技術部 菅谷 茂樹

1. 概要

航空機騒音測定・道路騒音測定の調査については、現場測定に多くの時間・日数・人手を要し、かつ、 その分析作業に測定以上の人手・時間を要することがあります。このような測定・分析の省力化、 迅速化を図ることを目的に開発されたのがポータブル型測定システム「DL-100/PT」です。 無人の自動測定でありながら精度や信頼性の高い測定を可能とし、データ処理にかかる労力の省力化も実現する事が出来ます。(図1)

DL-100/PT
図-1 DL-100/PT

2. 開発の経緯

弊社では「航空機騒音の自動測定」を様々な形でお客様にご提案させていただいております。 なかでも通年で常時測定を行う固定測定局「DL-90/R」(図2)は24時間・365日安定稼動、かつ、 高い精度と信頼性を確保した機器ですが、複数の測定地点の定点測定に利用できる、運搬や設置が容易で、 なおかつ低コストで必要な機能を集約したポータブル測定器ができないものかと求められていました。

当社ではこれまでもそういったお客様からのニーズをもとにポータブル型測定器「DL-80/PT」(図3)を開発し販売させていただいておりましたが、 今回、これまでに使用して頂いたお客様から寄せられていた様々なご要望を盛り込み、 新しいポータブル型測定器の開発に取り組みました。

  • DL-90/R
    図-2 DL-90/R
  • DL-80/PT
    図-3 DL-80/PT

従来のポータブル測定システムでは識別された結果、 すなわち航空機騒音の最大値や時刻だけ記録されていればお客様のニーズに対応できていたのですが、 最近では現在の固定測定局「DL-90/R」の機能である、「騒音レベルの瞬時値変動」や「航空機の離着陸の別」、 あるいは「騒音の録音」などの要望があり、コンパクトでありながら高速処理とデータ容量の確保、データ収集能力や拡張性、 データのバリエーションの増加などが求められるようになってきています。

そこで今回「DL-100/PT」を新たに開発し、固定測定局の機能をそのまま集約し小型化しました。

3. 測定の精度・信頼性の向上

  1. 航空機騒音測定の手法

    航空機騒音の環境基準に関する評価は、WECPNLを単位とする値で行うため、 「測定地点での航空機1機毎の騒音レベル最大値」と「騒音レベル最大値を示した時刻」を正確に把握する必要があります。 測定を行う為には、測定地点において騒音計とレベルレコーダーを設置し、 航空機が通過してレベルレコーダーのチャートに記された波形を調査員が目読みして騒音レベルを記録します。 このとき航空機以外の騒音レベルが記録された場合、評価の対象から外さなければならないので、 調査員は測定期間中(7日間)は常に現場に常駐せざるを得ず、また測定後のデータ整理にも多くの人手・時間を必要としました。

    そういった現場の省力化を求めるニーズに応える為、当社の航空機騒音自動測定システムの開発が始まりました。 騒音計に測定とデータ記録を行う為のコンピュータを組み合わせ、 電話回線によりデータを中央局で収集することで航空機騒音測定の無人化を実現しました。

  2. 航空機騒音の識別方法

    発生した騒音を測定・記録する為には、騒音レベルが任意の設定騒音レベル(シキイ値) を一定時間以上継続したものを航空機騒音とする方法を取っています。 ですがこの方法だけではシキイ値を一定時間以上継続した騒音全てを航空機と認識し記録してしまいます。
    例えば航空機騒音と暗騒音レベルに大幅な差がある場合はそれほど問題ありませんが、 測定地点の近辺が道路に密接していたりといった暗騒音レベルの高くなる地域では騒音レベルが頻繁にシキイ値を超過する事がある為、 航空機以外の騒音を記録してしまいます。 こうなるとデータ処理の段階でどれが航空機の発した騒音レベルか判別するのが大変難しくなります。

    このように航空機騒音測定の最大のポイントは「いかにして航空機の騒音だけを抽出できるか」にあるといっても過言ではありません。

    DL-100/PTは、当社で開発した「航空機接近検知識別装置RD-90」と組合せることで、 様々な騒音の中から航空機騒音を特定できるようになっています。これにより、 データ集計における手間を大幅に軽減する事ができます。

    弊社の提案する航空機接近検知識別装置は成田空港を始め、羽田空港、関西国際空港などの民間機飛行場から、 横田基地、厚木基地、普天間飛行場、嘉手納基地等の米軍基地や自衛隊基地での測定でも高い識別実績があり定評を頂いております。

    ここで「航空機接近検知識別装置」の原理を説明します。(図4)

    識別原理
    図-4 識別原理

    まず空港にあるレーダーが飛行する航空機に対し質問信号電波を発し、それに対して航空機が応答信号電波を返します。

    この「識別装置」は航空機が発する応答信号の電波に着目し、 航空機が接近するときに強くなる応答信号電波の電界強度と騒音レベルから航空機騒音と特定します。

    例えば図のように測定対象となる地域で識別装置を持った固定測定局が既設されている場合、 それらで取得された航空機識別データ(パルス列を解析したもの)とDL-100/PTで取得した航空機識別データを突き合わせる事で、 同一航空機の騒音レベルを特定する事や離着陸の別の判定をする事も可能です。

4. 特徴

使う立場で、現場での操作性向上や設置しやすさを工夫しました。

  1. カラー液晶タッチディスプレイの採用

    その為に表示部には高輝度カラー液晶タッチディスプレイを採用し、視認性と操作性の両方を大きく向上させました。 もちろん、対話形式メニューや日本語表示など、従来からご好評をいただいている機能はそのまま受け継ぎました。

  2. 航空機識別装置の改良

    従来の設置ではケーブル配線に手間がかかっていましたが、本装置では配線方式を見直し、 設置作業を軽減できるよう工夫しました。また従来機では設置作業後も設置状況に応じて細かなレベル調整を必要としていましたが、 本装置では特別な調整は必要ありません。

    測定風景
    図-5 測定風景

  3. 設置・調整作業の軽減

    測定を行う場合は、本体とマイクロホン、識別センサを取り付けた三脚付きアルミポールを設置するだけです。(図5)

    あとは本体の電源を入れれば、騒音計の校正などの必要最低限の設定のみで測定を行う事ができます。 騒音計のレンジやフィルタ設定はDL-100/PT本体が自動コントロールしますので、設定まちがいなどが起きないようになっています。

    設定や校正作業もタッチディスプレイに表示された指示どおりに行えばよいので現場で迷う事もなくスムーズな操作を行えます。(図6)

    画面操作
    図-6 画面操作

  4. データ回収から集計まで

    収集したデータはメモリーカードで読み出し、パソコンで集計する事ができます。 市販のコンパクトフラッシュを使用しているのでノートパソコンなどで直接読み取れます。 データは汎用形式(テキストデータ)ですのでお手持ちの表計算ソフトなどを用いて簡単な集計処理やグラフ作成を行う事が出来ます。

    また当社で開発した専用ソフトにより、航空機騒音測定データ、航空機識別データなどを視覚化して表示する事も出来ます。(図7)

波形表示ソフト
図-7 波形表示ソフト

5. 発展性

  1. オプション

    DL-100/PTはお客様の用途に合わせてオプションを追加する事が出来ます。

    航空機の上空通過時刻を±数秒の精度で測定する事のできる航空機最接近検知識別装置「RD-100」や、 電波時計を接続する事で常時高精度な時刻を維持できる時刻修正機能、 騒音をデジタルデータとして保存・聴取できる実音レコーディング機能もご用意しています。

  2. 固定測定局への転用

    またDL-100/PTは固定測定局に転用する事も可能です。大容量バッテリーを接続して、 より長時間のバッテリー稼動が可能です。また公衆回線や携帯電話を利用したオンラインの常時監視局とする事も可能です。

  3. 環境騒音・道路騒音測定への対応

    他にも航空機騒音以外の測定にも対応するため、環境騒音・道路騒音測定プログラムをご用意しています。 道路騒音測定では、突発的に発生する異常音の影響を無視できない「等価騒音レベル(Leq)」の評価を行っています。 その為、集計処理を行う段階で自動車騒音以外の異常値(クラクション、サイレンなど)を削除する作業が必要不可欠となります。 環境騒音・道路騒音測定プログラムでは一定時間毎に記録する演算値の他に実音レコーディング機能による騒音の録音を行いますので、 データをパソコン上に展開し、実音データを波形表示および聴取する事で演算値が異常音かどうかを判別する事が出来ます。(図8)

異常値処理ソフト
図-8 異常値処理ソフト

このほかにも、マンションで問題となっている不思議音測定に対応する為の測定システム等も開発中です。

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