株式会社 S・C・ALLIANCE メディアエンターテイメント社 「A-Studio Renewal」

工事部 後藤 宏明

1. Prologue

東京は新宿、いかにも早稲田という静かな街並みの中に位置する『株式会社S・C・ALLIANCE』。 地下には新築当事に作られたA-StudioとB-Studioの2つのStudioで構成されています。『メディアエンターテイメント社』では、 ゼロから始めるトータル音響製作を行い、数多くのテレビCMや万博などのイベント、驚いた部分では、 後藤光学さんのプラネタリウム音響などなど、広範囲な仕事を手掛けています。シアターでは2次元(平面)スクリーンに5.1がベースですが、 プラネタリウムや立体映像などは、5.1chでは納まらず、より臨場感を出す為、マルチチャンネルを使用します。その為に、 マルチチャンネルに対応できるStudioへのRenewalでした。

2. Concept

A-StudioをRenewalするにあたり、今まで使用している中で『不満点』や『あんな事をしたい』とか『こんな事出来れば・・・』などと、 長年思い続けた事を集約したものでした。しかし、予算と工期の兼ね合いもあり、沢山の要望の中から、どれを優先させ選択するのか、 メディアテイメント社さんは悩んでおられました。言われた言葉のニュアンスから実際に建築的に解消できるかどうかの検証するのが難しく、 時間がかかりました。一番重要な部分は、今までとは違う使い方+要望で、音響的なトータルバランスを実現する事。 部屋のデザインは杉並のStudioと同等のデザインで、部屋の有効寸法を極力現状維持に留め、出来るだけ空間を確保することになりました。 しかし、既存図面は建設当初の図面しかなく、詳細図面も残っていなかった事と、時間短縮をする為に、解体をしながら実測し検討をする事にしました。

3. 作業開始!

A-Studioの隣にはMachine RoomとB-StudioのAnnounce Booth。Announce Boothのスケジュールに合わせて作業を止める事にしました。 内装の構造を確認する為、徐々に解体しながら確認。床はパーティクルボードのフリーアクセス、壁・天井は固定遮音層のみで浮遮音層は無し。 天井仕上は岩綿吸音板、壁は≒100mmの吸音層で穴開きスレート板に塗装仕上。裏にはホコリ防止のビニールが・・・。 これが気にしていた『ピン!』と響きつまった音の原因でした。解体が進むに連れ、徐々にA-Studioの全容が現れてきました。 天井にはデカイ鉄板チャンバー及び鉄板ダクトと排煙ダクト。これでは反射が気になるのも納得できます。 チャンバーは吹き出し口に後付けノズルが付いていた為、前方へ気流が届かない事を示していた。案の定、今までは、 前方が暑くなり天井も高い分、上部でただ空気をかき回している状態だったのです。ベース照明は無く、 レールにスポットライトの為、全体照度としてはだいぶ暗く、スポット照射される為、体感温度は高く感じられていました。 内装図面・電気図面の詳細が無い為、苦労しました。解体しながら、現状のチェックと調査。図面では分からない部分が、 だんだんと紐解かれて、現状が分かり始めました。解体工事が進むにつれ、不満点や問題点となる原因が現れ、 言われているニュアンスが徐々に理解できてきました。

4. Renewal

A-Studio Control
写真-1 A-Studio Control

A-Studio Control Room (Section)
図-1 A-Studio Control Room (Section)

今までの床は、パーティクルボードのフリーアクセス+タイルカーペット。今回はサブウーハーGENELEC 7073Aを導入する為、 浮床(浮構造)を作り、躯体に振動が伝わりB-StudioのAnnounce Boothに直接影響が無いように対策をしました。この浮床が無いと、 7073Aのパワーが躯体振動となって伝わり、隣接するB-Studio&Announce Booth、上階のBoothなどに伝わり再放射され、 はっきり聞こえてきます。これを軽減させる為に、浮床は絶対に必要でした。

既存ダクトの反射処理は、ダクトの隙間を縫ってサウンドトラップを出来るだけ吊り、ダクトを囲むようにしました。 チャンバーも同様に、底面と正面になる部分にサウンドトラップで囲い、チャンバー正面には空気層を設ける為、垂直に立ち上げず、 45度斜めにし、懐を深くしました。吹き出し口も今まではチャンバーから直に吹き出していましたが、前吹き出し、 後ろ吸い込みの効率の良さに近づける為に、今までの吹き出し口は塞ぎ、チャンバーの両サイドからニューホープ(柔軟性のあるダクト)で前方まで延ばす事で、 冷やされた空気がスムーズに部屋内で対流できるようになり、室内温度がほぼ一定に保たれるようになりました。 また、既存のエアクリーナーもダクトで前方に押し出し、気流に乗せる事で空気のよどんだ部分はなくなりました。

照明計画はベース照明を低天井用及びフロントスピーカー上部用として、ダウンライトの60wに、高天井用として、 ダウンライトの100wに、メンテ灯としてシームレス蛍光灯2連結を2ヶ所に配置し、今までとは比べ物にならないくらい明るくなりました。 全体での熱量は計算上、今までとほぼ同等なので変わりませんが、今までのようにスポットで照射されるわけではないので、 熱を直接感じる事はなくなりました。

そして、今まで出来なかった事の一つとしてあるのが、照明のコントロール。今までは作業に合わせ、 スクリーンを使用する時は照明を暗くするなど、手作業でライトコントロールをやっていました。 今回使用したハイパーライコン(白熱灯4回路用)は、照明パターンを4シーンまでインプットが出来る為、 手作業のわずらわしさを解消する事ができたのでした。

A-Studio Control Room (Front)
写真-2 A-Studio Control Room (Front)

音響内装的には、マルチチャンネルを使用するという事と、A-Studioの有効面積を狭くしたく無い為、 空気層が≒100mmと狭さで吸音過多にならないよう、全体壁面積(ガラスも含む)の≒1/2を反射とし、サウンドトラップを、 吸音トラップと、拡散トラップの2種類を使い分け、全体のバランスを考慮しつつ散りばめてみました。もともと吸音過多で、 つまった感じのあったStudioでしたが、既存壁面裏側に貼ってあった、ホコリ飛散防止用だと思われるビニールも撤去した事で、 つまった感じの無いスッキリとした程良いライブな感じに仕上がり、違和感の無い空間を作る事が出来ました。しかし、 長年この部屋に慣れた方はどうだろうか・・・、ナレーターの方はどう感じるだろうか・・・など、 気になる部分も実はあるのでした。

A-Studio Control Room (Rear)
写真-3 A-Studio Control Room (Rear)

5. SLIDER

今回導入の統合コンソール、DIGIDESIGNの『ICON』
マルチな作業をする『メディアエンターテイメント社』さんは、スクリーンを使用して作業をする事も、 度々あります。今までの考えだとクライアント席は後方にあり、ひな壇でかさ上げをする事で、 スクリーン下部が切れないように見やすくしていましたが、実際にソファーに座ってみると、 深く座った場合は意外にスクリーンの下が見えなかったり、又はミキサー頭の動きが気になって落ち着かない、 などなどの問題点はありました。今回は、スクリーンを使用する場合で、クライアントさんが多人数で入る場合、 ICONコンソールのフロントにソファーをずらっと並べて使用し、スクリーンとクライアント席の間に障害物が無い状態で鑑賞してもらう。 逆に、スクリーンを使用しない場合には、Studio後壁にソファーを並べて使用したいと・・・。 とてもユニークなアイデアだと思いました。ここで、問題になったのは、ICONコンソールやソファーの移動をどうやって行なうのがBestなのかと・・・。 床にレールやガイドを設けると、チェアーのキャスターでどちらかが破損する為、床上に設置する事は出来ず頭を痛めました。 セッティングする為の条件は、あたりまえですが、短時間、少人数作業、何よりも簡単に行なえる事。 ソファーの移動は手作業で仕方ありませんが、ICONコンソールは、何か出来そうな感じでした。

コンソール移動
図-2 コンソール移動

コンソールも前後に移動する為、ぶれが少なく、軽く動かせる事、フローリングが傷つかない事が条件。 単純にコンソールにキャスターという発想はあったものの、実際にキャスターにベースを置いてコンソールを乗せると、 コンソール高さは100mm以上高くなってしまう為、簡単にはいきません。コンソールも点で支えると弱い事が判明し、 ベタ置にしなければならない。しかし、以外にも、答えは簡単に出てしまいました。基本はスケートボードの発想と、 F1マシーンのようなローポジション。シンプルに考え、優先順位をつけてパーツとして置き換え、組み合わせることにしました。

  1. シャーシーのローポジション(コンソール高さ)
  2. キャスターの位置決めと安定性(バランス)
  3. 構成するシャーシー(剛性)
  4. 補強

シャーシーはスチール製、シルバー塗装、最低地上高さ≒5mmに設定。 キャスターは一方向タイプの首が回転しないものを選択。タイヤ部分は傷が付きにくいポリウレタン素材を使用。 実際にコンソールを乗せて、恐る恐るゆっくりと動かしてみました。軽すぎず、重すぎずちょうどいい感じで、 十分一人でも動かす事は可能で、前後の微調整もしやすい。後はケーブル介錯で1人は必要だが、特に問題は無い。 お客さんの不安そうな顔が緩み、問題がクリアーできてほっとすることができました。

  • SLIDER
  • SLIDER
  • 写真-4 SLIDER
  • 写真-5 SLIDER

6. A-Studio Announce Booth

A-Studioに隣接するAnnounce Boothも音響内装的にRenewalをしました。既存状況は、床はタイルカーペット、 壁はイス生地仕上の吸音層、天井は岩綿吸音板に塗装仕上。天井からの反射が多く、音が降ってくるような感じが目立ち、 こもった感じがする。この既存の天井から150mmほど下げた吸音天井を設け、天井の吸音力をUP。 下から見ると天井が浮いているような感じに仕上げ、逆に床はタイルカーペットからフローリングにした事で、 音に艶やかさが出て、閉鎖的な感じが解消されました。

写真-6
写真-6

照明も同様にRenewal。ベース照明をスポットライトからダウンライトに替え、 メンテ灯としてシームレス蛍光灯を2本入れる事で、A-Studio同様に明るく見やすい環境になりました。 空調設備は基本的に既存のまま。既存吹出口のアネモ(器具)が丸型で反射が多かった為、羽根突きの四角いHV(器具)に交換。 反射の面積が少なくなり、軽減されました。

A-Studio Announce Booth
写真-7 A-Studio Announce Booth

7. Epilogue

先日、この記事の取材の為、写真を撮らせていただきに伺い、色々と話をさせていただきました。 今回のRenewalは、もともと浮遮音層(浮構造)は無かったので、浮床のみ新設をし、壁は仕上下地を撤去せずにそのまま再利用。 天井は石膏ボード+岩綿吸音板だったものを撤去し、吸音天井に変更をいたしました。床はStudio、Announce Boothとフローリング仕上に変更。 簡単に言えば、吸音層や床仕上で、Studio、Announce Boothの音場をコントロールした事になります。 メディアエンターテイメント社の高山 様から、『現在使用していて、Renewal前と後では、ずいぶん音場が変わったのが分かります。 今までのStudioは定位も分からない状況だった。Boothも録りをしていて変わったのが分かる』と。結果には、 そのプロセスにおいて必ず、この様にしたから・・・という部分がある。長年の不満点などを改善できたのは、原因を探り、 見つけ出せたからできた事でした。その為には、我々施工業者だけでなく、お客さんの助けも必要です。 一体になって一つの事に取り組んだ結果が、今回の成果につながったと思っております。

改めて、メディアエンターテイメント社 ?山 様・山本 様・山内 様 他、 このRenewalに携わっていただいた関係者各位様に、深く感謝いたします。