工事部 出口 公彦
1 はじめに
オーディオブームと呼ばれた、1969年から70年にかけて、NHK及び民放のFM放送が開始されてから、20年を越えています。この間、全国からFMの多局化を要望する声が上がり、近年ようやく全国的なFMの多局化の時代を迎えています。
東京における2番目のFM民放局として、88年10月1日にFMジャパンが本放送を開始して4年半が経過し、そのほか首都圏ではFM千葉・FM埼玉・FM富士が次々開局して、これまでのNHK-FM、TOKYO-FM、FM横浜と合わせて7局がしのぎをけずっています。また、大阪でも2番目のFM民放局としてFM802が開局、続いてKissFM、FM京都と開局するなど、関西圏でも多局化の様相を示しており、全国で次々と開局ラッシュが続いています。
当社では、東京半蔵門のTOKYOFM本社ビル演奏所(放送局のスタジオ施設を演奏所といいます。)をはじめとして、多くの放送局で設計や工事のお手伝いをさせていただきました。特に、88年にFMジャパンの施工では、第二FMという新しい流れの中で革新的なスタイルの演奏所にトライすることができ、以来、新規開局のFM千葉、FM802、KissFM、FM京都等で経験を積み重ねることができました。
そして、今回、北海道における2番目のFM民放局として「エフエムノースウェーブ」のお手伝いをさせていただきましたので、その概要を紹介させていただきます。
2 エフエムノースウェーブ
本社及び演奏所は、札幌市北区、JR札幌駅北口前に新築された新北海道ビルヂング内にあり、7階が本社機能、8階は全フロアーがスタジオ及びその他の制作関連スペースとなっています。ここには2つの生放送用スタジオ(第1スタジオ、第2スタジオ)、録音・制作番組用スタジオ(第3スタジオ)更にダビング用のスタジオ(第4スタジオ)の合計4つのスタジオと編集ブースが4室、他に主調整室、ラックルーム、CMバンク、レコードライブラリー、CVCF室の各室や広々とした制作スタッフ専用のクリエイティブスペース、打ち合せ・ロビー機能の多目的スペースが集中的かつ機能的にレイアウトされています。
また送信所は、手稲山(札幌オリンピックの会場となったテイネハイランド、テイネオリンピアスキー場があることで有名です。)に設置されます。雪解けを待って送信所の工事が着工され、周波数 82.5MHz、出力5KWで、今年8月1日に本放送が開始されます。
社 名 | 株式会社エフエム・ノ-スウエ-ブ |
コミュニケーションネーム | NORTH WAVE |
呼出符号 | JOPV-FM |
周 波 数 | 82.5MHz |
呼出名称 | エフエムノースウェーブ |
空中線電力 | 5 KW |
送 信 所 | 手稲山送信所(標高991m) |
中継送信所 |
旭川(500w),函館(250w), |
3 FM放送局の設計
まず始めに、放送局では普通のスタジオとは異なった点があります。それは、スタジオのコントロ-ルル-ムを「サブ」と呼ぶことです。
何故「サブ」と呼ぶか?
放送局には2種類の調整室があるからです。「主調整室」と「副調整室」+スタジオ、これが放送局の主な構成です。主調整室を「マスタ-」と呼び、放送局の心臓部に当たる重要な部屋です。
これに対して、各スタジオの調整室を「副調」つまり「サブ」と呼ぶのです。
前記のとおり、マスタ-室は、放送局では放送の状態,運行管理をする重要な役割を果たす部分で、従来の放送局ではかなり大きなスペ-スをとって来ました。ところが最近では、コンピュ-タによる自動化が進み、マスタ-卓はAPS(自動運行システム)となり"ワンマンコントロ-ルシステム"、つまり一人で状態を監視するだけという様に、大きなスペ-スを必要としなくなってきました。
さらに、アラ-ム等の信号をキャッチする方法で、放送局は「無人」になりつつあります。今回のエフエムノ-スウェ-ブの計画では、この点が最も注目すべき部分で「最小限の広さのマスタ-室」としています。
これに変わり、CMバンク室(コンピュ-タにデ-タを打込む作業)を出来るだけ大きく、ゆとりのあるスペ-スが確保できる様に計画されています。
現在の放送には、このプログラムバンクが重要な役割を果たし、ジングルやCM,更にはビルボ-ドのTOP100程度までがコンピュ-タに記録されているのです。これらを収納するマスタ-室、CMバンク室、また、これに付属するコンピュ-タ類の心臓部のあるラックル-ムの3室が現在のFM放送局の「核」となっており、エフエムノ-スウェ-ブでは、合計で約100m2のスペ-スを有しています。
この「核」にアナウンサ-の活躍するスタジオ,制作スタッフのクリエイティブスペ-スetc.が加わってFM放送局が形づくられています。
それでは、スタジオを紹介しましょう。
JOPV-FMスタジオ平面図
4 スタジオ(演奏所)
前に紹介したとおり、エフエムノ-スウェ-ブには、4つのスタジオがあります。
生放送用の第1,第2スタジオ、録音用の第3スタジオ、ダビング用の第4スタジオという構成になっており、第1,第2スタジオは、ほぼ同形状・同寸法で、第3スタジオがやや小さく、第4スタジオにはブ-スが有りません。
スタジオの占有面積は、約190m2(編集ブ-スは含まず)となっています。
モニタ-スピ-カ-は、ジェネレック1033A(おそらく業界初)を採用し、第1,第2スタジオはビルトインシステム、第3,第4スタジオは置き型となっています。
スタジオの基本というべき静穏さを保持するための遮音構造としては、スタジオでは、完全浮構造(固定遮音壁・浮床・浮遮音天井・壁)としており、副調整室も浮構造(固定遮音壁・浮床・浮遮音天井・壁一部)としています。事務所ビル内に設置する為(重量の問題)に間仕切壁は、乾式工法で施工されていますが十分な遮音性能が保たれています。(スタジオ・副調整室共にNC-15)
インテリアとしては、第1、第2、第4スタジオが同様の仕上で、腰にナラ材のスリットと板張りに染色塗装を施し、腰上はガラスクロスパネルの仕上となっています。
淡いブル-を基調とした北海道の「ク-ル」なイメ-ジの第1スタジオ。これに対して第2スタジオは、淡いピンクを基調として暖かなイメ-ジに、そして、やはり北海道といえば「雪」。そのスノ-ホワイトを基調とした美しい仕上がりの第4スタジオ。この様に各スタジオのカラ-リングにより特徴を出しています。
また、第1スタジオは、札幌の街を望む、床まで広がった大きな窓が空間を広げ、それを取り囲む古煉瓦の壁と床,スタジオの奥深く射込む陽射しがク-ルな明るさを醸し出しています。
第4スタジオにもスピ-カ-背面に古煉瓦を積み上げ暖かさを出し、隣接するレコ-ドライブラリィ-への遮音効果も増しています。 第3スタジオは、これら3室とは違って木目を出さずに塗装仕上とし、大胆なブル-とイエロ-、明るいグレ-のラインというカラ-リングで、「HOT」な番組を応援しています。
また、充分なゆとりのある広さがある生放送用の第1,第2サブとスタジオは、第1サブと第2スタジオの間に設けた窓により見通すことができるようになっており、スム-ズな番組のリレ-を手伝ってくれることでしょう。
5 おわりに
放送局には、この他に無くてはならない設備が有ります。それがCVCFと発電機です。
放送は、何時,いかなる時も中断することは、許されません。これをバックアップするのがCVCF(無停電電源装置)と発電機なのです。発電機は、通常ビルの屋上に設置されますが、CVCFは、スタジオと同じフロア-に置かれる場合が多く(テナントビルの場合)かなりのスペ-スを必要とします。このスペ-ス確保が重要になり、重量も重くなかなか厄介なのです。重量と言えば、レコ-ドライブラリィ-は総重量約18tにもなり配置計画には、構造上の考慮が必要です。
そしてまた特別な部屋として「宿直室」。何と言っても24時間営業なのですから。
この様にFM放送局ならではの設備があり、そして技術の進歩により計画方法も変わっていきます。CDが普及してタ-ンテ-ブルが姿を消し、また、MOが普及すればテ-プレコ-ダ-も姿を消してしまうかも知れません。
これからも時代の変化に先取りし、最新の技術を取り入れ、そして一歩進んだ「スタジオ」作りを目指して行きたいと考えております。