技術部 戸口 健治

1. はじめに

スタジオと一言で言ってもそのカテゴリーは、放送局関連(TV、ラジオ、ビデオ、ポスプロ他)、 レコーディングスタジオ、ゲネプロ用スタジオ、練習スタジオ、企業・学校内の広報用スタジオ・・・等々、多種多様です。
室用途から見ても、室内で音楽演奏したり、人が話すこと(ナレーション、ドラマ収録、対話、アフレコ)を目的とした 「本来」の「スタジオ・アナウンスブース」以外にも、スタジオ関連諸室として範囲を広げれば、音をミキシングして録音する 「調整室(コントロールルーム・副調整室)」、音や映像を編集する「MA室・編集室」、素材を最終調整・確認して送り出す 「主調整室・マスタリングルーム」などがあります。

それらに要求される音響性能にはかなり大きな幅がありますが、すべてのスタジオに共通しているのは、 どのような室用途であっても、室内騒音に関して、十分な静けさを確保することです。
しかし、TVスタジオやレコーディングスタジオ、調整室のように、静謐さが必要な室でありながらも、 逆に自らが大きな音の発生源となることもあるため、それらの室が隣り合ってレイアウトされた場合には、 非常に大きい遮音性能が必要になることも少なくありません。

2. 室別の遮音構造の考え方

前述の通り、スタジオといっても多種多様ですが、最もシビアな音響性能を要求されるのは、 音取り(音楽や声の収録)に用いられるスタジオです。

室内騒音で言うとNC15以下とか、M'15以下とかを目標とされる室で、収録中に回りの室から物音が聞こえてこないよう、 細心の注意を払って遮音・防振計画が行われます。
現実的には、空調騒音が目標室内騒音を下回ることがほとんどなので、NC15以下のレベルであっても物音は知覚されます。
特に、歩行・小走り音や設備振動、扉の開け閉め音などの固体伝搬音に対する対策が重要になりますので、 これらのスタジオにおいては無条件に[完全浮き構造]という形態を取ることがほとんどです。つまり、躯体床の上にグラスウールや防振ゴムを敷き、 その上に改めて浮床を設ける工法で、室内側には、躯体とは防振ゴム等で振動絶縁された浮遮音壁や浮遮音天井が設けられます。(図1)

完全浮き構造のスタジオ矩計図(例)
図-1 完全浮き構造のスタジオ矩計図(例)

更に、よい高性能な遮音構造を実現するためには、浮壁・浮天井(仕上げを含む)を躯体から防振支持せず、 躯体床に防振ゴムを介して自立する鉄骨ラーメン構造を構成して、全ての壁・天井の下地とする工法が取られることもあります。 この場合、建築的に躯体と接触するのは、防振ゴムを介した浮床と鉄骨ラーメン構造のベース鉄骨だけになります。

次に音響諸室として重要なのは、調整室やMA室等、マイクが生きる室ではありませんが、音をミキシングしながら収録したり、 音の音質や音量、バランスを調整・編集する作業を行う室で、スタジオと同様、浮き構造が採用されることが多いです。

これらの室では、音の調整作業のため、モニタースピーカから100dBを超すような大音量の音が再生されることも多いため、 浮き構造の採用は、自らの室内騒音を確保するためばかりでなく、むしろ、音源室として、周囲の室に対して、 騒音伝搬の問題を起こさないために必要な遮音性能を確保するという意味を持っています。
そのため、浮き構造の形態としては、完全浮き構造だけではなく、遮音性能の確保が必要な部位だけ~浮床のみ、 浮天井のみ、一部の壁のみ~を浮かした[部分的な浮き構造]とすることも多いですが、その場合は当然のことながら、完全浮き構造より遮音性能は劣ります。 つまり、直接、音が透過する部位の遮音構造は同じでも、その回りで浮いていない躯体や構造体を伝わる側路伝搬音の影響で、 遮音性能が頭打ちになるのです。

図2に示す例は、詳細な仕様は異なりますが、躯体床の上に、浮床だけを設けた場合と、 浮床を含め完全浮き構造の室を設けた場合の室間音圧レベル差の測定結果で、完全浮き構造の周波数特性の傾きがより急峻である=低音域の遮音性能に大きな差はありませんが、 周波数が高くなるほど、その性能の違いが歴然と出ていることがわかります。

完全浮き構造と床のみ浮き構造の遮音性能比較
図-2 完全浮き構造と床のみ浮き構造の遮音性能比較

通常、静謐さが要求されるスタジオと、大音量のモニター音を出す調整室は一対になって音の収録作業を行うため、 隣り合って(向き合って)レイアウトされることが一般的です。そのため、その間の界壁や建具には大きな遮音性能を持たせる必要が生じますが、 同一素材を扱う両室であることから、施主の了承を得て、必要遮音性能を緩和する、つまり、遮音構造を軽減することもあります。

但し、調整室の話し声がスタジオで聞こえたり、モニター音がスタジオのマイクに入ってハウリングを生じるような遮音性能では問題があります。
また、1つのスタジオを2つ以上の調整室で共用するような場合には必要遮音性能の緩和は難しく、 逆に伝搬する音は「有意味騒音」と見なされるため、より高性能な遮音構造が必要になります。

3. 計画上の留意点

スタジオの遮音構造として用いられる材料は、躯体=固定遮音層としては以前はRCが多かったですが、 建屋構造自体、鉄骨造がメインになっている最近はPCや石膏ボード等の乾式材料が多くなっています。
そのため、以前は問題にならなかった固定遮音層同士の取合い部分で遮音上の問題が生じています。具体的には、

  • デッキスラブの山やリブと固定遮音壁の隙間
  • H鋼梁や鉄骨柱の耐火被覆と固定遮音壁の取合い
  • 外壁カーテンウォールと躯体床の隙間
  • 固定遮音壁の層間変位対応

などで、施工段階での隙間処理の対応方法が遮音性能を大きく左右する要因となっています。

また、音楽を扱うレコーディングスタジオでは重低音からの遮音性能の確保が要求されるため、 石膏ボード等の乾式材料では遮音性能不足になる場合が多く、そのため、スタジオ回りの建屋だけをあえてRC構造としたり、 PCやコンクリートブロックを用いることもありますが、空気層を大きく取った石膏ボード壁を多重に立てることで高い遮音性能を実現した例も多いです。
しかし、この場合、RC壁がある場合に比べて、トータルの壁厚がかなり大きくなるため、室の有効寸法を犠牲にするデメリットも大きいです。

一方、浮き遮音層として用いられる材料は、石膏ボードやフレキシブルボードがほとんどです。 低音の大きな遮音性能を期待して押出し成型セメント板を用いることもありますが、切り欠きに手間がかかる(設備開口や貫通部の穴開け、 建具回りの隙間処理が大変)、鉄骨下地が必要になる(軽量鉄骨下地ではだめ)という押出し成型セメント板特有の材料特性のため、 使用される頻度は少ないです。

スタジオの遮音計画を行う際の具体的な留意点を以下に列記します。

  1. 通常、スタジオ関連諸室は室相互のつながり(電気的にオンラインで結ぶ)が必要になるため、浮床に電気配管を埋め込んだり、 浮遮音壁や浮遮音天井内に弱電配管を行います。この際、躯体側から浮き遮音層に入る位置でエキスパンション・ジョイントを入れますが、 そのフレキシビリティを十分に確保できない場合には固定と浮が十分に振動絶縁されないため、遮音性能を劣化させる恐れがあるので注意が必要です。

  2. 固定と浮の振動絶縁の問題は、空調ダクトについても同様で、ダクト自体のエキスパンションや壁・床貫通部の振動絶縁、 ダクトの防振吊り等を行う必要があります。また、遮音構造が高性能になればなるほど、界壁を貫通する空調ダクトや設備配管・ ケーブルラックを介した音の回り込み(クロストークやリーク)が問題になることも多いため、建築の遮音性能に合わせた設備の遮音補強対応が必要です。

  3. 放送局関連のスタジオ関連諸室に特徴的なのは、フリーアクセスフロア(フリアク)の多用です。ここ十数年来、フリアク製品の種類の増加に伴い、 放送局の弱電配線はフリアク床下で行うことが多くなり(それまでは天井裏でラダー配線していた)、最近の放送局の床は、 廊下を含めてほとんどがフリアクになっています。剛性の大きい躯体床スラブから、束立てされた板状のフリアク床になったことが、 廊下を小走りする足音が隣接する完全浮き構造のアナウンスブースで聞こえやすくなったり、フリアクになっている部屋間の騒音伝搬が大きくなったりする要因になっている可能性があるため、 室のレイアウトも含め、音響的に重要な室の回りではフリアクエリアを限定することも必要であると考えます。

  4. スタジオや調整室等、浮床になっている室はフリアクとはせず、浮床にピットを掘って弱電配線することが多いです。 しかし、ここで注意が必要なのは、ピットを浮床に掘るとその部分の遮音構造(コンクリート)が薄くなることで、 そのために幾分、遮音性能が劣化することになります。

  5. 壁には扉や窓が設けられることがあるため、必ずしも壁だけの遮音性能通りにはなりません。また、出入りの多いスタジオや調整室の場合、 必要遮音性能から見ると2重扉にする必要があっても、使い勝手を優先して1重扉になることも多いです。その場合、 扉が遮音性能上の弱点となり、いたずらに壁の遮音性能を上げても、扉からの回り込みのため、トータルの遮音性能はほとんど向上しないため、 構成している部位間の遮音バランスを考えた仕様を選ぶことが肝心です。

  6. また、扉(枠)を浮遮音構造側に取り付けるか、躯体側(固定遮音層)に付けるかも判断が必要な要素であり、 それぞれにメリット、デメリットがありますが、本来は浮と固定の両方に扉を設け、2重扉とすることが理想的です。 (浮側を遮音上、軽微な扉にしてもOK)

    【浮側に付ける場合】
    ・扉が内開きになります(外開きにするには枠形状や扉の開き角度に制約が出ます)
    ・鋼製防音扉は重量が重いため、浮遮音壁の下地(LGS)では構造的に弱い。 浮床の沈み込みに対する対応も必要になります。

    【固定側に付ける場合】
    ・構造的には有利ですが、遮音上、特に固体伝搬音に対しては無防備になります。(伝搬騒音を放射しやすい)

    ■スタジオ施設の窓はほとんどが嵌め殺し窓です。それも2重窓以上がほとんどで、4重とする場合もあります。 用いるガラス厚は一般建築より厚く、遮音性能を確保するためだけでなく、大音量に対するガラスのビリツキを防止するため、 15mm以上のガラスを用いることが多いです。尚、2重窓の間の空気層はパンチングメタルやGWボード等を用いて吸音仕上げとします。
    また、ガラスによる反射音を音源側にまっすぐに返さないよう、ガラスを上向きまたは下向きに傾けることが多いですが、 窓自体の遮音性能は、平均空気層厚さで決まるという報告があります。(1)

    ■壁とは異なり、天井には照明や空調開口、その他設備機器類が埋め込まれることが多いです。 仕上天井を遮音天井とは別に設ける(2重天井とする)場合は問題ありませんが、天井高さの問題などから、 遮音天井が仕上天井を兼ねなければいけない場合にはそれらによる遮音欠損を見込んだ遮音性能を想定するか、 遮音天井と同等の遮音性能を持つよう、それらに何らかの遮音補強を行う必要があります。(埋め込み照明の裏に鉛シートを貼る、 空調ダクトやボックスに遮音ラギングを施す・・・等)

    ■最近のスタジオ建設にあたって、建設コストも含め、大きな選択肢となっているのが、電磁シールド工事を行うか否かの問題です。 つまり、携帯電話やアマチュア無線の信号線への侵入、放送局でのワイヤレスマイクの混信等を防止することを目的として、 スタジオや調整室の壁、床、天井全面に銅箔や鉄板、各種シールド材料を電気的な穴ができないように貼り巡らせる工事です。当然、 扉や窓にもシールド性能を確保できる素材を用いることになります。時にシールド性能と遮音性能の両立が相反することもあるので、 目標とするそれぞれの性能の調整が必要になる場合もあります。(2)(設備にもシールド対応が必要)

4. 遮音性能実測例

スタジオ施設における遮音性能実測例を示します。実測例の選定に当たっては、浮き構造であることを条件とし、 施工精度や色々な遮音欠損要因による測定値のバラツキ(測定値の最大値と最小値の包絡線で示す)を包含するため、 比較的施工実績(サンプル数)の多い遮音構造を選びました。

但し、以下の点に注意してデータをご覧ください。

  • データは【床-天井】を除き、部位から1m離れで測定した特定場所間音圧レベル差の値です。

  • 各データは2つ以下の要素(壁、窓、扉等)で構成されている場所間で測定を行ったものであり、 壁・窓・扉というように3つの部位が同一面にある場合のデータは除いてあります。 但し、窓や扉の低音域の遮音性能が壁で決まっているというケースはありえます。

  • 測定は竣工時に行ったため、壁の場合には、記載した遮音壁以外に何らかの仕上壁(スタジオの場合、 吸音壁が多いですが、時に硬い反射壁の場合もあります)が付加されていることが多いです。

  • 音源室、受音室とも拡散性が悪く、特に受音室は吸音性の高い室であることが多いため、 中・高音域ではそれによる遮音性能の上昇分も含まれています。

1) 壁 ・・・図 3~12 2) 床-天井 ・・・図 13~17
3) 扉 ・・・図 18~22 4) 窓 ・・・図 23~26
壁の遮音性能実測例 (1)
図-3
壁の遮音性能実測例 (1)

PB15t*2両面+PB15t*2(浮)
固定遮音壁+浮遮音壁


壁の遮音性能実測例 (2)
図-4
壁の遮音性能実測例 (2)

PB21t*2両面+PB15t*2(浮)
固定遮音壁+浮遮音壁


壁の遮音性能実測例 (3)
図-5
壁の遮音性能実測例 (3)

PB21t*2独立両面+PB15t*2(浮)
固定遮音壁+浮遮音壁


壁の遮音性能実測例 (4)
図-6
壁の遮音性能実測例 (4)

RC150+PB15t*2(浮)
固定遮音壁+浮遮音壁


壁の遮音性能実測例 (5)
図-7
壁の遮音性能実測例 (5)

CB200+CB100(浮)
固定遮音壁+浮遮音壁


壁の遮音性能実測例 (6)
図-8
壁の遮音性能実測例 (6)

PB15t*2(浮)+PB15t*2両面+PB15t*2(浮)
浮遮音壁+固定遮音壁+浮遮音壁


壁の遮音性能実測例 (7)
図-9
壁の遮音性能実測例 (7)

PB15t*2(浮)+PB21t*2両面+PB15t*2(浮)
浮遮音壁+固定遮音壁+浮遮音壁


壁の遮音性能実測例 (8)
図-10
壁の遮音性能実測例 (8)

PB15t*2+12.5(浮)+PB15t*2+12.5独立両面+PB15t*2+12.5(浮)
浮遮音壁+固定遮音壁+浮遮音壁


床-天井の遮音性能実測例 (1)
図-11
床-天井の遮音性能実測例 (1)

RCスラブ+PB15t*2(浮)
固定床+浮遮音天井


床-天井の遮音性能実測例 (2)
図-12
床-天井の遮音性能実測例 (2)

フリーアクセスフロア+RCスラブ+PB15t*2(浮)
固定床+浮遮音天井


床-天井の遮音性能実測例 (3)
図-13
床-天井の遮音性能実測例 (3)

OAフロア+RCスラブ+PB15t*2(浮)
固定床+浮遮音天井


床-天井の遮音性能実測例 (4)
図-14
床-天井の遮音性能実測例 (4)

浮床+RCスラブ
浮床+固定床


床-天井の遮音性能実測例 (5)
図-15
床-天井の遮音性能実測例 (5)

浮床+RCスラブ+PB15t*2(浮)
浮床+固定床+浮遮音天井


扉の遮音性能実測例 (1)
図-16
扉の遮音性能実測例 (1)

鋼製防音扉+鋼製防音扉
片開き鋼製防音扉2重


扉の遮音性能実測例 (2)
図-17
扉の遮音性能実測例 (2)

鋼製防音扉(ガラス框タイプ)+鋼製防音扉(ガラス框・沓摺無ZEROタイプ)
片開き鋼製防音扉2重


扉の遮音性能実測例 (3)
図-18
扉の遮音性能実測例 (3)

鋼製防音扉+一般SD扉(ゴム当りあり)


扉の遮音性能実測例 (4)
図-19
扉の遮音性能実測例 (4)

鋼製防音引戸(マーカス)


扉の遮音性能実測例 (5)
図-20
扉の遮音性能実測例 (5)

防音ガラス引戸(ヘーベシーベ)


窓の遮音性能実測例 (1)
図-21
窓の遮音性能実測例 (1)

ガラス10t+ガラス8t(AS150)
防音窓2重


窓の遮音性能実測例 (2)
図-22
窓の遮音性能実測例 (2)

ガラス15t+ガラス10t(AS300~AS400)
防音窓2重


窓の遮音性能実測例 (3)
図-23
窓の遮音性能実測例 (3)

ガラス15~19t+ガラス12~15t(AS500~AS600)
防音窓2重


窓の遮音性能実測例 (4)
図-24
窓の遮音性能実測例 (4)

ガラス8~12t(AS250)+ガラス10~12t(AS360)+ガラス15~19t
防音窓3重


窓の遮音性能実測例 (5)
図-25
窓の遮音性能実測例 (5)

ガラス15~21t(AS750)+ガラス8~19t(AS400)+ガラス10~24t
防音窓3重


窓の遮音性能実測例 (6)
図-26
窓の遮音性能実測例 (6)

ガラス24t(AS470)+ガラス19t(AS290)+ガラス15t(AS350)+ガラス19t
防音窓4重

【参考文献】

1)吉村純一:開口部の遮音性能について。音響技術No.83(1993)P37
2)?.ホール、スタジオ等の音響対策事例(9)
扉の遮音-電磁シールドとの絡み。音響技術No.98(1997)P56

-----この記事は、音響技術No.120(2002)に記載された原稿を一部加筆・変更したものです。-----