スタジオの防振工法

1 はじめに

CDプレイヤーが登場して既に10年になりますが、各種デジタル機器の登場によって、リスナー側の再生機器のダイナミックレンジはアナログの時代に比べて格段に良くなっています。
また、制作側では、レコーディングスタジオは当然のことながら、ビデオスタジオでの音の収録もデジタルのマルチトラックレコーディングが一般的になっており、放送用スタジオ(PCM、FM)を含めスタジオに求められる静けさは以前にもまして厳しくなっています。
スタジオの暗騒音レベルがNC5(およそ20dB(A))以下であるのは現在ではごくあたりまえのことなのですが、ビルの構造や階高等、限られた条件の中でこれを実現させるのは、我々、建築内装や空調の設計者にとっては実に頭を痛めるところです。
スタジオでは、その静けさを確保するために浮構造を採用するわけなのですが、困ったことに、静かになればなるほど歩行音や扉が閉まる時の衝撃音等、振動成分によって侵入する音(固体伝搬音)がますます聞こえ易くなってしまうために、スタジオの遮音計画上、防振工事は重要な位置を占めることになります。
そこで、本文ではスタジオの防振工事の概要について述べてみたいと思います。

2 防振設計の基本

固体音、すなわち"振動から放射される音"を防止するためには、振動の発生側(振動源)と侵入側との間に柔軟な防振材料や緩衝材料を用いて振動の加振力を弱めることが必要になります。

実際の振動の形態を説明するには、X,Y,Zの3軸方向の振動と、その3軸を中心とする回転振動の6自由度の振動系を扱う必要がありますが、話を簡単にするため上下振動のみの1自由度の振動系と考え弾性体の粘性抵抗や内部摩擦による抵抗を無視すると、系の固有振動数f0は、(1)式となり、弾性体の静的たわみのみによって決定されていることがわかります。

(1)式

ただし

f0;系の固有振動数(Hz)
k;バネ定数(kg/cm)
m;振動系の重量(kg)
g;重力加速度(≒980cm/sec2)
δ;静的たわみ(cm)
d;動的倍率(ゴムの場合1.1~1.6、通常1.3)

また、この系に外力が加わった場合、その加振力の振動伝達レベルは、弾性体の抵抗を無視すると、外力の周波数fと系の共振周波数f0の比(f / f0)の関数として、(3)式の様に簡単に表わすことができます。

-20log10|1-(f / f0)2|...(3)

しかし、実際には弾性体に粘性抵抗や内部摩擦による抵抗が存在するために、共振のピークは緩和され、逆に振動数比が大きい範囲では振動伝達率は大きくなります。
たとえば、空気バネやオイルダンパーは粘性減衰型で振動速度に比例する抵抗が一定であり、その抵抗によるダンピングの大きさr / rc(減衰比)によって異なる特性となります。(図-1参照)

図-1 抵抗一定型の振動伝達率図-1 抵抗一定型の振動伝達率

また、防振ゴムの様に、内部摩擦をもつ弾性材は変位に比例する抵抗を持つ損失係数一定型で、弾性材の損失係数の大きさによって異なった特性を示しますが、f/f0が大きくなっても振動伝達率が増大しない点が長所であるといえます。(図-2参照)

図-2 損失係数一定型の振動伝達率図-2 損失係数一定型の振動伝達率

これらの図から、共振周波数と一致する周波数では、系の振動は外力の振動レベルより増幅し、共振周波数の√2倍の周波数で振動伝達率が1:1となり、防振の効果が表れるのは共振周波数の2~3倍以上の周波数であることがわかります。
以上が1自由度系の基本的な振動特性ですが、スタジオ等の建築物においてはこれを応用して設計を行います。

3 スタジオに用いる防振材料

通常、スタジオに用いられる防振材料は、防振性能、施工性、メンテナンス、コスト等の面から考えて、防振ゴムとグラスウール、もしくはロックウールの多孔質系緩衝材の2種類になります。(図-3参照)

図-3 スタジオに用いる防振材料(防振ゴム)の例

図-3 スタジオに用いる防振材料(防振ゴム)の例

(1)床

(a)防振ゴム

ア 丸形ストレートタイプ(通称丸スト)
寸法、バネ定数の種類が多く安定性が良い。許容荷重がかなり大きいタイプがある。

イ リングダンパー(高藤化成製)
許容荷重範囲内(約5倍)で固有振動数が一定で性能的に使いやすい。

ウ ボールダンパー(ヤクモ製)
リングダンパーと同様、固有振動数が一定のタイプで固有振動数も低い。安定性も良い。

エ M-5、M-10タイプ(鹿本技研製)
主にスタジオ用として開発され、少ない有効高で施工可能な簡易施工タイプ。施工性、安定性が良くコストも安い。

オ 防振パット(通称ゲタゴム)
面圧5kg/cm2程度までで使用する簡易タイプ。1枚では固有振動数があまり低くないため、鋼鈑をはさみ2~3枚重ねて使用する。

(b)グラスウール、ロックウール

多孔質系緩衝材の特性については、浮床用緩衝材として、JIS-A-6321にロックウール、またJIS-A-6322にグラスウールの製品の品質(単位面積当りの静的バネ定数、損失係数)が規定されています。

但し、多孔質系緩衝材を用いた浮床では、緩衝材に含まれている空気が逃げないために空気バネとしても作用します。そのため、実際のバネ定数は緩衝材自身のバネ定数と合成されておよそ2倍となり、コンクリート製の浮床の場合でも固有振動数は30~60Hz程度になりますから、スタジオで使用する場合には簡易的な使用に限られます。

(2)天井

防振ハンガーを使用します。使用荷重の種類が多く一般的に使用される「圧縮型」とバネ定数が低い低荷重タイプの「剪断型」の2種類があります。(図-3、6及び7参照)

(3)壁

防振ストッパーを使用します。製品としては販売されておらず、地震時の必要耐力に応じ、丸ストやリングダンパー等のゴムを組合せて製作します。(図-3、8参照)

4 防振方法とその施工

(1)床面

床面の防振材が負担する荷重は、浮床と浮壁の補強下地を含めた全荷重と、後に設置される機器等(調整卓やピアノ等)の積載荷重になります。
防振材については、バネ定数と使用荷重範囲から使用するタイプ、個数とその配置を決定します。通常は、固有振動数が10Hz程度となる防振ゴムを使用していますが、近くを地下鉄が通っている場合等では設置場所の事前測定を行い、系の固有振動数が振動成分の大きな周波数の1/3以下となるバネ定数を持つ防振ゴムを選定しています。
最近のスタジオでは、抜けの良いアコースティックな響きを得るために、スタジオ内の反射面だけではなく、吸音層背後の浮遮音層に剛性の高い重量構造を採用し、室の周辺と中央部分での荷重分布がかなり異なる場合が多くなっています。そのため、防振ゴムのピッチを変えたり、バネ定数の異なるゴムを使い分ける等の工夫をしています。
さらに、天井が高く床周辺の荷重が極端に大きな場合には、浮遮音壁の手前でエキスパンションを設け、壁だけ独立した防振構造とすることも行っています。
また、大型スタジオの場合、リズム録りからオケ(オーケストラ)録りまで様々なスタイルの録音が行われますから、マイクスタンドから他の楽器の振動成分が伝わらない様に、ドラムやピアノ等振動を発生するブースの周囲にはエキスパンションを設けて完全に独立した浮床としたり、また広いメインフロアでは浮床板の曲げ振動による固有振動数を分散させるために、楽器位置を想定した上で浮床のコンクリート部分にエキスパンションを設けて面積の異なるいくつかのコンクリート板に分割する等の音場に対する配慮も行っています。

図-4 防振構造の例

図-4 防振構造の例

(2)天井面

天井面の防振材が負担する荷重は、浮天井の下地を含む天井構造の全荷重となります。
防振材は、浮天井の荷重と吊りボルトのピッチから使用荷重範囲内のゴム製防振ハンガーを選定しますが、スタジオの天井裏は空調ダクトや消音チャンバ等の設備スペースでもあり、設備との取合いについても検討して決定しています。

(3)壁面

壁面に用いる防振材は防振ストッパーと呼んでいるもので、地震時の横揺れによる応力を受け止め、原則的には固定荷重(壁面重量)を負担しない様に設計しています。
防振ストッパーの基本構造は、ストッパー金具の両面に防振ゴムを取付けたもので、外力がかかった時に片側のゴムが必ず圧縮方向に作用する様になっています。使用するゴムの性能、ストッパーの個数、並びに取付け位置は、スタジオが設置される場所や階高による地震時の水平力をもとに決定しています。

図-5 設備工事の音響処理の例図-5 設備工事の音響処理の例

5 適切な工事管理

防振工事では、適切な防振材を選択し、適切な方法で工事を行ったとしても、それ以外の建築や設備が防振性能の低下を招く様な工事を行っていては、せっかくの工事が無駄になってしまいます。現場において、総合的な防振性能のグレードを決定するのは現場担当者の管理次第であると言っても過言ではありません。
当社が設計・施工するスタジオについては、総合的な音響特性を保持するための適切な工事管理を行うとともに、防振処理後の効果測定等を適時実施し、求められる性能を確実にしながら工事を進めています。
今後とも機会ある度に現場での測定を行い、データをフィードバックすることによって、より良い防振方法を検討していきたいと思っています。