「他人に気兼ねせずに心ゆくまで楽器練習を・・・」(その4) 声楽練習室、防音DIYの基礎知識

技術部 大橋 心耳

1. はじめに

「他人に気兼ねせず心ゆくまで楽器練習を・・」シリーズも、お蔭様で連載4回目を迎える。 掲載初回のNOE技術ニュース第20号における実例紹介では、(1)一戸建て内に設置されたマリンバ練習スタジオ(半地下)、 (2)庭先の離れに設置されたドラム練習室、(3)マンション自宅内に設置されたピアノ練習室の合計3つの事例紹介を行ってきた。

又、第21号では、 (1)雑居ビル地下に設置された24時間楽器練習レンタルスタジオ、 (2)マンション自宅内に設置されたバイオリン練習室の2件について、更に、第22号では、(1)プロのJazzピアニスト兼作曲家が閑静な低層マンション自宅内に設置したピアノ練習スタジオ、 (2)戸建て個人邸内に設置された本格的ホームシアターの2件について事例紹介を行ってきた。

今回は、軽量鉄骨系住宅2階部分に声楽練習室(ピアノも含む)を設置する機会を得たのでオーナー荒木様のご協力を戴き事例紹介させていただく。
又、防音DIYとして初めて防音対策にチャレンジする為の基礎知識に関する解説も併せて行う。

2. 実施例

2.1. 荒木邸声楽練習室(声楽+ピアノ)

[練習室施工に至るまでの背景]
2005年早春のこと、かって筆者が手がけた楽器練習室オーナーさんからの紹介を受けた荒木様より連絡を戴いたのが今回の話の始まりである。

いわゆる「口コミ」により連絡をいただけるということは、きっと紹介して戴いたオーナーさんも、 練習室に「満足して頂けているのではないか!」と、筆者は前向きに受け止めさせていただくことにしている。
とても嬉しい限りである・・それゆえ「今回もしっかりやらねば!」と励みにもなる訳である。

さて、今回の計画の概要は、

  • 自宅を新築する機会に木造2階部分に声楽練習室(+ピアノ)を設置したい。
  • 現在、住宅メーカーの選定中であるが、練習室部分を日本音響に託したい。
  • 防音のグレードは自宅外部に対しては、気兼ねしなくて良い程度
  • 又、自宅内部(隣室及び階下)に対しては、多少聴こえてもOK
  • 練習室内の音の響きとしては、声楽練習に適した状況にしたい
  • 設置する楽器はグランドピアノ1台
  • 音源としては、ピアノと声楽
  • 練習時間帯は、常識的な範囲

との事であった。

楽器練習室の防音計画もピンキリであるが

  1. 部屋の防音的に弱いところ(窓、扉、換気扇など)を重点的に防音処理する。
  2. 市販の練習BOX的なものを購入し室内に設置する。
  3. 居室(部屋)全体を防音処理する。
  4. 部屋全体を防音・防振処理する。

で、楽器、発生音量及び練習時間帯などの諸条件にもより得られる効果(気兼ねの度合い)も異なるが一般的には1.~4.の順でコストが増大していく傾向にある。

それに加え、

  1. 新築の住宅内装工事着手前にオーナーが引渡しを受け、その時点から防音(防振)工事に着手する場合。
  2. 新築物件や既存物件で内装工事済みのものをオーナーが購入し、新たに練習室を作り直す場合(リフォームを含む)

これも場合にもよるが1.~2.の向でコストがかさんで行くのである。

ポイントは、内装工事などの既存部分の解体・撤去・処分に係る費用の有無、 周辺住民の有無(工事の材料搬入経路の確保・置き場・作業場などの諸問題)などにより本来の防音(防振)工事とは別に、 結構間接的な費用が無視できない場合が多々あるからである。

今回の荒木邸の計画では、新築予定の軽量鉄骨系住宅で、上記の条件の3-1のケースとなり比較的コストアップの要因は少ないと言えよう。
但し、住宅の2階部分に練習室を計画するので、建物自体の耐震強度(最近この言葉が至る所で見かけるが)の検討が必須となる。

一般的には、室全体をある程度の防音仕様にすると必然的にかなりの重量の防音材を使用することとなる。 練習室が一階に位置する場合は、練習室室全体を支える地面からの床部分を主に補強すれば建物全体には波及しないように出来るかもしれないが、 二階部分に位置する場合は床部分の耐荷重だけでなく、建物全体の耐震強度上の心配が出てくる。
新築の場合は、比較的耐震強度を確保する構造的な検討や方策が取りやすいが、 既存住宅に関しては熟考を要するかもしれない。

今回の計画を進める上で、耐震強度の確保を最重要ポイントとし、オーナー側で選定された住宅メーカー(ダイワハウスさん、 以後DHと呼ぶ)と協力体制で練習室を計画していくこととなった。大手のハウスメーカーにより、 計画段階から防音室の荷重を含めた構造的な検討が加えられるので、オーナーにとっては安心である。

話は少し横にそれるかもしれないが、構造的な検討は絶対必要であるが、更にもう一つ! 2階に練習室を作る場合絶対に忘れてはならないことは、ピアノの搬入経路である。

ピアノの搬入業者さんは神業的な方法と速さで、ピアノの搬入設置を実施してくれるが我々練習室の設計側としては、 搬入経路(防音窓又は防音扉部分)の絶対的寸法の確保は、必修科目である。2階の場合で、防音扉部分より搬入予定の場合は、 階下の入り口、廊下、階段部分を含む搬入経路の検討が必要なのは言うまでも無い。

さて、話を本筋に戻して、住宅の2階部分に練習室を作る段取りも進み、 ひとまず構造的及び防音構造の計画が一段落した段階で次に検討することは、室内の「音響状態と居住性」である。後は、 いかに室内において居心地を良くするか!に絞られてくる。

実際には、室内の広さ、入り口扉・窓の位置、楽器・鏡の位置などなど使い勝手の良い配置を検討する。 実は長時間練習していると実感できると思われるが、居心地を一番左右するのは、音響的な不自然さを極力避けることと言っても過言ではない・・ と筆者は信じている。
これらに関しては、前号(NOE技術ニュース第22号)の記事にも紹介しているが具体的なポイントとしては、

  • 声楽の音量(声量)に対し室の吸音状態が素直で色付けのないこと(中低音から高音)
  • ピアノ音の特定の部分において(比較的小空間の場合ありがちな)、特に低音部分のコモリ音が無いこと
  • ピアノと声楽音の響きのバランスがとれていること

声楽練習室の響きの設計は、まずピアノ練習室として基礎要件を満たした上で更に声楽とのバランスが求められる ・・ウルトラC(もはや死語かも)・・実際にはなかなか簡単には行かないものである。

この段階では、音響的な基本事項だけは設計要件に盛り込んでおき、 半完成時に実際に歌っていただきながら室の響きを調整する、いわゆる中間調整作業により総合的なバランスをとる手法を採用することにした。

[練習室設置工事の実施及び結果]
今回の事例では、計画段階における2階練習室部分の防音材料の床・壁・天井各部分の仕様よりそれらの重量を算出し、 DH側に耐震強度の検討及び建物側の重量補強を実施していただく。
建物内の練習室部分については、DHにおける施工範囲と、筆者サイドとのとりあい部分など予め決めておき、 合理的に作業を進めていく。
練習室の仕上げ材の材質は筆者側で選定し、その色・柄や電気器具類など総合的なデザインは、 オーナーとDHで取り決める。

  • 練習室床は、簡易防振マットを敷きこんだ木製床とし、木質系の無垢のフローリングとする。
  • 壁・天井の外部に面する部分には2次遮音層を設ける。
  • 壁部分の宅内隣室に接する部分は、補強遮音層を設ける。
  • 外部に面する窓は二重窓構造とし、外窓はDH標準サッシュ、内窓に防音サッシュを設ける
  • 入り口扉は、簡易防音扉とする。
  • 壁・天井に使用する防音材料は、構造的な荷重負担を少しでも少なくする為に可能な限り軽量且つ剛性を得るものを採用する。
  • 室内の寸法(縦、横、高さ)を広くすることを念頭に室の寸法比を検討する。
  • 空調設備・換気設備に関しては、簡易防音型のエアコン(換気機能付)を採用し、必要であれば外部空気取り入れ口に簡易型消音カバーを設ける。

などにより、練習室内装設計・施工を行った。

荒木邸練習室外観
(写真-1)荒木邸練習室外観

一般木造家屋に付加遮音層を加えた声楽練習室が完成した訳である。
気になる防音性能を確認する為に、まず・・・声楽練習中の家屋周辺を試しに歩いてみたが室内においてあの音量の声楽が、 外では別段何か聴こえるのかな?? 程度で筆者の採点ではマル。同時に、試験用のスピーカによる防音性能チェックも実施したが特に問題となる施工不良個所は確認できていない。

敢えて注意する点は、室内側の防音サッシュの締め上げ金物(クレッセント)の調整であろう。 これは施工直後から暫くの間に、枠廻りのゴムが馴染んでくることに起因する隙間が生じることがあるので、 必要であれば再調整が望ましい。

荒木邸 声楽練習室 平面見取り図
図1-1 荒木邸 声楽練習室 平面見取り図
荒木邸 声楽練習室 断面見取り図
図1-2 荒木邸 声楽練習室 断面見取り図

完成した練習室に魂を入れる作業として"音響調整"の作業がある。
「心ゆくまで演奏を楽しむ・・・」為には、室内の居心地が良い事、即ち室内の響きが不自然でないこと・・ それには整音作業が欠かせない訳である。

声楽練習室において整音作業(音響調整)として実際にピアノを弾きながら歌っていただいた。 声楽家が本気になって歌いだすのを至近距離で聴かせて頂くのは久しぶりでは有った。その時の状況を言葉で表すのは難しいが・・ 部屋中の空気が震えているような感覚を覚え、体がその音に包まれているような不思議な気持ちで思わず聴き入ってしまうほどである。 人間の能力って凄いものがある人にはあるものだ・・筆者には到底無いけれども・・。

今回の練習室の整音作業は、演奏者及び筆者において響きの具合について意見交換を行いながら仮設置状態としている室内吸音・反射部分を対象とし大工さんによる変更調整作業を施し、 カットアンドトライ方式により進めていった。

最初は、主にピアノの響き方(主に中低音域以下)の調整に重点を置き、 基本的にピアノ音の響きが合格ラインに到達した時点で、今度は声楽の音域の響きを併せて調整していく。
荒木邸練習室では、基本的な響きの状態に加えて、部分的なカーテンを使用することで練習内容に応じた響きの調整が可能となっている。

声楽練習室内 風景
写真-2 声楽練習室内 風景

さて、ずいぶんと長くなってしまったがこうして荒木邸声楽練習室は、準備期間2ヶ月程、 実質の工期2週間で何とか納めることが出来た。

以下に荒木オーナーからの感想を紹介させていただこう。(蛇足ながら、筆者側では、一切添削などは行っていない。)

荒木オーナーの感想

私が「防音設備を施した音楽室」を作りたいと考えた理由は、とても簡単です。単純に自由に歌いたいと願ったから。 声楽を専門としている私にとって、人の耳、つまり、近所を気にしつつ歌うことは不可能なことです。声楽とは、 自分の身体が楽器であり、身も心もリラックスし、解放されて初めて音が「鳴る」楽器だと思います。 身体が縮こまってしまっては楽器としての機能が果たせません。

折しもちょうど家を新築することになり、絶対に、このタイミングでこの憧れの部屋を手に入れようと考えました。 そこでまずは、自分の構想をまとめてみたところ、以下の三点に絞られたのです。(1)遮音性:隣家に音は漏れないが、 家の中には多少漏れる程度は確保したい(家族の気配までは消したくない為)。(2)重量:将来的に親の介護が必要となる可能性と土地の広さの関係上、 設置場所は二階とする。(3)音響:耳がツーンとするようなものではなく、身体も音(声)も、響きも、 空気の中で自由に適度に泳げるような空間であり、かつ圧迫感がなく、響きが押さえつけられずに伸びていく部屋にしたい。

このように構想はまとまったものの、この三点を同時に満たす物件にはなかなか行きつきませんでした。 特に(3)の音響に関しては、既製のものをはめこむタイプのものでは納得できませんでした。そうした中で、音響にこだわり、 音場作りをオーダーメイドでやってくれる会社を捜し求めて遂に出会ったのが、日本音響さんだったのです。

日本音響さんの仕事、特に鈴木氏・大橋氏はとてもアグレッシブ、そしてマニアック。 私が求めることを全部満たすための努力を、それこそ全力でやってくれました。
しかも細いところまでよく目が行き届くこと・・・。部屋のドアの開く方向に始まり床の色、材質、 ピアノの位置や向き、反響板の色、位置、形、大きさ、壁いっぱいにはめこんだ鏡、とどめには、 練習用に音の響きをタイトにする為の壁一面覆い尽くす厚手のカーテン等々、音のためなら、この防音室のためなら、どこまでも、 気も手も抜かずこちらが望む事を完璧なものへ高めようとつき進んでいくその情熱に、もう圧倒されっぱなしでした。 また、ハウスメーカー(ダイワハウス:大塚・渡辺氏)との連携も驚くほど見事で、 設計からインテリア関係にいたるまで全てにおいてスムーズに工事が進められました。

これだけ音響に、音場にこだわったスタッフ陣が作った部屋です。何の不満があるでしょう。今では、 家族の次に大切な私の宝物となったこの防音室、自分の練習は勿論のこと、二人の子供が歌っても踊っても何も怖くない、 将来的に、ここでレッスンを何時間やろうとも誰にも気兼ねすることのない、精神的にも、身体的にも(楽器的にも)、 完全に自由な空間が堂々と出来上がりました。まさに、私にとって傑作です。

どうやら、オーナーのお言葉からして声楽練習室として機能しているようで安心した次第である。
さて、続いては練習室を計画する時に役立つ基礎知識の解説である。

3. 防音 DIY

最近では、「現在自分の居住しているスペースをお金を掛けないで少しでも良いから対策しておきたい。」 という声が弊社ホームページなどにも寄せられている。

一昔前騒音問題として脚光を浴びていた騒音モデルは、「ある工場からの騒音がやかましい」、 「あの建設機械の騒音がやかましい」といった、騒音発生源が動かないで特定されていてその近辺の住民がその騒音の影響を受けるといったものであった。
続いて問題になってきたのが交通騒音で、発生源が道路騒音、鉄道騒音、 航空機騒音といったその沿線の地域の人々が影響を受けるものである。

最近では上記の騒音は法律などで対策していくことでその発生件数は減ってきたり、 影響範囲が狭められてきている一方で、脚光を浴びてきたのが生活(一般)騒音である。

この騒音の特徴は、ごく普通の生活をしている過程で、自分も被害者になる、 と同時に加害者になってしまうといった厄介な騒音モデルである。
例えば朝の出勤前の自動車のアイドリング音、エアコンの室外機ユニットの作動音、テレビ・オーディオ音、 ペットの鳴き声、そして本題の楽器練習音などである。

これら生活騒音の問題は、全国広く何処でも問題の起きる可能性があり、 且つ自分がいつの間にか加害者・被害者になってしまう性質が特徴的であり、法律や規制などでは決して解決しづらい問題である。

本編のタイトルは「他人に気兼ねなく・・・」なので、本来であれば「まず気兼ねすることが出来るような心構えを持つ」、 「気兼ねするのであったら音は出さない!」・・・が本筋ではあるが、ほんの少しの知識と少しの予算で少しでも"他人に迷惑を掛ける機会が減ることは、 それに越したことは無い"というコンセプトの基で「防音 DIY」を始めることにしよう。

3.1. まずは入門編---技術部 早川 篤、樫村 学、北浦 季之

どうして音は漏れるのか?

「宇宙にいけば音が聞こえない」その理由は「空気がないから」と学校で学んだ記憶があります。 遮音(防音)の話をする前に、音はどうして漏れるのか、おさらいしてみたいとおもいます。

音は、空気を媒体として伝わります。これを空気音と呼びます。それ以外に、振動が伝搬し、 結果的に音として再放射される厄介な音があります。これを固体音と呼びます。

「音が漏れない」というのは、(1)空気が通る隙間がない、(2)空気に押されても動かない、 (3)振動成分が伝わらないという大きく3つの条件が考えられます。

これを逆に考えますと「空気が通る隙間がある。」「空気の振動が壁に当ると壁が振動してしまう。」 「壁の振動が他所に伝わってしまう。」時にいわゆる音漏れが起こりやすくなります。

遮音性能とは?

世間では、「防音」と呼ばれていますが、ここでは、「音をさえぎる=遮音」と記します。遮音性能は、 {ある音源が存在する空間}に対して、{隣接する空間}の両者の音の大きさの値を差し引きし、{いくら減衰しているか?} 数値化したものです。測定方法は、JISや日本建築学会で定められていますが、具体的には試験音を音源とし、音源室、 受音室の双方の音圧レベル(音の大きさ)から算出し遮音性能とします。

遮音性能のグラフをみると、「D-○○」という基準曲線が設けられています。これは、 500Hzの値(話し声程度の音の高さ)を代表しており、D-50の場合は、500Hzで50dBの遮音量があることになります。 グラフの横軸は音の高低、縦軸は遮音量を示し、数値が大きいほど遮音性能は良いということになります。また、 基準曲線をみると音の高さ(周波数)が低い音は値が小さくなり、高い音は大きくなっていますが、遮音性能は、 どのような材料(コンクリートもベニヤ板も)でも、低い音の遮音性能は小さく、高い音の遮音性能は大きい傾向にあります。

遮音性能のグラフ
図2-1 遮音性能のグラフ

住宅の遮音性能

ここでは、集合住宅を代表とした解説をしたいと思います。
日本建築学会が推奨している集合住宅の戸境(自分の家と隣の家の壁など)の遮音性能は、 D-45~50程度とされています。これは、「集合住宅として適当な値」とされるものであって(基本的に双方の住居では日常生活における常識的な音の発生状況を前提としています)、 それ以外の用途に使う場合は、必ずしも「十分な遮音性能」ではありません。また、集合住宅の壁は、 主にコンクリートで形成されている場合と石膏ボードなどの乾式壁で形成されている場合があります。遮音性能実測例1を見ると、 両者の遮音性能の違いは低音域にあり、コンクリート壁の方が、性能が良いことがわかります。
(巻末の「建築学会適用等級表」を参照してください。)

「うちのマンションは、コンクリート壁だからOK!」となりがちですが、 実はコンクリート壁でも安心できない要素が存在することもあるので要注意です。遮音性能実測例2をみると、 コンクリートの厚み、部屋の間取り、結露防止のために採用されている断熱材の工法の違いによって、性能に差がみられます。 ですから、日常では出さないくらい「大きな音」を出したい場合は、近隣や周辺環境に十分配慮し、 慎重に考えることが必要だと思います。

  • 集合住宅の戸境壁の遮音性能実測例1
  • 集合住宅の戸境壁の遮音性能実測例2
  • 図2-2
    集合住宅の戸境壁の遮音性能実測例1
  • 図2-3
    集合住宅の戸境壁の遮音性能実測例2
音はどこから漏れるのか?

(1) 空気が通る隙間がない

住宅の場合は、窓や換気口などが該当します。換気口は空気が流れる場所ですから、 音も一緒に漏れてしまいますし、窓は、ガラスそのものは密度が大きく遮音性能も大きいのですが、枠廻りの隙間や厚み、 ガラスがもつ特有の共振周波数の影響で、壁に比べると遮音性能が小さくなります。 一般的に使われているベランダサッシや窓の遮音性能は、500Hzで25dB程度ですので、コンクリートに比べると数値上、 半分以下の遮音性能しかありません。例えば、防音タイプの2重サッシ(窓)にすると40dB程度になり、グンと遮音性能が上昇します。

サッシタイプによる透過損失グラフ
図2-4 サッシタイプによる透過損失グラフ

(2) 空気に押されても動かない

両側に皮が張られている太鼓(両面にヘッドが張られているドラム)をイメージしてください。 片側をドンとたたくと、反対側の面も振動します。これは、建築部材でも同じ現象がおこります。 音が発生している部屋を囲う壁などが空気に押されて「ブルブル」と振動するのですが、この振動が再び空気を押すため、 音が隣に伝わることになります。振動する壁は、大きなスピーカと同じです。この現象を防ぐには、 密度の大きな(重い)材料とするか、剛性の高い(固い)材料を用いることです。実際は、 ブロック壁の追加や既存壁に一層壁を追加する事などの対策を行います。

(3) 振動成分が伝わらない

部材が振動し、他の部材を共振させることによって音が再放射されることがあります。 振動だけに着目すると音として聞こえない場合も、何か他の部材が接触することによって、音が再放射されるのです。 この現象を防ぐには、伝搬経路の途中にゴムなどの緩衝材を用い、振動が途中で途絶えるように工夫します。実際では、 グラスウールや防振ゴムを用いた床や、部屋の中にゴムなどで振動絶縁された完全浮き構造の防音室をつくる事などの対策を行います。

外壁からの側路伝搬(GL工法について)

集合住宅の外壁部分には、断熱ウレタンを吹き付けた上に、 GLボンドによって石膏ボードを貼る工法が一般的です。これを通称GL工法と呼びます。

図2-5のようにこぶしで壁をたたいて、「コンコン」という詰まった音がする箇所と 「カンカン」という高い音がする箇所がはっきり分かれているとGL工法の可能性があります。図に示すように、 GLボンドの上は詰まった音、そうでない箇所は高い音がします。

GL壁を調べる
図2-5 GL壁を調べる

GL工法は、施工が簡単安価、またコンクリート面に凹凸があっても仕上げ面を平滑外壁だけでなく隣住戸間の戸境壁にも使われたため急速に普及しました。 しかし、その遮音特性は図2-6に示すように250Hz付近の中音域と2~4kHzの高音域とで遮音性能の低下が見られます。 中音域での低下は、石膏ボードとコンクリート壁との間にある空気がバネの作用をし、 石膏ボードを振動させるために生じるものであり(低域共鳴透過)、4kHz付近での低下は石膏ボードの曲げ波の波長と音波の波長が一致して音波が透過しやすくなる(コイツデンス効果)ために生じるものです。 この遮音性能のため隣戸間の音漏れが問題化したため、GL工法は外壁に面した箇所にのみ使われるようになりました。

GL工法による遮音欠損の例
図2-6 GL工法による遮音欠損の例

音の大きさと静けさの関係

話し声が「ワンワン」響いているレストランでは、ついつい会話の声も大きくなってしまいますが、 廻りの人の声も大きいため、それほど白い目でみられることはありません。しかし、 静かに音楽が流れ、落ち着いた雰囲気のレストランでは、酔っ払いは別にして大声で話す人はいないと思いますし、 大声を出さなくとも相手の人と話すことができます。このように、音の大きさと廻りの静けさは切っても切れない関係にあります。 伝わってくる音量(エネルギー)が同じであっても、その場所が静かな場合は大きく感じ、騒がしい場合は、小さく感じます。 これは、集合住宅の推奨値がD-50前後であることと同じことで、「音源側の音量」と「遮音量」と「受音側に伝わる音量」 「受音側の騒音環境」のバランスが大切になります。

音の回り込み
図2-7 音の回り込み

思う存分...

「音楽を大きな音で聴きたい」「楽器を練習したい」「映画館のように大音量で映画をみたい」というのは、 誰もが望むことですが、住まいの種類や状況、廻りの環境などを理解し、配慮が必要と考えます。「思う存分...」となると、 手を加えて高い遮音性能を確保できるような対策が必要になります。

「防音は難しくて費用がかかる」とよく言われますが、ある程度の条件(1)部屋でどのようなことがやりたいか? (2)利用する時間帯は? (3)音量の調整などどこまで譲歩できるか? (4)費用はどの程度か? (5)住空間と音空間のどちらを優先するか? など、具体的にプランを整え、計画的に行えば、スムーズにことが運べます。また、新築の場合、「音を出す部屋の配置」を前もって考えておけば、 遮音構造も簡素化できる場合もあります。改修の場合は、現状の遮音構造や廻りの静けさなどを調査しておくと、 やみくもに厚みのある壁をつくる必要もなくなります。
「専門家に相談するのは、ちょっとなあ...」と言わずにお気軽にお問い合わせください。

4. 次号の予定

最近では、楽器を手にする若者が増えてきているだけでなく、最近のTVコマーシャルにも・・ 「いわゆる親父バンド」がクローズアップされているように熟年世代の方達も昔のようにもう一度音楽に親しみだしているようである。
是非とも、他人に迷惑をかけず・誰にも気兼ねせずに楽しみたいものである。
今まで4回にわたる連載企画が、少しでもそんな皆さんの参考になれば筆者としても嬉しい限りである。

次号では、主に「防音DIY」として練習室の防音技術に関連する基礎知識の解説を通じ、 引き続き「他人に気兼ねせずに心ゆくまで楽器練習を・・」の提案を継続して行きたい。

(参考資料)

建築物の遮音性能基準
(日本建築学会編「建築物の遮音性能基準と設計指針[第二版]」技法堂出版;1997年より引用)

性能基準
建物・室用途別の性能基準は、次に示す適用等級による。

1. 室間音圧レベル差
室間音圧レベル差に関する建物、室用途別適用等級を表A.1のように定める。

表A.1 室間音圧レベル差に関する適用等級

建築物 室用途 部位 適用等級
特級 1級 2級 3級
集合住宅 居室 隣戸間界壁
隣戸間界床
D-55 D-50 D-45 D-40

引用者註)他の建物については割愛した。

2. 床衝撃音レベル
床衝撃音レベルに関する建物、室用途別適用等級を表A.2のように定める。

表A.2 床衝撃音レベルに関する適用等級

建築物 室用途 部位 衝撃源 適用等級
特級 1級 2級 3級
集合住宅 居室 隣戸間界床 重量衝撃源 L-45 L-50 L-55 L-60*
軽量衝撃源 L-40 L-45 L-50 L-60

*木造、軽量鉄骨造またはこれに類する構造の集合住宅にはL-65が適用される。
引用者註)他の建物については割愛した。

適用等級の意味
上記の1、2に定める適用等級は、通常の使用状態でほぼ表A.3に示す条件に相当するものである。

表A.3 適用等級の意味

適用等級 遮音性能の水準 性能水準の意味
特 級 遮音性能上特に優れている 特別に高い性能が要求された場合の性能水準
1 級 遮音性能上優れている 建築学会が推奨する好ましい性能基準
2 級 遮音性能上標準的である 一般的な性能基準
3 級 遮音性能上やや劣る やむをえない場合に許容される性能基準