工事部 牧野 和裕
1 スタジオの概要
サウンドインスタジオは日本テレビ系列のスタジオで、日本テレビ別館の6階にあります。
A、B、C、Fの4つのスタジオから構成されており、
Aスタが約250m2と一番大きく、8.6.4.4.2構成のオーケストラ録りができ、Bスタは中編成のオーケストラ、リズム録りが可能で、C、Fスタは主にトラックダウン、ボーカル録り用のスタジオで、コントロールルームとブースの2部屋で構成されています。
今回改修が行われたBスタは、コントロールルーム、スタジオ、マシンルーム、前室とピアノ、ボーカル、ギターの各ブース及びコントロールルーム上部に新設したブースから構成されています。
2 Acoustic Dynamics
"AcousticDynamic"、今回の改修のコンセプトとなるキーワードであり、この言葉から連想される様々なイメージを具体化したものが"新生サウンドインBスタジオ"です。
このキーワードから生音の持つ芯の強さ、ふくよかさ、低域の充実感、また建築的には素材、特に木の本来持つ力強さ、迫力などが連想できるのではないかと思います。
これらをコンセプトとして、実際工事が行われた中から特にポイントとなるものを幾つか紹介していきます。
3 疑似梁
壁がクロスパネル(内部はサウンドトラップ)天井が木毛板という2種類の吸音性素材が主となるスタジオで拡散性の反射面が欲しいことと、スタジオ中央に走る大梁を意匠的に隠したいという事が主な理由でこの疑似梁が誕生しました。
材質は、厚み30m/mの米松で、板目部分を使用しました。エレベータで搬入できるよう13分割にし、板振動による音場の乱れを考慮して50×80程度の補強材を450ピッチに入れ、GWをダウンライトによる熱がこもらないよう適度に配置しました。
意匠的に宙に浮いているように見せたく、予め天井遮音層上からボルトを出して置き、内部補強材で吊る方式にしました。
ジョイント部の目地が立体感を与え、また板目部分を使用したことで米松の持つ力強さ、存在感が出ていると思います。
4 枕木
今回のコンセプトを正に象徴しているのが枕木であり、スタジオに入って一番先に目に留まるのではと思います。
当初、約50年前の枕木を使用する予定でしたが、長年に渡り浸透していった防腐剤の臭いがきつく、人体にも影響を及ぼすという理由から急拠木場から取り寄せたラワン系の枕木に変更しました。
部材の大きさは200×150(枕木は共通だと思います)で、予め工場で仕口を加工したものをボルトで後部に立てた下地(100×100)とを固定しました。調整代としてとった隙間(約10m/m)には音が枕木内部に回り込まぬよう中空ゴムを挟んでいます。
また、表面はより粗い質感を出すためブラシをかけ、塗装はしていません。
部材を変更した事でコンセプトにそぐわぬものが出来るのではないかと施工前心配しましたが、素材の持つ重量感、疑似梁とは異なる力強さ、立体感はイメージ通りであり、音的にも低域をしっかりと受け止める強さを持っています。
枕木
5 2階ブース(Heaven)
カバ桜のコブ材(根っこ)の部分を使用した階段を昇ると廊下(デッキと称しています)を介してブースとマシンルームがあります。
このブースは主にボーカル、弱音楽器録り、またミーティングルームとして使用され"Heaven"(天国)と名付けられています。位置的にはコントロールルームの上にあり、改修前はダクトスペースであった場所を遮音層を取り払うことでスペースを確保しました。
今回コントロール上スラブ直下に床を作るのは構造的に問題があり、清水建設(株)にH鋼を躯体壁に単独に支持してもらい、スラブとは縁を切る形でその上に浮床(乾式構造)を作りました。床軸組及び防振ゴムが上手く配置でき、またスラブ浮床間の空気層が多くとれた事で予想より良い遮音、床衝撃音レベルが得られました。
また、このブースはスタジオの音場(音色)を変化させる効果も持っています。3枚引きのヘーベシーベを使用する事でこれを全開にするとスタジオの容積が増し、ガラスの反射も減る事により中高域の質感が良くなり、よりナチュラルな音色になります。
部屋内からスタジオを眺めた景観は素晴らしく、黒で塗装された木毛板の中にぽっかりと浮いている疑似梁、その内に埋め込まれたダウンライトの明かりが内部とも、外部ともとれぬ不思議な空間を演出しています。
6 NESスピーカー
今回コントロールルームのラージモニターとスタジオのトークバック用にNESスピーカーを採用しました。このスピーカーは、当社がボックスの設計、組立、株式会社エレクトリがユニットの供給、サウンドインがトータル設計という3社協力の基に開発されたもので、それぞれの頭文字をとりNESスピーカと名付けることにしました。
クエステッドなどで使用されているATC社のユニットを基本的に使い、既存のモニタースピーカーにあった箱鳴りを抑え、ユニット構成を変えることでよりハイパワーに耐えられ、かつクオリティの高いラージモニターを創るということが開発に当たってのコンセプトです。
ボックス材として木材の代わりにメラフィットというメラミン樹脂を含浸したクラフト紙を重ね合わせたものを使用しました。このメラフィットは比重が1.4で、これは木材の約2倍の重さがあり、強度的にも優れ、硬度も高いことから既成のボックスとは一線を画す箱鳴りのないものとなっています。
7 最後に
今回の改修は、工期が2ヶ月という非常に短いものでしたが、にもかかわらずコンセプトに沿って実現できたのはサウンドイン、清水建設株式会社をはじめ、この計画に携わった多くの皆様の協力に因るところが大きく、皆様に厚く御礼申し上げます。