営業部 清水 利夫
1 はじめに
近年コンピュータ等の電子機器の普及に伴い、これらの機器から発生する電磁ノイズの計測や誤動作の検査のために外来電波を遮蔽する電磁シールドルームの需要が増えています。また、無響室や録音スタジオにおいても外来電波の影響でマイクロフォン等の音響機器にノイズが入らないように電磁シールドルームの性能を必要とされるようになってきています。
シールドルームを大きく分けると次のようになります。
●磁気シールドルーム
一般に地磁気~10kHzのシールドルームです。
●電磁シールドルーム
10kHz~40GHzのシールドルームで、EMI(Electro-magneticInterference)すなわち電磁障害、電磁干渉を取り扱うシールドルームです。電子機器のノイズ実験室や無響室、録音スタジオのシールドもこれに含まれます。
●静電シールドルーム
室内の電位を一定に保つ為のシールドルームです。脳波室や聴力検査室のシールドがこれに含まれます。
表-1電磁シールドルームの用途と仕様例
仕様 | A | B | C | |
---|---|---|---|---|
用途 | 一般シールド実験室 シールド無響室 |
脳波室 | 無響室 | 録音スタジオ |
目的 | 外来電波の遮蔽 室外への電波遮蔽 |
室内電位の一定化 | 外来ノイズの防止 | 外来ノイズの防止 |
周波数範囲 (MHz) |
0.1~1,000 | 0.1~30 | 0.1~30 | |
シールド層 (dB) |
70以上 | 40 | 20 | |
シールド材料 | 銅メッキ銅板 0.3t | 銅箔 0.036t | 銅箔 0.036t | |
継ぎ目 | 半田付け | 導電性のり使用銅箔テープ | 導電性のり使用銅箔テープ | |
天井吊り | FRP木又はボルト | FRP木又はボルト | 特になし | |
シールド扉の 召し合わせ部 |
シールドフィンガ | シールドブロック | 特になし | |
排気口 | アルミ又は銅箔ハニカム | 銅網 | 特になし | |
電気 | 電源フィルタの取付 | 電灯にシールドカバー 配線はシールド室外へ |
必要により電源フィルタの取付 | 特になし |
ここでは広義の電磁シールドルームに静電シールドルームを含め、当社が行った設計・施工例及びシールド効果の実測値をあげてシールドルームの基本について紹介させていただきます。
2 電磁シールドルームの一般的留意点
(1)シールドルームの用途と性能
電磁シールドルームの用途と仕様をまとめて表-1に示します。一般の実験用シールドルームは0.1MHz(メガヘルツ)から1000MHzの広い周波数範囲で70dB以上のシールド量が必要とされます。電子機器が強電界環境で受ける影響のチェックや電子機器からの発生ノイズの測定に使用されます。シールドルームの室内に壁等での電波の反射を抑える為に電波吸収体を取付けた場合は特に電波暗室(radiofrequencyanechoicchamber)と呼ばれています。また、シールドルームの内側に吸音楔を取付けて音響無響室と共用することも行われています。
脳波室や聴力検査室もシールド処理がされますが、この場合は室内外のシールド量を得るよりは室内で電位を一定にして脳波測定機器の誤動作を防ぐことが目的となります。この場合、交流配線から電磁波が発生しますのでシールド層の外側に配線することや、照明機具に銅網のシールドカバーをつけることも行われます。
外来電波の影響によりマイクロフォン、ピックアップ録音ヘッド等の音響機器にノイズがのることがあり、これを防止する為に無響室やスタジオに電磁シールドをする事が多くなっています。スタジオの場合は窓、扉の開口部が多く完全なシールドルームとするには困難ですが、銅箔でシールド層をつくることにより、20~40dBのシールド効果がえられており、実用上有効です。
扉の召し合せ部(シールドフィンガー)
(2)シールド層
シールド材料として、実験室等で70dB以上のシールド性能が必要な時には、銅メッキ鋼鈑(0.3t)を使用し目地は半田付けとしています。これ以外の時は銅箔(0.036t)をのり付けし、目地は導電性のり付け銅箔テープで接続しています。ここで大切なことはシールド層が切れ目なく連結しており、電気的に絶縁された状態で躯体から支えられていることです。これを実現する為に躯体とシールド層との間に合板等の絶縁物を入れたり、天井の吊りボルトにFRPボルトを使用する等の工夫が必要となります。
(3)扉
扉部はシールド量が最も小さくなりがちです。召し合せ部はシールドフィンガーやシールドブロックを使用します。また、ハンドルの軸貫通部のシールド処理にも注意が必要となります。
(4)窓
窓は銅網でシールド処理し、ガラスでサンドイッチにします。
換気口(シールドハニカム)
(5)換気口
換気口にはアルミや銅箔のハニカムや銅網でシールド処理をします。空調ダクトとシールド層の間はキャンバスで接続し絶縁します。
(6)アース
シールド層とは一点でアースをかけます。アースは単独アースとします。
3 シールド効果の測定方法
シールドルームの壁や扉等の部位のシールド効果の測定方法は日本に規格がないのでアメリカ合衆国軍の規格(MilitaryStandard)のMIL-Std-285によって行っています。この規格は(1)磁界測定(2)電界測定(3)平面波測定からなっていますが、当社では(2)電界測定の方法を使用しています。次の方法によってシールド量を求めます。
図-1 シールド効果の測定方法
(1)基準レベルの測定
周囲に反射体の無い場所に送信用アンテナと受信用アンテナを600mm+シールド壁厚さの距離をおいてセットし電波を出し図ー1のシールド壁の無い状態で電界強度E0(基準レベル)を測定します。
(2)シールドレベルの測定
図ー1のようにシールド壁をはさんで送信アンテナと受信アンテナをセットし、基準レベル測定時と同出力の電波を出し電界強度E1(シールドレベル)を測定します。
(3)シールド量の計算
シールド量Sは、基準レベルE0とシールドレベルE1との差をもって表します。
- S=E0-E1 単位:dBμV/m(0dB=1μV/m)
電界のシールド測定にはロッドアンテナを使用し、送信機は正弦波発生器、受信機はスペクトラムアナライザーを使用します。なお、スペクトラムアナライザのS/N値は100dB以上あるのが理想的です。
また、商業放送(ラジオ放送やテレビ放送)を利用し、シールド室の内外で電界強度の測定をして、その差からシールド効果を出すこともできます。
4 電磁シールドルームの施工例
4.1脳波室
脳波室での実施例では、シールド層は銅箔(目地:銅箔テープ貼り)でプラスターボード、ビニルクロス仕上げ。としています。扉は図ー2に示す鋼製シールド扉(召し合せ部:シールドブロック)、窓は銅網(32#-16メッシュ)を使用しています。
図-2 鋼製シールド扉
この例では電源フィルターを使用していますが、電源フィルターは無くても実用上は問題ありません。電気配線はシールド層の外側にすることが重要です。
各部のシールド効果の測定結果を図ー3に示します。図中の↑はS/Nが十分でなく実際の値がそれ以上であることを表します。
図-3 脳波室のシールド効果
図-4 一般シールド実験室のシールド効果
4.2一般シールド実験室
一般シールド実験室の例では、木軸で絶縁しシールド層は合板下地、銅メッキ鋼鈑(0.3t 半田付け)塗装仕上げとしています。扉は木製扉(銅メッキ鋼鈑貼り)で召し合せ部はシールドフィンガータイプとなっています。電気設備は電源フィルタを通しています。シールド効果の測定値を図-4に示します。
図-5 録音スタジオでのシールド効果(商用電波による)
4.3録音スタジオ
スタジオの固定遮音層(ALC版、プラスターボード)の表面に銅箔(0.036t,目地:アルミテープ貼り)をのり付けした場合のシールド効果の例を図-5に示します。天井はデッキプレート、床はコンクリートで扉部は開口のままの状態です。図-5はシールド工事施工前後の調整室内の電界強度の測定例で、シールド工事により雑電波がすっきりとなくなり商用電波においても20dBの減衰効果が得られています。
4.4無響室
図-6は無響室にシールド性能をもたせたものです。木軸下地の浮遮音層のプラスターボード面に銅箔(0.036t)を貼り、目地は半田付けをしています。シールド面はMバーが取り付く箇所ではビスが貫通することになります。また、吸音扉の召し合せ部にシールドブロックを使用してシールド層を完結しています。さらに、電源フィルターを使用しています。なお、図-7にシールド効果を示します。
図-6 無響室でのシールド例
4.5電磁シールド無響室
電磁シールドルームと音響無響室(半無響室)とを併用した室の例では、シールド層は銅メッキ鋼鈑(0.3t)で目地は半田付けをしています。天井の躯対からの吊りボルトには絶縁のためにFRPボルトを使用し、シールド層の内側にさらに独立して軸を組み吸音楔を取付けています。無響室の大扉(3x2.7m)は2段の召し合せとし、シールドブロックを使用しています。ここでも電源フィルターを使用しています。シールド効果の測定結果を図ー8に示すとおり、65dB以上のシールド効果が得られています。
図-7 無響室のシールド効果(シールド層:銅箔)
図-8 電磁シールド無響室のシールド効果
5 おわりに
シールドルームについて、当初は測定データが少なく不明な点が多かったため、シールド材料の実験や、施工後の検収測定により、かなり精度良く設計・施工ができるようになってきたと思います。今後さらに高性能のシールドルームに取り組むにつれて、計測方法の改良等も必要になると思います。
シールドルームを計画される際、ここに示した設計施工例や測定データが役にたてば幸いです。