工場近隣民家への低周波音対策事例

ソリューション事業部 青木 雅彦

1. はじめに

私たちは様々な工場・事業場等で音環境改善のお手伝いをさせていただいていますが、多くの騒音源があり、伝搬経路も複雑な工場の騒音対策は難易度の高い業務の一つです。その中でも特に低周波音の対策は難しい問題です。

今回はある工場で防振対策により低周波音の影響を改善できた事例をご紹介させていただきます。

2. 解決すべき問題

工場側では少し離れた民家に対する騒音の影響を低減させる方法を検討中でした。そこでどの程度の騒音が伝搬しているのかを確認した上で対策案を検討したかったのですが、その民家内で騒音調査を実施することは難しい状況でした。

工場のご担当者様からヒアリングをさせていただく中で、工場に隣接して工場関係者の方の住居があり、その室内外であれば調査が可能であることがわかりました。そこでこの住居内外の調査結果から少し離れた民家への影響を推定し、対策案を検討する計画を立てました。

図1 工場・隣接住居・民家の位置関係
図1 工場・隣接住居・民家の位置関係

3. 騒音・振動調査を実施

測定点は工場内、隣接する関係者の方の住居内外等とし、工場の代表的な設備稼働パターン毎に騒音と振動を測定しました。

図2 工場内の振動測定 図2 工場屋外の振動測定
図2 工場内の振動測定(左)と工場屋外の振動測定(右)

工場に隣接する住居内で、工場の設備稼働パターン毎に測定した室内騒音を図3に示します。

図3 工場に隣接する住居内での騒音測定結果
図3 工場に隣接する住居内での騒音測定結果

調査結果によると、ある設備機器群を稼動させると住居内の騒音レベルが47dBまで上昇することがわかりました。普段の室内の暗騒音は30dB以下なので、この影響は聴感上も明らかでした。

さらに騒音の周波数特性をみると、特に63Hz帯域の低周波音の発生が顕著でした。低周波音には規制値がありませんが、環境省から「低周波音による心身に係る苦情に関する参照値」(その値以上であれば、その周波数の低周波音が苦情の原因である可能性が高いという一つの目安。以下、参照値)が示されています。測定結果はこの参照値を大きく上回っていました。

図4 工場に隣接する住居内の低周波音の音圧レベル
図4 工場に隣接する住居内の低周波音の音圧レベル

4. 低周波音の発生原因と民家への影響

63Hzの低周波音の伝搬経路を確認するため、工場・住居内外で測定したデータを検討しました。その結果、工場のある設備が稼働時に住居内の63Hzの音圧レベルが上昇しますが、住居と工場の間の屋外では63Hzの音圧レベルに変化は見られませんでした。一方、振動の測定結果をみると、設備稼働時に住居内と屋外(地面上)で振動レベルの上昇が見られました。

表1 住居内外の騒音・振動測定結果


条件63Hz音圧レベル振動レベル
屋外屋内屋外屋内
設備停止時 60dB 48dB 35dB 39dB
設備稼働時 60dB 74dB 57dB 55dB

もし仮に工場内で発生した低周波音が工場の外壁を透過し、さらに住居の外壁を透過して室内に伝搬しているのであれば、設備稼働時に屋外の音圧レベルが上昇するはずです。しかし工場外壁近傍の63Hzの測定値に変化はありませんでした。一方で振動については設備稼働時の影響が屋外でも住居内でも明らかでした。

上記以外にも工場内の設備機器周辺の振動を詳細に調査しました。これらのデータを検討した結果、ある設備が一定の条件で稼動したときに63Hz帯域の振動が発生することがわかりました。さらにこの振動が工場建物から地盤を経由して住居に伝わり、壁・床等から室内に低周波音として放射していると推定しました。

また、屋外の振動測定結果を用いて、少し離れた民家に伝搬する振動を予測し、民家の室内で発生する低周波音の音圧レベルを推定しました。その結果、民家の室内では63Hzで50dB程度の低周波音が発生している可能性があることがわかりました。これは環境省から示されている低周波音の参照値を3dB程度上回る音圧レベルでした。

5. 対策工事

調査を実施する前は工場の外壁、窓、屋根を遮音補強する対策が必要になるかもしれないと考えていました。その場合は対策範囲が広く、大がかりな工事になることが予想されました。しかし調査データの検討結果から、近隣の民家への騒音(低周波音)の影響を低減するためには、2台の設備機器に対する防振対策が必要だと判断しました。

図5 防振架台 図5 対策後の設備機器(右)
図5 防振架台(左)と対策後の設備機器(右)

騒音対策の検討業務に引き続き、工場側から対策工事のご依頼をいただいたため、防振設備メーカーと打合わせを重ね、具体的な防振架台を選定しました。対象設備の重量、起動時の動作を考慮した結果、防振架台の上部架台はコンクリート製としました。そのため工場内に設置する際の運搬を懸念しましたが、関係者のサポートをいただき、無事防振架台の設置が完了しました。

6. 対策工事後の設置効果の確認

対策工事完了後に効果を確認するための測定を実施しました。工場に隣接する住居内の測定結果より、対策前に最も低周波音の大きかった設備稼働条件における対策前後の比較を図6に示します。

測定結果によると、対策後の室内騒音は28dBとなり、対策前の47dBから19dB下がり、室内の暗騒音と同程度になりました。また63Hzの低周波音レベルは対策前と比べて28dB下がり46dBとなり、参照値と同程度以下になりました。

また、振動測定等のデータを参考に検討した結果、少し離れた民家内への影響も低減し、63Hzの低周波音は環境省の参照値と同程度以下にまで改善されたものと推定しました。

図6 対策前後の住居内の音圧レベル測定結果
図6 対策前後の住居内の音圧レベル測定結果

表2 騒音と63Hzの低周波音の対策効果


騒音レベル 63Hz音圧レベル
対策前 47dB 74dB
対策後 28dB 46dB
対策効果量 19dB 28dB

7. 今後に向けて

今回は低周波音の発生源を特定できたことが対策につながりました。今後も多くの現場で音環境改善のお役に立てるよう、音源探査技術を高めていきたいと考えています。最後に今回の事例をご紹介させていただくことを快くご了承いただいた関係の皆様に深く感謝申し上げます。

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