事件は日本で多く、西洋ではほとんど聞かれない内容である」との事で、 音をとらえる「脳の知覚判断」の違いで起こるイライラが原因と考えられます。
勉強・論文・計算などで集中思考をしなければならない時に、下手なピアノにロックの音楽など日本人の「左脳」に多大な刺激を与えすぎると 「音=騒音」が氾濫して、感情が爆発することもあり得ます。人知れずに、加害者・被害者になる状況が普段の生活の中にあるかも知れません。
あなたは、如何ですか?隣の人に、加害者になっていませんか?

表2のように自動車に関する音が苦情の横綱であります。寒い日の暖気運転など、胸に手を当てて反省することが多いのではありませんか?
さらに、ペットに対する苦情が上位にあり、動物への愛護心と裏腹に深刻な問題となっている様子です。
マンションでは入居の条件としてペットの飼育を禁止していることが多く、本来ならば苦情が発生することが少ないはずですが、 現実には問題が起っています。
そのため、最近では「吠える犬」が敬遠され、小型で「吠えにくい」ペットが流行しているそうです。
一部の自治体では、条例や要綱などにより、ペットによる迷惑行為を防ぐための指導を行ったり、 ペットの飼育方法を助言しているところもあります。
結論的には飼い主の心がまえが肝要となります。犬が吠えると88~100dB(A)(5m位置)の騒音レベルを発するとの調査結果があります。 いたずらに吠えれば苦情に発展しやすい音量です。

4.近隣騒音に関する規制値

近隣騒音は、受ける側の状態により低い騒音レベルでも問題が発生したり、被害感に近隣との人間関係などが介在するなど、 単に騒音レベルだけで捉えることが適切でない場合が多いことから、騒音の評価や基準の設定が難しいと考えられています。
そのため、近隣騒音を一律の値で規制することは、一般的に行われていなく、住民の近隣騒音に対する意識や注意を高め、 防止のための行動を実践してもらうなどの啓発活動が中心に行われています。
また、ある自治体では、近隣騒音防止のための必要最小限のルールとしての指針値を定めています。 これは、日常の生活に伴って発生する騒音として、空調設備音・音響機器・楽器・テレビ・ステレオ・作業音・人の行動・人の声・ 集会の会話音等を表3に示す基準値で指導するものです。なお、マンションの界壁からの透過音については5dB減じた値を基準としています。

第1、2種区域第3、4種区域
昼間
AM8:00~PM6:00
50 65

AM6:00~AM8:00

PM6:00~PM11:00
45 60
夜間
PM11:00~AM6:00
40 50
表3 生活騒音に係わる指針値(単位:dB(A))
*マンションは上記数値-5dB

また、床衝撃音に対する値は、建物の遮音等級が軽量床衝撃音L-45、重量床衝撃音L-50を標準とした場合の、 下階の室内で聞える騒音を目安とした指針値としています。

表4 集合住宅の床衝撃による騒音防止指針値(単位:dB(A))
昼間
AM8:00~PM6:00
45

AM6:00~AM8:00

PM6:00~PM11:00
40
夜間
PM11:00~AM6:00
35

5. 室内騒音

音響機器や人の声が迷惑となる音量は、聞く人の主観的な感覚であるために表3、4で示されている指針値で、 どの程度の苦情者が納得してもらえるのか難しいと言われています。最近の苦情の内容は「音源の種類」でなく、「音量」でもなく、 「聞えるから気になる,イライラする」が多くなっています。
また、居室の遮音性能が向上することにより、室内の暗騒音が低くなることも、苦情の増加の一因とも考えられます。
表5に住宅内の騒音の例を示します。

衝撃音系統騒音レベル 連続音系統騒音レベル
ピアノ 90 目覚し時計 82~84
赤子の泣き声 91 掃除機 74~78
鋼製扉を閉める 79~81 浴槽への給水 78
猫の鳴き声 74 シャワーの音 74
子供が飛び跳ねる 72* 公団型換気扇 73
子供が走りまわる 71* 乾燥機 66
サッシを閉める 70 洗濯機 64
表5 住宅内発生騒音の主なものの騒音レベル1)
*和室にじゅうたんの状態 距離:1m点

近年では室間の遮音性能の目標値がD-50(D値)となる傾向で、 通常の生活騒音である限り、ほとんどの人が問題なく生活出来る程度と思われます。
ただし、苦情が絶えません。
購入者・入居者に対して、音に関する説明が不十分ではないでしょうか。 住む者にとって、周辺環境、交通、住居面積、ローン、構造、システム、便利な設備、築年数など、どれも重要な事項であり、 関心を示す内容がカタログに列記されています。しかし、残念ながら音に関しては、 「フローリングで二重床構造でL-55」等が記載されているだけで、性能の限界と影響については触れていないのが現状です。
また、苦情の内容についても、入居者の生活時間や職業や人格や価値観によって十人十色を実感します。
住宅の環境が原因で蒙るストレスについて研究されたものがあります。2)
この調査結果ではストレス度の高くなる要因を以下のように報告しています。
「高層住宅の低層階,住棟規模が大きい、アクセスが廊下型、住居面積=間取りが細分化、他の住戸が上階に存在」が要因とされています。
あなたの住宅事情は如何でしょうか?ストレスが高くなる状況でなければよろしいのですが。

6. 建築物の性能

マンションの隣室・上下関係のトラブルが多いのは建物の性能以外に、利用者の利害・損得にからむ権利の自己主張もあります。
「とにかく聞えてくるから何とかしろ」このようなわがままな要求に困ったことがありませんか?
居住している大半の人が、その住居の構造と性能を知りません。大方、「コスト=高性能」と判断していることが多いと思われます。 遮音性能は十分にあっても、苦情者の心理状態や隣人との関係などで、大きな問題に発展することもあります。
しかし、建物の構造に起因するものもあります。
マンションの隣室間でクレームが生じた例です。寝室と隣家のリビング間で「声が聞える」という苦情でした。
遮音性能を測定したところ、図1に示すとおり、特定の周波数(4000Hz)の遮音が不足していました。
125Hz~2000HzではD-55の十分な性能を有している界壁の音圧レベル差ですが、評価はD-45となります。
原因は、断熱材打込みによる遮音欠損にありました。この工法は音響的な対策が必要な施工方法として、 GL工法と共に改善の試みが多くなされており、最近では設計段階で十分な検討がなされています。3)
一般に、階床の遮音性能がD-55(適用等級:特級)であれば特に対策は必要ないと考えられます。
しかし、それ以上の性能を求められれば、浮工法(スタジオや楽器練習室等の特別な工法)で部屋を作るなど、 大袈裟な工法を提案するようになり、きっと理解されません。何れにしても、対策には限界があります。
また、音響材料の点で、対策が困難という場合もあります。最近、1階~屋上(8階建)まで吹抜け(ライティングコア)がある集合住宅で、 この吹抜け空間に水廻りの設備(トイレ・台所等)が配置されている為に、窓を開放すると、「残響音がやかましい」という苦情がありました。 対策として吸音処理をすれば改善するのですが、、外壁に利用できる吸音材(耐水・耐光性等を有する)に適当なものがなく、暗中模索の状況にあります。
良い材料が開発されているならば、是非御教授お願いいたします。

戸境壁遮音性能
図-1 戸境壁遮音性能

また、非常に特殊な音の測定を行う場合があります。最近では、建物内部で不定期に異常音がするというもので、 調査したところ、暖房空調時や外気温度の上昇により、建物の梁や窓枠が熱膨張し、異常音を発生させたものでした。 この場合の測定は、音圧レベルの他、振動レベルや温度分布など、多点同時調査を一週間連続で行いました。

他には、トイレの排水音というのもあります。マンションの1階部分で上階からの排水音が問題となっているとのことでした。 ただ、排水音というより、固体音といえるものでした。図-2にその周波数特性を示します。この場合、1階の室で、 上階の使用時を待ち続け(いつ使われるか分かりませんので)、その落下音を計測するというものでした。
この様に、騒音の苦情は一様ではありませんし、その対応も一様ではありません。

便所排水時の音圧レベル周波数特性
図-2 便所排水時の音圧レベル周波数特性

7. 調査と対策

近隣騒音の解決は、基本的に被害者、加害者の双方が納得する形で行わなければなりません。 そのためには、お互いに与え合う騒音の実態を理解し、常に注意を払う必要があります。 つまり、ハード面の対策より、ソフト面の対策が重要となります。
しかし、前述したように構造的に問題がある場合や徹底した対策を望まれる場合など、 ハード面での対応を検討しなければならないこともあります。
当社では、このような場合のご相談を承っていますが、その基本的な流れは次のとおりです。

(1) 状況の把握と下見調査
まず、何が問題となっているのか、どのような状況であるのかのお話をお聞きします。状況によっては、直接本調査を行うこともありますが、 まずは、下見調査を行い、調査の方針(調査の方法、種類、手順等)を検討します。
なお、下見調査で簡易な測定を行い、その結果だけで対応策を検討する場合もあります。
(2) 調査の実施
調査・測定は、法令や基準に基づいた方法によって行われますが、基本的に原因の究明と対応策の検討が行えるように実施します。
調査は、内容により昼夜を問わず行いますし、長期にわたる場合には、 当社のデータ収録システムDL-80/PTなどを利用した自動測定を行うこともあります。
(3) 対策の検討及び実施
調査結果を解析し、最善の対策を検討し、具体的な対策工事の方針をご提案します。
なお、その工事の施工まで当社で行うこともできますが、他で工事を行う場合でも、施工の管理、指導を適宜行わせていただくなど、 最後まで責任を持って対応させていただきます。

以上、近隣騒音、生活騒音について、思いつくままに述べさせていただきました。
このような問題でお悩みの方がありましたら、お気軽にご相談くだされば幸いです。

【参考文献】

1) 山田由紀子:住宅内における騒音の種類と大きさ 騒音制御
2) 渡辺圭子:高層住宅における心理的諸問題 騒音制御
3) 日本建築学会編:建物の遮音設計資料