ソリューション事業部 音響コンサルタント 早川 篤 中村 智幸
1.はじめに
私たち音響コンサルタントは、スタジオ、ホール、映画館のような音に特化した空間ばかりでなく、マンション、オフィス、学校のような一般建築物もプロジェクトの設計計画時にお客様にお声掛けいただき、音響面の設計作業を行っております。そこで今回はオフィスの遮音性能について述べさせていただきます。
2.室条件にあった遮音性能
遮音とは「音を遮る量」を意味し、dBで表現され、数値が大きいほど高い性能であることはご存じだと思いますが、遮音仕様を選ぶ際に重要なのが「遮りたい音(音源)の大きさ」と「受音側に求められる静けさ」です。例えば、会議室の場合、人の話し声をスピーカから拡声するか、隣接する受音室は静けさが求められる空間か、ある程度騒がしさを許容できる空間か、また、受音室(場所)の人の滞留時間の違いによっても壁や扉に必要とされる遮音量は変化します。設計図などで{壁の遮音性能目標値:○○dB}という表記をよく見かけますが、部屋の配置計画をよく見ていくと目標値以上の性能が必要な場所や目標値以下でも支障がない場所を見つけることが出来ます。
{必要遮音量}={音源の大きさ}-{受音側に求められる静けさ}
ところで、国内では室用途にあった遮音性能目標として日本建築学会が推奨する「表1室間平均音圧レベル差に関する適用等級」が一般に用いられています。これによると事務所の3級(やむを得ない場合に許容される性能水準)の遮音性能はD-35とされています。集合住宅の3級よりも性能は低いのですが、オフィス計画では既存の空調換気ダクトの状況、工期、コストなどの理由からスラブ─スラブ壁が立てられない、もしくは極力少なくしたいという要望が多く、スラブ─スラブ壁を床─天井間の壁に置き換える必要がでてきます。もちろん遮音量は低下する為、何かの工夫が必要ですが、実際には技術的な裏付けのある改善方法はなく、現場の状況を見ながら判断しています。
表1室間平均音圧レベル差に関する適用等級
表2適用等級の意味
3.遮音性能の比較試験
そこで、過去に異なる間仕切り仕様とスチールパーティションを対象に性能比較を実施した結果を以下にまとめました。試験は3.2m×3.2mの会議室、天井はシステム天井、間仕切り単体の性能比較を目的とする為、家具や机のない空室状態とし、扉経由で回り込む音の影響に配慮し測定しました。実際はオフィスのレイアウト、ダクト経路、OAフロアの種類など条件によって結果が異なり、今回のデータが全てを網羅することはございませんので、ご注意ください。
3.1試験1:乾式壁
石膏ボードを用いた壁A-Cの仕様(表3.1、図2.1、図3.1、を参照)に対する遮音測定の結果は、A:スラブ─スラブ壁がD-35、43dB(500Hz)、B:OAフロア─仕上げ天井(天井と床下にグラスウールあり)がD-30以下、31dB(500Hz)、C:OAフロア─仕上げ天井(天井と床下にグラスウールなし)がD-30以下、27dB(500Hz)となりました。表1の事務所の適用等級3級を満たすには、A:スラブ─スラブ壁が必要で、OAフロア─天井壁に変更すると遮音性能は3級を下回ることがわかります。天井内や床下にグラスウールを挿入すると125Hzから500Hz帯域に改善効果は見られますが、1kHz以上はボード厚みの遮音性能限界と天井と壁の取り合い部分等に生じる隙間の影響を受け、効果が見られません。
表3.1スラブ─スラブ壁とOAフロア─天井壁の比較
図2.1間仕切仕様(A,B,C)
3.2試験2:スチールパーティション
次にスチールパーティションを部屋の間仕切りに採用した時の遮音性能の比較(表3.2、図2.2、図3.2を参照)です。D:遮音タイプ(天井内の垂れ壁、床下にグラスウールあり)はD-30、36dB(500Hz)、次にE:遮音タイプ(天井と床下にグラスウールあり)はD-30以下、28dB(500Hz)、F:標準タイプ(天井と床下にグラスウールなし)はD-30以下、24dB(500Hz)となりました。天井と床下のグラスウール有無による性能差は、試験1のOAフロア─仕上げ天井間の壁の結果に類似していますが、天井内の垂れ壁は250Hz以上の帯域で効果が見られました。ただし、経験的には一重のスチールパーティションではD-35を満足したことはありませんので、部屋の間仕切りとして採用する時は、話し声が隣室に聞こえることを前提に部屋の運用方法を調整する必要があります。
表3.2スチールパーティションの比較
図2.2間仕切仕様(D,E,F)
図3.1遮音性能結果(試験1)
図3.2遮音性能結果(試験2)
4.ガラスパーティションについて
オフィスでは開放的でデザイン性の高いガラスパーティションが多く用いられています。シングルガラス、ダブルガラス、高遮音性能タイプなど種類が豊富にありますが、製品の遮音性能表示が500Hzの音響透過損失やISO規格のRwなどメーカによって異なり、判別しづらくなっています。遮音性能は基本的に数値が大きい方が性能は良いのですが、カタログでわずかな性能差が見られたとしても、設置条件によって性能は大きく変化します。特に個室と廊下間の遮音性能はガラスパーティション単体性能よりも扉の性能によって決定づけられます。音漏れに対して細部まで拘って作られている製品もございますので、カタログ数値に必要以上にとらわれず、ショールームで現物を確認することをお勧めします。
5.おわりに
「身近な空間の音環境を整え、快適な音環境をつくる」ことが私たち音響コンサルタントの役目だと思っております。是非、お気軽にお問合せください。
参考文献:建築物の遮音性能基準と設計指針第二版(日本建築学会編)写真提供:クレストラ株式会社(www.clestra.com)