技術部 早川 篤

技術ニュース22号「京都シネマ」の最後に、「映画館で映画観ませんか?」と書いていたのですが、今回は、 「ホームシアターのすすめ」を書くことになりました。「なんとも私は、軽い人間なの?」と思いながらも、 「ホームシアターの魅力」をまとめることにします。

ホームシアターの魅力とは?

「自宅のリビングルームが映画館に!」といった宣伝文句をよく耳にします。映画館の場合、 「いきたいけれど、家族四人なので、出費がおおきい」「子供がまだ小さいから、廻りの人に迷惑をかけないか心配だ」 「映画館に出向くのは、おっくうだ。」「涙もろいので、人前では映画をみることが出来ない」という印象をお持ちの方もおられると思います。 シネマコンプレックスが全国各地にオープンし、競争が激しい昨今、このようなお客様の声にこたえるように、 時間帯や曜日を限定し価格を下げているところや、子供連れ専用の日をつくるなど、いろいろな工夫が凝らされています。 一般的に映画館は、製作側の意図をできるだけダイレクトに伝えようとする反面、見る側はある程度、制約(ルール)されることになります。

逆にホームシアターの場合は、見る側が「時間、画面の大きさ、音量、再生・停止の操作、飲食など」、 自由に選択できる要素が多いこと、映画だけではなく音楽(コンサート)、スポーツなど素材の種類も豊富にあり、 幅広く楽しめるところが魅力だといえます。

サラウンドを体感しよう

店頭では、国内外問わず音響機器メーカのスピーカやアンプ、DVDレコーダなどが並んでいます。 エントリーモデルであれば、数万円でサラウンドシステム(5.1chなど)が揃うくらい価格の幅も広がっており、 以前のように「敷居の高い」ものでなくなりつつあります。

現実的には「自宅にスピーカを何個も並べるのは面倒だなあ」と思うかもしれませんが、最近は、 機器接続も容易で、各スピーカの距離や音量バランスなども自動的に調整してくれるものもありますし、 サラウンドスピーカの設置位置も、「まあまあ。。」であっても、それなりにサラウンドの雰囲気をかもし出すことができます。 (本当は規格とおりにセットしたいのですが、大半の方は、家具の配置や家族の生活を考えると難しいものだと思います)

突然ですが、シアターの場合、画面(スクリーン)の裏側には、L(左)、C(センター)、 R(右)の3つのスピーカがあるのはご存知でしょうか?(テレビやオーディオはL、Rの2つのスピーカです)。

映画の場合、セリフの大半がセンタースピーカから再生されています。人が画面の中心に位置するとき、 セリフはセンタースピーカから、また、左右に人物が動いたときは、左右のスピーカからセリフが再生されます。 つまりセンタースピーカが壊れると、映画の大半のセリフが聞こえないことになります。人物が画面の中心にあるときに、 声が左右の方向から聞こえると視覚と聴覚の到来方向に違和感を感じます。画面が大きいほど、 この方向感のずれが大きく感じられます。

ステレオ再生であっても十分に「臨場感や奥行き感」も感じられますが、サラウンドにすると、 より一層前後左右の奥行き感や音の移動時のつながりが自然に聞こえるようになります。DolbyやDTS、 THX沢山のヨコモジ規格が発表されていますが、気負いせずに「やってみる」ことが大切だと思います。

シアタープラン

「これからやってみよう」とお考えの方は、自由度の高いホームシアターであるからこそ、 周辺環境等をふまえてプランをたてることが大切です。
そこで、ホームシアターを目的別に大きく3つに分類してみました。

  1. リビングシアター
    家族との共有スペースであるリビングルームをホームシアターとして兼用する空間
    サッカーを見るのもよし、アニメを見るのもよし

  2. プライベートシアター
    日常的な生活と切り離して映画や音楽に没頭できる空間
    思う存分、お好きなように。。。

  3. パーティーシアター
    友人などが集まり、同じ映画や音楽に没頭できる空間。パーティースペース。
    ニューシネマパラダイスの現代版。映画を見ながら大騒ぎしていた時代もあったのでしょうか?

* スクリーンサイズを選ぶ
大きなスクリーンが好まれますが、天井の高さとプロジェクターの最短投射距離から、 スクリーンの縦方向の大きさが決まってしまいます。スクリーン寸法比が4:3、16:9の違いによって高さ方向の印象に違いがあります。 もちろん視線の方向も考慮します。3時間近い映画があることをお忘れなく。見終わったら肩こりがひどくなってしまいます。

再生音量とマナー

映画館の「マナーCM」では、「携帯電話をきりましょう」「話をするのはやめましょう」 「走り回ったりするのをやめましょう」「禁煙です」といった内容がアニメーションなどを使って楽しく表現されています。 「ホームシアターは、プライベートな空間だから関係ないぞ」とはいうものの、やはりマナーが必要です。それは、音量です。

映画館の場合、封切り前にフィルムが分割して劇場に送られてきます。本編の前にCMをつなぎ、 1巻きのフィルムに編集した後、試写を行うのですが、その時に音量調整も行います。
例えば、「人がヒソヒソと話している場面から、すぐさま、背景のビルが崩れおちる」シーンがあるとします。 「ヒソヒソ声」がはっきり聞こえる音量にしておくと、「崩れ落ちた」時の音がかなり大きく聞こえますし、 逆に「崩れ落ちる音」を適度な音量にすると、最初の「ヒソヒソ声」が聞き取りづらくなります。

このように映画全体のバランスをみて音量を調整する作業が行われているのですが、ホームシアターの場合はどうでしょうか?

映画の再生を始めてから、途中、何度も音量調整したご経験のある方もおられるのではないでしょうか? 私もよく夜中にDVDを見ます。最初の配給会社のコマーシャルで、ある程度の音量調整をするのですが、 ロケ場面とコンピュータグラフィック画面(CG)が混ざっている映画で、CGのシーンになると急に音が大きくなり、 慌ててボリュームを下げたこともあります。

実際に測定した「視聴位置での発生音レベル実測例」をご覧ください。横軸は、周波数特性といって、 音の高低を示します。左側が低い音、右側が高い音です。(人が聞こえる音の範囲やスピーカ再生の範囲は、 グラフが示す範囲より広いのですが、建築音響では、一般的にグラフのような範囲で表しています。)グラフを見ると、同じ映画、 同じシーンであっても、人によって再生音量の差が大きいことが分かります。映画(ソフト)によっても音量が大きく違い、 人の好みによっても音量が違うため、シアタープランでは、再生したい音量がどの程度か、目安をつけておく必要があります。
映画の場合は、試験音を基準のレベルに設定した上でフィルムごとに音量調整を行いますが、 ホームシアターの場合は基準レベルが曖昧ですので、ほとんど各個人の好みの音量になってしまいます。

視聴位置での発生音レベル実測例
視聴位置での発生音レベル実測例

実際の遮音性能

マンションの遮音性能実測例のグラフを示します。これらの数値は、「音圧レベル(音量)の相対差」です。 例えば、ホームシアター内の音圧レベル(音量)から隣の部屋の音圧レベル(聞こえる度合い)を差し引きし、どの程度、 音が減衰しているか?ということを意味します。ですから数値が大きいほど性能はよく、大きな音を出しても、 それほど隣に聞こえないということになります。ここで着目したい点として、横軸の左側(低音域)が小さく、 右側(高音域)が大きくなった右上がりの曲線になっています。 実測例をみると石膏ボードなどを用いた乾式壁よりもコンクリートの方が低音域の遮音性能は大きくなっています。 この「低音域の遮音性能がどの程度あるか?」が遮音性能の鍵となります。ホームシアター用のスピーカには「サブウーハ」があります。 これは、ご存知のように低い音を再生する役目を持っているスピ-カで「爆発音」や「地鳴り」のシーンなどで活躍します。 {トムクルーズの○○戦争は、低音の出方は凄かったです}このサブウーハは、 100Hz前後から低い音を受け持っており、他のスピーカは、サブウーハより高い音を受け持ってます。ですから「迫力のある低音」は、 ちょうど「遮音性を確保するのが難しい」音域でもあるのです。

集合住宅の戸境壁の遮音性能実測例1
集合住宅の戸境壁の遮音性能実測例1

部屋の配置

ご自分がホームシアターとしたい部屋の位置を確認しましょう。「壁を隔てすぐ隣に寝室である」 「窓をあければ、隣の家のベランダがある」など、大きな音を出した場合、迷惑になるような人や部屋がすぐ近くにあるかどうかを思い浮かべて見てください。 テレビを見ているときの音量+α程度では、問題にはならないと思いますが、周りの環境が静かであれば、 わずかな音でも聞こえてしまいます。

遮音グレードと音の響きのコントロール

シアタープラン、希望する再生音量、部屋の配置、現状の壁構造などの組み合わせによって、 付加すべき遮音性能(構造)が選定されてきます。また、仕上げの吸音材料は比較的やわらかく、壊れやすい素材が多いので、 プランごとにまとめてみました。

  1. リビングシアター
    普段テレビをみている音量+α程度(ソフト再生中も会話ができる程度)とし、深夜などは音量を控えめにする場合は、 優先順位として窓や換気口など遮音量が小さな部分を防音タイプとしてはいかがでしょうか?
    内装仕上げ材は、「経年変化」や「破損」などを考えると、一般的な内装仕上げがよいと思います。 リビングルームの仕上げ材は、音の反射が大きい素材がほとんどですが、天井に岩綿吸音板(事務室などでつかわれている虫食いの板)と床にカーペットなどを敷くだけでも、 音の響きを押さえることができます。

  2. プライベートシアター
    思う存分大音量で映画やソフトを楽しみたい人は、完全浮き構造に近い高性能の遮音構造をお勧めします。 もちろん外部から不要な音が飛び込んでくるのも防ぐことができますし、照明プランなども合わせて設計するとリラックスできる空間になると思います。
    音の響きを重要視する場合、グラスウールなどの吸音材を、適度な面積、 効果の高い場所を選択し取り付けると室内の響きが適度に押さえられ、同時にスピーカから聞こえる音も明瞭に聞こえるようになります。 やたらと広い範囲で吸音材を貼り付けると、費用がかかる上に、落ち着かない違和感のある空間になってしまいますので、 専門家にご相談ください。

  3. パーティーシアター
    2.と同じく、完全浮き構造に近い高性能の遮音構造をお勧めします。リビングシアター的な意匠に加えて、 音のコントロールできる部材を適材適所に設けることによって、部屋のコントロールをするという考え方がよいと思います。 例えば、オブジェ的な吸音体などを天井から吊り下げたり、間接照明の中に吸音の仕掛けをつくれば、 違和感がなく日常でも使える空間になると思います。専門家にご相談ください。

    * お近くに映画館のない地域にお住まいの方は、ピッタリだと思います。ご近所の子供達を集めて映画大会というのも良いかもしれません。

スピーカレイアウトの例

ホームシアターのショールームにいくと、センタースピーカが床置きとなっており、 画像と音声の方向感に違和感を感じます。特に寝そべった状態のソファに腰掛けて、スクリーンを見上げた状態に加えて、 足元からセリフが聞こえるというのは。。。また、センタースピーカから左右のスピーカに音が動く場合スピーカの高さやスピーカ形状が違うため、 音質も変わるし音の高さも変わるし。。。サウンドスクリーンの裏側にスピーカを並べた方が映画館に近いけど、 スクリーンだけでかなり高価だし。。。スクリーンの外側にスピーカがあるのも、実際のところはどうなのか。。。といろいろ悩んでしまいます。 でも、実際は住空間なので、「レイアウトに制限があるなあ。。。」と思いながら、島根県浜田市のK様邸ホームシアターのレイアウトを担当させていただきました。 この物件は、H社の映画館電気音響マニアのT氏と相談しながら、次の項目に着目しながらレイアウトを進めました。

  • 音楽鑑賞用スピーカと映画鑑賞用スピーカは別に設置し、キャラクターの違うスピーカを使い分ける。
  • スクリーンの外側にスピーカを並べず、センタースピーカのモデルをスクリーン下に3台ならべ、L、C、Rとする。
  • 着座位置からみるスクリーン中心位置の仰角、人の視野角、ステレオ再生時のスピーカ角度、映画鑑賞時のスピーカ角度など、細かい点を考慮する。
  • スピーカ周りに稼動タイプの吸音トラップを取り付けて、初期反射音を好みで調整できる。
  • 仕上げ材は、意匠優先。デッドな空間とせず、違和感のない空間とする。

最後に悩んだのがサラウンドスピーカの設置位置です。MAルームや試写室であれば、 {リスニングポイントに対して同心円上にしてください}というのですが、今回は、住空間です。 スピーカレイアウト優先で部屋の形状を決めつけてしまうこともできません。最終的に、フロントスピーカと距離が変わるのですが、 サラウンドスピーカのみ同心円状に配置してもらい、距離の違いによる音の到達時間の遅れなどは、機材で調整することにしました。 (映画館音響マニアであるT氏のご協力のもと、調整させていただきました)完成後、ちょっとした試写会を開いたのですが、 飛行機が飛んでいくシーンでは、天井を見上げたり、後ろを振り返る人もいたりと、迫力のあるシアタールームが完成しました。



最後に

ホームシアターは、「画面の大きさにこだわる人」、「サラウンドスピーカはいらないよと言う人」など千差万別。 でも、どれが正しいか間違っているかではなく、どのように楽しむかという本来の姿を形に表すことが大切だと思います。 でもやっぱり最後は、「映画館で映画観ませんか・・・」N監督、「ホームシアターのすすめ」なんて書いてすみません。


設計施工:宮田建設工業株式会社
http://www5.ocn.ne.jp/~sakeshop/profile.html