音空間事業本部 崎山 安洋 根木 健太
企画室 大山 宏
Sound Lab でのレコーディング風景
喜多 直毅(Naoki Kita)Vn/西嶋 徹(Toru Nishijima)Cb
1.概 要
2019 年2 月27,28 日の2 日間にUNAMAS レーベルの新作のレコーディングが、弊社のSound Lab にて行われた。UNAMAS レーベルによる本スタジオでの収録は今回で3回目になる。最初はピアノソロの作品で、2 作目はピアソラのタンゴを弦楽5+ オーボエで行われた。今回はヴァイオリンとコントラバスのデュオ演奏、しかも日本の「演歌」をテーマにするという異色の企画である。
元々Sound Lab はスピーカーから音楽を再生しリスニングすることを目的とした環境であるため、そのままだと生楽器の奏者にとっては少々返りが少ない面もある。そのため、当日は朝からアクリル板を壁面に取り付けたり、Cb の周囲にANKH を追加するなどの室内の音響調整を行った。デュオ演奏の生々しさを収音できるよう、パッシブな「音空間」という側面から作品の製作に協力をさせて頂いた。
『L'Esprit de l' ENKA 』
Naoki Kita( Vn) T oru Nishijima(Cb)
(UNAMAS UNAHQ2017)
隣接するブースをモニタールームとして使用
2.ライナーノーツより抜粋
その「ENKA」をガット弦ヴァイオリンとコントラバスという異色のデュオで制作したのが本アルバム「L' Esprit de l'ENKA」である。
喜多直毅、西嶋徹のデュオが描き出す「ENKA」の世界は、日本人の心に刻み込まれたDNA に訴えかけ、心を震わせるほど強く深いメッセージを秘めている。これはリスナーに向けた果敢な挑戦でもある。
2 人が寄り添うように近づき、相手の息づかいを感じとりながら、喜多が挑発するようにイントロを弾くと、すかさず西嶋が受けて立つ。喜多としても、これほどまでにENKA魂をぶつけ合ったことはなかったかもしれない。互いに触発し合いながら音楽が創り出される瞬間の何とスリリングなことだろう。
同時に、この魂のぶつけ合いを生々しくとらえた録音は、オーディオファンにとっても挑戦的なサウンドだ。録音に使用された日本音響エンジニアリングのAGS STUDIO は、53.6 ㎡ のスペースを持つ多角形スタジオで、壁面全体にAGS(Acoustic Grove System )という柱状の音響チューニング材が設置され、スタジオ内の定在波を抑えることで低域の解像度が上がり、反射音と実音の相が揃うことで緻密な中高音域が得られる。
ガット弦を張ったヴァイオリンの音色には、たっぷりと倍音が乗り、フラジオレットやピーッとひっくり返る音も臆することなく出してくる。高音域のエネルギーはきわめて烈しい。トゥイータは悲鳴を上げる。弓圧も自在に変えて金属的な音からダミ声のような音色まで、まさに変幻自在。こんな音色はクラシック音楽ならあり得ない。フッとタンゴの味が出たかと思えば、思いっきり唸りを入れる。ベースの弦を弾く迫力も凄まじい。これは恐るべき録音だ。
UNAMAS LABEL 沢口 真生
Sound Lab スタジオ全景