テレビ放送局副調整室編

工事部 佐竹 康、木村 文紀

地上デジタル放送開始とサラウンド対応化

2003年12月より関東、中部、近畿の3大都市圏から始まった地上デジタル放送は、その放送エリアを順次拡大して、 2006年末までには全国でスタートします。そして5年後の2011年には、アナログ放送からデジタルテレビ放送に完全移行します。

これにより、映像はハイビジョン、音声は、2chステレオから多チャンネル化(5.1chサラウンド)するため、 近年、TV放送各局で、それらのフォーマットを制作出来る環境へと、新規設備工事あるいは、既存設備の更新が行なわれ、 音声エリアのモニター環境はサラウンド対応化が行われてきています。

そこで今回は、昨年サラウンド対応化を行ったTV局の中から、九州地区よりRKB毎日放送様、 中部地区より東海テレビ放送様、関西地区より関西テレビ放送様ならびに毎日放送様、 以上4局のTVスタジオサブの音声エリア・サラウンドモニター環境構築までの改修・更新過程をご紹介致します。

1. RKB毎日放送

RKB毎日放送様は、全国では4番目、九州では初の老舗の放送局です。1996年に、 福岡ドーム近辺の臨海地区「シーサイドももち」に新社屋を移され、福岡地区の地上デジタル放送開始の2006年7月に向けて、 今年2月に、既存T1スタジオ・サブの全面更新を行われました。 その音声エリアのサラウンド対応化を当社で担当させていただきましたのでご紹介いたします。

サブの更新計画概要

今回のサブの更新にあたり、お客様の兼田様(制作技術部・音声ご担当)よりいただいた、 新しいサブの音声モニター環境に対するご要望は以下通りでした。

2006年7月1日より開始するRKBの地上波デジタル放送の開始に合わせ、 運用開始から10年が経過し老朽化が目立ちはじめたT1サブを、映像を完全HD化、そして音声をサラウンド対応に改修することになりました。 T1サブはワイド番組、音楽収録をはじめ、野球・ゴルフ・柔道等のスポーツ中継どんたく・博多祇園山笠などの大規模イベント中継と、 ほぼ全ての番組を制作します。当該サブの仕上がりが今後のRKBの制作番組の基準となるため慎重に各種検討を重ねてきました。

まず、一番大きな問題はスピーカーをどの位置に何本設置するかということです。
ステレオ制作とは比較にならないほど音像、音量、音質がシビアになるサラウンド制作のための繊細なモニター環境を実現させるためには、 使用する度にスピーカーを設置する方法ではそれだけで莫大な手間と時間がかかってしまいます。少しでも制作者の負担を減らすため、 また、予め環境が整っていれば不案内な者でも気軽にサラウンド音声に親しむことができるため、 絶対条件としてサラウンドモニターの常設を行うことにしました。

モニタースピーカーは複数メーカーの大型小型を数多く試聴した結果、求める音質を理想以上に再生したPSI Audio社のA25-3を選択。
せっかくの高音質を損ねたくなかったので建築にあたってはモニターコントローラー等を一切使用せず配置や音量だけのアコースティックな調整のみでサラウンド空間を実現させたいという点も大切な条件でした。

また、アナログ放送廃止まではあくまで基準はステレオ放送という方針のため、サラウンド制作時でも常にステレオ音声の比較、 確認を行わなければいけません。その際、ステレオモニター時とサラウンドモニター時に大きな違和感を生じてしまっては全く意味がありません。 更に音声設備を設置するスペースにも限りがあり、あまり広い空間を確保できません。以上の理由からスピーカーは5本+LFEでステレオ/サラウンドの兼用と決定しました。

これらのことを踏まえ、映像設備から支給される機器の配置や全ての音響調整を含み、 音声モニター棚そのものの設計、製作を日本音響エンジニアリングに依頼することになりました。

サラウンドモニター環境の設計

<サラウンド配置計画>
既存T1サブの音声エリアを写真-1に示します。 2chのラージモニターとメイン/サブTVモニター群がところ狭しと並んでいます。今回の更新でも、左隣の映像エリアのモニター棚との関係で、 お話をいただいた当初、音声エリアの幅は、既存レイアウトと同じ幅の中で計画が始まりました。

既存T1サブ音声エリア
写真1-1 既存T1サブ音声エリア

サラウンドモニター環境では、当然スピーカの数が増え、5本のスピーカを同心円上に配置しようとすると、 必然的に2chモニター環境よりもスペースが必要となってきます。さらに映像もハイビジョン化となると、 TVモニターもワイド画面となり、さらにスペースが必要となります。
このことから、出来うる限り、音声エリアを拡幅していただく方向で兼田様にご調整いただき、右側柱型面より、 3.3mまでの範囲で、既存より左に20cm音声エリアを拡げていただきました。

その中で、今回はディレイ、EQなどのモニターコントローラーを使用しないため、 5本のスピーカはすべて物理的に等距離で、なおかつ建築的に左右で出来るだけ条件を近づける必要がありました。

左隣の映像エリアのモニター棚及び映像コンソールとの運用上の並びの関係、また、 ミキシングコンソールと後ろに配置される音効卓との前後関係から、ミキシングコンソール(STUDER社・VISTA-8 42fader)の位置が最初に決まり、 ミキシングコンソールセンター前面より15cm下がった点をミキシングポイントとしました。
そこから5本のスピーカがすべて等距離で最適な配置となるように検討を重ねた結果、図1-1,2のようになりました。

音声モニター棚及びサラウンド配置図
音声モニター棚及びサラウンド配置図
図1-1,2 音声モニター棚及びサラウンド配置図

5本のスピーカはミキシングポイントからすべて2.0mと等距離で、 フロントLCRchスピーカ(PSIAudio社・Active25-3)のLRchの開き角は60°、仰角6°で、CchはメインTVモニターの視認性が優先のため、 メインTVの上に、ツイーター・ミッドのユニットがマウントされているサブバッフルを90°回転させて横置き型として、 仰角20°で、3本ともモニター棚内にマウントしています。
サブウーハー(同社・Active255-1×1本)は、メインTVモニター直下に配置しています。

リアスピーカ(同社・Active21-2)の平面配置は、ミキシングポイントの位置から、 "ITU-R BS775-1準拠"の開き角110~120°の配置をとろうとすると、SRchは右柱型に干渉するか、 柱型入り墨内側に配置となって音圧が上がる恐れがあり、SLchは角度が浅いと大幅に映像エリアに張り出してしまうため、 今回の設計ではそれらを回避するため130°配置としました。また、高さ方向の検討ですが、 柱型との干渉を避けられるぎりぎり高さで設定すると、Cchと同じ仰角20°となるのですが、スピーカ下端で約1.8mとなり、運用上、 導線の妨げになる可能性があるため、"常設であること"と最適な配置との両面を考慮して、電動昇降装置を天井面から吊る方法を採用し、 サラウンド使用時に、最大限下げた状態で仰角20°・距離2.0mとなるように設置しました。 スピーカの仰角は通常15°以内に納めたいところですが、開き角を通常より後ろの130°としたことで、逆に、 フロント~リアの音像の自然なつながり、後方の拡がり感を得ることができました。

<音声モニター棚>

音声モニター棚には、36インチ・ブラウン管タイプのメインTVモニター、計17台の素材モニター及びタリー表示機、 LCRchスピーカ3本、サブウーハー1本、さらに無線TEL・パッチ盤等の視認性を必要とするラックマウント機器(40U)と、 これだけの機器がマウントされ、音響特性・視認性の両面において満足するような機器配置が必要とされました。

フロントLCRchスピーカは、それぞれモルタル充填のスピーカ台の上にインシュレーターを挟んで載せ、 尚かつボルトとアングルを使って背後からスピーカ台とキャビネットを拘束してマウントしています。キャビネットを傾けて、 バッフル面より張り出す形で、ミキシングポイントに向け配置し、TVモニタ面からの反射の影響を極力受けないように配慮しています。 LRchスピーカの間に位置するメインTVモニターは、一番その影響が大きく、音像のセパレーションの劣化、 奥行き感をぼかすなどの原因となるため、メインTVの廻りのバッフル面だけ掘り込んで、TV画面の位置をセットバックすることで、 その影響の軽減を狙いました。また、Rchスピーカの横に位置するラックマウント機器のフェイスも反射面となるため、 視認性は確保しつつ、バッフル面より奥に配置しています。
サブウーハーも棚内に配置していますが、直接TV等の機器を加振させないように、 モニター棚と絶縁した独立のモルタル充填のスピーカ台にマウントいます。

モニター棚の構造ですが、通常、映像モニター棚はスチール製の場合が多いのですが、 棚内部での不要な"鳴り"を防ぐため、骨組みも棚板も含め、すべてを木工で製作しています。 表面は音響透過性の良いジャージクロスパネルで機器廻りを囲い、棚の奥の面で十分な吸音処理をして、棚の内部空間では、 音響調整時に吸音・拡散等の音響処理を施せるような構成になっています。

<リアスピーカ昇降装置>

通常、スピーカの昇降装置を設置する場合、天井内に昇降シャフトが潜るように設計しますが、 今回のT1サブでは、天井高が3.5mと比較的高く、シャフトが天井内に潜らなくても十分ストロークできる高さがあったため、 天井面から機構を直に吊る方法により、比較的安価に製作することができました。
昇降ストロークは46cmあり、その間はリモコンで任意の高さで停めることもできます。

<その他の家具工事>

モニター棚以外にも、ミキシングコンソール右袖のサイドデスクと、その上の吊り戸棚、 転がしラックも製作致しました。モニター棚と右側の既存柱型の間に挟まれる空間に吊り戸棚を配置し、 吊り戸棚上部の空間を十分な空気層をもった新たな吸音層としました。また、吊り戸棚の扉を、音透過性のある吸音扉として、 扉奥の棚内を背後空気層として活かし、ミキサーに対し、左は映像エリアのため開放空間、右はすぐに壁面のため、 音響的に左右対称とならない条件において、できるだけ右側の吸音力を持たせて、音響的なバランスを取るように工夫しています。

新設音声エリア 新設音声エリア
写真1-2,3 新設音声エリア

音響測定・調整

建築工事終了後、TV・音声卓等の機器設置・ワイヤリング工事が終わって、 運用トレーニング期間中に音響調整を行いました。

ミキシングポイントからのアライメント・開き角度を物理的に計測しながらスピーカセッティングを確認し、 まずはじめに5.1chスピーカの1/3 Oct.Bandレベル測定を行って、スピーカのアッテネータと音声卓内のモニターレベルにより、 スピーカ固体差を微調整していきます。そこで一通りレベルバランスを揃えた上で、これをデフォルト・セッティングとして、 その後、ヒヤリングによる音響調整へと移っていきます。

メインのLRchから、Cch→サラウンドch→LFEchと調整を進めていきます。調整用の音源は、 ミキシングコンソール経由で、音楽やナレーション、映画素材などのいろいろなCDやDVDを聴きながらの調整作業となります。 以下に、そのプロセスを簡単にご紹介致します。

<メインLRch>

それぞれのスピーカは設置時から音響調整時までの間、エイジングしていただいたので、 デフォルト・セッティング時で、かなり良い状態であったのですが、ヒヤリングにより、 スピーカ周辺の室内音場をさらにトリートメントしていきます。

1. メインTV(36inchブラウン管)の筐体内で起こる共鳴音を、制振シートでダンピング処理

2. Cスピーカ両脇のクロスパネル裏に吸音材(エンボス状スポンジ)追加
→「音像の奥行き感が出て音が立体的になってきた。リバーブの感じが分かりやすくなった。」

3. LRchスピーカの両脇スペースにレンガを積み重ねて配置
→「低域の芯がしっかりしてきた。」

4. そのレンガの個数・積み方を変更、スピーカ外側を奥に下げて2段縦積み、内側を横積みで手前に配置
→「リズムの低域・中域・高域の足並みが揃ってきた。」
→「右側に音像が引っ張られる印象が出てきた。」
解像度が上がってきて左右バランスの微妙な部分が気になりはじめてきた。

5. 右側ラック表面に仮に吸音材(額貼りグラスウール)を配置
→「余り印象はかわらない。」さほど影響が無いことを確認、他の手段へ

6. 少々音像を中央に集中させるため、1でメインTV両袖の吸音材を配置した下の部分にレンガをTVの左右に2本ずつ積み重ねてバッフル手前から斜め外開きに配置
→「音像の左右バランスは取れてきたが、音楽のリズムの足並みがまたバラけてきた。」

7. そのレンガを左右1本ずつにして、バッフル表面より少し下げて配置(写真1-4)
→「全体的にまとまってバランスが取れた。」

ここで、音圧レベルバランスを再確認してLRchは終了して、サラウンドへと移行します。

音響調整後のバッフル内部スピーカ廻り
写真-4 音響調整後のバッフル内部スピーカ廻り

<Cch>

Cchは主に声の帯域を再生するので、メインLRch調整後の特性とCchスピーカを、 またLRchスピーカによるファンタムセンターとCchスピーカのハードセンターによる音質の違いを、 ボーカルものなどを聴き比べながら調整していきます。
LRchに比べ音質が軽く、ボーカルが前に出なかったので以下の調整をしました。

8. スピーカのキャビネット上面後方にウェイト(砂袋)かける

9. さらにキャビネット上面中央部にウェイト(レンガ)をかける
「音が前に出てきた」
→「ボーカルが締まって聴こえてきた」
10. SP側の低域レベルコントロール(Bass roll off)を微調整して完了。

<SurroundL/R ch>

スピーカ仰角調整後、サラウンドパンニングしているDVD素材などでフロントとの音像のつながりをチェックします。 サラウンドスピーカは2wayシステムのため、フロントの3wayと比べると音質の差はありますが、そのことも考慮して調整していきます。

11. フロントchとのレベルバランスを再確認し、全体のレベルを微量下げる

<LFEch>

LFEを効果的に使用している映画素材などをヒヤリングして、爆破音などの低域のレスポンス等をチェックしていきます。
「破裂音の迫力がない」
「音圧レベルほどの音量に感じない。」

12. キャビネット上面・前よりにウェイト(砂袋)
→「低域が硬くなりすぎた」

13. ウェイト(砂袋)をキャビネット上面の後ろよりに
→「音圧感・レスポンスともに良くなった」

以上のような過程を、お客様の立会いのもと、ひとつひとつヒヤリングしていただきながら進めていき、 サブという制約の多い空間の中に非常に解像度の良いモニタリング環境が構築できたと思っております。ここで、 最終調整後のスピーカ周波数特性を図1-3に示します。

音響調整後の音声モニター棚バッフル内部
写真1-5 音響調整後の音声モニター棚バッフル内部

5.1chスピーカ周波数特性
図1-3 5.1chスピーカ周波数特性

ご感想

すべての工事終了から音響調整・トレーニングを終え実際に使用されてから、3ヶ月が経過したところで、 兼田様よりご感想を頂きましたので掲載させていただきます。

完成したモニター棚は、音声機器も設備の一つとして含み機能的にもデザイン的にも非常にまとまりのある空間が完成しました。 そして音響特性を前提として設計した甲斐あり、世界観が変わるほど衝撃的な高音質を体験することになりました。 おかげさまで絶対に信用のできるリファレンスモニターが整い、制作者一同大変満足しています。

最後に

音響調整にお立会いいただきました、RKB毎日放送ご担当の兼田様、樋高様、川添様、スチューダー・ジャパン石田様、 柏木様には、大変お世話になりました。調整が完了したときの音像の解像度の良さを皆さんと共感出来たことを大変感謝しております。

2. 東海テレビ放送

愛知県名古屋市の中心街に位置する東海テレビ放送様は、45周年を迎える2003年の4月に新社屋を竣工されました。 その新社屋のすべての音響諸室(テレビスタジオ・サブエリア、報道エリア、MAエリア)の設計・施工に、 設計事務所・JVの元で当社も参加させていただきました。

新社屋竣工と同時にデジタルマスターの開局、報道スタジオ、MAエリアと順次新設及びシステム移設が行われ、 昨年12月に、HDサブとして新設のAサブ、今年1月に旧社屋かのシステム移設を行ったBサブと、 2つのスタジオ・サブが新社屋に完成し、新規設備により放送開始を向かえています。

そこで、今回のサブ新設をご担当された、お客様の倉地様(制作技術部・音声ご担当)より、新規サブの概要、 並びにご感想をいただきましたのでご紹介致します。

1, 新社屋建設にあたって、これだけは譲れなかった、というようなコンセプトを教えていただけますか。

「旧社屋のサブは、開局当初からのサブで、空調がうるさいなど音響的な考慮が無く、 落ち着いてミキシングできる環境とは言えなかったため、第一に出来るだけ静かな環境を創りたい!という希望がありました。 音響諸室の性能に関しては、レイアウトから内部の音場、空調・電気・システムなどがすべて密接に関係してくるので、 新社屋建設プロジェクトの初期設計の段階から日本音響エンジニアリングに担当して頂きました。」

2. サブもMAエリアも音声エリアはかなり広いですよね。これだけのエリアを確保することは大変ではなかったですか?

「まずサブに関しては、将来のサラウンド化を見据えて、それに対応できるモニター環境を整えたかったので、 その旨を映像スタッフにも納得していただき、できるだけ広いスペースを確保しました。MAエリアに関しては、 名古屋地区では設備が整ったMAプロダクションも少なく、自社制作の番組のMAに関しては、局で設備を整えなければいけないと考え、 強くアピールしました。また、旧館のMA室は狭く、音響的にも問題があったことや、ディレクター、クライアント、 ナレーターなどが部屋から溢れて、制作サイドからの要望もあったので、音響環境の整った広いMAを強く要望しました。MAエリアは、 3層吹き抜けのABスタジオの中階の一部にサブがあり、その直上の谷間のスペースをうまく有効利用できたので、 広いエリアが確保できました。」

3. 新ABサブの概要をお教え下さい。

「基本的には、HD番組であればAサブ、SD番組であればBサブという運用方法です。Aサブ新設においては、 スタジオ生番組・収録番組、音楽ライブ、さらにはスポーツ中継の受けサブなど多彩な運用をするサブであるため、 出来るだけシンプルなシステムということをコンセプトに設計しました(システム設計・施工はタムラ製作所)。当然、 今後の地上デジタル放送の普及も考え、音声システムは5.1chサラウンド対応。
Bサブにおいては、システム移設ということもあり、映像はSD、音声はステレオミックスと従来通りとなっています。

スタジオの運用状況によって、たとえば月曜日から金曜日まで朝、"ぴーかんテレビ"という情報番組があるため、 Aスタジオのセットがそのままになるので、他のHD番組はAサブからBスタジオというクロス運用ができるように、 映像・音声・照明もシステムを設計しています。どちらのサブからでもスタジオ運用可能になっているわけです。音声では、 ワイヤレスマイク、ワイヤレスインカムはどちらのスタジオも受信可能になっていますし、当然、マイク回線もあります。」

Aサブ Bサブ
写真2-1,2 Aサブ/Bサブ

4. サブの音声モニター環境についてお聞かせ下さい。

「基本的にABともに照明・映像・音声エリアの並びは共通していて、 モニター環境としても互換性を持たせたかったので、音声エリアも同じ幅でバッフルも同じ形状にしてもらいました(写真2-1,2)。 ただ、入り口との位置関係がA/Bで逆になるので(図2-1)、Bサブ場合、音声エリアの右にアナブース、 後ろにラック室が来てしまうので、ラック室サッシのガラス面による音の反射と、ラックのファンノイズをさらに軽減する目的で、 重たい起毛性のカーテンを吊ってもらいました(写真2-4,5)。

また、バッフルのTVモニターのエスカッションですが、液晶TVがワイドになったので、 正面モニター棚のほとんどのスペースをTVが埋め尽くしてしまうため、出来るだけTVモニターからの反射音を軽減する目的で、 バッフルのパネルは画面部のみを開口してもらいました。
バッフル表面は、濃紺のジャージクロスで仕上げてもらったので、制作意欲の沸く、 落ち着いた仕上がりになったと思います。(写真2-5)

Aサブのサラウンドスピーカ配置ですが、ITU-R BS.775-1を基準として半径2.3m、フロントの開き角は60°、 リアは120°です。サラウンド使用時に5本のスピーカとも同じ高さでモニターできるように、 キャスター付きのスピーカースタンドで必要に応じてセッティングすることにしました。室内のスペースを考慮し、 サブウーファーはバッフル下部に実装しています。」

A/Bサブレイアウト
図2-1 A/Bサブレイアウト

4 Bサブラック室カーテンの開閉 4 Bサブラック室カーテンの開閉
写真2-3,4 Bサブラック室カーテンの開閉

Aサブ音声モニターレイアウト
写真2-5 Aサブ音声モニターレイアウト

5. ミキシングコンソールとモニタースピーカ選定の経緯をお聞かせ下さい。

「メインコンソールは、フルデジタル卓のSTUDER社 VISTA8を採用しました。音声中継車にD950M2、 MA室にはVISTA7を採用しており、STUDERのデジタル卓の音質や操作性もすでに体感していることや、 生番組・スポーツ生中継などを扱うサブのため、PCや電源が2重化されているという安定性も魅力的でした。 あとサポートもしっかりしているというのも大きな理由です。

メインスピーカーは、いろいろ検討したのですが、音声中継車でATC社SCM50ASLを使用しており、 その3wayスピーカのキャラクターを知っていたということもあって、AB共に同社・SCM100ASL PROを採用しました。 Aサブサラウンドスピーカは、2wayの同社T16 systemを採用しました。」

6. 工事を終え音響調整に伺ってから3ヶ月経ちますが、新しいサブのモニター環境はいかがですか。

「まず、やっぱり静かになったということが一番でしょうか。音質に関しては、 特に癖(カラーリング)があるわけで無く、音質を判断するための良いモニター環境が出来たと思います。音響調整前では、 低域が膨らんで、解像度が少し悪かったのですが、調整後、定位感が出て聴きやすくなりました。」

Aサブ音響調整後バッフル内部
写真2-6 Aサブ音響調整後バッフル内部

7. 2chステレオのサブと5.1chサラウンドのサブが同時にできて、お使いいただいてみて、 それぞれ運用上の違いに合った理想のモニター環境とはどのようにしていけばよいかご意見を伺えますか。

「サラウンドモニターを行なうにあたっては、全方向からの音をモニターする必要があるため、 出来るだけ静かで、左右対称な環境であるべきだと思います。映像エリアとの間に仕切りがあれば、 出来る限りその環境に近づけることができるのではと思いますが、あくまでテレビ局なのでSW、PD、 TKetc.とのコミュニケーション(アイコンタクトとか)が大切でもあるので、映像エリアとの間に可動式の仕切りをつくり、 必要に応じて仕切りをつくることが出来るようになれば良いのではと思っています。」

8. 最後に、今後の東海テレビ様のスタジオ運用の展開などをお聞かせ下さい。

「今シーズンからナゴヤドーム・中日戦の野球中継もHD化され、Aサブが送出サブとして運用されています。 今回、新社屋建設プロジェクトから、日本音響エンジニアリングに、音響設計・施工を担当して頂き、 今後の地上デジタル放送にも十分対応でき、音質を判断するための、良いモニター環境を実現することが出来ました。 情報番組、さらには音楽ライブまでオールマイティーに使いこなせる汎用性の高い音響環境になったと思います。」

この度は、弊社技術ニュースインタビューにご協力いただき誠にありがとうございました。

<最後に>

今回のABサブ、一昨年のMA1,2,3と計5室の新設、音響調整に当って、東海テレビご担当の倉地様、遠藤様、 また、新社屋建設プロジェクト当初から昨年まで音声ご担当で、今年マスターに異動された田名瀬様、 東海サウンド・岡様には大変お世話になりました。この場をお借りしてお礼申し上げます。

3. 関西テレビ放送

関西テレビはフジテレビ系列で、建物は大阪扇町公園に隣接している。 今回は既存のニュースサブ(Nサブ)のシステム更新に伴い音声のサラウンド化へ向けた建築的な対応として、 主にスピーカ金物設置過程について説明する。

ニュースサブの基本的なレイアウトである映像エリアと音声エリアが横並びに配置されているパターン(写真3-1)で、 改修図面(図3-1)でも同様なレイアウトになっている。ここでは特に映像エリア、音声エリアとの仕切りは設けておらず。 そのためサラウンドモニター半径をある程度確保することが可能になった。

ニュースサブ改修前
写真3-1 ニュースサブ改修前
サラウンドスピーカ配置図
図3-1 サラウンドスピーカ配置図

リアスピーカ用下地はスラブからアンカーで吊下げた鉄骨下地に合わせ、既存天井(LGS、 PB+岩綿吸音板)からスピーカ金物を取り付けるための固定式金物を採用した。ただし測定により高さや広さ方向、 角度等の微調整は必要である為、上下左右に移動可能な機構とした(図3-2)。

リアスピーカ用取付金物図
図3-2 リアスピーカ用取付金物図

ここで図3-2のように金物+スピーカ(GENELEC8040A)で約20kgの自重があるものに対し、 スピーカ自体が腕から持出していると天井接点には常にスピーカ前方にモーメントがかかっている状態となる。 金物と天井との設置面が限られている場合、デザイン等も含めいかに設置面を剛に固定できるかがポイントである。

埃等は厳禁の為、既存機材の養生は念入りに行うことが大切である。OAフロアの目貼も大切である。
写真3-2 埃等は厳禁の為、既存機材の養生は念入りに行うことが大切である。OAフロアの目貼も大切である。

完成後のスピーカ調整
写真3-3 完成後のスピーカ調整

最後にサラウンドスピーカ音響調整を終え、フロントスピーカのマーキング、リアスピーカの固定を行い、引渡しとした。
フロントモニターは5.1ch使用時のみ設置することになっている。(写真3-3)機器及びシステム施工はタムラ製作所。

4. 毎日放送

6階ミニスタジオに隣接しているミニサブの改修工事について説明する。尚、音響システムはヒビノ株式会社、 新設音声卓にはCALREC Sigmaを導入した。図4-1の赤丸部分のように映像卓と横並びに音声エリアがレイアウトされている。 特に音声エリアは部屋のコーナーに寄っているため、音響的にいろいろと不利な条件ではあるが、 映像エリアとの境界線のせめぎあいの中で、限られたスペースをいかに自然なサラウンド環境に構築していくかがポイントになる。

ミニサブ平面図
図4-1 ミニサブ平面図
音声エリア図
図4-2 音声エリア図

図4-2の平面図のようにスピーカ配置が"ITU-R BS.775-1"の基準ではないことが分かる。 ミキサーポイントからセンタースピーカを振り分けるとLchが壁の中に埋まってしまう。また、 ミキサーポイントにスピーカ焦点を持っていくと、やはりLCRの角度が異常に狭くなり、ステレオとしても不具合が出てきてしまう。 さらにはリアスピーカの開き角度も120°以下では到底納まらないことが分かる。

モニタリングとして、この小スペースの中では、ラージとサラウンドを兼用しても良いのではという案が生まれ、 さらにはAIR6の特徴であるディレイの設定という形でリアスピーカをフロントとの同心円上からはずすこととした。 またフロントLRの焦点はミキサーポイントよりもやや後方、リアLRは近づけないようにできるだけ距離をおいた位置に納まるようにした。

ここでもうひとつの問題が音のたまりである。幸いこれまでの映像モニターが液晶に変わったことで、 モニター棚の内部空間を吸音スペースに使えることが分かり、なるべく裏のスペースに吸音トラップが吊れる骨組みとした(写真4-1)。 当然メンテナンススペースが必要となるので取り外し式になっているが、ワイヤリング時の覚悟は必要である。

最後に改修前(写真4-2)と改修後(写真4-3)の写真を載せておく。

モニター棚骨組状況液晶モニターなので奥行きを薄くした。
表面はジャージパネル。背面壁は化粧吸音ボード。
写真4-1
モニター棚骨組状況液晶モニターなので奥行きを薄くした。
表面はジャージパネル。背面壁は化粧吸音ボード。

  • ミニサブ音声エリア改修前
  • ミニサブ音声エリア改修後
  • 写真4-2 ミニサブ音声エリア改修前
  • 写真4-3 ミニサブ音声エリア改修後