技術部 田中 菜津、倉光 拓馬

1. はじめに

全方位音源探査システムNoise Visionは従来の計測システムにはない様々な特徴を持ったシステムです。

球体型のセンサーに31本のマイクロホンと12個のCCDカメラを内蔵し、 音源の探査と周辺画像の撮影を同時に行うという画期的な音源可視化技術によって自動車の車室内はもとより、 工場騒音やマンションでの異音探査など様々な状況において評価を頂いております。製品の詳細については、 弊社Webページや過去の技術ニュースなどに詳細が記載されておりますので、ご興味のある方はご覧ください。
2003年の製品販売より多くのお客様に支えられ、様々なオプションソフトウェアの開発やソフトウェア・ハードウェアを含めたバージョンアップなどを経て現在に至ります。

今回はセンサーの小型化、そして開発当初からの目標であったリアルタイム分析機能についてご紹介致します。

2. 小型センサー

様々なフィールドで使用される機会が増え、そのフィールドにおける新たなニーズに対応することが求められてきました。
中でもセンサーの軽量化や、より高周波での分析対応などは、数あるニーズの中でも要求度は群を抜いており、 早急に対応する必要がありました。そこでセンサーを小型化することにより軽量化、高周波での分析対応を満たすことになったのです。

Noise Vision小型センサー外観
図1 Noise Vision小型センサー外観

小型化するにあたっては音源探査の精度はもちろんのこと、従来のセンサーの特徴(信頼性・設置の容易性)などをスポイルすることないよう細心の注意を払い設計・製作にあたりました。 以下に詳細を見ていきたいと思います。

小型センサー(左)と従来型センサー(右)の比較
図2 小型センサー(左)と従来型センサー(右)の比較

表-1 スペック比較

従来型センサー 小型センサー
球体部直径 260mm 165mm
重量 約12kg 約3.6kg
マイクロホン 31本 31本
CCDカメラ 12個 12個
適用周波数 200~5000Hz 300~8000Hz

(1) 小型化における適用周波数の変化

球のサイズはマウントする部品などの取り回しや適用周波数との兼ね合いもあり、165mmという直径に決定しました。 その結果、適用周波数の上限は5000Hzから8000Hzへと伸びることとなりました。

(2) 各部の軽量化

球体部分の小型化によって、まず厚みを薄くすることが可能となり、 マイクロホンも非常に軽いものを使用することによって球体部分の重量はかなり減少し、 スタンド部分も強度的に必要十分な重量で済むようになりました。その結果センサー単体で3.6kgという従来と比較して約70%もの軽量化が可能となったのです。

軽量化の一例(スタンドのベース部分の肉抜き)
図3 軽量化の一例(スタンドのベース部分の肉抜き)

3. リアルタイム分析機能

人間はどちらの方向から音が来ているか、たとえば2つの電話機がある場合、どちらに電話がかかってきているのか、 瞬時に判断することができます。今回、これを「リアルタイム分析機能」としてNoise Visionに搭載しました。 「リアルタイム分析機能」は今聞こえているその音がどの部分から発生しているのかを実時間に可視化する機能です。

リアルタイム分析機能(図中左の携帯電話に電話がかかってきている様子)
図4 リアルタイム分析機能(図中左の携帯電話に電話がかかってきている様子)

(1) リアルタイム分析機能の特徴

騒音対策には、「測定」により現象を収録し、「分析」により対策部位の発見や行った対策の効果を確認し、 さらに「対策」方法を検討するという「測定、分析、対策」ループが存在します。

Noise Visionも、収録後に波形を確認しながら分析区間を設定し分析をする、という方法を行ってきました。 Noise Visionは、この「測定、分析」を他に例を見ない程短時間で行うことを可能にするシステムですが、 「測定、分析、対策」という3ステップを踏まなければならないことに変わりはありません。

対して「リアルタイム分析機能」は、カメラ映像に従来の音源探査結果をリアルタイムに重ね合わせて表示します。 これにより測定と同時に分析できるので、「測定、分析、対策」という3ステップから「測定・分析、対策」の2ステップへステップ数を減らすことができ、 より多くの時間を「対策」にあてることができると考えられます。

騒音対策ループのイメージ
図5 騒音対策ループのイメージ

またデータ収録を同時に行うことにより、測定後に他周波数、他方向(静止画)に対する詳細分析も可能ですから、 レポートとして測定分析結果を保存することもできます。

(2) リアルタイム機能を活かした分析例

車両の通過音の収録時はもちろん、高速道路走行時の車室内騒音やプリンタに代表されるOA機器などの動作音の音源探査では、 音源となる対象物の移動、変動、機器の稼動状態の違いなどにより、分析結果が時間により変わることがあります。 このような事例に対して、従来のように静止画に分析結果を重ねると、静止画と分析結果の状態が一致せず、 どこが音源部位なのか理解することが難しい場合がありました。「リアルタイム分析機能」はカメラ映像と音源探査結果を逐次重ね合わせることのできるソフトウェアなので、 そういった音源に対しても効果があります。

  • a) リアルタイム音源探査分析の適用事例
  • b) リアルタイム音源探査分析の適用事例

c) リアルタイム音源探査分析の適用事例
図6 リアルタイム音源探査分析の適用事例

a) 車両通過音(音源となる車両の移動)
b) 高速道路走行時の車室内騒音(変動)
c) プリンタ出力時の動作音(稼動状態の違いによる音源位置の違い)

4. リアルタイム分析機能と小型センサーを駆使した音源スキャン

リアルタイム分析機能だけ、小型センサーだけではなく、両者を組み合わせることによって、 Noise Visionでの音源探査の新しい可能性が生まれました。例えば、リアルタイムに分析しながら小型センサーを手で持って測定対象物を音源スキャンする、 これは比較的大きな対象物を測定する際に非常に有効な方法です。大きな対象物全体を見渡せる位置にセンサーを置くと、 カメラ画角の制限により、どの部品が音源となっているか細かく分析することができません。これを改善するためには対象物に近づいて、 見かけ上の空間分解能を上げて測定することが有効ですが、従来のように静止画と分析結果を重ね合わせるとひとつの対象物を分析するのに複数の方向から測定を行わなければならず、 また従来型センサーでこのような音源スキャンを行うと、その重量から測定は大変なものになることが簡単に予想できます。

エンジンルーム内の音源スキャン
エンジンルーム内の音源スキャン
エンジンルーム内の音源スキャン
エンジンルーム内の音源スキャン
エンジンルーム内の音源スキャン
エンジンルーム内の音源スキャン
エンジンルーム内の音源スキャン
エンジンルーム内の音源スキャン
図7 エンジンルーム内の音源スキャン (写真内左上の番号は時間順を表す)

今までのNoise Visionが受動的な音源探査だとすると、これらの組み合わせは能動的な音源探査と言えます。 つまり、より積極的に音源探査することで今まで発見することのできなかった音源を特定したり、既知の音源でも違った角度から分析することで、 新たな発見があるかもしれません。

5. 終わりに

Noise Visionはこれまで音源の可視化に始まり、アニメーション作成機能、指定方向音抽出機能、 そして今回のリアルタイム分析機能、小型センサーとさまざまな機能が追加されてきました。今後もお客様のニーズに合った新機能を開発していくことで、 音源探査のさらなる可能性を見出していきたいと思います。

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